ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #37 「SDGsの授業」における学習評価をどう設計するか|岡田広示 先生

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ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #37
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本連載では最終回(♯39)に向け、SDGsの各ゴールからはあえて離れ、よりメタレベルの視点での提案をお届けしていきます。今回は、SDGsを学ぶ授業における「評価」についての考察と提案。ご執筆は大和大学の岡田広示准教授です。

執筆/大和大学社会学部准教授・岡田広示
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 学習指導要領でのSDGsの位置付け

学校教育活動は、設定された目標に対して児童生徒の学習内容に対しての形成状態を確認し、その児童生徒全員が目標を達成できる指導、支援を行い、その到達度、達成度を評価していく営みです。
SDGsを授業で扱う際にも、学習指導要領に則した目標設定が必要です。
本連載のテーマであるSDGsの学習目標は、「持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)」に見られます。平成3年5月に改訂された「持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引き」には、ESDを、「地球規模の課題を自分事として捉え、その解決に向けて自ら行動を起こす力を身に付けるための教育」としており、さらに学習指導要領においては前文に、「持続可能な社会の作り手となることができるようにする」としてESDが組み込まれています。

2 SDGsによって育む能力

「持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引き」には、ESDによって育む能力として、以下の7点が例示されています。

①  批判的に考える力
②  未来像を予測して計画を立てる力
③  多面的・総合的に考える力
④  コミュニケーションを行う力
⑤  他者と協力する態度
⑥  つながりを尊重する態度
⑦  進んで参加する態度

これらを学校教育法で定められている学力の3要素(基礎的な知識及び技能・これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力・主体的に学習に取り組む態度)に当てはめてみると、①~④は思考力、判断力、表現力の育成,⑤~⑦は主体的に学習に取り組む態度の育成と捉えることができます。

3 SDGsを学ぶ授業 実践のポイント

⑴ テーマ設定と目標設定

授業でSDGsを取り上げる際には、ねらいになるSDGsのGoalと取り扱う教科・領域の目標にズレがないかを以下の手順で確認しましょう。

はじめに単元目標を設定します。その時にSDGsのGoalと単元目標にズレがないかを確認しておきます。
次に設定した単元目標を明確にします。それを「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で切って具体的にどのような力やスキル、心情を育てるのか分析するのです。
この分析が評価規準・評価基準の作成につながります。

⑵ 評価材料の作成

ここでは評価材料の作成について解説します。
まず、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の観点ごとの評価規準を基にして評価基準を作成します。評価基準の作成方法は、見取る観点によって異なります。
そして、ねらっている力やスキル、心情は「単元のどこの授業で育成できているのか」「どういった学習成果物、発言、態度が表れた時に目標を達成したといえるのか」を考え、そこから評価材料としてふさわしいものを選定します。
これが明確になっていると、「目標を達成したといえる評価材料を作成させるために必要な単元・授業」を組み立てていくことができます。

⑶ 評定と評価資料の作成

単元の最後には、評価規準・基準に照らし合わせて評定を行います。
この時に「評価基準を満たしているか怪しい」「観点外のことで気になることがある」ものについては「評価に関わる人物の協議」で決めることが大事です。
また、単純なペーパーテストや行動観察で見取れない学習内容や観点については、「学習成果物が出そろってから評価基準の作成をすること」も可能です。
例えば、総合的な学習の時間などで初めて取り組む単元の学習成果物などは、参考にするものが少ないと思います。
そういった場合に、学習が終わってから評価者間でグループ・モデレーションなどを実施して、評価基準を作成します。
さらにSDGsのような比較的新しい教材を扱った時は、評定を行った後に評価資料として蓄積していくことが大切です。

4 具体的実践例から考える

それでは、本連載第10回、矢野香織先生によるご実践、「『ジェンダー平等を実現しよう』の授業」と、第27回、岡田昂輝先生によるご実践、「『気候変動に具体的な対策を』の授業」を例に挙げて、より具体的に解説します。

⑴ 矢野香織先生:連載第10回「Goal 5 ジェンダー平等を実現しよう」の授業

矢野先生は、大阪府の小学校で養護教諭として勤務されています。
児童生徒の心身の発達に関して養護教諭の果たす役割は、とても大きなものがあります。矢野先生の実践のポイントは次の3点です。

①  養護教諭という立場からのアプローチ
矢野先生は養護教諭という立場から授業をされています。
養護教諭は保健や環境衛生の専門家です。その立場から性に関する内容を児童生徒に伝えることは効果的です。
また、現代社会はちょっとした言葉の選択ミスで「セクハラ」と捉えられたり、男性教諭が性を授業で扱うことに苦手意識を感じている児童もいたりします。
このような面からも、児童生徒にとってデリケートな内容を取り扱う際には、矢野先生の実践のように養護教諭が直接授業を行うことで、安心して学習できる環境を作ることができます。

