「無理しなくても行ける学校」をつくるために、今すぐ動き出そう!【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #14】

連載
負の連鎖を止めるために今、できること 校長の責任はたったひとつ

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子
木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 
#12 子どもの事実から「校長観」の転換を

不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第14回は、<「無理しなくても行ける学校」をつくるために、今すぐ動き出そう!>です。

「地域の学校」を多様な学びの場に

「不登校」30万人と言われる公教育を何とかしませんか。

先日、ある県の校長・教頭研修で、どうすれば「不登校」を生まない学校づくりができるだろうかとの問いに対してグループワークをしました。それぞれのグループで対話を重ね、グループごとに発表し合っていたときのことです。一つのグループの教頭先生が「今の時代は学校に来ることがゴールではないから、無理に子どもを登校させることを考えなくてもいい。フリースクールや特例校もできている。自宅でオンラインで学習すれば出席日数も確保できる。嫌がっている子どもを無理に学校に来させるのはよくない、という結論に達しました」と発表されました。

読者の皆さんはこの場に同席されていたら、どのように発言されますか。私は、思わず講師という立場を忘れるくらい強い口調で、次のように語ってしまいました。
「学校の管理職がそれを言ってはいけないのではないですか。学校で苦しんでいる子どもや保護者やフリースクールの関係者の方々がそのように言われるのは理解できます。『地域の学校』は税金で運営されている公教育の場です。その管理職が『地域の学校』に来なくてもいいと言ってしまったら、公教育は崩壊しませんか。それ以上に、この発言を子どもはどのように受け取るでしょうか。自分は必要とされていない。自分なんて学校に行かなくてもいいんだと思わざるを得ないのではないでしょうか。
学校は無理して行くところではなく、無理しないでも行ける『地域の学校』をつくることこそが管理職に求められているのではないでしょうか」

無理しなくても行ける学校に

「働き方改革」という錦の御旗と子どもの困り感を対等に並べるのは大きな間違いです。
このコーナーの目的に戻ります。校長のたった一つの責任は、「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことです。地域にある学校の周りで、どれだけ多様な学びの場をつくっても、子どもは行けないのです。#9でも紹介しましたが、再度一人の子どものメッセージから学びませんか。

学校という牢獄に通うということ
何も悪いことをしていないのに刑務所行きだと言われること
「みんなと同じようにして学校にいなさい」と言われること
ほとんどの人にとって学校が刑務所でないからこそ気軽に言えること
当事者からするとありのままの自分を真っ向から否定される場所
「人に迷惑をかけるな」「周りと同じようにしなさい」
ありのままの自分でいることの罪を償えと言われているような
暗くて重いプレッシャーを背負いながら、学校に通い続けることがどれだけ難しいか
そのストレスはなにも学校に行かなくなったからといって消えるものでもなく
一人一人の意識から変わっていかないとしんどい子はいなくならないと思う

2022. 11.(N)

この子どものメッセージは、学校に行かなくてもいいと言ってもらっても「行けない」、ストレスは大人になっても持ち続ける、と学校の私たちに訴えているのです。
大空小に転校してきた「不登校」のレッテルを貼られた多くの子どもたちも、同様の言葉を語りました。

「不登校」は中学校の問題……といった雰囲気を小学校は持ちがちですが、決してそうではありません。幼児が中学生になるまでの、多感な発達を遂げる6年間の学びを保障するのが小学校です。言い換えれば、中学校で「不登校」が増加する原因をつくっているのは小学校だと考えなくてはならないのです。小学校の6年間の学びの場を、まずは学級担任制ありきの画一的な場から「多様な学びの場」に変えることからリスタートしませんか。今の学校の現状が継続すれば、今起きている子どもの残念な事実の「過去最多」は更新され続け、学校に来ている子どもの数のほうが少ないといった事態になってしまうことが予測できるでしょう。公教育にそれほど危機感を感じているのは読者の皆さんも同じだと思います。

長年にわたって染みついたものは容易には変えられない?

最近、ようやく「チーム担当制」という言葉が聞かれるようになってきました。ところが、現場の先生方にはこの言葉に難色を示す方がまだまだおられるのが現状です。それは、日本の学校教育の過去を引きずっているからです。長年にわたって染みついたものは容易には変えられません。だからといって、現状の子どもの残念な事実を更新し続ける公教育であっては、「校長のたった一つの責任」を果たすことはできません。

「不登校」「発達障害」のレッテルを貼られ大空小に転校してきた多くの子どもたちが、誰一人取り残されることなく学校で学んだ事実は、学校の中が多様な学びの環境だったからに尽きます。校長のリーダーシップでも教員の指導力でもありません。ただただ、学校の中に多様な環境(空気)を豊かにつくることを最優先した結果です。

新たな学校のシステムを

社会のニーズが激変する中で、「教員が教える学校」から「子どもが学ぶ学校」に学校観が転換されました。これは、「子どもを育てる学校」から「子どもが育つ学校」へと変わることが不可欠であることを意味します。学校観の転換は、指導観・学習観を転換するのと同様に「校長観」も大きく転換しなければならないでしょう。教員の賛同が得られないからと言っている時間はなく、職員室のみんなで子どもの「自殺」「不登校」「いじめ」「暴力行為」の過去最多をなくす学校づくりを早急にリスタートしませんか。

子どもが暴れる・椅子に座らない・教室を飛び出す・授業を妨害する・暴力をふるう・暴言を吐く・教師の指示を聞かないなどの学校の困り感は、子どもを主語に問い直すと、子どもが「困っている」のです。これらの子どもの行動を「発達障害」や「家庭教育」のせいにしている間は、何一つ学校は変わりません。「他者を変える前に自分が変わる」、これは学びの鉄則です。子どもを厳しく指導したり、規則を厳しく突きつけたり、別室に排除したりする前に「学校のシステム」を変えるのです。

会議での決定ではなく、日々の雑談から「子どもの事実に始まり、子どもの事実に返す」ことを忘れず、「新たな発想で」「システムをシンプルに」「チーム力を高める」ための新たな学校のシステムを日々の職員室での対話(雑談)の中からみんなでつくるのです。正解など、どこにもありません。正解を持っているのは自校のすべての子ども一人一人です。そのためにも、まずはパブリックの学校の最上位の目的につながらない現行のシステムを捨てることから始めませんか。捨てない限り、新たなシステムは生まれません。

次回は大空小で実践した「チーム担当制」の具体策をお伝えします。学校づくりのきっかけになれば幸いです。

まとめ
 現状を公教育の危機と受け止め、学校は今こそ変わる必要がある
 「無理しなくても行ける学校」をつくるのは管理職の役目
 小学校を「多様な学びの場」に変えることが重要
 まずは現行のシステムを捨て、新たな学校のシステムを職員室の対話からみんなでつくっていこう!


木村泰子先生

木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。


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