子供自身でおかわりの運営をする「給食番長」|子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア#9

連載
子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア

宮城県公立小学校教諭

鈴木優太
「子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア」バナー 執筆:鈴木優太

自ら考え、活動したり学習したりする子供たちの可能性は無限大。そうした子供の内に秘めている可能性を引き出すための「学級経営&授業アイデア」を紹介する連載です。『教室ギア56』(東洋館出版社)などの著書をもつ鈴木優太先生が、学級活動、教室環境、授業アイデアなどの中から、毎月1本厳選して解説します。第9回は、「給食番長」を取り上げます。

執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太

まずは「優先権式おかわりシステム」を実践しよう

連載「自治的なアイデアをつくる12か月のアイデア」にて、給食の残食率0.1%を実現する最強のおかわりメソッド「優先権式おかわりシステム」の実践を紹介させていただきました。「残食が減った!」「子供たちの食への意識が変わった!」と、ご好評いただいております。概要は、以下の通りです。

【手順】
①「いただきます」の直後、食べ切れない料理がある人は箸を付ける前に減らす。
②ごはんやパンをひと口でもおかわりした人に、その日限りの「おかわり優先権」が発生。
③「おかわり優先権」を使うと、1品だけ優先的におかわりができる。

給食時間は、エネルギーを摂取するのみならず、栄養バランスや食事のマナーを学ぶ尊い機会です。「昨年度までどのようにおかわりしていた?」と子供たちとやり方を確認していくことが定石ですが、早い者勝ちの仕組みになってしまっていることが少なくありません。学級の実態に合わせた様々なおかわりシステムがあってよいのですが、弱肉強食のような状況は望ましくありません。気持ちよく食事ができるよう、公平なルールを子供たちとつくっていくことが大切です。

そのために、おかわりは、まずは教師が運営します

食欲旺盛でエネルギーに満ちたやんちゃな子たちほど、顕著におかわりのルールに従順です。私自身がそんな子だったからこそ、気持ちがよく分かります。担任の先生がまずは胃袋をつかむこと、これが重要です。公平なシステムのもとにおかわり指導を行うことで、給食時間以外のルールも守られるようになっていきます。私は、学級の規律はおかわりからだと考えています。

やんちゃな子たちに手を焼いている先生方には、おかわりシステムを見直すことが学級を好転させるきっかけになるかもしれません。落ち着いて食べるために、おかわりのタイミングが実は重要です。おかわりは、いただきますの直後に行う量の調整(手順①)が終了したら行いましょう。学級に配膳された食缶をはじめに空にしてしまうのです(全部食べ終えた人からおかわりするのではありません)。自分で決めた量を食べ切る感覚や、自身の食事スピードの感覚を育てることは大変重要な食育だと考えるからです。

教師主導でおかわりの運営を行う「優先権式おかわりシステム」

しかし、いつまでも先生だけがやってあげていてよいのでしょうか?

食べることは生きることと直結します。フードロスなどの地球規模の食の問題を考え、極力残食をしない工夫や努力を自分ごととして取り組めることは、人が生きていく上でますます欠かせないことだと私は考えます。

そこで、ルールが定着してきたら、おかわりの運営を少しずつ子供たちに委ねていきます

その名も「給食番長」です。子供たちに人気の絵本、よしながこうたく作『給食番長』(好学社)からネーミングしました。残食が減少するのみならず、食べることへの理解が深まり、みんなで問題を解決する学級へ育っていく取組です。

「給食番長」になれる条件と実践にあたっての注意点

「給食番長」は、おかわりを教師と一緒に司る特別な役割を担います。希望者制です。条件はただ1つ。

「自分で食べ切れると決めた量を、給食時間内に食べ切る」ことです。

なぜなら、「給食番長」を行うことは、その子供の食事時間が減ってしまうというデメリットがあるからです。余裕をもって時間内に食べ切れることが条件です。だからといって、早食いを助長してはいけません。希望者がいなければ、これまで通り教師が行いましょう。

人によって食事の量やスピードや好みに違いがあるのは仕方がないことなので、無理強いしないことが大切です。しかし毎年、とても人気の仕事です。

まずは、日替わりで試してみましょう。2名や3名、慣れてきたら1週間固定、おかわり優先権が発生するごはんやパンの配膳から行うなど……人数や期間やタイミングは学級の実態に合わせて調整します。

