水彩画って楽しいな! カンタン・便利な授業準備と指導のコツ!~小学校図工の水彩画のすすめ~
多くの子供たちは小学校で水彩画に初めて触れます。最初に環境の整理や準備を知らないまま使い始めてしまうと、本来の楽しさを知らないままになってしまいます。今回は小学校におけるおすすめの指導方法を提案します。
題字・イラスト・執筆/埼玉県公立小・中学校教諭 坂齊諒一
連載【いちばん楽しいアート】#07
本記事は「小学校教育における水彩画の環境設定」を想定していますので、本来の使い方とは少し違う部分もあるかと思います。しかし、週に2時間あるかないかの図工の時間の中です。準備の時間は短いことに越したことはありません。貴重な1時間を使うことにはなりますが、以下の順番で準備をしてみるのはいかがでしょうか。
1、パレットに絵の具を全色出して、絵を描く前に乾かしておく。
2、色の濃さは水の量で調節する、という練習をする。
3、何色も混ぜて色を変化させる、という練習をする。
各項目詳しく説明していきます。
1、パレットに絵の具を全色出して、絵を描く前に乾かしておく
この準備が一番重要です。全色出しておくことにより、「パレットを開けばすぐに色を塗ることができる」「色を何色も混ぜることができる」「絵の具使い過ぎの防止」「絵の具を無駄に洗い流すことがない」といいことが沢山あります。
大人含めほとんどの方は絵の具を使い過ぎています。児童は尚更です。乾いた状態の絵の具であれば、濡らした筆で絵の具を少しずつ溶かして使い、水彩画本来の濃淡を出すことができます。また、全色出ていればすぐに別の色を混ぜることができます。これについては3の項目で詳しく説明します。
絵の具が乾くと発色が悪くなるのは確かです。しかし、その発色の悪さを見極められる人はほぼいないでしょう。私も見極められません。おおよそですが、絵の具を出しっぱなしにしていても、1年は問題なく使うことができるでしょう。使っている間に何度がつぎ足すと思いますので、発色についても問題ありません。
2、色の濃さは水の量で調節する、という練習をする
水彩画において、色の濃さを説明するときに、どうしても避けて通れないものがあります。
それは「色相」「彩度」「明度」「透明度」です。しかし、この4つを児童に理解させることは非常にハードルが高いので、色の濃さを調整する手段を増やすという意味で「透明度」に着目したいと思います。「白の絵の具を混ぜると色が薄くなる」と考える児童は多いと思いますが、「水の量で色の濃さを調整することができる」という考え方も重要です。
順序としては
① 絵の具に水を少しずつ混ぜて塗り、色を透明に近づける体験する。
② 「黒」に「白」を少しずつ混ぜて塗り、彩度が低くなっていく体験をする。
③ 絵の具を混ぜたり、水を混ぜたりして、色を調節する体験をする。
こうすることで、絵の具を混ぜる他に、水の量で色を調整する方法を知ることができます。
3、何色も混ぜて色を変化させる、という練習をする
着色時の児童の傾向として、海や空は青、葉っぱは緑、地面は茶で塗ろうという固定概念があります。それは悪いことではないのですが、「全て同じ色で塗ろう」という考えは時にマイナスに働いてしまいます。
色の違いによって物の奥行や凹凸、光の当たり具合を表現している絵において、色の違いがないところは「平面」として捉えられます。同じ色で塗り重ねたとしてもそこに変化は生まれません。1の項目で説明した通りに、パレットに全色を出しておけば、少し塗ったら少し色を混ぜて、再度少し塗ったら少し色を混ぜてという塗り方ができます。繰り返し塗っていくと自然と奥行きを生むことができるというわけです。児童はまだ色の塗り方の引き出しが少ないので、方法の一つとして有効です。
絵の具を扱う前に上記の内容を伝えておくだけで、その後の指導のしやすさが格段に変わります。是非、行ってみてください。
【著者プロフィール】
坂齊諒一●さかさいりょういち
1991年埼玉県生まれ。文京学院大学人間学部児童発達学科卒業。埼玉県公立小学校教諭として7年間勤務した後、2022年に一旦退職。翌年度から小学校、中学校教諭として勤務しながら、フリーランスイラストレーターとして活動を始める。企業や教育委員会からの依頼で絵を描きつつ、教員の働き方や図工の授業について研究をしている。