【相談募集中】道徳科における個別最適な学びを実現するにはどうすれば?

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小四の道徳を担当する先生から「みん教相談室」に相談が寄せられました。道徳の授業で個別最適な学びを実現するためにはどうすればよいか? というものです。それを受けて、北海道公立小学校教諭・小林雅哉先生が、実際の道徳資料を例に、授業アイデアを指南しました。その内容をシェアします。

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Q.道徳科で「個別最適な学び」を実現するためのアドバイスがほしい

道徳の授業で個別最適化な学びを実現するにはどうしたらいいか? 授業案のヒントなどを教えていただけたら嬉しいです。(アルティメット先生・20代男性・小四道徳担当)

A.個別最適な学びのために私が考える大切なことをお伝えします

アルティメット先生、はじめまして。ご質問ありがとうございます。道徳の授業で「個別最適な学び」を実現したいと考えていらっしゃるとのことでした。私なりに、「これが大切だな」と思うことをまとめてみましたので、お読みいただけるとうれしいです。

道徳科における「個別最適な学び」ってどういうことだろう?

「個別最適な学び」は、「指導の個別化」「学習の個性化」の2つを学習者視点から整理したものです。ものすごく簡単にまとめてしまうと、次のようになるのではないかと思います。

■指導の個別化…一人一人の子に合った学習方法、教材、時間などの提供や設定が行われる
■学習の個性化…一人一人の子の興味・関心・キャリア形成の方向性等に合った活動や課題に取り組む機会が提供される

道徳科では、小学校であれば2学年ごとに内容が示されていますが、該当する学年の内容に到達していない子がいることも考えられます。逆に、既に上の学年の内容について考えられる子もいるかもしれません。その違いを把握しておければ、配慮が必要な子への対応を準備しておくことができるでしょう。このように、子どもたちの実態をつかみ、指導に生かすことが道徳科における「指導の個性化」なのではないかと思います。

また、子どもたちは多様な生活経験や考え方をもっています。ですから、同じ資料を用いて、同じ内容項目について考えるといっても、注目する場所や立てる問い、とる立場などが違ってきます。ある考え方のみを取り上げる一本道の授業ではなく、様々な考え方が認められ、交差し合うような、言い換えると「児童生徒が多面的・多角的に考えることができる授業」を目指すことが、道徳科における「学習の個性化」なのではないかと思います。

「指導の個別化」のために

指導の個別化のためには、子どもたちの今の状態を把握することが大切です。Googleフォームを活用するなどして、授業前にアンケートを取っておくことが考えられます。4年生の定番資料、『雨のバス停留所で』を例に、どんなアンケートができそうか考えてみましょう。

(1)資料場面に関わるアンケート

以前、この資料で授業をしたときに、子どもたちの多くが「停留所で並んで待った経験をしたことがなかった」ということがありました。事前にそれが分かっていれば、「停留所で待つ」とはどんな様子なのかを分かりやすく伝える手立てを用意しておくことができたはずです。「バス停で並んでバスに乗ったことはある?」と聞いておけばよかったなあと思います。

(2)内容項目に関わるアンケート

この資料の内容項目は、「C-(11)規則の尊重」で、「相手や周りの人の立場に立って行動しようという判断力を育てる」というねらいを設定したとします。それに対して、現時点で子どもたちがどのような考えをもっているかを探ります。「並んで順番を待つのはどんなときですか」「なぜ並ぶのだと思いますか」のような質問が考えられます。「きまりだから」「先に来ていた人が嫌な思いをするから」「けんかになるから」「周りに迷惑がかかるから」など、いろいろな答えが返ってくることが予想されます。どんな考えが多かったかによって、どのような発問が効果的かを検討することができます。

「学習の個性化」のために

「学習の個性化」のためには、多面的多角的な考え方が生まれるような発問が必要であると考えます。逆に考えると、「一つの考え方だけがよいとされる授業展開」を作れば、学習は「無個性化」します。「人に迷惑をかけてはいけないから、きまりは守るべきだ」という考えを教師が前面に押し出せば、子どもたちはそれに「いやいやそれは違うでしょう」とはなかなか言い出せませんよね。

前述のアンケートで、「なぜ並ぶのだと思いますか」という質問に対して「きまりだから」「周りに迷惑がかかるから」という答えが多かったとしましょう。子どもたちは既に「周りの人の<迷惑だな>という気持ちを考えて、<きまりを守る>という適切な判断をするべきだ」ということを既に知識としてもっていることがうかがえます。そこで、

「雨のときに、バス停の前ではなく屋根の下に並ぶ」というのは、きまりなのでしょうか。

という問いを子どもたちにぶつけてみます。ちょっとだけ前提を揺さぶってみるのです。子供たちの反応は、分かれます。

  • 確かに、そんなきまりがあるってわけではなさそう。みんなが勝手に考えてやったことかも。
  • いやいや、状況から考えて屋根の下に並ぶのが当たり前なのだから、きまりだよ。
  • でも、どうしても早く乗りたいなら、傘をさして並んでいてもいいんだよね?
  • それでも、先に来ていた人が先に乗るべきじゃない? 小さい子供を連れた人もいるよ。
  • きまりじゃないなら、どうしてみんな並んでいるのだろう?
  • きまりじゃないとしても、後から来た「わたし」が、待っていた人たちより先に、バスに乗るのはだめでしょう。

意見がばらけたら、しめたもの。「自分の考えは、どれ(に近い)?」と聞きます。子どもたちに自分の「立場」を決めることを求めるわけです。板書にネームプレートを貼ったり、ホワイトボードアプリを使って考えを投稿・分類したりして可視化すると、だれがどんな考えをもっているのかが分かります。自分と近い考えの人や、遠い考えの人などと交流したいという気持ちが生まれ、協働的な学びにつながっていくかもしれません。

まとめ

ここまで、「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つの側面から「個別最適な学び」の実現のためにできそうなことを考えてきました。要点をまとめると、次のようになるかと思います。

■指導の個別化のために、事前アンケートを利用して児童生徒の実態を把握することが役立つと思います。
■学習の個性化のためには、児童生徒自身が「自分の立場」を決めることが大切だと思います。そして、「立場を決めたい」と思ってもらうためには、意見がはじめからまとまるのではなく、2つ以上にばらけるような発問が大事だと思います。

「個別最適な学び」という言葉をSNS上でもよく見かけます。様々な手法が紹介されていて、その真新しさに「面白そう!」と思うことも少なくありません。しかし、新しい手法に取り組むこと自体は「目的」ではなく「主体的・対話的で深い学びの実現のための手段」です。

その実現のためのヒントは、これまでいろいろな先生方が積み上げてきた一斉授業の実践の中にも、たくさんあるのではないかと思います。先行実践を調べたり、追試したりする中で見えてくることも多いのではないでしょうか。同じ職場の授業のうまい先生に発問の作り方を聞いてみるなど、身近な方から学ぶという方法もありますね。

アルティメット先生からのご質問に対する回答を考えながら、私自身ももっともっと勉強しなければいけないなと改めて思いました。素敵な機会を頂きありがとうございました。今後もともに子どもたち一人一人が輝く授業を目指して頑張っていきましょう!


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