コマーシャルも大切な役目!「給食番長」実践の流れ

給食番長がおかわりの運営をする様子

【給食番長A】優先「ゼリー」


ごはん(またはパン)をおかわりした子の中で希望者が手を挙げる。

(希望者は)1、2、3、4、5、6人。
あまったゼリーは1つなので、「したがい王様じゃんけん」で決めましょう。

※したがい王様じゃんけん…王様(ここでは給食番長)が指定したものに従って勝負が決する。

最初はグー、あいこの人!(給食番長はちょきを出す)
では、ちょきだった〇〇さん、どうぞ。

数に限りがある料理から順番に決める、分けられない物に5人以上の希望者がいる場合はしたがい王様じゃんけんをするなど、進め方のガイドラインを明示していると迷いません。落ち着いた雰囲気で食事ができるよう、給食番長とのしたがい王様じゃんけん(よく見る&よく聞く必然性が生まれるじゃんけん)や希望者同士のサイレントじゃんけん(かけ声をせずに無言でするじゃんけん)で決めるようにします。

【給食番長A】優先「ささかまぼこの磯部揚げ」。
1、2、3人。あまりは1つなので、3等分でいいですか?

【給食番長B】優先「ひじきの煮物」は……0人ですか。

優先「雪菜の味噌汁」。
1、2、3人。(人数分あるので)どうぞ。

残量が少ない場合は、優先権で希望したメンバーで配り切ります。残量が多い場合は、一般のおかわり(だれでもおかわりできる)を呼びかけます。

一般「ひじきの煮物」。
1人、2人、どうぞ。

あと5人ですが、食べてくれませんか?

残量があまりにも多すぎる場合は、量の調整をした人を除いて、1人1口ずつ教師が配膳し直す場合もあります。そうならないように、はじめに同量ずつ配膳することや、どうしても食べ切れない量以上に減らしすぎないようにすることなど、日々の積み重ねが重要です。

あと数人のおかわりで食缶が空になるときが、給食番長の腕の見せどころです。空っぽになるように、思い思いに「コマーシャル」をします

「ひじきの煮物」を食べると髪も爪もツルツルキラキラになりますよ!
(1人が挙手)ありがとうございます。

このような子供発の食育コマーシャルがとてもよいものです。先生が給食指導で繰り返してきた言葉が子供たち自身のものになっていく第一歩です。正式な献立名を確認したり、給食室のお便りをもとに呼びかけたりする給食番長もいます。コマーシャルの文言で悩んでいる場合には、次のように教師が耳打ちをすることもあります。

(小声で)骨が丈夫になって走るのが速くなりますよー!

骨が丈夫になって走るのが速くなりますよー!(1人が挙手)

ぼくも食べようかな。

では2人ですね、どうぞ!

給食番長も、もちろんおかわりができます。食べることが大好きな給食番長ですから、おかわり大歓迎です。

あと2人です。このひじきを食べると、来週のドッジボール大会で活躍できます!(1人が挙手)おっと、どうぞ。

最後の1人いませんか? ひじきパワーで、5時間目のテストは実力以上の力を発揮できますよ! いませんか?(最後の1人が挙手)
はい、どうぞ。今日もすっからかんに売り切れました。みなさん、命の1粒まで残さず食べましょう。

「本当にドッジボール大会で活躍できた」とか、「テストで力が発揮できて満点を取れた」と話している子供たちもいて愛おしいです。信じるか信じないかはあなた次第のコマーシャルも飛び出しますが(笑)、友達が給食番長に立候補して一生懸命呼びかけているから「苦手な食材が入っているけれど、もう一口食べてみよう」という子供の健気な姿も見られます。遊び心を大切にしながらも、子供たちが一丸となって残食率0%を目指すことは、尊いことです。みんなで問題を解決できる学級への第一歩だと考えます。

1年間で約190日間もある給食指導の時間を有意義に過ごしましょう。「給食番長」に委ねたおかわりシステムを続けていくことで、てきぱきとした進行や公平な配分を、子供たちができるようになっていきます。子供たちの食への関心が見違えるように高まります。自分で「食べる」と自己選択した量を食べ切れるようになると、学習や人生において「やる」と自己選択したことをやり抜く土台となります。

しかし、完食を無理強いするものではありません。食べられると思っていても体調等により、どうしても食べ切れないことだってあります。正義感が強い子が給食番長になったときは、こうした点へのフォローも大切です。出張などで教師が不在でも、「先生、給食も任せてください!」と、頼もしい子供たちに育ちます。


鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア56』『教室ギア55』(共に東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。

参照/鈴木優太『教室ギア56』(東洋館出版社)、鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク』(明治図書出版)

イラスト/高橋正輝

【鈴木優太先生 連載】
自治的な学級をつくる12か月のアイデア(全12回)
子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)

【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア56(東洋館出版社)
教室ギア55(東洋館出版社)
「日常アレンジ」大全(明治図書出版)
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク(明治図書出版)

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました