<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯9 高知大学教育学部附属小学校2年B組②<前編>

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
関連タグ

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載です。3学級の担任は、徳島の堀井悠平先生、高知の小笠原由衣先生、千葉の植本京介先生。
今回から、高知の小笠原学級(2年生)における、9月中旬の授業レポートが始まります。「ほめ言葉のシャワー」をレベルアップするための菊池先生+小笠原先生による合同授業実践です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

担任・小笠原由衣先生より、学級の現状報告

2学期に入り、子供たちが授業中に落ち着いて学習に向かう姿が少しずつ見られるようになってきました。
立場を決めて話し合いをする活動をしたときも、友達と比べながら相談し、相手の話を静かに聞こうとする子が増えてきました。誰かが発表しているときは口を挟まないことを意識し始めている子も多くなりました。
一方で、学級としてのチームワークがまだまだ弱いな、と感じています。「みんなでやろう」という意識がかなり低いのです。
話し合いのときも、仲がいい子のところには話に行けますが、誰とでも話せるまでには至っていません。1年以上同じ学級で過ごしていても、話したことがない子供同士もいるようです。
そこで、友達の発表を聞き合えるよう、意見が対立するような授業や、参加していない子供も巻き込んでいくような授業づくりを意識して取り組んできました。
5月から始めたほめ言葉のシャワーも、だんだんとスムーズにほめ言葉を伝えられるようになってきています。
そこで、今回は、ほめ言葉のシャワーをレベルアップし、次のステップに持って行きたいと考え、菊池先生との合同授業に臨みました。

菊池先生と小笠原先生の合同授業レポート

「2Bでほめ言葉をやっていますね。日本一のほめ言葉のシャワーをしましょう」
菊池先生が子供たちに話しかけると、全員が元気いっぱいに、「はいっ!!」と答えた。
まずは、今まで行ってきたB組のほめ言葉のシャワーの録画をモニターで確認。ところが、パソコンがテレビモニターにうまく接続できないアクシデントが起こった。
待っていた子供たちがそわそわしてくると、菊池先生が、
「じゃあ、ほめ言葉(の録画)が始まったら、みんなで拍手をしよう。いつ、映るかわからないから、集中して聞くぞ」
と声をかけた。子供たちの視線が、再びモニターに集中した。
パソコンとモニターは相変わらず接続できない状態が続く。すると、菊池先生がモニターの下にあるパソコンの横で、
「じゃあ、ここに集まって。押しくらまんじゅうしたらだめだぞ」
と声をかけると、みんなが集まった。
「押さないで」「見えないよー」
集まった子供たちが押し合いそうになったので、視聴はいったん中止。
「録画を見るのは後にして、菊池先生には本物を見てもらいましょう」
と小笠原先生が声をかけた。
そして、席に戻った子供たちに、
「『ほめ言葉はすごくいいですね』とおうちの人からお手紙をもらったので、紹介しますね」
と手紙のコピーを配った。
保護者からの手紙には、
「悪いところを見つけるより、いいところを見つけて言う方が素敵な人ですね。そういう活動をしているB組はいいですね。学校で、みんなから見てもらえてほめてもらえる日があるのはうれしいです」
と書かれていた。
「だれのお母さんかなあ?」
「先生、だれのお母さん?」
「『名前は言わないで』といわれたので、秘密です」
「えーっ」
小笠原先生と子供たちの楽しそうな会話が続いた。

Point1
ちょっとした “隙間時間” が、子供たちの集中を妨げることがあります。ざわついて落ち着かないとき、まず子供たちを集中させて聞かせることが必要になります。
パソコンとモニターが接続できなかったとき、「ほめ言葉が始まったら、みんなで拍手をしよう。いつ、映るかわからないから、集中して聞くぞ」という言葉かけをしたり、保護者の作文を読んだときに保護者名を伏せることで「誰のお母さんだろう?」と気にかけさせたり。
教師は、状況に応じて即興でアレンジしていくことが大切です。 子供たちを威圧して締め付けるのではなく、意欲をかき立てて引き締めることが大切です。言葉を大切にする学級づくりを目指すのであればなおさらのことです。
話し合い活動は、レベルが高い学びです。子供たちの集中力が途切れていたら、知的な学びの楽しさは体験できません。
教師は、学びの内容・種類に合った教室の空気づくりの調整が常に必要です。

