小3図画工作科 子供一人一人の目線で表す「わたしが感じた6月」
今回のテーマは「絵に表す」です。身の回りの形や色の美しさに触れ、感じたことを友達と語らいながら分かち合うことができることは、とても豊かなことです。ここでは、6月の季節を、水彩絵の具を使って絵に表す活動を紹介します。「6月」というテーマで身の回りを見つめ、その子なりの6月のイメージを形や色、表し方などを工夫して表していきます。
執筆/北海道公立小学校教諭・木村美香
監修/文部科学省教科調査官・小林恭代
北海道教育大学教授・花輪大輔
目次
本題材について
図画工作科では、子供たちが生活や社会の中の形や色と豊かに関わる力を付けることを目指しています。身の回りの形や色の美しさに触れ、感じたことを友達と語らいながら分かち合うことができることは、とても豊かで、すばらしいことです。図画工作科の授業の中で、そのような子供の姿を育てていきたいものです。
ここでは、6月の季節を、水彩絵の具を使って絵に表す活動を紹介します。子供たちは、経験したことを形や色などと結び付けて表現することもあれば、形や色などからイメージをもち、経験したことと結び付けて表現することもあります。6月の季節にどのようなイメージをもつかは、子供によって様々です。「6月」というテーマで身の回りを見つめ、その子なりの6月のイメージを形や色、表し方などを工夫して表していきます。
この実践では、絵に表すまでに、形や色などの視点をもって生活の中から表したいことの「もと」を「6月ブック」というメモにしてためていきます。そうすることで、形や色、表し方などについて自分なりの思いをもち、進んで表現する子供の姿が増えることを期待しました。
題材の目標
6月に感じたことから表したいことを見付け、水彩絵の具についての経験を生かし、手や体全体を十分に働かせ、表し方を工夫して表すとともに、作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて感じ取ったり考えたりし、進んで絵に表したり鑑賞したりする活動に取り組む。
題材の評価規準
●知識・技能
知 6月の様子や経験から感じたことを表すときの感覚や行為を通して、形や色の組合せによる感じが分かっている。
技 水彩絵の具を適切に扱うとともに、手や体全体を十分に働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。
●思考・判断・表現
発 形や色の組合せによる感じを基に、自分のイメージをもち、6月に感じたことから表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながらどのように表すかについて考えている。
鑑 形や色の組合せによる感じを基に、自分のイメージをもちながら、自分たちの作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方について、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げている。
●主体的に学習に取り組む態度
主 つくりだす喜びを味わい進んで6月に感じたことを絵に表したり鑑賞したりする学習活動に取り組もうとしている。
材料や用具
6月ブック
《子供》鉛筆、色鉛筆など
《教師》画用紙(A5サイズに切ったもの)、カードリング
6月の絵
《子供》絵の具、はさみ、のり
《教師》白画用紙(様々な大きさのもの)、色画用紙(八切)
題材の指導計画
指導のポイント
本題材の実践に当たっては、6つの手立てをとりました。
①4月に行った題材で子供たちが発見したにじみやスパッタリングなど絵の具の表し方の工夫を、「わざ」として掲示することで、経験を生かせるようにしました。
②図工室内のいたるところに表した絵を吊るせるようにしたり、紙や道具の置き場所をあえてバラバラにしたりして、友達の作品が自然と目に入るように工夫することで、対話が多く生まれるようにしました。
③材料の紙をあえて小さいものにして、何度も試せる安心感をもたせ、かきあげた達成感を何度も味わえるようにしました。
④6月に感じた様々なことや、時間の経過なども合わせて表現できるよう、最後に複数の絵を選んで、1つの作品とするようにしました。
⑤子供が思いに合わせて好きな色や大きさの台紙を選べるようにしました。
⑥6月から1か月間、自分なりの「6月の形や色、思い出をためる」6月ブックに取り組みました。
活動の流れと指導上の留意点
