学級活動(1) 話合い活動(学級会)の指導ポイント〜合意形成の作法を身につける

新学習指導要領の内容が先行実施されている特別活動は、「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」の三つの視点で、集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせることを目標としています。

学級活動(1)では、学級生活における課題や問題点を「自分事」としてとらえ、みんなで話し合ったり考えたりすることで、子供たちに「自分たちの力で、学級をよりよいものへと変えることができる」という「見方・考え方」(=自治的能力)を育てることを目指します。集団に対する意識が芽生え始めてきたら、学級活動(1)における話合い活動(学級会)のステップアップを目指した指導について考えていきます。

執筆/神戸松蔭女子学院大学教授・秋山麗子

話合い活動イメージ

1 学級活動(1)の活動過程

学級活動には、

(1)学級や学校における生活づくりへの参画
(2)日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全
(3)一人一人のキャリア形成と自己実現

の三つの内容が示されています。この記事では、そのうちの(1)の内容における話合い活動について述べていきます。

学級活動(1)の活動は、①「何が、どのように困るのか」をきちんとみんなに伝え、学級全体に「こうしたらよいのではないか」と提案し、②みんなで相談し、解決に向けたよりよい方法について合意を形成し、③解決に向けてみんなで実践する、という流れで進めます。

学級活動(1)の学習過程

この流れのうち、②の話合い活動を、一般的に「学級会」と呼んでいます。活発な意見交換が行われる充実した学級会を実現するためには、①~③の活動の流れに沿って、意図的に指導することが大切です。

2 学級会の事前の活動 ~学級会の前にしておくこと~

(1)学級集団の状況を振り返ろう

学級会に取り組む前に、まず学級の状況について、次のような視点で振り返りましょう

ア.学級目標を決めていますか?
イ.子供たちは、掃除当番や給食当番、係の活動等に進んで取り組んでいますか?
ウ.子供たちは、先生や友達の話をしっかり聞くことができていますか?
エ.子供たちは、授業中、自分の意見や考えを述べることができていますか?

ア、イについては、集団づくりの基本です。「こんな学級にしたい」という目標をみんなで共有し、目標達成のための活動として、当番や係の活動に主体的に取り組めるような学級づくりを、日ごろから進めることが大切です。

ウ、エは、学級が、子供たちにとって安心して学習や生活に取り組める場所であるかどうかのポイントです。自分も他人も大事にできる人間関係を構築できる学級であることが、よりよい学級の条件です。

(2)問題や課題に気付く「しかけ」をつくる

学級の問題や課題に気付き、声を上げることができるような学級の環境づくりはできていますか? この時期になると、自分の身の回りの問題や課題に気付き、「なんとかしたい」と考える子供が増えてきます。そのような声を汲み取り議題にあげるための環境づくりが大切です。

担任は、学級に「相談ポスト」を設置して、学級生活の中で気になったことや困っていることをそのポストに入れてみんなで相談するように仕向けるとよいでしょう。それまでは、担任の先生に相談していた子供たちも、困ったことを手紙にして相談ポストに入れることで、学級みんなが一緒に考えてくれることを体験します。

学級生活での自分の気付きを学級全体の課題として相談するということを体験的に学べるようにすることで、逆に、学級の問題を「自分事」として考える子に育ちます。

そうだんポストイメージイラスト

(3)計画委員会を組織する 

自立心が育ってきたこの時期、学級会を開くに当たって計画委員会を組織しましょう。計画委員会とは、話合いに向けた準備や司会、記録等を担当するグループです。学級会ごとに輪番制にして学級全員が一度は経験することが望まれます。低学年であれば、教師の支援や指導の下で、自分たちで学級会を運営する経験を進めることが大切になります。ただし子供たちが慣れるまでは、計画委員会の司会進行は担任の先生がするとよいでしょう。

【計画委員会の主な準備や仕事】
・提案された問題や課題の整理、次の学級会の議題の選定(決定は学級全員で)
・決定した議題の提案理由を具体化
・「話し合うこと」と話合いのめあてを決める
・司会、記録等の分担と気を付けることの確認
・「決まっていること」の確認

学級会までに、計画委員会から学級全員に議題について知らせます。一人ひとりが学級会ノートなどに自分の考えを書いておくなど、議題に対する問題意識をしっかりもつようにすることが、学級会の話合いを充実させる重要な手立てです。先生からではなく、計画委員会からのお知らせとすることが、子供たちの主体性を育てるポイントです。

3 学級会指導の実際

ここでは、学級会の話合い活動を充実させるポイントについて解説します。

(1)司会グループの指導

特に低学年の話合い活動では、教師の助言を受けながら、発表の仕方や意見の聞き方など、基本的な話合いの進め方を身に付けることを目指します。初めは教師が司会、黒板、ノート記録をし、子供たちの様子を見ながら、できるところから担当の子供に任せるようにします。