参観者も巻き込んで

「この前、『ほめ言葉についてどう思いますか?』と、みんなにノートに書いてもらったね。どんな言葉が多かったというと……」
子供たちが興味津々で小笠原先生の話を聞く。
「1位は『とても嬉しかった』『またやりたい』、2位は『もっと上手になりたい』、3位は『もっといっぱい言われたい』でした」
ランキングにうなずく子供たち。
小笠原先生が黒板に<ほめ言葉をレベルアップしよう>と書き、
「今日は、菊池先生と小笠原先生と一緒に、ほめ言葉をレベルアップしよう!」
と声をかけると、みんなが、
「おーっ!」と声を挙げた。
「今日は、多くの先生が授業を見に来られていますね。まずは先生方に、どんなことを頑張ってほしいか、聞いてみましょう」
菊池先生が声をかけると、参観者が話した。

先生の目を見て聞いている人が多いな、と思ったので、相手の目を見て聞けたらいいと思う
みんながぱっと目を合わせて、笑顔を見せてくれた。すごいことだと思う。なので、相手をよく見て、笑顔で伝えるといい
ほめ言葉を言うときは、じっと相手を見て一生懸命考える。そうすると相手のいいところが見えてくる。一生懸命考えてほしい
優しい人は、ほめ言葉のレベルアップができると思う。期待しています

参観者の話を聞く間、菊池先生が、
「聞き方がよくなったなあ」
と声をかけながら机間を歩くと、子供たちの背筋がピシッと伸びた。菊池先生が、
「ほめ言葉をレベルアップするなら、ほめ言葉がたくさんあった方がいいですよね? みんなで集めるのはどうだろう。(参観の)先生たちもみんなに負けないよう、本気でやります!」
と声をかけると、子供たちがやる気に満ちた表情になった。

チョークリレーでほめ言葉を出し合う

「じゃあ、みんなでほめ言葉を集めよう!」
小笠原先生の声かけに、子供たちがより元気よく、「おーっ!!」と答えた。
「1時間目で、(今日のほめ言葉を受ける)○○さんのほめ言葉をいくつか出したけれど、もっといっぱいあるよね。菊池先生に聞いたんだけど、ほめ言葉はこうなんだって」 小笠原先生が黒板に書いた。

したこと + おもったこと

「昨日のほめ言葉で、『△△さんはスリッパをそろえていました。素敵だと思います』という発表がありましたね。それがほめ言葉の基本なんです。だから、今日は<おもったこと>の言葉をいっぱい集めてみましょう」
小笠原先生が話すと、子供たちが、
「探すのが難しいなあ」「声が大きいとか、そういう感じ?」「素敵だと思います、とか?」と口々に言った。
「うん、そうだね。菊池先生、例えばどんな言葉があるか、ヒントをください」
小笠原先生が振ると、菊池先生が、
「『すごい』『掃除のプロ』とか。『世界一』もそうだね」
「世界一ってどういうこと?」
というつぶやきに、
「『~~していたことが世界一』という意味だよ」
「~~博士、はどうですか?」
「うん、いいですねえ。師匠とかも」
菊池先生と小笠原先生、子供たちの言葉のキャッチボールが続いた。
まずは2分間で各自が成長ノートに記入。思いつくまま成長ノートにほめ言葉を考え、いくつも書き出した。
2ページ分いっぱいに書く子もいれば、2~3個で考え込んでしまう子も。
「まだ書けていない人はいますか?」
何人かの子が手を挙げると、菊池先生が、
「実習に来ている先生と参観に来ている先生方に聞いて、アドバイスをもらうのはどうでしょう」と小笠原先生に話した。
「どれだけほめ言葉を集めたか、後で班ごとに競争するので、1つの班につき1人の先生のところに行って、聞き出していっぱいメモしましょう。負けるなよ!」
菊池先生が檄を飛ばすと、子供たちがささっと班に分かれ、“アドバイザー” の先生たちにアドバイスをもらいながら、素早くノートに書き込んでいった。2分後、班ごとに集めたほめ言葉を確認し合った。
ほめ言葉を集め終えたところで、各班の代表1人が黒板にほめ言葉を1個ずつ書き、書き終えたら次の子にチョークを渡す「チョークリレー」がスタートした。
参観者+実習生の “先生チーム” も参戦。
「ええー、先生チームが出たら負けちゃうよー」
「応援しないと負けるぞー」
菊池先生が子供たちをあおると、教室中にエールの声が響き、熱いバトルが繰り広げられた。

