小4図画工作科 「ほって すって 感じて」絵に表す(版に表す)
今回のテーマは「絵に表す(版に表す)」です。この学習では、子供の発達や実態を考慮した上で、一人一人が自分の関心のある表し方で表現を楽しみ、工夫する経験をできるようにすることが求められています。ここでは、初めて彫刻刀を扱う子供たちが自分の表し方で彫刻刀を用いた表現を楽しみ、工夫することのできる活動を紹介します。
執筆/北海道公立小学校教頭・中村珠世
監修/文部科学省教科調査官・小林恭代
北海道教育大学教授・花輪大輔
目次
本題材について
図画工作科の「版に表す」学習では、子供の発達や実態を考慮した上で、一人一人が自分の関心のある表し方で表現を楽しみ、表し方を工夫して表す経験をできるようにすることが求められています。4年生の児童は、前学年までに身近なものを用いて型を押したり、簡単な紙版で表したりしながら、同じものを何枚も写し取ることができることや反転して写ることなどの版表現の特徴を学び、その面白さを経験してきています。しかし、4年生の木版を用いた学習では「下絵を描き木版で表す」という従来の「木版画」のイメージが先行し、下絵を考えることに時間を要したり、彫刻刀を使ってどのように表すかについて教師が決めてしまったりすることはないでしょうか。もちろん、木版ならではの表現も表し方の1つではありますが、初めて彫刻刀を手にする4年生にとって適しているのかを考える必要があります。
子供たちは初めて彫刻刀を扱うことや、どのような表現ができるかを楽しみにしています。ここでは、そのような子供たちが自分の表し方で彫刻刀を用いた表現を楽しみ、工夫することのできる活動を紹介します。本題材では「彫る・刷る」を何度も繰り返すことで、木版ならではの面白さを子供が十分に感じることを大切にするとともに、版表現の特徴を生かしながら工夫して表す姿を目指しました。
題材の目標
木版を彫ったり刷ったりする活動を通して、現れる線や形、色から感じたことや想像したことから表したいことを見付け、彫刻刀を適切に扱い、手や体全体を十分に働かせ、表したいことを工夫して表すとともに、作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて感じ取ったり考えたりし、進んで絵に表したり鑑賞したりする活動に取り組む。
題材の評価規準
●知識・技能
知 木版を彫ったり刷ったりするときの自分の感覚や行為を通して、形や色などの組み合わせによる感じが分かっている。
技 彫刻刀を適切に扱うとともに、前学年までの版画の用具についての経験を生かし、手や体全体を働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。
●思考・判断・表現
発 形や色の組み合わせによる感じを基に自分のイメージをもち、木版を彫ったり刷ったりして感じたことや想像したことから表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながら、どのように表すかについて考えている。
鑑 形や色の組み合わせによる感じを基に自分のイメージをもちながら、自分たちの作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方について、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げたりしている。
●主体的に学習に取り組む態度
主 つくりだす喜びを味わい、進んで木版を彫ったり刷ったりして絵に表す学習活動に取り組もうとしている。
材料や用具
《子供》彫刻刀、新聞紙 など
《教師》版木、版画用紙、版画インク、ローラー、作業板 など
題材の指導計画
指導のポイント
①大きさや形の異なる版木を切り分けて用意し、彫り方を試したり、表したいことに合わせて版木を選んだりできるようにします。
②グループの机の上で、彫る場所と刷る場所を分けてつくり、自分の表したいことに合わせて何度でも彫ったり刷ったりできるようにします。
③刷った紙をつるしておくことで、インクを乾燥させるとともに、自分や友達の表現を鑑賞しながら表し方を考えたり、感じたことを話したりできるようにします。
