学級の「話合い活動」アップデート|気付きが生まれる話合いを促す技【中野裕己の授業技術アップデート06】
『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。
第6回目のテーマは、《話が「止まらなくなる」話合い活動》です。
執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己
目次
「話合い」とは?
連載第6回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。
現行の学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」、中教審答申で示されている「協働的な学び」が象徴するように、授業において「話合い活動」は重要視されています。
そこで、今回の授業技術は、どの教室でも大切にされているであろう話合い活動に関わる授業技術を取り上げたいと思います。
まずは、教室で行われる話合い活動の形式を整理してみましょう。
ペアの話合い活動
「まずはペアから」などと、話合い活動の導入として行われることの多い形式です。一対一であるため、話すことと聞くことの役割分担が円滑になるとともに、発話する機会もある程度保証されます。
一方で、話合いの様相は、ペアになった2人の関係性に、強く影響を受けます。
つまり、何らかの理由でお互いに抵抗感があれば、話し合うこと自体が十分に行われない可能性もあります。
グループの話合い活動
「まだグループは難しいかも」などと、導入のハードルを高く設定している先生もいらっしゃるのではないでしょうか。4〜5人であるため、話すことと聞くことの役割分担は難しくなります。ともすれば、発話する機会が訪れない場合もあります。
また、ペアと同様に、話合いの様相はメンバーの関係性に強く影響を受けます。しかしながら、複数名であるため、ペアよりも特定の関係性は薄まります。
学級の話合い活動
この形を「話合い活動」と呼ぶのであれば、おそらく一番多く取られる形式であると考えられます。挙手して話すことが一般的であるため、話すことと聞くことの役割分担は明確になります。なお、集団であるため基本的に聞く時間が多くなります。
また、教師が明確に位置付いた形式であるため、子供同士の関係性による影響は小さくなります。
それでは、この話合い活動をより効果的に運用する授業技術について、今回も【Before】【After】でお示ししていきます。
【Before】発表的な話合い活動
まずは【Before】ということで、話合い活動の「あるある」といっても過言ではない、『発表的な話合い活動』について述べていきます。例えば、以下のようなグループの話合いです。
「ごんぎつね」では、兵十に「神様のしわざ」と思われていながらも、栗や松茸を届けに行くごんの姿が描かれています。これを取り上げて、「ごんが、その明くる日も兵十の家に行ったのはどうしてかな」という問いで学習を行うことがあります。
じゃあ、まずぼくから言うね。ごんが兵十の家に行ったのは、それだけ反省していたからだと思います。反省していたから、神様のしわざって思われてもよかったんだと思います。
次は誰の番? 私でいい? 私は、つぐないだから、自分だって分からなくても、関係ないと思います。兵十にいいことがあれば、それがつぐないになるから。
次はぼくね。ぼくは、毎日やってればいつか気付いてくれるかもって思ったからだと思います。
最後は私。私は、気付かれなくても兵十がよい気持ちになればいいって思ったから、栗と松茸を持っていったと思います。
みんな違うね。
そうだね。いろいろな考えが分かったね。
分かりやすく示すために少々あからさまになってしまいましたが、ここで伝えたいことは、用意してきた考えの発表に終始しているということです。
「大きな声で話す」「すらすら話す」といった発表の練習にはなっているかもしれませんが、新たな気付きが生まれるような話合いにはなっていません。
【After】探索的な話合い活動
そこで、新たな気付きが生まれるような話合いとして、探索的な話合い活動を提案したいと思います。探索的な話合い活動については、「探索的会話」として以下のように特徴が示されています。
探索的会話
【参考文献】一柳智紀(2012)「児童の話し方に着目した物語文読解授業における読みの生成過程の検討:D.バーンズの「探究的会話」に基づく授業談話とワークシートの分析」
・新たな考えや意味に向けた手探りでなされる会話である。
・言い淀みや躊躇、仮説的な表現を含む不完全な話し方である。
・他者と協働する中で推論し、新たな考えを生成し、理解を深める上で重要な役割を果たしている。
私は、このような探索的な話合い活動(探索的会話)を促すために大切なことは、以下の2つであると考えています。
①問い(葛藤が生まれる問い)
「○○で間違いない」のように、考えがすぐに安定してしまっては、そもそも話し合う必要感が生まれません。子供に葛藤が生まれる問いが必要です。もちろん、そのような問いが自然発生的に生まれれば素敵なのですが、いつもそうはいきません。
そこで、教師の発問が重要になってきます。例えば、「どうして/どのように」という発問と、「どこ/いつ」という発問を比較してみましょう。以下のような違いが見えてきます。
探索的な話合い活動を促すために大切なのは、「どこ/いつ」といった発問です。立場が明確になるため「どっちかな」と葛藤が生まれやすいからです。
また、自他の考えの違いも認識しやすく、違う考えに出合ったときに「どうしてそっちなの?」という会話に発展しやすくなります。
②環境(学習材を共に見つめる環境作り)
自分と違う考えを「違う」と認識することは、それほど難しいことではありません。ただ、「どう違うのか」を理解するのは、とても難しいことです。この「どう違うか」が分かることで「あれ、その考えもよいかも」などと、新たな葛藤が生まれてくることもあります。
この「どう違うか」を理解するために、学習材を共に見つめ話し合う環境が重要になります。
具体的には、学習材を常に子供の視線の先に位置付けるのです。
グループで学習している場合は、グループの真ん中に拡大した学習材を置いて、重要な点にしるしをつけながら話すように促します。学級全体で学習している場合は、黒板に掲示します。発言する子供には、黒板の前で根拠を指差しながら話すように促します。
また、普段から「指差しながら話をしましょう」などと繰り返し声をかけて、根拠を明示することを定着させることも大切です。
発問と環境に気を配ることで、子供の話合いは探索的になっていきます。話合いが探索的になることで、子供は話し合うことの良さや楽しさを実感し、自ずと話し合いに向かう態度が醸成されていくのです。
……ということで、ズバリ! 今回の話合い活動アップデートは、
ということになります。明日の授業づくりで、教室に立つときの参考にしてくださいね。
次回のテーマは《授業準備》です。どうぞ、お楽しみに……!
【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。
[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp
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