小4体育 マット運動「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」

特集
文部科学省教科調査官監修「教科指導のヒントとアイデア」

「できた」「できない」が明確になるマット運動は、楽しさを感じる以前に苦手意識を抱いてしまう子供が少なくありません。一人一人が自分の目標を設定しながら、マット運動の楽しさに触れ、できる喜びを味わうことができる指導法を紹介します。

執筆/東京都公立小学校教諭・田口光彩

はじめに 

中学年の「マット運動」は、自己の能力に適した回転系・巧技系の基本的な技や発展技に挑戦し、できなかったことができるようになったり上手になったりして、自己の課題(マイゴール)を達成することで、楽しさや喜びに触れることができる運動です。

しかし、子供たちにとっては、運動経験の違いにより、技の種類によって技能の習得の程度に差が出やすく、また、「できた」「できない」が明確になる「クローズドスキル」の運動領域のため、「できた」という実感が伴わなければ、楽しさや喜びに触れることができず、苦手意識を抱いてしまう運動でもあります。

そこで、「できた」という実感を伴わせ、運動の楽しさや喜びに触れることができるようにするために、自分ができるようになりたい技を「マイゴール」として設定することと、体育の見方・考え方を働かせ、運動を「する」だけでなく、「みる」「支える」「知る」を大切にした単元計画・授業展開を考案し、実践しました。

自己の能力に適した技=「マイゴール」について
「小学校学習指導要領(平成29年)解説 体育編」の第3学年及び第4学年のマット運動には、9つの基本的な技が例示として明記されています(発展技まで広げれば14になります)。
マット運動の「接転技」を①グループ、「ほん転技」を②グループ、「平均立ち技」を③グループとして整理し、子供たちに提示しました。子供たちはそれぞれのグループから1つずつ「できるようになりたい技」を設定し、計3つの「マイゴール」を設定しました(子供の実態によって、マイゴールが2つの子もいます。また、②グループなどから2つを設定する子もいます)。

単元指導計画(全6時間)

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 単元指導計画表

①メニュー表から必要な感覚つくりを選択する

マット運動の学習で必要となる「腕支持感覚」や「回転感覚」「逆さ感覚」「体の締めの感覚」といった感覚を養うために、単元全体を通して帯で感覚つくりの運動を行いました。
単元序盤は、教師主導で一斉に行っていましたが、単元中盤からは、マイゴールに必要な感覚つくりを子供たちが自ら選択して取り組めるようにしました。子供たちが感覚つくり運動を選択して取り組むことができるように、8つの感覚つくりの行い方を示したメニュー表を各グループに配付しました。
また、今回取り上げた感覚つくり運動は、1人で取り組む運動よりも、友達と共に行う運動を多く取り上げ、友達との関わりを意図的に増やすことができるようにしました。

● メニュー表(感覚つくりの運動)

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 メニュー表(感覚つくりの運動)
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 かえるの足打ちぱっち〜ん の感覚つくり
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 かえるの足打ちぱっち〜ん の感覚つくり
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 えびロケットの感覚つくり
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 前転転がりタッチでペアとハイタッチする子供たちの様子
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜手押し車からゴロンする子供たちの様子
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜ゆりかご(しゃがみたち)する子供たちの様子

②技の行い方や系統性を「知る」

第1時の学習では、体育館の壁に掲示している「技の一覧表・系統表」を見て、技の種類やその系統性を把握することができるようにしました。小学校体育研究会「器械運動系領域部会」に掲載されている「器械運動学習アプリ(PowerPoint)」も活用させていただき、子供たちがアプリを操作しながら「技の行い方」を知ることができるようにしました。

●マット運動 技の一覧表・系統表(技のつながり表)

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 マット運動 技の一覧表・系統表(技のつながり表)中学生用

また、「もう少しでできそう」「もっとこの技の精度を上げたい」「今年はこの技にチャレンジしたい」といったものをマイゴールとして設定し、マイゴールを達成するために、練習方法を選んで学習していくことを共通確認しました。第1時の学習後、振り返りカードには以下のような記述がありました。

・いろいろな技をやってみて、できそうな技とできなそうな技がありました。
・次回は技をたくさんやってみて、マイゴールを決めたいと思います。
・回転系のマイゴールは決まりました。
巧技系のマイゴールが決められていないので、次回やってみて決めたいです。

「知る」時間をしっかり確保することで、学習の見通しをもちやすくなり、マイゴールを決めることに対しての期待感を抱く子供の姿も見られました。技の行い方を知るだけでなく、マットの安全な準備と片付けの仕方や試技をする方向なども「知る」ことができるように声かけをしていきました。

③自己の能力に適した課題(マイゴール)の設定

第3時までに、全ての子供が自己の能力に適した課題(マイゴール)を設定しました。例えば、「開脚前転」を課題として教師から一方的に子供たちに与えるといったことをするのではなく、子供自身が「この技ができるようになりたい」と自己決定した技に対して、自己の学習を調整しながら粘り強く学習に取り組むことができるようにしていきます。

B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自己の能力に適した課題(マイゴール)の課題の例
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自己の能力に適した課題(マイゴール)の課題の例
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自己の能力に適した課題(マイゴール)の運動をモニターで確認する子供たち

第2時の学習を行っている際に、子供が「首はね起きをしているのか、頭はね起きをしているのか分からない」とつぶやきました。「どうしたら分かるかな?」と尋ねてみると、「タブレットを使って自分の動きを見てみたい」と答えました。このことを学級全体に紹介すると、次の時間からは自分の動きを見るためにタブレット端末を活用するという意見で一致しました。
このように、教師が一方的にタブレット端末を活用して自分の動きを見るように促すのではなく、子供たちが必要感をもって、活用し始めることが大切だと思います。子供たちの思いや考えを引き出すことも、教師の役割だと改めて感じました。第2時の学習後、振り返りカードには以下のような記述がありました。