第0時
題材が始まる前から……。
5月の終わりに国語の授業の中で、夏に関する言葉集めをしました。「明日から始まる6月は夏かどうか」という話題で子供たちの意見は大きく分かれました。この授業をきっかけに子供たちは、「6月って春だろうか、夏だろうか。6月ってどんな月なのだろう」と考え始めます。
そこで「6月がどういうものか、この1か月みんなで探していこう」と「6月ブック」をつくる提案をしました。6月ブックとは、絵に表すまでの1か月間で、子供たちが見たこと、感じたこと、思い出など、それぞれの視点で「わたしが感じた6月」を捉え、本の形で記録したものです。6月ブックの表記の仕方は、絵だけ、絵と言葉、言葉だけ、絵日記風、詩など、子供が取り組みやすい形としました。
第1時~第4時
6月に感じたことから表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながらどのように表すかについて考える。
・水彩絵の具を使って「わたしが感じた6月」を、表し方を工夫して絵に表す。
「これまで探してきた『6月』を絵に表そう」と投げかけると、すぐに筆を取り表現を始める子供たち。6月ブックにかいていたメモの絵と同じことでも、色鉛筆では出せない、自分のイメージに合う色をつくりだそうと絵の具を混ぜ、表し方を工夫しようとする姿がたくさん見られました。
活動するうちにどんどん6月の記憶やイメージが広がり、「6月ブックにかいていないこともかきたい」と表したいことを広げていく姿も多く見られました。
絵の具を使って絵に表しているときに、「6月ブック」のページを開いて表したいことを探す子供は数人でした。多くの子供は夢中になって次々と絵に表し続けており、6月ブックは近くにあるだけです。これは、「6月ブックの内容、それらに付随する感情などが自分の中に記憶として刻まれており、それらを引き出したりつなぎ合わせたりしながら夢中で絵に表していた」と捉えられます。ここまでに6月ブックをつくる過程で、子供たちの心に、6月ブックのページが積み上げられていたのでしょう。
本題材の魅力は、「わたしが感じた6月」は「わたしだけの6月」だというところにあります。子供たちは、友達の「6月」と「わたしが感じた6月」を鑑賞し合うことで、表したいことがさらに広がり、より一層「わたしだけの6月の姿、思い出はなんだろう」と、形や色、表現を追求していく姿につながりました。
第5時
「わたしが感じた6月」に合う配置を考えながら組み合わせて、1つの作品にする
これまでバラバラにかきためてきた「6月の絵」を改めて1つの作品となるように、それぞれ思い思いの台紙を選んで、どこに何を貼るのか考えながら組み合わせます。子供たちは出来事の順番を意識して配置したり、余白の扱いも表現の一部として工夫したり、これまでに様々な感覚を働かせて感じ取ったことを生かして、工夫して表そうとする姿が見られました。
最後に、子供たちの活動や作品から……
お祭りのかき氷
Aさんは、6月に行われる札幌まつりで食べたかき氷をかいています。上の方はいちごのシロップがたっぷりかかったあまーい赤に、下に行くにつれてだんだんと薄まるシロップの赤を、水を何度も足すことで表現していました。完成した作品を見ると、かき氷は丸と四角で囲われています。Aさんに話を聞くと、「お祭りの明かり。なんだかぼんやりした明かりですごくきれいだったから、黄色とオレンジと水を重ねてかいた。そうしたらぼんやりしていい感じ」とうれしそうに教えてくれました。
雨を降らせて
「近くに紫陽花が咲いていて、とてもきれいだった」そう話しながらBさんは紫陽花をかいています。小さな花が寄り集まって、1つの大きな花になっている様子を表すために、図工室にあるスポンジを使ってポンポンと押して表現していました。
下の写真でBさんが何をしているのか分かりますか?
近付いてつぶやきに耳を澄ませると、「あぁ、もうちょっと……。こんな感じかな」と楽しそうです。「今、何をしているの?」と訊ねると、「雨を降らせたい。紫陽花に雨が当たったら、きれいだから」と答え、その後も水で薄めた絵の具を紫陽花の上に降らせ続けました。筆でかくよりも、流れ落ちる水の動きをそのまま表現できると考えたようです。
子供たちは感じたことや、思い出といっしょに心に残った風景を工夫して絵に表し「自分だけの6月」を表そうとしていました。世界を捉える子供たちの目線の面白さや、筆や道具の使い方、絵の具でつくりだす色の1つ1つに思いを込める姿が印象的でした。
構成/浅原孝子