②  当事者が直接話をしてくれる
2時間目の授業では、当事者の方をゲストティーチャーとして招き、児童に話をしてもらっています。
「ジェンダー平等」に限らず、児童にとってSDGsのGoalsは遠い世界であり、身近な課題とは捉えにくいものです。
それが当事者の話を直接聞くことによって一気に身近になります。こういった手立ても奏功し、授業の中で児童が問題を当事者として考えることができたことが児童の感想にも表れています。
「わたしは、男だからスカートじゃなくてズボンという考えをやめようと思いました。なぜなら、心は女の子で体が男の子で生まれてきた時、スカートをはいた時にへんとか言われたらいやだからです」とあり、自分がその立場ならどう感じるかを考えることができており、授業目標を達成できています。

③  実践者自身の問題意識と省察
そして注目すべきは授業後の矢野先生のコメントです。
「『児童を傷つけてしまわないか。価値観の押し付けになってしまわないか』と不安を感じ、自問自答し、養護助教諭や学級担任、キャリア教育担当と相談しながら授業を組み立てました」と、自身の実践に対して、学習者への配慮や自問があります。デリケートな課題を扱う際に忘れてはならない姿勢です。
また、指導者のこういった姿勢は、「授業でやっておしまい」となりがちなものに対して継続的に取り組む原動力にもなります。
教育評価は指導した教師の指導方法に対する評価でもあることが実践できており、今後の発展にも期待できます。

⑵ 岡田昂樹先生:連載第27回「Goal 13 気候変動に具体的な対策を」の授業

岡田先生の実践の特徴は、的確なカリキュラム・マネジメントにより効果をあげているところです。
児童にとって身近な町である群馬県前橋市の気温の変化や、「ぐんま環境白書」を基に、算数科と道徳科でクロスカリキュラムを組んでいます。算数科と道徳科、それぞれのよさを組み合わせた実践です。

①  テーマ設定と目標設定
本実践で取り上げられたSDGsのGoalはNo.13「気候変動に具体的な対策を」です。
このGoalに対して、算数科での目標が「群馬県前橋市の猛暑日の数や年平均気温についての折れ線グラフの変化に注目し特徴を読み取る活動を通して、地球温暖化など気候変動の与える影響について関心を持つことができる」、道徳科での目標が「人間の生活が野生の動物にとっては危険なものになりえることを知り、自然や動植物を大切にしようとする心情を育てる」と設定されています。
算数科では「グラフの読み取り(知識・技能)」をねらっているだけではなく、児童にとって身近な地域のグラフを扱うことで「気候変動」に対して関心を向けさせるものになっています。
また、道徳科では、「自然や動植物を大切にしようとする心情を育てる」とあるように、児童が「気候変動」を自分事と捉え、環境保全に向けての心情の育成に目標を設定しています。
どちらの目標もSDGsのGoal 13「気候変動に具体的な対策を」に沿っており、適切な目標設定といえます。

②  カリキュラムの組み方
まず、算数科で自分たちの身の回りの気候を教材とすることにより、気候問題を身近に捉えさせています。
次に道徳科で、気候問題は「我が事」であると子どもたちに気付かせ、自分にできる環境保護を考えさせるようにカリキュラムが組み立てられています。

③  評価のり方
算数科の授業での児童の振り返りに、
「気温が1度高くなると大雨などの危険があり、2度高くなると生き物が減り、3度高くなると水位が高くなるなんてびっくりした」とあるように、グラフを読み取る力が育っているだけでなく、道徳科の目標に対して考えるきっかけとなっていることがわかります。
また、道徳科の授業での児童の振り返りでは、「自分たちがいいからといって、他のものが困るようなことをしたりしない、他はどうなのかをよく考えて、みんなが住みよい暮らしを作ること、SDGsや3R、4Rなどを守って、環境をまもること」とあり、授業目標の「自然や動植物を大切にしようとする心情を育てる」に迫るコメントが出ています。
SDGsの同一Goalをテーマに組んだカリキュラム・マネジメントが、有効に機能していると言えます。

【参考文献】
文部科学省(2016初版)『持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引き』
文部科学省(2018)『小学校学習指導要領(平成28年告示)』東洋館出版社
田中耕治、『教育評価』、岩波書店(2008)
廣嶋憲一郎(編)、『SDGsの視点に立った授業づくり-社会科・総合的な学習の時間の実践-』、教育出版(2022)

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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