国語科の「ICT活用」アップデート|生成AIで個に応じた指導を可能にする技【中野裕己の授業技術アップデート08】
『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載! 「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。
第8回目のテーマは、《多様な子供一人ひとりの「言葉の力を高める」生成AI活用》です。
執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己
目次
生成AIとは?
連載第8回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。
今回は、「ICT活用」アップデートとして、生成AIを取り上げたいと考えています。
あっという間に、社会に、そして教育現場にもやってきた生成AI。ここでは国語授業での活用を見据えて、「そもそも、どんなものなの?」というところから、話を始めたいと思います。
文部科学省から出ている「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」には、次のように示されています。
「あたかも人間と自然に会話しているかのような応答が可能であり」「『統計的にそれらしい応答』を生成する」という点が、web検索とは異なる生成AIのメリットであると考えます。
web検索は、「社会科で見学へ行ったスーパーへのお礼の手紙の書き方」など個別具体的な状況に基づく知識を検索することは、簡単ではありません(もちろん、運良くそのような情報を掲載しているHPが存在する場合もあります)。
一方で、生成AIは、指示文(プロンプト)さえ工夫すれば、会話をしているかのように、統計的にそれらしい応答をしてくれます。以下に実際の使用例を掲載します。
一方で、これはweb検索にも言えることですが、「回答には誤りを含む可能性がある」ということを、念頭に置いて使用しなければなりません。
特に生成AIは、「『統計的にそれらしい応答』を生成する」ため、あたかも信頼できる情報かのように見えてしまいます。この点に注意が必要です。
したがって、ガイドラインにあるように、以下の心構えが必要になります。
●最後は自分で判断するという基本姿勢
⇒得た情報をそのまま使うのではなく、一度批判的に考察すること。
●対象分野に対する一定の知識や自分なりの問題意識
⇒批判的に考察するための知識や考えをもつこと。
●AIに自我や人格はないという認識
⇒人間とのやりとりではないことを理解すること。
各教科の学習指導要領を概観すると、批判的な考察や、AIの仕組み(目に見えない構造)の理解は、高学年の指導事項に関わっているように思います。したがって、生成AIの活用は、小学校高学年以降がふさわしいのではないでしょうか。(もちろん、低中学年の子供に、教師が生成AIを使って見せて、存在を認知させることには価値があると思います。)
国語科「書くこと」領域での活用例
ここからは、生成AIのメリットを生かした、すぐに取り組める活用例を提案したいと思います。なお、使用する生成AIは、先ほどもご紹介したコニカミノルタ社の「tomoLinks」内で使用できる「生成AI学習支援機能」です。
ここでは、「書くこと」領域での活用例を紹介します。以下のような単元の構想に、生成AIを活用した授業を位置付けました。
【学年】第6学年
【単元名】「大切にしたい言葉」(光村図書6年)
【指導事項】文章全体の構成や書き表し方などに着目して、文や文章を整えること。
【単元の流れ(全6時間)】
①学習経験、生活経験を振り返って、「大切にしたい言葉」を選ぶ。
②「大切にしたい言葉」に関連した経験を書き出す。
③文章構成を考えて、下書きをする。
④下書きした文章を推敲(すいこう)する。[本時・生成AIの活用]
⑤文章を清書し、友達と読み合って感想を伝え合う。
⑥単元の学習を振り返る。
「④下書きした文章を推敲する」学習で、生成AIを活用します。推敲は、書き上げた文章をよりよく修正する作業です。自分が書いた文章を、自分で見直すことは、大人でも容易ではありません。そのため、従来は他者の力を借りて、推敲させることがありました。ここに、生成AIを活用するのです。
最初に、生成AIに次のような指示を与え、下書きした文章を入力します。
すると、次のような文章が返ってきました。
平仮名を漢字に変換する、句読点の位置を修正する、文末表現を修正するといった、推敲が行われていました。さらに、次のような指示を与えると、生成AIから異なる文章が返ってきました。
生成AIから返ってきた文章には、「私の心にズシンと響いた」「まるで〜」「ドキドキ」などといった表現が加わっていることが分かります。もちろん、この後には、どの表現を実際に取り入れるかをさらに推敲する時間を設けることが必要です。
そのために、次のような一斉指導を行います。
生成AIが提案してくれた表現の中で、気に入った表現はありましたか?
「心にズシンと響いた」は、そのときの私の気持ちにぴったりだったから、いいなと思いました。
逆に、これはちょっと…という表現はありましたか?
「まるで登山家が山頂を目指すように」という表現は、ちょっと大げさだと思いました。
分かる。大げさな言い方が私にもありました。
そもそも、「まるで〜」が多すぎて、ちょっとくどい感じがしました。
なるほど。自分の感覚にぴったり合ったものもあったけど、ちょっと言い過ぎなものもあったんだね。じゃあ、生成AIの提案を含めて、改めて自分の文章を推敲してみよう。
どの子供も生成AIの提案した文章を考察できるように、一斉授業で視点や手順を経験させるのです。そして、あくまで推敲の材料として、生成AIの提案した文章を活用できるようにします。
国語科で発揮される生成AIの価値
生成AIは「目的を明確にした情報収集の手段」です。
先の例であれば、自分の思いをよりよく読み手に伝えるために、誤脱字、主語と述語の関係、比喩やオノマトペについて情報を収集しているということになります。ただ、ここで重要なことは、一人一人の書いた文章に合わせた情報が提供されるということです。
国語科は、「言葉の力」をつけるための教科です。
国語科の学習対象である「言葉」は、一人一人の経験に根差した個別的なものです。このことは、同じ文章を読んだとしても、一人一人が言葉で表現する感想に同じものはないことからも明白です。また、同じ題材で文章を書いたとしても、一人一人が言葉で表現する文章に同じものはないことからも明白です。つまり、一律に揃えて指導することが極めて難しい教科と言えます。
もちろん、この多様さは子供の学びを豊かにする大切なポイントでもあります。したがって、多くの国語教室では「交流」が大切な手だてとなっているのです。
一方で、「個に応じた指導」には、難しさもあります。一人一人の作文を教師が細かく添削するような指導は、効果はあるのですが、そもそも教師の思った通りで本当によいのかという疑問が残ります。そこで、「あくまで参考にしてね」と助言にとどめるような前置きをしたとしても、多くの子供はそれを「答え」として受け止めてしまうでしょう。ここに、生成AIが使われる価値があるのではないでしょうか。
自分に合った情報を提供してくれる、でもAIだから批判的に見ることもできるのです。
……と、いうことで、ズバリ! 今回の授業準備アップデートは、
と、いうことになります。
明日の、そしてこれからの授業づくりの参考にしてくださいね。
次回のテーマは、《一斉授業アップデート》です。
今回の生成AIから打って変わって、従来大切にされてきた授業形態のアップデートを提案します。どうぞ、お楽しみに……!
【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。新しい国語実践研究会会長。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。
[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める! ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
『授業はタイミングが9割』(2024年)
『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』(2024年)
X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp
多種多様な「授業技術」と、その技術を活用した「実践」を、5つの授業タイプ、8つの方向性から整理。中野先生の最新刊『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』も、ぜひお読みください。
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《参考》単元「大切にしたい言葉」の指導案は、こちらの記事もお読みください↓
「小6 国語科『大切にしたい言葉』全時間の板書例&指導アイデア」
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「大切にしたい言葉」(光村図書)の全時間の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介しています。