校内研指導主事、設置してみませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #68】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二
チーム学校への挑戦

学級担任の力量が問われる今日の教育現場で、ベテラン教師の活用に悩む管理職は多いのではないでしょうか。今回は赤坂真二先生が、「校内指導主事」という新たな役職を設置した学校の取り組みを紹介します。優秀な教師一人を学級担任から外し、全校の指導支援に回すという大胆な発想! その効果的な運用の実態と、校内人材で教師たちの成長を支えるマネジメントの可能性に迫ります。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

学級担任という分掌

学級担任については、かつての「できて当たり前で、若い頃は苦労することがあっても、教職年数を積むうちにやがて苦労しなくなるでしょう」というステレオタイプな捉えがまだ一部にあるように思います。しかし、学級担任は今や明らかに相当な力量が求められる職種になっています。学級担任に求められる能力をいくつか挙げてみましょう。最も主要なものに学習指導能力生徒指導能力といった伝統的な職能がありますが、近年はその内容が質的に変わっています。

学習指導に関しては、これまでは教授力(教える力)が重視されましたが、今は一人一人の学習支援をする力(学びを成り立たせる力)が求められます。よって、ティーチングに加え、コーチングの能力がより重視されます。生徒指導能力は全体指導をする力はもちろんですが、カウンセリング及び発達支援などの個別指導の力や言葉にならない声、非言語理解力などが求められます。また、効果的な生徒指導を行うためには周囲とのつながりが必要ですが、子ども、保護者、そして何よりも職員同士がつながることが難しくなっています。したがって以前よりも高度なネットワーク構築力や人間関係形成能力が必要となっています。 

さらに、職務遂行においては複雑化した問題が起こりやすくなっていますから、問題解決能力及び、そこに伴うストレスをマネジメントし自分自身の健康を守る力も大事になっています。そして何よりも、教職を取り囲む価値観が多様化してモチベーションを維持するのが難しくなっていますから、教育に対する情熱や献身への意欲が問われる状況となっています。

このことは、現在学級担任として奮闘しておられる先生方ならば、多くの皆さんに納得していただけるかと思います。学級担任は、ずいぶん前から、誰でもできる仕事ではなくなっているのです。学級担任に高い専門性が求められるようになると、ベテラン層でもその遂行が難しい場合が出てくるのが現実です。学級担任を任せられないベテランであっても、その方には校務分掌で何らかのポストに就いてもらわなくてはなりません。学級担任を任せられない方が学校の意思決定に関わる重要な立場に立つと、学級担任や子どもたちの実態や心情から乖離したようなことをやってしまい、学校全体が混乱することがあります。

一方で、学級担任をする力量が十分にあるにもかかわらず、学校全体を回すために学級外の主任等を担当してもらわなくてはならないことが起こります。これまでに何度そうした学級担任をやる意思があるにもかかわらず、校内事情でそれができなくなった人たちの悩みや嘆きを聞いたことでしょう。そうなった先生方もつらいですが、それを決めた管理職の皆さんも苦渋の決断だったかもしれません。この先生を学級担任にしたら絶対に安心なクラスが一つできますが、それと引き換えに校務が回りにくくなるリスクを背負うか、あるいは、この先生を主任(教務、生徒指導など)にして学校が回らなくなるリスクを回避する一方で、不安定なクラスができることを覚悟するか、実に悩ましいところです。

校内指導主事参上!

この問題を解決するために、ユニークな人事をした校長がいます。校長は、F先生が赴任すると彼を教務主任に任命しました。校内には若手教師が多く、不安定なクラスが複数出ることが予想されました。F先生を学級担任にしたら、盤石なクラスが一つできますが、そのメリットを捨て、校長は彼を教務主任にしました。そして同時にこう言ったそうです。F先生には『校内指導主事』として各クラスをサポートしてほしい、そのためにF先生の授業担当時間は0にしてある」

F先生は「『校内指導主事』? なんだそれは?」と思ったそうですが、チャレンジ精神旺盛な彼は、とりあえず動き出しました。異動したばかりで先生方と関係ができていないところで、助言や支援などできないだろうと思い、通常は養護教諭がやる健康観察板を各教室から回収する仕事を請け負い、各クラスを回り、先生方にあいさつや、声をかけ、ちょっとした雑談をして回りました。

2学期くらいになると低学年を中心に不安定なクラスが出てきたので、校長に「1年生と2年生が少し気になるので重点的に入ろうと思います」と伝え、支援を始めました。ここからF先生のサポーターとしてのスイッチが入り始めます。授業に自信のない教師のクラスでは、自分がT2となってT1の担任をフォローしたり、体調不良の教員がいれば、継続性が少ない道徳や、体力を使う体育の授業を中心に代わりに担当したりしました。また、しんどそうなときは、「私が授業をやりますから、先生は休んでいてくださいね」と授業の代行をしました。

また、生徒指導に悩みを抱えるクラスでは、放課後、どんなことがあったか事情を聞き、「では、ちょっとロールプレイをしてみましょう」とその場で、提案します。例えば、授業中に私語がやまないといった事例があると、「どんな声をかけたのですか?」と問いかけ、担任にその場面をやってもらい、「こんな風に言ってみたらどうですか」とその場でやって見せました。そして、ただやって見せるだけではなくて、「子どもは、うるさいと言ってもやめてくれませんよね。だから、ちょっとでもいいところを見つけて1回はほめて、そして注意すべきところは注意してみてはどうですか?」と明るく助言をしました。

さらに、算数の授業で悩む教師には、「じゃあ、私の方で3時間くらいやってみましょうか」と提案し、実際に示範授業をして見せました。一単元など長期間やってしまうと子どもたちも「F先生の方がいい」ということになってしまいます。そうすると支援どころか、学級経営を阻害してしまうわけです。F先生は、いろいろと非凡な力をもっていましたが、支援する教室の教師と児童の信頼関係を絶対に壊さないということころは特に徹底していたと思います。

F先生は校内指導主事であるのと同時に、初任研指導の教員でもありました。拠点校指導教員が時々、巡回指導に来て初任者を指導します。拠点校指導教員は、複数の学校、そして複数の初任者を指導しますから、どうしても要点だけの指導になります。その時にF先生は、拠点校指導の先生の指導の足りないところもフォローしました。ここでも、拠点校指導教員の指導が主で、自分はあくまでもフォロワーであるという立場を崩しませんでした。

低学年の先生が1か月ほど病休したことはありましたが、すぐに復職して担任の仕事をやり遂げたと言います。荒れたクラスが発生することもなく、一年間の教育活動を終え、校長はF先生に感謝しながら退職したそうです。なんだかでき過ぎのような事例ですが、今いるメンバーの力を最大限に生かして、学校経営を機能させた好例だといえないでしょうか。

もちろんF先生という稀有な実力者がいたからこそできた実践ではありますが、現場の先生方からは指導主事の先生に、「伝達や指導よりもその場でやって見せてほしい」という声をよく耳にします。しかし、指導主事の先生方も業務が増えて重労働をしている一人です。一方で、校内に目を向けてみたら、やって見せることができる先生はたくさんいると思います。小さな研修会や相談タイムなど、短時間でいいので指導技術等を共有する場を設定することは、教師の力量向上にとても有効ではないでしょうか。


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。


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