子供たちといっしょに読みたい 今月の本#5 生と死について考える本

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子供たちといっしょに読みたい 今月の本 
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東京学芸大学附属小金井小学校司書

松岡みどり
子供たちといっしょに読みたい 今月の本  バナー

連載5回目のテーマは、「生と死について考える本」です。今、日本では若年層の自殺が増えていると言われています。悲しい状況ですが、子供たちがもっと力強く生きるために、生命の躍動、生命のつながり、大切な人の死についてなどの本を通して、「生と死」を考えるきっかけにしてはいかがでしょう。子供たちの1人読み、先生が読む、読み聞かせなど学級の実態に合わせてください。

監修/東京学芸大学附属小金井小学校司書・松岡みどり

今月の本#5 教室掲示物のイメージ写真

絵本

低学年の子供にも見やすく、分かりやすいのが絵本です。「生と死」は難しいテーマですが、これを機会に一度触れてみてはいかがでしょう。 

火の鳥 いのちの物語

『火の鳥 いのちの物語』

原作/手塚治虫 文・絵/鈴木まもる 
金の星社刊

手塚治虫「火の鳥」初の絵本化! 生命はどこから来るのか? なぜ生きるのか? 火の鳥が今を生きる人たちへ生命の不思議、生きることの大切さを語ります。

松岡司書のおすすめポイント
植物や動物などの生き物たちと人間はいつの時代もつながっています。そんな生命のつながりを宇宙規模で伝えている絵本です。「命は大切ですよ」と直接的な言葉で言うより、この本を見て命の尊さを知ってほしい。この絵本をきっかけに原作を読むのもよいと思います。

 

たべて うんこして ねる

たべて うんこして ねる

作・絵/はらぺこめがね 
岩崎書店刊

たべて、うんこして、ねる。食べ物と人をテーマに幅広く創作活動を続ける夫婦イラストユニット「はらぺこめがね」が描く日々の営み。タイトルの言葉だけで描かれている絵本はシンプルなのにインパクトが大きい作品です。

松岡司書のおすすめポイント
「たべて、うんこして、ねる」の3つはとてもシンプルです。力強い絵と言葉が合っていて、読み進んでいくうちに、生きることの基本としてこの3つが大切なことが分かってきます。3つの言葉で綴られていますが、絵を見るとストーリーが分かり、元気が出てきます。この絵本を読んだ際に、「この3つが大事よ」と子供たちに伝えてください。

 

うさこちゃんの だいすきな おばあちゃん

うさこちゃんの だいすきな おばあちゃん

文・絵/ディック・ブルーナ 訳/まつおか きょうこ 
福音館書店刊

うさこちゃんが初めて体験する家族の死と別れを描いた作品です。亡くなったおばあちゃんを悲しみながら見送る様子や、お墓のことなど、身近な死が描かれていることで、幼い子供たちにもきちんと伝わる内容になっています。

松岡司書のおすすめポイント
子供たちにも分かりやすく共感しやすい内容です。大切な人が亡くなることは重く悲しい出来事ですが、この作品は柔らかい描写で別れが描かれているので、子供たちに提示しやすいと思います。

 

『なきすぎてはいけない』

作/内田麟太郎 絵/たかすかずみ 
岩崎書店刊

祖父から孫へのメッセージ。孫の成長を願いながらも、いつかは先立つ自分(祖父)がいます。そのことを悲しまなくていいのだと伝える祖父の孫への愛情が、四季を通して描かれています。

松岡司書のおすすめポイント
祖父からの視点で描かれた作品です。「自分が亡くなったときは、悲しんでもよい、泣いてもよい、でも私が好きなのはあなたの笑顔なのだよ。悲しい気持ちは残るけれど、いつかはいやされるときがくる」ということを祖父は孫に語りかけています。命のつながりが柔らかいタッチで表現されています。

 読み物

中学年から高学年の子供たちに読んでほしい作品です。1つ1つの話は短いので読みやすく、1人読みでもよいし、1話ずつ読み聞かせをしてもよいでしょう。

 

生まれかわりのポオ

『生まれかわりのポオ』

作/森 絵都 絵/カシワイ 
金の星社刊

大事な家族の一員だった飼い猫との別れ。ぽっかりと穴が開いたような心を癒し、めぐる命の不思議を描いた物語。愛する猫のポオが亡くなって悲しみ続けるぼくに、ママが「生きものには神様からもらった時間があるんだよ」と物語を作ってくれました。

松岡司書のおすすめポイント
猫のポオが他の生き物になってぼくに会いにくるという話をママが作ってくれます。少しずつ悲しみを乗り越え、大切なポオの死を乗り越え、大切な存在が心に残っていくというすてきな作品です。大切なものの別れとそこからのステップが描かれています。

● ● ●

 

松岡みどり

松岡みどり司書からのメッセージ
読み聞かせなどクラス全体に発信するときには、様々な環境や境遇の子供がいるため、細やかに本を選んだり、見せたりすることが必要です。特に「死」を扱った作品は慎重にしましょう。教科の学習の中での関連で提示するだけでもよいと思います。「生と死」という小学生にとっては少し難しいテーマで、哲学的な考え方などいろいろなアプローチ方法があると思います。捉え方も難しいのですが、この機会に触れてみてはいかがでしょう。「生」については、『たべて うんこして ねる』を紹介しながら「生物としてシンプルに生きること」が実はとても大切なのではないかということを改めて感じました。思い悩むことが多い世の中ですが、生きる力の支えになるような本と出合えるきっかけになっていればうれしく思います。 

 

読書や本の情報が満載

ウェブサイト「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」(東京学芸大学 学校図書館運営専門委員会)
https://www2.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/

取材・文・構成・撮影/浅原孝子

 

授業で使える312冊の絵本を紹介
『絵本で広がる小学校の授業づくり』書籍表紙

『豊かな心と思考力を育む
絵本で広がる小学校の授業づくり』

著/齊藤和貴(京都女子大学教授)

司書教諭の経験を生かしながら、長年、学校現場で「絵本を活用した授業」を行ってきた元小学校教諭が、小学校の授業で使える絵本312冊を厳選。絵本を使った実際の授業が、板書や指導案、豊富な写真とともにオールカラーで具体的に紹介されていますので、授業の進め方がよくわかります。

B5判/112頁
ISBN9784098402212

〈著者プロフィール〉
齊藤和貴(さいとう かずたか)

京都女子大学発達教育学部准教授。元小学校教諭・司書教諭。東京都公立小学校及び東京学芸大学附属小金井小学校、附属世田谷小学校で28年間、教育活動や授業実践に取り組む。その間、生活科や総合的な学習の時間を中心に指導法やカリキュラム、評価方法の工夫・改善を図り、「子供とともにつくる授業」の創造に励む。また、司書教諭の経験を生かし、「絵本を活用した授業づくり」にも取り組んできた。

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