ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #34 「Goal 17 パートナーシップで目標を達成しよう」の授業|西川翔 先生
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。
今回からはGoal 17「パートナーシップで目標を達成しよう」について学ぶ授業実践提案です。ご執筆は、横浜市の西川翔先生。個別(特別)支援学級での道徳の実践例です。
執筆/横浜市公立小学校教諭・西川 翔
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
はじめまして。横浜市で公立小学校教諭を務めております、西川翔と申します。
2021年度まで一般級の担任をしておりましたが、2022年度から個別(特別)支援学級の担任を務めています。
2023年度は、3学級の児童22名を低・中・高学年に分けて、それぞれに応じた学習を進めることになりました。
その中で、私は高学年担当(8名)になり、年間を通してSDGsについて学ぶ計画を立てました。障害種別も混合されており、学習経験も生活経験も異なる子どもたちです。
社会科の学習経験を積んできた子どもの学び、経験の浅い子どもだからこその率直な疑問を授業で生かしながら、進めてきました。
“SDGs”と考えると、何だか自分とはほど遠い世界の話にも思えるけれど、考えてみれば、身近な問題であると捉えてほしい。
「自分も未来の国際社会の担い手である」という意識を育て、目標達成のために「自分たちにもできることがある」と行動を起こすところまでできるようにという願いを込めています。
2 SDGsのGoal 17の解説
Goal 17 「パートナーシップで目標を達成しよう」
●持続可能な開発に向けて、必要な行動や方法を強化する
●世界中のあらゆる人たちが協力するパートナーシップを充実させる
SDGsのそれぞれの目標について調べてみると、1~16については目標達成に向けての取組が具体的だという印象をもちました。
一方で17については、その取組がやや抽象的である、そして「規模が大きくて、何だか取り組みにくそうだな」という印象をもちました。
しかし、よく考えてみると、「この17の目標達成なくして、SDGsの目標はどれも達成できないのではないか」「この17の目標こそが一番大切なのではないか」という思いに至りました。
なぜなら、どこか一つの国家が、自治体が、団体が目標を達成したとしても、パートナーシップなくして、世界全体で目標達成することは考えられないと思ったからです。
さらに、もっと規模を細分化して考えてみると、個々人のパートナーシップあってこそ大きな規模でのパートナーシップが成り立つのであり、まずは個々人のパートナーシップから始まるのではないかと考えました。
3 授業の実際
⑴ 学年
個別(特別)支援学級在籍の5年生2名・6年生4名
⑵ 教科及び領域
特別の教科 道徳
働くことや社会に奉仕することの充実感を味わうとともに、その意義を理解し、公共のために役に立つことをすること。
⑶ ねらい
互いに影響を及ぼし合って世界を変えた4人のエピソードを通じて、自分の行動がパートナーシップを生み出し、世界を変える力に繋がる可能性があることに気が付くこと。そこからSDGsの目標達成に向けて行動をしようという意欲をもつこと。
⑷ 主題 「自分にも世界を変える力がある」(オリジナル)
⑸ 授業展開
①SDGsの目標の確認
全ての目標のマークが描かれている画像を出し、SDGsにどんな目標があったかを確認する。(現在は、クイズアプリKahootを使って、帯で確認の時間を取っている)
②「あなたには世界を変える力がある」その言葉を信じますか。
●信じる(1名) ●信じない(5名)
自己肯定感の低い児童が多く、「世界を変える」という言葉に「それほどの力はないから」と感じている子どもが大多数でした。「信じる」に回答した子は「まだ可能性があると思うから」という理由でした。
③ノーマン・ボーローグのエピソードを話す
20世紀の農業学者、ノーマン・ボーローグの写真を出し、「20億人の命を救ったとされている」「1970年ノーベル平和賞受賞」という情報のみを最初に出して、どんなことをしたのか考えさせました。
