樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯6 東京都葛飾区立清和小学校「文様」「こまを楽しむ」(第3学年)の授業

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樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」!~
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カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第6回。今回のカバTは、東京都葛飾区を訪れました。

カバこと樺山敏郎先生

執筆/樺⼭敏郎  KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)

【第6回】 東京都葛飾区立清和小学校
「文様」「こまを楽しむ」(光村図書第3学年) 

授業者:植木優介教諭
訪問日:令和6(2024)年6月14日(金)

訪問の概要
葛飾区立清和小学校は、令和4・5年度葛飾区教育研究指定を受け、研究主題「ICT機器を活用した協働的な学びの実現」の解明に取り組むなど、長年にわたる研究校として区内外からその取組に注目が集まっています(下のボタンから「研究リーフレット」をご参照ください)。
令和4・5年度の研究では、国語科のみならず他教科等においても “ラーニング・マウンテン”が活用されていました。そうしたご縁もあり、小生は本年度の年間講師として同校の研究推進に関わる機会を得ました。本年度からスタートした国語科に特化した研究推進は、引き続き新たな指定校としてのミッションも託されているとのことです。
同校の研究主題は、「目的に応じて読みを深め、自分の考えを表現できる児童の育成~説明的文章の学習を通して~」です。今回は、本年度2回目の校内授業研究会でした。授業学年の第3学年2クラスで協力し合い、事前の他学級での先行実践を通した課題を踏まえた提案授業という位置付けでした。
本時は、単元(全8時間)の最後8時間目で、練習教材「文様」に別な文様の説明を加筆する学習が展開されました。
  

 

「文様」「こまを楽しむ」の授業をする植木優介教諭
授業者・植木優介教諭

Good Practice〜授業の花まるポイント(全8時間中の第8時)

シーン1:“練習教材”から“本教材”へ、そして“練習教材”へ戻る単元構想

教科書教材は、「文様」と「こまを楽しむ」の2教材で構成されています。

「文様」は練習教材として位置付けられ、そこで習得した知識・技能を本教材「こまを楽しむ」で活用するという構成です(全8時間)。植木先生が設定した単元名は「まとまりをとらえて読み、説明文を書いて伝え合おう~新しい文様の説明文の交流会」でした(写真1)。

写真1 単元全体のまとまりの中で本時の位置付けが明確になるラーニング・マウンテン
写真1 単元全体のまとまりの中で本時の位置付けが明確になるラーニング・マウンテン

写真1を見ると、ラーニング・マウンテンの第3ステージ(2時間)では、新しいこまの説明文と新しい文様の説明を書く活動が示されています。そこに向かって、第1ステージ(1時間)は、日本の伝統的な文様やこま遊びについて知ることから始まり、文様の画像やこま遊びの映像を見ながら題材への興味・関心を高めようとしています。

第2ステージ(5時間)が本単元の中心になりますが、そこでは、単元の主たる目標の実現に向かった学習活動が展開されています。学習していくキーワードとしては、「まとまり」、「段落」、「はじめ・中・おわり」、「問い」、「答え」、「文と文の関係」などです。植木先生は、練習教材「文様」において、このようなキーワードの指導を丁寧に行った上で、本教材「こまを楽しむ」で理解の深化を図ろうとしているのです。通常ならば、この流れで終わるのが一般的な単元構想ですが、第3ステージにおいて、練習教材や本教材を新たなテキストにリライトしていこうとしています。

ラーニング・マウンテンの大きな特長は、こうした単元の一連の流れを可視化、見える化することです。マウンテンの頂上には、教師が身に付けてほしい(教えるべき)内容が明記され、それを子どもと共有することができていました。こうした学びの文脈を子どもと共に創っていくことが、伴走する教師の指導力として今後一層求められていくと考えています。

シーン2:練習教材「文様」に新しい説明文を書くことの意味を理解する

子どもが第3ステージにおいて、“新しい”こまや“新しい”文様の説明文を書くことにはどのような指導の意図があるのでしょうか。具体的な学習活動としては、子どもたちの題材に対する興味や関心を大切にしながら、教師が用意した補助教材を読み、習得した力を活用して教科書の説明文に加筆していくというものでした(写真2)。

