教室の問題行動にアプローチする認知機能強化トレーニング

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子どもたちの認知機能を高める 教室コグトレ
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立命館大学教授・一般社団法人日本COG-TR学会代表理事

宮口幸治

小学校の先生たちが頭を抱えることの1つが、教室で見られる子たちの困っている姿です。これは、子どもの認知機能の弱さが要因の1つになっていることもあります。誰一人取り残さないためにも、認知機能強化トレーニングに取り組んではいかがでしょう。

監修/立命館大学教授・宮口幸治

教室の問題行動にアプローチする認知機能強化トレーニング イメージカット

教室で見られる困り事の事例

教室には多様な子どもたちがいます。そのなかで、このような子どもたちを見かけませんか。

□ 授業に集中できない。
□ 黒板の文字をノートに写すことが苦手。
□ 人とのコミュニケーションがうまくいかない。
□ 図形がうまく描けない。
□ 漢字が正しく覚えられない。
□ その場に応じた行動ができない。
□ 先生や親の注意が聞けない。
□ じっと座っていられない。
□ 忘れ物が多い。
□ 算数の文章題が苦手。
□ 文の読み飛ばしがある。
□ 文章を書くことが難しい。
□ 勉強へのやる気がない。
□ 嘘をつく。
□ 自信がない。
□ 努力ができない。
□ 嫌なことから逃げる。
□ 算数などの問題で見落としが多い。

「私の学級にもそういう子がいる」という先生もいらっしゃるのではないでしょうか。これらは、教育現場で教師が頭を抱える子どもたちの様子です。と同時に、子どもたち自身が困っていることなのです。これらの様子は、次の5点+1という特徴で分類することができます。

1 認知機能の弱さ見たり聞いたり想像したりする力が弱い。
2 感情統制の弱さ感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。
3 融通の利かなさ何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い。
4 不適切な自己評価自分の問題点がわからない。自信がありすぎる、なさすぎる。
5 対人スキルの乏しさ人とのコミュニケーションが苦手。
+1 身体的不器用さ力加減ができない。身体の使い方が不器用。

※幼少期からスポーツ等を経験し、身体機能が優れていて、不器用さが見られないケースもあるために、あえて「+1」としている。

先に挙げた例のような子どもたちは、もしかして1の認知機能の弱さに問題があるのかもしれません。

先生ができるスクリーニング検査

認知機能の評価を簡単にできる見る力、聞く力のスクリーニング検査で子どもの状況を把握しましょう。

見る力

〇立体図の模写

立体図
立方体の見本図

見本に示した立方体を模写します。

8~9歳くらいまでに描けるかどうかが、認知機能の発達度合のめやすになります。

奥行きがつかめないと立体図ではなく四角形が集まっているように見え、①~③のような図を描きます。④は立体的に見えていますが、底辺がまっすぐで、側辺が下に広がっています。

子供が描いた立方体の模写
子どもが描いた図

聞く力

〇数の復唱

数字をランダムに1秒間隔で読み上げ、順番通りに復唱させます(例えば、3、9、6、1など)。6~7歳くらいまでに5桁、9~10歳くらいまでに6桁が復唱できるかが評価のめやすになります。また、逆から言わせる逆唱(先ほどの例では1、6、9、3)では、8~9歳で4桁が言えれば問題ないでしょう。

認知機能とは

認知機能とはどのようなものなのでしょうか。

認知機能とは、記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断といった要素が含まれた知的機能を指します。つまり、五感(匂う、見る、聞く、触れる、味わう)を通して外部環境から情報を得て整理、計画、実行し、結果を出すときに必要な能力です。

認知機能の図

認知機能は、すべての行動の基盤であり、教育・支援を受ける土台でもあるのです。もし、正しい情報を五感で受け取っても、情報を処理する時点で誤ってしまったら、結果は間違った方向にいってしまいます。認知機能が弱いと、誤った情報処理が起こることにもつながりかねません。

