6学年の内容だけを見て指導すると、点の指導になる【「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法 #11】

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「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法

前回は、分数を小数に直したり、小数を分数に直したりする授業について新潟市立上所小学校の志田倫明先生に説明していただきました。今回は、6学年の学習のポイントとなる分数の乗法、除法について解説をしていただきます。

かけ算は比例関係を前提とした倍の考え方に拡張

志田倫明教諭
新潟市立上所小学校の志田倫明教諭。

前回、分数としての学習は5学年まででほぼ完結しているため、6学年では分数の意味を活用して問題解決をすることが主な学習になるということに触れました。この6学年の学習で中心となるのは、分数の乗法と除法になります。ですから、この内容について乗法と除法に分け、今回はまず乗法(かけ算)から説明をしていきたいと思います。

以前、分数のたし算の学習で、2学年から何を学んできたかを捉え直していく授業について説明をしましたが、それと同様に、かけ算の学習でも意味を捉え直していくことが大切です。ちなみにたし算、ひき算については、同種同単位のものであれば計算ができるということが原理原則としてありました(連載第8回参照)。しかし、かけ算の場合は少々複雑で、5学年での×小数の学習のときに、すでに大きな意味の拡張を迫られていたのです。

5学年以前のかけ算では、子供たちは1つ分×いくつ分=全部の数、という意味でかけ算を学んできています。例えば、袋の中にあめ玉が3つ入っていて、それが4袋あると、全部のあめ玉の数は3×4=12 で、12個という計算になるわけです。ところが、×小数になった途端に、その意味では説明ができなくなります。例えば、1mが80円の紙テープがあり、それを2.3m買ったらいくらかというときに、「80×2.3としていいのかな?」というところで、子供はつまずくのです。

実は4学年までのかけ算は、たし算に直して意味を説明することができます。いわゆる同数累加の考え方で、先のあめ玉の例なら3×4=3+3+3+3=12となるわけです。ところが紙テープの例では、80×2.3=80+80+(80ではないもの)となります。このように同じものをたしているわけではないのに、かけ算と認めてよいのかということで、説明が付かなくなり、真剣に意味を考えることで、かえって混乱してしまう子供もいるのです。

では、それをどう乗り越えるかというと、かけ算は比例関係を前提とした倍の考え方で意味付けられると拡張するわけです。つまり、「1mあたり80円としたときに、2.3mは基の1mを2.3倍しているから、値段も2.3倍になるであろう」と比例を仮定することで、かけ算が成立すると考えるのです。そういう意味で見返してみると、あめ玉の例も「袋が4倍になっているから、中身のあめ玉だって4倍になる」という倍の考え方と同じことをやっていた、と捉え直されるようになるわけです。つまり、×小数を学ぶことによって、それまで学習したかけ算(1つ分×いくつ分=全部の数)もすべて、2量の比例関係を前提とする倍の考え方の説明で包含できるというように、意味の拡張が図られるわけです(資料1参照)。

(資料1)

資料1

小数に直せる分数から導入し、小数に直せない分数へ発展

そのような5学年での学習によって、かけ算の意味の拡張が完了しているわけですが、「じゃあ、分数でもそれと同じように考えることができるかな」というところに、×分数の学習の意味があるのです。そのような学習をしていくときに、「小数も分数も同じ数を表していて、表現方法が違うだけなのだから、きっとできるだろう」と子供たちは考えていくはずですが、小数と分数の違いに戸惑う子供がいることも想定できます。そこで私は、小数に直せる分数から導入して、小数に直せない分数へかけ算を発展させるという展開で学習をさせるとよいだろうと考えて、授業をしました。その実践について説明していくことにしましょう。

まず、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]というような小数に置き換えられる数値で問題場面を設定して導入を図ります(資料2参照)。教科書にもよくある問題ですが、例えば「1dL当たり[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]㎡ぬれるペンキがあります。このペンキ[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]dLでは何㎡ぬれますか」という問題場面を示すわけです。すると、子供たちは2量の比例関係を仮定して、「1dLが[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]dLと[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]倍になっているので、ぬれる面積も[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]倍になる」と考え、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]と立式することはできます。ここまでは小数のかけ算のときと同じ考え方でできるわけですが、これをどのように計算すればよいかということが問題になります。

(資料2)

資料2

そのときに子供たちは、既習を使って「小数のかけ算なら計算できるよ!」という話になり、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]を小数の0.8×0.75に置き換え、0.8×0.75=0.6と答えを出すことができます。あるいは0.75dLの単位量となる0.01dLあたりを求めるために、0.8㎡を100でわると、0.008㎡ぬれることになりますから、0.75dLはその75倍と考えて、0.008×75=0.6で、0.6㎡と考えることもできます(資料3参照)。そこから0.6を分数に直せば、[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]になるということが確認できるわけです。

(資料3)

しかしここで、「でも、[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]みたいに小数にできない分数もあるよ?」と、小数に置き換えるだけではできない場合もあると問いをもった子供が発言します。「じゃあ、分数のままでも計算できる方法を考えようよ」となるわけです。そして、先ほどの計算で「0.01dLあたり」と考えていった「『単位あたり』の考え方を使えばできるよね」と気付く子供が出てきます。そこで、[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]dLの単位量となる[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]dLあたりの面積を出すために、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷4をし、その後で、[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]dLあたりの面積にするため3倍するということで、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷4×3=4×[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]÷4=[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]と計算できると考えていきました。そうすると、この方法ならば、[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]のような小数にできない分数の、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]という式でも、まず3で割って[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]あたりを求める方法で、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷3×2で計算できると子供たちが考えていきます(資料4参照)。

(資料

資料4

さらに、先に3dLあたりを求めてから、÷4をして[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]dLあたりを求める方法だと、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×3÷4と考えることになりますが、これも[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×3÷4=4×[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]÷4=[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]と、式にしていくと同じことになることが分かります。また、[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]は、商分数と見れば、3÷4ですから、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×3÷4 となり、この場合も、4×[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]÷4=[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]となることが分かります(×[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]でも同様)。商分数の用い方(見方)が強い子供たちの場合は、このように考えるわけです。
さらに[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]と[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]の両方を整数に直す方法もあり、それぞれに、5と4をかけておいてからかけ算をし、出てきた12を5と4でわる考え方もあります。この場合も立式をして計算していくと結局は、4×[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]÷4=[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]となるわけです(資料5参照)。

(資料5)

こうした考え方すべてを扱うかどうかは状況次第ですが、どの考え方でも、分母は5×4をしていて、分子は4×3をしているわけです。つまり、分子同士、分母同士をかけている形になっていることを、帰納的に見ていくことで、分数のかけ算は、分母同士、分子同士をかければ計算できるという一般化につなげていきます。このように、主に小数×小数のかけ算のときに用いた考え方を、分数のかけ算にも活用できるだろうと考えていく中で、いずれの場合も分母同士、分子同士をかけて計算すればよいという共通点を見付け出し、一般化していくのです。

これはよく言われることではありますが、6学年の学習をするときに、6学年の内容だけを見て指導していると、どうしても点の指導になってしまいます。しかし少し俯瞰して、「5年生のときには、何を学んでいたかな」「4年生ではどうだっただろう」と学習を見ていくと、何を学んでいるのかが見えるようになりますし、それまでの学習をより大きく捉え直すような授業づくりも見えてくるのではないでしょうか。

次回は、分数指導の内容の最後となる、分数のわり算の授業づくりについて解説をしていただきます。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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