写真2 練習教材「文様」の中(答え)に新しい文様を加筆するというイメージ
写真2 練習教材「文様」の中(答え)に新しい文様を加筆するというイメージ

読者の中には、「読む」単元であるのに、説明文を“書く”となると、それは「書く」単元ではないか(複合単元)と思われる方もあるでしょう。決してそうではありません。読む力を書く活動で見取っていると考えるのです。植木先生は、そのことを十分に理解し、子どもたちに対して、「自分たちで興味のある、こまや文様について調べてごらん」とは指示していませんでした。
本時では、文様の補助資料を教師が自作して与え、その内容理解を第一義として授業を展開していたのです。

植木先生の用意した文様の資料は、「市松模様」と「青海波(せいがいは)」でした(写真3)。

写真3 補助教材「市松模様」と「青海波」のまとまりにおける中心となる語や文を捉える
写真3 補助教材「市松模様」と「青海波」のまとまりにおける中心となる語や文を捉える

植木先生は、ぞれぞれの資料の説明を6文で示しました。その6文の中から必要な文を4つ選んで説明文を構成するのです。このことは、どのような指導事項に当たるのかというと、写真1のラーニング・マウンテンの頂上付近の「イ 考えること・表すこと」の枠の最後の、「目的に応じて、中心となる語や文を見つけることができる」がそれです。

6文の中から4つの文を選ぶためには、教科書教材の説明の流れについて整理した、写真2の「紹介する文様」「説明①」「説明②」「願い」という観点や順序に即して、適切な文を見つけることが求められます。まさしくそれは、“目的”(新しい説明文を書く)に応じて、“中心となる語”(文様に込められている「願い」という重要語句)や“中心となる文”(紹介や説明と必要な文)を見つける力を高めることにつながっていました。
繰り返しになりますが、説明文を書く活動を通して、説明文を読む力を強化しているのです。本教材よりも簡素に取り扱った練習教材を再度取り上げて、その説明を加筆するという発想は素晴らしいと考えます。

Advice 〜エールを込めてアドバイス

ラーニング・マウンテンを構成する諸々の要素の中で、最も重要なものは、“単元の目標(指導事項)”です。一単位時間においては、それを意識した学習を展開する必要があります。

こうした単元全体及び一単位の目標設定やその実現への方略などの視点から、植木先生に対して、①本時の位置付けは妥当だったのか、②本時のツボはどこだったのか、③もっと個別最適な学びへ変革できないかの3つについて、助言しました。

1 本時の位置は、単元全体を振り返り、学びの成果を実感して、次につなげること

本時は単元(全8時間)の最後の時間でした。まさしく、この時間は子どもたちがラーニング・マウンテンの頂上に立つイメージです。そう考えると、

“新しい”文様の説明文を書くことが本時の中心となることは、その頂上と少しズレが生じています。

単元の最後の時間は、総括的な評価の時間として位置付けることも重要です。子どもたちにとっては、単元全体の学びをリフレクトする時間となりましょう。
具体的な活動としては、次のような発問(評価)を通して、単元全体を振り返り、学びの成果を実感して、次につなげるような働きかけが考えられます。

◆単元の始まりにおいて整理した、「この単元に関わって知っていること・できること」を見てみましょう。単元の終わりに当たり、これらの内容がもっと深く理解(知識・技能)できたことにはどんなことがありますか。目標として位置付けた「わかること・できること」について確認していきましょう。
◆説明的な文章を読むときに、どのような読み方(思考・判断・表現)をするとよいと考えましたか。これまでの説明的な文章の読み方とは違い、こんなふうに読むと深く読めるんだなあと思ったことはどんなことですか。
◆今回の単元を通して学んだことを今後の学びにどのようにつなげていくことができそうですか。今後、説明的な文章を読むとき、国語の学習を進めていくとき、またその他の教科等の学習や生活の中で活用できそうなこととしてどんなことがありますか。

こうした振り返りは、まさしくメタ認知能力を高めることにつながります。
新しく習得した知識・技能について、教科書の学習の手引きの記載事項を基にして確認したり、これまでノートやワークシート、PC(タブレット)などに記述してきた内容を振り返ったりしながら、単元全体のまとめを一層充実させることが大切です。