●医者でワクチンを作った ●何か食べ物を開発した ●たくさん募金した
「20億人の命を救った」「平和賞」というキーワードから、子どもたちはよく考えていたなと思います。コロナを経験したこともあり、「ワクチンを作った」という答えが最多でした。
ノーマンは、トウモロコシ農家を営む父の言葉をきっかけに、世の中の人にトウモロコシを分けてあげられたらと思い、世界を変える決心をします。植物に関する知識を学び、大人になってヘンリー・ウォレス(アメリカの農務長官、副大統領)の下で働きます。そこで、ウォレスから農作物の研究所の所長に任命されるのです。そして、病気に強くて乾燥した気候でもよく育つ、小麦とトウモロコシの品種を作りました。
ここで、③の最初に見せたノーマンの写真とキーワードのスライドを背景に、次のように問いました。
④「何が世界を変えたのだと思いますか?」
●ノーマンの努力 ●ノーマンのがんばり
予想通りですが、この段階ではノーマンにスポットが当たりました。「食べ物がそんなに多くの人の命を救うんだね」と驚いた様子でした。
これらの回答を聞いてから「ちょっと待ってください」と声をかけ、ヘンリー・ウォレスがノーマンを所長に任命したスライドを映し、次の発問をしました。
⑤「世界を変えたのはウォレス?」
●あぁ~なるほど ●ウォレスは任命しただけ ●ノーマンの努力がなければ変わらなかった
まだ、ノーマン優位という印象を受けました。
⑥ヘンリー・ウォレスのエピソードを話す
ウォレスは幼い頃、大学教授である父の教え子ジョージ・カーバー(植物学者)と一緒に植物調査に出かけていました。そこでかけられたジョージからの言葉をきっかけに、ウォレスは植物について熱心に勉強します。その結果、アメリカの農務長官、そしてついには副大統領にまでなり、研究所の所長にノーマンを任命したのです。
⑦「何が世界を変えたのだと思いますか?」
●ウォレスのがんばり ●ウォレスとノーマン両方の努力 ●ウォレスのお父さん ●ジョージ・カーバー
肩書を受けてウォレスの方がすごいと感じた子どももいました。
そのうち、子どもたちから、「一人をえらばないといけないの?」という質問が出ました。
早速、授業の展開を読んだのか、「ウォレスのお父さん」や「ジョージ」といった回答も出てきました。
そうした子どもたちの回答を聞いてから「ちょっと待ってください」と声をかけ、ジョージがウォレスに言葉をかけたスライドを映して問いました。
⑧「世界を変えたのはジョージ?」
●ジョージかもしれない ●いやウォレスだ ●ウォレスとノーマン ●ジョージはウォレスが幼いころに教えただけ
新しい登場人物ジョージ・カーバーにも期待が寄せられました。ノーマンに対するウォレスの立ち位置と、ウォレスに対するジョージの立ち位置とを比べて考える子どももいました。
⑨ジョージ・カーバーのエピソード
ジョージのお父さんはジョージが生まれる前に亡くなり、お母さんもジョージが生まれてすぐに亡くなりました。そんなジョージをモーゼス・カーバーという人が引き取り、実の息子のように育ててくれました。
ジョージはそれからウォレスの父親の教え子となり、ウォレスと出逢い、植物についての知識や植物学者の使命を伝えたのです。その後、ジョージはピーナッツから266の品種、さつまいもから88の品種を開発し、その中には現在も食べられている品種があります。
⑩「何が世界を変えたのだと思いますか?」
●カーバー夫妻 ●ノーマンとウォレスとジョージ ●今まで出てきた人みんな
授業の先の展開を読んで、「カーバー夫妻」と答えた子どもがいましたが、全体として、人と人との繋がりに意識が向いていった感じがしました。
子どもたちの回答を聞いてから「ちょっと待ってください」と声をかけ、次のように問いました。
⑪「世界を変えたのはモーゼス?」
モーゼスとジョージのエピソードは大変興味深いものですし、他にもまだまだ続きの話はできるのですが、子どもたちの反応が「まだ繋がるの~?」となったところで、また、次のように問いました。
⑫「何が世界を変えたのだと思いますか?」
●出てきた人全員 ●4人 ●ノーマンとウォレスとジョージとモーゼス
ここで、ノーマン・ボーローグ、ヘンリー・ウォレス、ジョージ・カーバー、モーゼス・カーバー、4人の写真を出した上で問いました。