Point2
ほめる、ほめられる経験が少ない子供たちにほめ言葉を求めても、多くは出てきません。大人も同様です。お互いの関係性が未熟なのだから当然です。しかも、2年生はまだまだ語彙が少ないので、自分でひねり出すことは難しいでしょう。
せっかく参観者が来ているので、このような場面で、積極的に “活用” するのも一手です。先生たちが頑張っている姿を見た子供たちは、負けまいと一緒に頑張ります。 特別な環境での授業。その状況を有効に活かしましょう。参観者の先生を巻き込んだり、上下2つの黒板をフルに使ってチョークリレーをしたり。特別な機会を活かして授業を立体的にしていく視点が大切です。

班ごとに区切られた黒板に、ほめ言葉がいくつも並んでいく。

しせいがいい
えがお
せかい一
やさしい
きがきく
うつくしい
かっこいい
おもしろい
じょうず
元気がいい
はんのうがいい……

黒板が子供たちのほめ言葉で埋め尽くされた。
「先生チームもいっぱい書いたけれど、みんなが書いたほめ言葉を合わせたら、2Bの勝ちですね。みんな、こんなにほめ言葉をいっぱい書けたのはすごいですね! みんなで拍手!」
小笠原先生が話しかけると、教室中にみんなの拍手の音が響いた。

※この授業レポートは、次回(後編)に続きます。

菊池先生から小笠原先生へのメッセージ

以前、小笠原先生から、「担任としての思いは『愛と執念と諦めない』ことだ」と聞いたことがあります。教師のあり方を示す言葉だなあ、と心に残りました。
1回目、2回目に教室に行ったときは、小笠原先生の思いと子供たちの姿がまだ乖離しているように見えました。しんどいだろうな、と思いましたが、今回は、子供たちが育ってきて少しずつ合致している様子が見受けられました。子供たちの不規則発言も、小笠原先生の問いかけに対しての発言になり、呼応するようになってきました。
その結果が、小笠原先生自身の言葉や表情、動作にも表れたように感じます。何より、子供たちの表情がとてもよくなっていました。それは、大きな成長です。今回のような活動を繰り返すことで、ほめ言葉のシャワーはより活発になっていくでしょう。
今回の合同授業は、ほめ言葉を集め、コミュニケーションにおける相手への伝え方のポイントをまとめて、最後にほめ言葉のシャワーを行う授業でした。
知識として言葉を増やし、事実と、それを価値付けた言葉を伝え合うものでした。
今後は、<したこと>を表現するために、子供たちの観察力を磨いていく授業に取り組んでいかれることと思います。
子供同士がプラスの評価をし合うのがほめ言葉のシャワーです。今後、子供たち一人ひとりが様々な場面でお互いをプラスに捉えていく軸となる授業になったのではないでしょうか。

今回の授業場面。チョークリレーの場面
班ごとにほめ言葉をたくさん見つけた後、チョークリレーで黒板に書いていく。

菊池先生のオンライン講座シリーズ、11月17日開催分の参加者募集中です!


↓若手が菊池実践を学ぶために最適の単行本 「一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ」発売中です!

単行本「菊池学級12か月の言葉かけ」カバー画像

取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました