小3特別活動「クラス運動会をしよう」指導アイデア
前文部科学省視学官監修による、小3特別活動の指導アイデアです。11月は、学級活動(1)「クラス運動会をしよう」の実践を紹介します。
「学級目標にさらに近付くためにクラス集会をしたい」「クラスでも運動会をやってみたい」など子供たちの思いや願いを生かし、みんなで話し合って、みんなで決めて、みんなで実践していくことを通して、楽しく豊かな学級の生活づくりをめざします。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・宮﨑里佳
監修/帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)・安部恭子
日本体育大学教授・橋谷由紀
目次
年間執筆計画
4月 学級活動(3) ア 3年生になって
5月 学級活動(1) 係を決めよう
6月 学級活動(2) ウ ぼうさいマスターになろう
7月 学級活動(1) なかよし集会をしよう
9月 学級活動(3) ウ 家庭学習パワーアップ大作せん
10月 学級活動(1) 係活動発表会をしよう
11月 学級活動(1) クラス運動会をしよう
12月 学級活動(1) 今年もがんばったね集会をしよう
1月 学級活動(2) エ よくかんで食べよう
2月 学級活動(3) イ スッキリそうじ~みんなのためにきれいに~
3月 学級活動(1) ありがとう集会をしよう
本時のねらい
この時期になると、学級会やクラスの集会を何度か経験し、全校での運動会も終えている学校も多いと思います。また、「学級目標にさらに近付くためにクラス集会をしたい」「クラスでも運動会をやってみたい」という思いや願いをもつ子供もいることでしょう。そうした子供の思いを生かし、みんなで話し合って、みんなで決めて、みんなで実践していくことを通して、楽しく豊かな学級の生活をつくっていきましょう。
事前の活動
学級会の経験を積み重ねることで、子供は、ふさわしい議題について理解し、クラスをよくするために議題箱(ポスト)に議題提案カードを入れることも増えてきます。一方で、議題箱(ポスト)になかなか議題提案カードが入らないということもあります。そのようなときは、子供同士の会話に耳を傾けてみましょう。会話の中に、議題になりそうな話題があることがあります。また、学級集会などの振り返りカードにも、議題につながる内容が書かれていることもあります。そのときは、「このことを議題提案カードに書いて、議題箱に入れてみたらどうかな」と伝えてみましょう。そのためにも、教師は子供の思いに対してアンテナを張っておくことが大切です。教師の声かけによって、子供の諸問題に気付く力が育っていきます。また、必要に応じて、「前にこんな議題で話し合って実践したことがあるよ」などの例を示し、教師の経験などを話してあげることも考えられます。
議題箱(ポスト)に議題提案カードが集まったら、計画委員会で議題を選定します。計画委員会は、司会、黒板、ノート記録、提案者、教師で組織します。計画委員会では議題案の中からどの議題がふさわしいか自分たちで主体的に話し合えるようにすることが大切です。そのために、「全員で話し合うべき議題かどうか」「自分たちで解決できる問題かどうか」など、選定する視点を伝えましょう。
「望ましい議題」の条件としては、次のようなことが考えられます。
○多くの児童が早急な解決を望んでいる課題
『みんなでよりよい学級・学校生活をつくる特別活動 小学校編』 (文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター)より
児童にとって話し合う必要性が高いものを設定する。
○学級内の問題で、学級全員が協力しなければならない課題
学級の一部の児童だけに関わるようなものではなく、学級全員の問題であり、全員で協力して解決できるようなものを設定する。
○創意工夫の余地がある議題
一人一人が気を付ければ済む問題ではなく、自分たちで創意工夫し、協力できる問題を設定するようにする。
○学級や学校生活をよいよいものにする議題
低学年では、身の回りの出来事に関わる議題、高学年になれば学級だけでなく学校生活を向上させるという観点から議題を設定することもできるようにする。
「金銭の徴収に関わること」「物品の購入に関わること」「教育課程の変更に関わること」「誰かが傷ついてしまうような結果が予想されること」などの問題は、議題として望ましくありません(学習指導要領解説特別活動編 P.49参照)。議題を選定するときは、教師の適切な指導・助言が必要になります。
議題を選定したら、候補となった学級会の議題を朝の会や帰りの会などで学級全員に提示します。緊急性や実践の可能性、学級の実態などの視点をもとに、全員の了承を得て議題を決定します。
提案をしたけれど議題に選ばれなかった子供には、納得できるように理由やどのように扱うことになったのかを伝えることが大切です。提案してくれた内容を休み時間に取り組んだり、係活動の中で実践したりすることも考えられます。そうすることで、「提案したことは無駄ではなかった」「次は、こんなことを提案してみよう」という思いや意欲をもつことにつながります。
議題が決まったら、計画委員会で学級会の計画、準備をします。
話合いのめあては、提案理由をもとに決めます。学級全員が同じイメージを共有できるように具体的なめあてが望ましいです。朝の会や帰りの会で、計画委員会の子供から話合いのめあてや実践する日や場所を学級全員に伝えます。そして、議題に対する自分の考えを学級会ノートに記入します。教師が学級会ノートにコメントを記入することで、子供は自信をもって学級会に臨めるでしょう。
中学年は、低学年の経験を生かしながら、教師の適切な指導・助言のもとに子供が活動計画を作成し、進行を分担して行っていけるようにします。役割でがんばりたいことを考えたり、時間配分や気を付けたいことなどを活動計画に記入したりします。計画委員会の子供が安心して学級会に臨めるように、司会の言葉などを練習しておくのもよいでしょう。
【資料1】学級会ノート
本時の活動
出し合う、くらべ合う、まとめる(決める)の流れを基本に進めていきます。事前に学級会ノートに書かれた意見を集約して短冊に書き、小黒板などに提示しておくこともできます。また、ICT端末を活用して、共有しておくことも考えられます。そうすることで、全員が意見を把握し、くらべ合う段階から話合いを始めることもでき、45分間という決められた時間内で、効率よく話合いを進められるようになります。また、先に「決まっていること」として、集会などの実践の日時や場所、することの数なども事前に伝えておくことも大切です。
話し合うこと①「何をするか」
① 出し合う
自分がやりたいことではなく、提案理由や話合いのめあてを意識しながら自分の考えを発表します。考えを発表するときは、理由も一緒に伝えられるようにします。また、出された意見を短冊に記入することで、短冊を操作することが可能になり、分類整理しながら話合いを進めることができるようになります。
私はみんなでバトンをつなぐことができるので、34人リレーがいいと思います。
僕はペアの人と協力できるので、二人三脚がいいと思います。
私はみんなで力を合わせて跳ぶことができるので、8の字跳びがいいと思います。
私は同じチームの人と協力できるので、玉入れがいいと思います。
僕は一緒にやる人と息を合わせて協力できる台風の目がいいと思います。
② くらべ合う
出された意見について、どの意見が話合いのめあてに近付けるのか賛成意見を発表します。賛成意見だけではなく、反対意見や心配なことも伝えることによって、よりよい解決方法につながります。
私はクラスのみんなで協力したいという提案者の思いがあるので、8の字跳びがいいと思います。
僕は二人三脚リレーや台風の目は、一緒にやる友達とだけしか協力ができないと思います。8の字跳びは、全員で声をかけ合ってできるので、8の字跳びに賛成です。
私は8の字跳びが苦手な人もいるので、反対です。代わりに玉入れなら、みんなで楽しくできると思います。