誰かに偏ることはなく、全てが繋がった結果、世界が変わったのだと腑に落ちたようでした。
⑬Goal 17の解釈の説明
①のスライドに戻り、今回はGoal 17を意識しての授業であったことを告げました。
●一人一人の行動や身近な人とのつながりが前提で「パートナーシップ」が成り立つ
●必ずどこかで繋がっているから、「自分が幸せ」は「みんなが幸せ」に繋がっている
●ゴール17の達成によってGoal 1~16の目標達成が叶えられる
⑭「バタフライ・エフェクト」についての説明
発表当初は笑って一蹴する科学者もいたこの提唱は、今では「初期値過敏の法則」として証明されていることを先駆的に表した言葉として評価されています。
⑮「あなたには世界を変える力がある」という言葉を信じますか。
「4人のエピソードやバタフライ・エフェクトの話を考えると、自分たちが今まで学んできたSDGsの知識や目標達成のための具体的な行動は、一つ一つは小さいかもしれないけれど、やがてそれが大きな影響として世界を変える力があるのかもしれませんね」
と語りました。
⑹ 評価について
●SDGsの目指す「パートナーシップで目標を達成しよう」について理解できる
●人と人が繋がって世界が変わっていることに気が付いている。
●社会や公共のために自分たちにもできることがあると考え、実践意欲を高めている
●自分たちも国際社会の未来を担う一員であるという意識が芽生えている
4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり
⑴ 児童の振り返り
●目標達成のためには、一人一人ががんばっていくことが大切だと思った。
●4人でも協力していけば20億人以上の命を救うことができるという可能性を感じた。
●色々な人が関わり合ってつながっていたことがわかった。
●誰か1人ではなく4人で世界を変えたと分かった。
●一人一人の行動や言葉で世界が変わることがあるんだなと思った。何が、誰がではなく、みんなが世界を変えたんじゃないかと私は思っている。
⑵ 成果
●年間でSDGsを授業していく中でも扱いの難しい、でも大切だと考えるGoal 17について授業化し、子どもたちと一緒に考えることができた。
●「バタフライ・エフェクト」という、内容としては難しくても一人一人の行動の可能性を感じさせられる題材を、エピソードをコンパクトにして伝えることができた。
●SDGsについて数時間授業してきて、自分たちが学んで意味があるのか、行動して意味があるのかという気持ちを少しでも払拭し、今後の学びへの意欲へつなげられた。
⑶ 課題
●道徳にありがちな物語の中から飛び出し、現実世界の課題とつなげて考えさせるところが弱かったため、物語の中に留まった振り返りを書いている児童が多かった。知的の児童に寄り添った授業づくりができていなかった。
●教師としてのGoal 17の捉え方や、バタフライ・エフェクトの解釈を伝えてしまったため、道徳の要素が薄まってしまった。
⑷ 他教科・他領域とのつながり
冒頭でも書いた通り、総合的な学習として年間を通してSDGsについて学んでいるため、総合はもちろん、社会科や、今回のように道徳とつなげて学習を進めることができます。
最初は教師主導型でインプット中心の授業を行い、後半は、一つのテーマについて写真を見たり、動画を見たりして、みんなでキーワードや伝えたいメッセージを考えます。そして最後にアウトプットとして学級外に広めるポスター等の作成をしています。
ポスター作りにおいては、国語のキャッチコピーづくりや俳句・川柳づくりと絡め、キーワードから伝えたいメッセージを考えるように指導しています。
年間を通してカリキュラムを組んでおけば、複合的に学びが広がり、重なり、深まり合う良い学びになるな、と可能性を感じています。
【参考書籍・webサイト】
・「バタフライ・エフェクト 世界を変える力」(アンディ・アンドルーズ/著 弓場隆/訳 鎌田浩毅/解説 ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・日本ユニセフ協会「持続可能な世界への一歩 SDGs CLUB」
この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!