活動の流れと指導上の留意点
〇いろいろな彫り方を試しながら彫刻刀の基本的な使い方を知る。
・10cm四方の版木に、彫り方を試しながら好きな形を組み合わせて彫ってみよう。(30分)
導入では、彫刻刀の種類や持ち方、彫り方など基本的な使い方を説明した後に「いろいろな線や形を試しながら、好きな形を組み合わせて彫ろう」と投げかけました。新たな用具や表現にわくわくする気持ちと、刃物を使う緊張感の両方を感じながら、慎重に彫り始める姿が見られました。
「彫るときの音が気持ちいい」「私は丸刀が好き」というような声も聞かれ、木を彫る感触を楽しみながら、彫るときの力加減や彫刻刀の種類による彫ってできる形の違いなどに気付いていきました。次第に彫刻刀の使い方に慣れていくと、どんな形の組合せにしようかと考えたり、版木の裏面も使い2つ目の形の組合せを工夫して表したりする姿が見られました。
・彫った版を刷ってみよう。(15分)
次に、刷りたい版を1つ選び、同じ版を3回刷ることを伝えました。2回目、3回目に刷るとき、どの場所に版を刷ろうかと考える子供の姿が多く見られました。線や形のつながりに着目したり、見立てたりしながら、自分の好きな感じになるよう考えていました。
〇刷って現れた線や形から表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながらどのように表すかについて考える。
・線や形から見立てたり、見立てたことを友達と話したりしながら、自分のイメージを膨らませ、表したいことを見付けよう。(20分)
「3回刷った後の形や色から感じたことや見立てたことを基に表したいことを見付けよう」と投げかけました。子供たちは紙を縦にしたり横にしたりしながら、「道がつながっているように見える」「羽が広がっているみたいだ」「それなら何か生き物を表すのもいいかな」というように、友達と交流しながら自分のイメージを広げていきました。線や形が抽象的ということもあり、紙の向きや見る人によって複数の見立てが生まれていました。その中で自分が気に入ったイメージを基に、表したいことを決めることができました。
・表したいことに合わせて版木を選んだり、表し方を考えたりしよう。(25分)
自分の表したいことが決まった子供から、必要な版木を選びます。1人3〜5枚程度の版木を選び、和紙の上でどこにどんな版があるとよいかを考えたり、和紙に当てながら版木に彫る線を描いたりしました。
〇表したいことに合わせて彫り方や刷り方を工夫しながら表す。
・彫ったり刷ったりすることを繰り返して、表したいことを工夫して表そう。(180分)
子供たちが新たな版木を彫り始める段階で、「彫る・刷る」のタイミングはそれぞれが決めてよいことや、「彫る・刷る」を何度も繰り返してよいことを伝えました。グループの席の中に彫る場所と刷る場所を設定したり、刷った作品を席の近くにつるしたりすることで、作品を見ては表し方を考えて取り組む様子が見られました。また、表したい線や形に合わせて彫刻刀の種類を変えたり、刷った後の版木にさらに彫りを加えたり、版を重ねて刷ったりするなど、表し方を工夫しようとする姿が多く見られました。
子供たちの作品から
「楽しいまち」
「最初に刷ったとき、建物の感じに見えたので、家の版をつくって何回も刷って、大きいまちをイメージしました。人はいないけど、煙突から煙が出て、忙しく楽しく働いている人がいるまちです」
「へびの森」
「へびが草に潜んでいるところをイメージしました。最初はへびのしっぽに模様をつけていませんでした。でも2体目を刷るときに寂しいなと思ったので、追加して彫りました。へびは2匹います」
最後に
本実践では小さめの版木を複数枚使用し、「彫る・刷る」をそれぞれのタイミングでいつでもできるようにしたことで、彫刻刀で木の板を彫る楽しさを十分に味わうことができました。さらに、「同じものを何枚も写し取ることができる」「版を組み合わせる」などの版に表すよさを感じることができたようです。また、子供たちは、彫り方を自分で考え工夫して彫ることや自分の感覚を通して彫刻刀の使い方を身に付けながら、一人一人が技能を発揮する様子が見られました。
構成/浅原孝子