反対意見や心配する意見が出たときは、そのままにするのではなく、解決できる方法がないのかを考えるように教師から助言することが必要です。また、事前の活動にある計画委員会で話合いの流れを想定し、反対意見や心配な意見が出たときは司会の子供から解決方法はないかを尋ねるように教師から伝えておくこともできます。
8の字跳びが苦手な人も跳ぶことができるように、タイミングを教えてあげるのはどうですか。
僕は今の意見を聞いて、跳ぶタイミングを教えてもらえるなら、8の字跳びでもいいかなと思いました。
③ まとめる(決める)
少数意見も大切にしながらみんなが納得できることを選び、一人一人の思いを大切にした決定ができるようにしましょう。安易に多数決で決めるのは望ましくありません。折り合いを付けながら、集団として意見をまとめていけるようにします。合意形成が難しい場合は、教師の適切な指導助言が必要になります。
司会の○○さん。めあてに近付くためにどの意見にしたらいいのか、みんなに考えを聞いてみましょう。
私たちがめあてに近付くためには、どの意見にしたらいいと思いますか。
私たちがめあてに近付くためには、8の字跳びがいいと思います。跳ぶタイミングを合わせたり、声をかけ合ったりするところが全員で協力できるところなので、8の字跳びに決めていいと思います。
話し合うこと②「どんな工夫ができるか」
① 出し合う
話合いのめあてにある「クラスのみんなが協力できる運動会」に近付くために、どんな工夫ができるのか伝え合います。種目の工夫なのか会全体の工夫なのか、分類整理しながら進めます。
みんなでかけ声をかけると気持ちが1つになって協力できると思います。
始まる前にみんなで円陣を組むと、みんなでがんばろうという気持ちになると思います。
記録証を作ると、みんなで協力した思い出になると思います。
② くらべ合う
出された工夫について、どの工夫が話合いのめあてに近付けるのか賛成意見を発表します。
私はみんなの気持ちを1つにするために、かけ声をかけることに賛成です。
僕もみんなで協力するためには、円陣を組むことに賛成です。円陣を組むとみんなの心が1つになると思うからです。
私は記録証を作ることに賛成です。△△さんが言ったように、みんなと協力したという思い出になるからです。
僕は運動会なので、開会式と閉会式をすることに賛成です。本当の運動会みたいになるし、開会式と閉会式の準備でも、みんなと協力することができると思うからです。
私は、みんなが協力してがんばれるように、応援団をつくることに賛成です。
私は応援団に反対です。応援はみんなですればいいし、応援団の人は応援しているときに競技に参加できないからです。
僕も応援団はなくてもいいと思います。応援合戦は赤白などの対抗戦だから盛り上がるけれど、今回はみんなで協力することだから、なくてもいいんじゃないかと思います。代わりに円陣とかけ声に賛成します。円陣を組んでかけ声を合わせて言うと、みんなの気持ちが1つになると思います。
僕は、目標回数を決めるとその記録に向けてがんばることはできると思いますが、目標回数を達成できなかったときに悲しい気持ちになるので、目標回数は決めなくてもいいと思います。
私も目標回数は決めなくてもいいと思います。目標回数が達成できずに、つっかえてしまった人が悲しい気持ちになったら私も悲しいからです。みんなでがんばる気持ちが大切だから、最高回数を記録すればいいと思います。
※8の字跳びなど大繩は、なかにはタイミングがはかれずにうまく跳べないなど、苦手に思う子供もいます。子供たちの実態を事前に把握し、つらい思いや悲しい思いをする子供がいないように十分留意しましょう。
③ まとめる(決める)
話し合うこと①とは違い、工夫は複数決めることができます。
どの工夫もみんなで協力するためにできると思いますが、賛成意見が出ている工夫全部に取り組むのはどうですか。
いいと思います。
(司会)それでは、賛成意見の出ている工夫を、全部やることに決めてもいいですか?