・開脚前転の足を開いて立ち上がるところがもう少しでできそうです。
 →マイゴールに「開脚前転」を設定します。
・次回は倒立ブリッジができるように頑張りたいです。
 →マイゴールに「倒立ブリッジ」を設定します。
・グループのみんなが自分のマイゴールに向けて手伝って(補助して)くれて嬉しかったです。
 →マイゴールに「補助倒立前転」を設定します。

④「マット運動 学び方ロード」「見合い・支え合い・学び合いカード」の活用

● マット運動学び方ロード

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 マット運動学び方ロード

「見合い・支え合い・学び合いカード」

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 「見合い・支え合い・学び合いカード」

「マット運動学び方ロード」を配付し、マット運動の「学び方」を確認することができるようにしました。「学び方」を学ぶことで、同じ器械運動領域である「鉄棒運動」や「跳び箱運動」においても、今回学習した「学び方」を活用しながら学習を進める姿を期待することができます。

マット運動の学習をスタートする前に、子供たちにマット運動の学習に関するアンケート調査を行いました。「マット運動の技ができるようになるために特に大切だと思うことは何ですか。」の項目では、「友達と教え合いながら取り組むこと。」と回答する子が多いことが分かりました。
この実態を踏まえ、本単元では、子供同士で技のこつやポイントを伝え合ったり、技のできばえを見合ったりする活動を通して、一人一人が技のこつやポイントをつかみ、最終的に「技ができる(マイゴールを達成する)」につなげることができる授業展開を構成しました。
具体的には、子供たちに「見合い・支え合い・学び合いカード」を配付し、運動を「する」だけでなく、「みる」「支える」場面を意図的に設定することができるようにしました。第3〜5時の学習後、振り返りカードには以下のような記述がありました。

・倒立前転が1人でできるようになりました。今度は、○○さんのマイゴールに向かって協力したいです。
・「足をもっと上げるように」とアドバイスをもらいました。○○さんと△△さんが補助をしてくれたので安心してできました。
・○○さんから「壁を壊すような気持ちでやってみて」とアドバイスをもらいました。壁倒立では、片足だけ壁に当てることができるようになりました。
・○○さんが壁倒立で、倒立する時に手を遠くについていたので、近くに手をつくようにしたらよいとアドバイスを送ってみました。

自分が運動を「する」だけでなく、補助や練習方法・運動のポイントを一緒に考える姿を見ることができました。また、友達と共に学習を進めていくことのよさを実感している様子もうかがえました。

B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自分が運動するだけでなく、補助や練習方法・運動のポイントを一緒に考える様子
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自分が運動するだけでなく、補助や練習方法・運動のポイントを一緒に考える様子
B器械運動(マット運動)、目指せ マイゴール!〜マットランド編〜 自分が運動するだけでなく、補助や練習方法・運動のポイントを一緒に考える様子

⑤「秘伝の書」で練習の方法を知り練習の場を工夫する

作成した「秘伝の書」には、「技の行い方」や技の「ポイント」、さらには「練習方法」をスモールステップで明記しました。子供たちは、自分がマイゴールにした技が書かれている「秘伝の書」を取り、練習に向かいました。

●秘伝の書

小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 秘伝の書(壁倒立)
小4「B器械運動(マット運動)」「目指せ マイゴール!〜マットランド編〜」 秘伝の書(開脚前転)

「秘伝の書」を配付すると、早速子供たちから以下のような声がありました。

・「ゴム紐を使いたいので貸してください」
・「ロイター板ってどこにありますか?」
・「細いマットって使ってもいいのですか?」

「ロイター板を入れて転がると、どんなよいことがある?」と子供たちに尋ねてみると、「ロイター板を入れると、回転するときに勢いがつくようになる」と答えてくれました。このように用具を取り入れるにあたり、その用具を活用することでどんなよさがあるのかについても確認するようにしました。

「秘伝の書」を見て、グループで役割分担をして教具を持ったり補助をしたりする姿が見られました。「秘伝の書」の活用が、教師と子供ではなく、子供と子供をつなぎ、子供同士の「学び合い」を促す役割を果たすことができました。授業後には「秘伝の書」を家に持ち帰り、家で練習したいと声をかけてくる子もいました。

本実践で活用した「見合い・支え合い・学び合いカード」や「秘伝の書」といった学習資料が、子供と子供をつなぎ、「学び合い」へ導く役割を果たすことができました。自分が運動を「する」だけでなく、学習資料を活用しながら、「みる」「支える」「知る」といった体育の見方・考え方を働かせながら、学習を展開することもできました。また、1学期に行った「鉄棒運動(単元名:目指せ マイゴール!〜鉄棒ランド編〜)」で身に付けた「資質・能力(コンピテンシー)」を使って「マット運動」の学習を行うことができました。

特に器械運動領域では「学び方」をしっかり学ぶことで、自己の能力に適した課題を設定し、その課題を解決するために、体育の見方・考え方を働かせながら練習の場を選択したり工夫したりして、運動に取り組む子供たちの姿を見ることができるようになります。さらには、「学び方」を知ることで、高学年の「器械運動」の学習においても、自己の学習を調整しながら、粘り強く運動に取り組む子供たちの姿を期待することができます。

【参考文献】小学校体育研究会「器械運動系領域部会」の資料や『楽しい体育の授業』(明治図書出版)

 


田口光彩

執筆
田口 光彩(たぐち ひいろ)
東京都公立小学校教諭
東大和市小学校体育研究会

イラスト/斉木のりこ

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