司会進行は、小学校全学年を通して、次の三つの段階で指導します。

第一段階
① 教師が司会をし、手本を見せる。
② 教師の言葉の後から、子供に復唱させる。
③ 子供に、発言者の指名をさせる。
第二段階
① 担当の子供が、教師の助言の下で司会ノートに言葉を書き込む。
② そのノートを見ながら、教師と一緒に学級会を進める。
第三段階
① 司会と副司会が、自分たちで司会ノートに言葉を書き込む。
② 司会と副司会で学級会を進めるが、進行に困ったときは、教師が支援する。

司会ノートの例1
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司会ノートの例2
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学級会の時の先生の立ち位置や支援のあり方も重要なポイントです。

第一段階では、先生は司会の子供と同じ席に座り、言葉遣いも司会と同じようにします。少し慣れてきたら、司会の子供には副司会の仕事である発言者の指名や決まったことの発表などを任せていきましょう。

第二段階になると、教師は司会・副司会の横に座り、司会の言葉を確認したり、進行の助言をしたりします。

第三段階になって、子供たちは話合いに慣れてくると、司会の定型的な発言だけでなく、自分で工夫して話合いを進めることができるようになります。教師は、話合いが行き詰まったり迷走したときに助言するために、司会席から少し離れたところで見守るようにしましょう。

低学年では、第一段階から第二段階を目指して指導するとよいでしょう。

(2)学級全体の指導

①学級会ノート(話合いのためのワークシート)

学級会の話合いを充実させるためには、学級の子供たちが議題に対する問題意識や自分の考えをもって臨むことが重要なポイントです。

二、三年生にもなると、議題に対する自分の考えをもつことができる子が増えてきます。次の学級会の議題の提案があり、学級会ノートが配付された時には、短い文や単語の羅列でもよいので、議題について自分が考えたことを書き留めておくことを指導します。担任は、学級会までにこのノートに目を通し、子供一人ひとりが考えていることをあらかじめ把握します。うまく書けていない子には、事前に考えを一緒にまとめておくなど、個別に丁寧な支援をしましょう。

学級会ノートの例
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②話合いの進め方

学級会は、45分という時間枠の中で、ポイントを絞って効率よく話合いを進めることも大切です。時間を意識しながら話合いを進める習慣をつけておくことで、話合いの流れを身に付けることができます。下の例を参考に、時間配分をしましょう。黒板に目安の時間を示した時計の絵を貼っておくことも有効です。

学級会の時間配分の例
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③黒板記録の工夫

学級会における板書は、話し合っていることを目に見えるようにするための大切なツールです。低学年では、子供だけで黒板記録をするのは難しいので、教師が一緒にします。子供から出された意見は、画用紙などで作った短冊に記していきます。話合いの「可視化=見える化」を図るために、次のように黒板記録をするとよいでしょう。

・事前に、教師が、学級会ノートに書かれた子供の考えを短冊に書いておく。
・学級会で出された意見の書かれた短冊を、記録係の子供が黒板に貼る。
・話合いが進み、新しい考えが出されたら、その場で教師が短冊に書き、係の児童が黒板に貼る。
・話合いの進行に伴い、教師が意見の書かれた短冊を動かし、話合いが動いていることを「可視化」する。

話合いがまとまってきたら、みんなの考えが一つの方向に向かって進んでいること(「話合いが構造化」していること)を、教師が黒板記録を見ながら解説すると学級みんなの合意が形成されやすいでしょう。

板書イメージ

4 話合いの質の向上をめざして

(1)学級会の話合い活動は「思考力」を育てる

学級会の話合い活動は、自分たちが生活する学級を、楽しく豊かにするためにどのようなことができるのかについて、「互いの考えを伝え合い、自分の考えや集団の考えを発展させる」という言語活動で、子供たちに、「考える力=思考力」を育成する大切な学習活動です。

思考力の育成のポイントは次の2点 です。

①「考えること」(「思考スキル」)を具体的にとらえる。
②「思考力」を育成する方法やツールを準備する。

学級会の指導においても、子供たちの発言から、その頭の中でなされる思考に注目することが大切になります。低学年の学級会の話合い活動で使われる思考スキルには、次のようなものが考えられます。

・理由付ける 
・具体化する
・広げてみる
・見通す

また思考スキルを使って、「思考力」を育てる方法として、話型の指導が考えられます。下図は、思考スキルを使った時の話し方(話型)の例を示したものです。話型は、頭の中の思考を発信する際に言語化することに役立ちます。子供たちが話型を身に付け、自由に使うことで思考力が高まります。また、思考スキルの表現方法としての「思考ツール」の活用が充実します。このような思考スキルを活用した学習活動は、教科等の学習で積極的に進めている学級では、その「思考力」を、学級会で活かし、また、学級会で身に付けた「思考力」を、教科等の学習でも活かしていくといった、往還的な指導のマネージメントを工夫することも重要です。

思考スキルと話型の例
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(2)「話し合う」場面の流れ

前ページに示した通り、学級会は「つかむ」「話し合う」「振り返る」の三つの場面構成で進めます。このうち、実際に内容について話し合うのは、「話し合う」場面です。この場面は、さらに【出し合う】【比べ合う】【まとめる】の3段階で進めます。特に【比べ合う】段階では、実践に向けて可能なことを決めていくために次のような指導の視点が求められます。

・出されたいろいろな意見を、比較、整理する。
・少数の意見のよいところに着目し、尊重する。
・いろいろな意見や考えを合わせたり組み立て直したりしながら、新しい考えを創り出す。
・学級のみんなの合意を形成する。

まだ自己中心的な思考段階の二、三年生の子供たちにとって、自分の考えを一方的に話すだけでなく、友達の考えと自分の考えを比べることで一人ひとりの考えていることは違うことに気付き、自分の考えと似ているところや一致できることを出し合って話合いをまとめていく経験はとても重要です。さらに、意見の対立が起こった時には、互いの考えのよいところを取り入れて新しい考えを創り出すことができれば、中高学年に向けての準備は万端です。時間がないからと、形式的な多数決で物事を決める学級会だけは、絶対に避けたいものです。

このような話合いを実現するためには、学級会だけでなく、朝の会や帰りの会、教科等の授業においても、一人ひとりの考えが違うことを前提とし、互いの思いや考えを出し合い、聞き合い、みんなで考えるという学習活動を進めることが重要なポイントとなります。

(参考) 『考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業』田村学、黒上晴夫著(小学館)

5 実践活動に向けて

(1)実践活動を保障する

学級会が無事終わり、次は実践活動・・・とその前に、担任の先生は、学級会で合意形成した活動内容についてもう一度チェックしましょう。

学級会で、子供たちが一生懸命話し合って決めたことは、必ず実現させることが重要です。このことは、裏を返せば「実践できないことは、決めない」ということです。

実践に向けたNG内容の例
□ プレゼントを買って持ち寄る等、個別に金銭が必要である。
□ 学級でお菓子やジュース等を学校に持ち込んで飲食する。
□ 公園や施設に遊びに行く等、課業時間内に学級だけで郊外に出かける。
□ 学校内の施設(特別教室や運動場等)の使用を、学級で勝手に決めている。
□ 特定の子供やその家庭に対して、いじったり笑いものにしたりする等、人権上の配慮が欠けている。

ここに示したような活動が学級会で決まったときには、もう一度学級会で話し合うようにしましょう。公教育の場である小学校生活では様々な制約があり、実施が難しいことがあることをきちんと示したうえで、「できない」ことや学校全体の調整などが必要なことを指導します。そして、子供の思いを汲んだ代案を担任から提案したり、学校全体で調整することを伝えたりするなど、子供たちの実践意欲を削がないような指導をします。また、楽しいからという理由で「笑い」を求める活動に関しては、心を痛める子供がいないかをしっかりチェックするという人権上の配慮は忘れずに行いましょう。

まだまだ生活経験も少ない子どもたちは、何でもできるという思い込みだけで意欲が高まることも多く、実現の可否まで考えることが難しいこともあります。実際に、活動が動き出してしまうと、子供たちは「できない」ことを受け入れにくく、意欲が削がれたり、時には担任の先生への不信感を招いたりすることもあります。本来なら、学級会の話合い活動の中で、上記のような内容が出されたときに、逐次指導を入れていくことが大切です。そのような指導や支援によって、「現実を見つめながら、今の自分たちにできること」を考える姿勢を育てることができるのです。

子供たちが話合いを行うイメージ

(2)実践に向けた役割分担の工夫

学級会で話し合って決めた内容は、みんなの合意が形成されたものです。一人ひとりが実践活動に主体的に取り組めるように、全員で役割を分担します。特に二年生はできることが増えてくる年代なので、一人一役の仕事をつくり、自分の得意なことや好きなことを生かせるような役割分担を考えましょう。そして、実践活動を進める中で友達のよさや頑張りを言葉で伝え合い、「学級生活のために、自分は役立っている」という自己有用感を味わえるような実践活動を進めましょう。

(3)次につながる実践活動の振り返りを!

学級活動(1)が目指すことは、子供たちの自治的能力の育成です。学級会で話し合ったことを実現する体験を積み重ねた子供たちは、「自分たちの力で、学級をよりよいものへと変えることができる」ことを学びます。時にはうまくいかない体験もするでしょう。その時こそ「次はどうしたらうまくいくか」を学ぶチャンスです。

先生自身も、失敗を恐れず「なすことによって学ぶ」姿勢で、話合い活動のステップアップを目指しましょう!

イラスト/設樂みな子

『小二教育技術』2019年1月号より

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