例えば、記憶、言語理解(覚える)が弱い場合、授業中の教師の話や友達の話を注意・集中してしっかり聞いて覚えることなどが難しくなります。

注意(数える)が弱い場合、数感覚や注意・集中力、速く処理する力、計画力などが低くなります。

知覚(写す、見つける)が弱い場合、ものを正確に写す力という視覚認知の基礎や形を正確に認識する力、ある形を別の角度から見ても同じだと認識できる力、視覚情報を整理する力などが低くなります。

推理・判断(想像する)の力が弱い場合、見えないものを想像する力や論理性を養う力、相手の立場に立って考える力、複数の関係性を比較して記憶し、想像する力、断片的な情報から全体を想像する力やストーリーを想像しながら文章を作成する力などが低くなります。

境界知能の子どもたち

認知機能が弱い子どもたちはときに誤った情報処理を起こすことも見られます。特に留意が必要なのは、気付かれにくい境界知能の子どもたちです。

一般的に知的障害としてのIQは70未満とされています。境界知能(IQ70~84)や軽度知的障害の比較的上層(IQ65~70未満)の場合、気付かれにくく誤った情報処理が起こるというケースが見られても、怠けている、やる気がないと思われることがあります。

知的障害や発達障害と診断されれば、特別支援の対象になりますが、境界知能の子どもたちは、通常の学校生活を送ることができるので、見過ごされていることが多く、支援対象外になることも少なくありません。

境界知能は、今では知的障害として診断されませんが、かつて、世界保健機構(WHO)が公表してきた国際疾病分類の旧版ICD-8(1965~1974年、現在はICD-11)では、「ボーダーラインの精神遅滞」と分類されたことがありました。精神遅滞とは今で言う知的障害のことです。境界知能の子どもたちは知的障害と同じように、いろいろな判断をする場合に困難が伴うのです。

認知機能を強化するトレーニング「コグトレ」

誰一人取り残さない教育のためにも、特に認知機能が弱い子どもたちの認知機能を強化することが大切です。認知機能を伸ばすためのトレーニングが「コグトレ」です。

「コグトレ」とは、コグニティブ(Cognitive:認知)機能に着目したトレーニング(Training)の略称です。コグトレは、学習面…認知機能強化トレーニング(Cognitive Enhancement Training:COGET)、社会面…認知ソーシャルトレーニング(Cognitive Social Training:COGST)、身体面…認知作業トレーニング( Cognitive Occupational Training:COGOT)の3方面から包括的に子どもたちを支援するプログラムです。学習面では基礎学力の土台づくり、社会面では対人スキルの向上、身体面では身体的不器用さの改善を図ります。

ここでは、学習面についてのコグトレを紹介しましょう。次の表はどのようなトレーニングをすればどのような力が付くのかが分かります。

認知機能のトレーニングの図

コグトレは、IQを上げる、学校の成績を上げるためのトレーニングと思われているところがありますが、違います。あくまで、運動で言うところの基礎体力、つまり学習の土台に相当する認知機能を強化することを目的としています。

 

<記憶―覚えるトレーニング例>

〇何があった?

出題者が印刷した課題シート(またはスクリーン上で)10秒間、子どもに提示します。子どもは課題シートに描かれた図形を記憶し、記憶した図形を白紙の用紙に描き写すという課題です。この課題は、形の特徴をしっかり捉えて覚える力を向上させるというトレーニングです。

課題シート
覚えるトレーニングの進め方

コグトレに取り組む際の留意点は、目の前の子どもに合った課題を行うことです。どんな教材であっても正しく使わないとその子どもの力を伸ばすことができません。子どもがなかなかできないようなら、課題をやさしくしたり、ヒントを与えたりなど先生が工夫することが大切です。

 

1人1台端末に対応する「コグトレオンライン」

ICT端末で子どもたちが簡単にトレーニングできるのが「コグトレオンライン」です。「コグトレオンライン」は、「コグトレ」のWebアプリ教材で、全部で13種類のトレーニングに、パソコンやタブレットなどの端末で取り組むことができます。自動採点で結果がすぐにフィードバックされるので、子どもたちは楽しみながらトレーニングに取り組むことができます。

<注意―数えるトレーニング例>

コグトレオンライン 〔記号さがし〕トレーニング画面
〔記号さがし〕トレーニング画面(東京書籍より提供)

学習履歴管理機能や教材配信機能をもつ、先生専用のWebサービス「コグトレオンラインmanager」もあり、きめ細やかな指導に役立ちます。

「コグトレオンラインmanager」の学習履歴管理機能や教材配信機能
学習履歴管理機能の画面(東京書籍より提供)

コグトレによって改善された子どもたち

コグトレは、もともと少年院の少年たちが取り組んでいたトレーニングが、一般の小学校や中学校にも広がってきたものです。少年院でコグトレを試して、大きく変わったという少年たちがいます。ある少年は、突き詰めて考えることがとても苦手でした。しかし、コグトレの課題に取り組んだことで、物事を論理的に考えるようになり、考える習慣が身に付いたと言います。

「自分がなぜ少年院に入らなければならなかったか、最初はまったく分からず反発していたが、今は分かるし、先生が叱ったのは自分のためを考えてくれたからということも分かってきた」と言っています。

コグトレの認知機能強化トレーニングを行うことにより、一般の小学校において、課題が苦手だった児童集団の正解率が伸びて全体の平均に追いついたという結果もあります。

コグトレオンラインを導入した学校の先生から寄せられた声

小学校・通常学級から

〇集中力が向上しました。
〇黒板に書いていることを、ノートに速く写すことができるようになってきました。
〇「覚えよう」という意識で、見る・聞く姿が増えました。
〇楽しく取り組めるので、自分から進んでやろうとしています。
〇字形が整ってきました。

小学校・特別支援学級から

〇算数では、数を速く正しく数えられるようになってきました。国語では、文の読み飛ばしが減少しました。

中学校・特別支援学級から

〇授業の冒頭に取り組むことで落ち着いて教科の学習に入れるようになりました。
〇図形の特徴を把握できるようになりました。

特別支援学校から

〇繰り返し取り組むことで、取り組む姿勢や問題に対する反応がよりよくなってきたように感じます。

(東京書籍より提供)

コグトレには、いろいろな子どもたちに向けて幅広く課題シートや教材が用意されています。コグトレは、学校のテストとはイメージが違い、クイズのように楽しく、できなくても子どもたちがあまり傷つかないところがよいところです。子どもたちが「楽しそう!」と思って、自分から取り組んでいる姿が見られます。

出典:『コグトレみる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)

取材・文・構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

 

コグトレオンラインで子どもたちの学力の土台を育もう

コグトレオンライン広告

コグトレオンラインサービスサイト:https://cogtr-online.jp/service/

※コグトレオンラインは学校でのご利用を目的とした教材です。個人の方や事業所等からのご注文は受け付けておりません。

  

宮口幸治(みやぐちこうじ)

立命館大学教授 一般社団法人日本COG-TR学会代表理事
京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「日本COG-TR学会」を主宰。医学博士、子どものこころ専門医、日本精神神経学会精神科専門医、臨床心理士。著書『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)が大ベストセラーになる。

 

『マンガコグトレ入門』(宮口幸治著)表紙

『子どもの認知能力をグングン伸ばす! マンガコグトレ入門』(小学館)

著/宮口幸治
A5判 224ページ

教室を舞台にしたマンガでコグトレの進め方を楽しく具体的に紹介しています。「コグトレを取り入れたいけれど、何からどのように始めたらよいかわからない」という方にもピッタリの1冊です。「コグトレ」の代表的な50種のトレーニングのねらいや進め方・ポイントなどを、マンガを交えてやさしく解説。紹介する課題のワークシートはすべてダウンロード可能。

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