はい。
※誰か1人が言ったらすぐ決めてしまうのではなく、学級のみんなに確認しましょう。
話し合うこと③「必要な役割は何か」
これまでの集会の経験や学級会ノートに書かれた意見をもとに、計画委員会のほうで役割の短冊を作成して掲示しておきます。
本時では追加したほうがよい役割について確認するだけにすることで、時間を短縮することができます。
(司会)ここに示した役割の他に必要な役割はありますか。
④ 話合いの振り返り
終末に教師が話す時間を設けます。みんなで話し合って合意形成できたことや、友達に寄り添った発言ができたこと、前回の学級会と比べて成長できた姿などを称賛します。司会グループの計画から話合いまでの取組をみんなに紹介し、ねぎらいの言葉をかけることも大切です。また、提案した子供を称賛することで、「次は自分が提案したい」という意欲にもつながります。称賛だけではなく、次回の学級会に向けて課題や実践の意欲を高める言葉も伝えましょう。
みんなで話し合って、めあてに近付くものに決めることができましたね。前回の学級会よりも、話合いのめあてを意識しながら賛成理由を伝えられた人が増えたと思います。司会グループのみなさんは、中休みの時間も学級会の準備をがんばりましたね。○○さんが提案したからこそ、今回のような素敵な学級会ができました。次は、みんなが納得できるように、具体的に賛成理由を伝えられるとさらにいいですね。今日、協力して決められたように、クラスみんなで楽しい運動会にしましょう。
事後の活動
① 実践に向けた準備
実践に向けて、学級全員で役割分担をして準備を進めます。役割分担は人数を制限せずに、子供の希望を生かせるようにして、みんなで協力することの大切さを実感できるようにします。教師は、それぞれの役割の進捗状況を確認します。子供たちだけで準備を進められるように見守りながらも、準備が滞っている役割にはアドバイスをしましょう。
※話し合うこと③で必要な役割を話し合い、分担できる場合は分担しましょう。
② 実践「クラス運動会」
実践では、始める前に必ずめあての確認をします。めあてに向けて、がんばりたいことを発表する時間を設けることで、友達ががんばりたいことを知る機会になります。
今日の「クラス運動会」のめあては、「クラスのみんなが協力できる運動会にしよう」です。がんばりたいことを発表しましょう。
私はみんなの心が1つになるために、大きな声でかけ声をかけたいです。
私は、記録証の係だからしっかり記録して、みんなでがんばれるように応援もがんばります。
また、集会を行うときにめあてを掲示することで、実践中も子供が提案理由やめあてを意識しながら取り組むことができます。
話合いで決まった種目「8の字跳び」に取り組む前に、協力するための工夫を確認するとよいでしょう。
8の字跳びをする前に、みんなの気持ちを1つにするために円陣を組みます。タイミングよく跳ぶことができるように、みんなで声をかけましょう。
教師は、子供の力で取組を進められるように見守ります。もし困っている様子が見られた場合は、適切な指導助言をすることも必要です。
③実践後の振り返り
実践後は、必ず振り返りの時間を設けます。めあてを意識して取り組めたところや次回に生かしたいことなどについて振り返ります。また、準備や実践を通して気付いた、友達のよさやがんばり、素敵だと思ったところも共有することで、よりよい人間関係形成にもつながります。
8の字跳びで、みんなで声をかけあって協力できてよかったです。
〇〇さんが、準備のやり方が分からないときに教えてくれてうれしかったです。
今回の集会を通して、さらに学級目標に近付くことができたり、友達の素敵なところを見付けたりすることができましたね。これからもみんなで力を合わせて楽しい学級生活をつくっていきましょう。
【資料2】クラス運動会
振り返りを通して、子供が達成感を味わい、次の学級会や実践への意欲につなげられるようにしましょう。また、子供の振り返りから、自己のよさを発揮し、自分の役割に責任をもって取り組んだり友達と協力して準備に取り組んだりしている様子を評価することができます。
学級会や実践の経験を積み重ねることによって、子供が「よりよい学級生活を自分たちでつくる」という意識をもてるようにしましょう。
【引用・参考文献】
・『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説(特別活動編)』文部科学省 東洋館出版社
・『みんなでよりよい学級・学校生活をつくる特別活動 小学校編』文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター 文溪堂
・『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 小学校 特別活動』文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター 東洋館出版社
構成/浅原孝子 イラスト/小野理奈
監修
安部恭子
帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。
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