教師は、総括的な評価として、テストや言語活動の成果物等でその状況を見取っていくことも大切です。

2 本時のツボは、説明の観点や順序について議論し、深い学びへと誘うこと

本時は、“新しい”文様の説明文を4つの文で書く(選ぶ)ことにありました。さて、その4文はどのように選ばれ、構成されなければならなかったのでしょうか。その思考・判断が本時のツボです。そこには、言葉による見方や考え方が働き、学びが深まっていくことへの期待があります。子どもたちは、実に多様な解答をしていました(写真4)。

写真4は、ある児童の解答です。この児童は、6文から4文を選んでいく中で、どのような思考や判断をしたのでしょうか。そこに対話的・協働的な学びを取り入れていきましたが、拡散しすぎてしまいました。写真4では、文様に込められた願いが書かれた、5番目の文(中心文・キーセンテンス)「そのもようが、…」が選ばれていません。
こうした子どもの思考や判断のズレは、日々の授業では頻繁に起こります。そのとき、子ども主体の学び合いを大切にしながら最適解に向かっていけるよう、教師はその出番を調整していくことが重要です。学級の子どもたちの進捗の状況を都度判断し、思考の整理や軌道修正などの適度な示唆を与えていくことが必要です。

それでもゴールに達することができないようであれば、最終的には教師が前面に出て、“確実に教える”という指導が必要になるのです。

写真4 ある子どものワークシート
写真4 ある子どものワークシート

さて、模範解答はどのようになりましょうか。練習教材「文様」の説明の流れを活用すると「市松模様」の説明文は、6文の順番で文番号を付けた場合、「①え1の文様は、…→②色のちがう…→⑥古くは、…→⑤そのもようが、…」が最適解になるのではないかと考えます。いかがでしょうか。

3 子ども一人一人の問いを大切にし、それぞれの学び方や考え方を最大限尊重すること

一単位時間の学習においては、子ども主体の問題発見・解決型を目指すことは言うまでもありません。
授業の冒頭では、めあて(課題、問題、問い)が設定されますが、そのめあては、レッツ(活動)「~しよう」のみに留まるべきではありません。
国語科のめあては、「考えよう」「まとめよう」「伝え合おう」「書こう」などの文末で示されることが多く、そこにクエスチョン(問い)が伴っていない場合が多くあります。

「どのように考えていけばいいのだろう」「どのようにまとめていけばいいのだろう」といった内言とも言える問いを顕在化させていくことが、問題発見・解決型授業の出発点です。
ぜひ、“レッツ(活動)&クエスチョン(問い)”でめあてをもたせましょう。

めあてを設定した後、教師はどのような言葉をかけているでしょうか。
めあてを解決するために、教師が用意したワークシートをさっさと配付する場面を多くみかけます。そのワークシートには丁寧な解決プロセスが示されてはいないでしょうか。解決プロセスを教師が始めから与えすぎていませんか。
「まず、…して、次に、…して、それから…してください」と、その手順までを教師側から示すことは、もしかしたら問題解決能力を高めることに逆行しているかもしれません。子どもたちの実態によっては、手取り足取りしなければ学習が進まない場合もあるでしょうが、そこは個別指導でよいのではないでしょうか。

めあての設定後は、「さあ、このめあてに迫る(解決する)には、どのような学び方や考え方をしていくといいでしょうか」とゆっくり語りかけてください。そして、まずは一人一人が思考する時間と場を与えてあげてほしく思います。手も足も出ない子どもには、個別に机間指導において、あるいは黒板や教卓の周りに集めて、解決の方略を丁寧に示してあげてください。

令和の日本型教育で求められる、個別最適な学びの実現には、こうした子ども一人一人の問いを大切にし、それぞれの学び方や考え方を最大限尊重する教師のスタンスが重要と考えます。

 

〜旅のこぼれ話〜
冒頭で紹介したとおり、同校は昨年度までICT活用を全教科等で積極的に推進してきました。その一環として、単元や題材などの内容や時間のまとまりを見通すことの重要性を共有し、国語科のみならず全教科等で、ラーニング・マウンテンを作成してきたとのことです。植木先生の教室には、次のような社会科の学習のラーニング・マウンテンが掲示されていました(下写真)。
小生が関わっている全国の小学校のみならず、中学校の全教科等においてもラーニング・マウンテンを活用した授業が展開されています。

社会科の学習のラーニング・マウンテン
社会科の学習のラーニング・マウンテン

「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“山登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。

 ※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!

イラスト/大橋明子

樺山敏郎教授の顔写真

かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。

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