教育実習体験者座談会・前編「自分はこの仕事を楽しめるという気づきがあった」【みん教×EDUPEDIAコラボ】
これは、先生のための教育事典「EDUPEDIA」(運営:NPO法人ROJE)と共同で企画した、教育実習体験者座談会のレポートです。座談会は、事前に両サイトで受け付けた読者の皆様からの質問をもとに、テーマを設定して進行しました。学生たちは、「就職先としてどう思いましたか?」「学校側への要望はありますか?」など、答えづらい質問にも、真摯に答えてくれました。教育実習を控えた学生の皆さんはもちろん、教育実習生を受け入れる学校も必見の内容です。ぜひお読みください!
山口翔太(仮名) 東京学芸大学4年生。2024年4月から東京都の中学・高等学校の社会科教員として勤務予定。教育実習は、小学4年生担任と、高校の地理を担当した。
鈴木拓海(仮名) 信州大学教育学部3年生 教育系の企業に就職希望。現在就職活動中。教育実習は、小学校6年生担任と、中学校の社会を担当した。
望月優香(仮名) 東京学芸大学3年生 公務員試験の勉強中。公務員あるいは民間企業に就職後、セカンドキャリアとして教員の道も視野に入れている。教育実習は、小学5年生を担任した。
目次
「想定外」への対応は教育実習でしか体験できない
──実際、学校の現場に行って、どんなことを学ぶことができましたか?
山口 実習を通して、その授業を準備することだったり、実際に授業をすること、さらによりよい授業に改善したりする作業が、自分はすごく楽しめるんだなという気付きがありました。そこに気付けたのが一番大きかったと思います。
授業の準備はけっして楽ではありません。いろいろな資料に当たって、その授業をやっとの思いでつくるわけですが、実際に授業をしてみると、想定していたものとはまるで違う子供の反応がある。でも、そんな想定外の反応も含めて、「おもしろい」と、思っている自分に気付けたのがよかったですね。
たとえば、高校での教育実習のとき、私は、2つのクラスで地理の授業をもっていたのですが、同じ内容の授業でも生徒の反応がまるで違うんです。ある時、私は地軸について間違えた表現で生徒たちに教えてしまったのですが、Aのクラスではそのまま流されてしまったんです。ところが、Bのクラスでは「こういう表現が正しいのではないですか?」と、すぐにある生徒が指摘しました。すると別の生徒が「先生の表現も、こういう理由があってのことなのではないか」などと議論が始まって……。同じ指導案で授業をしても、クラスによって展開が変わってくるということを学びました。
鈴木 それはおもしろい体験をされましたね! 私が学んだのは、授業中にどういう支援をすると子供が学びやすい環境になるのかというところです。教育実習に行く前は、どちらかというと、事前準備がもっとも大切だと考えていました。たとえば、社会の授業では、どういう資料を準備して、どういうふうに提示してといったところが。もちろんそれらも大切なのですが、実際、教育実習に行ってみると、机間指導中の声かけとか、使用するツールでどういうふうに表示するのかなど、当日の支援が非常に重要だと気付きました。机の間を歩いているときに、「これいいね。どういうふうに考えたの?」というようにその場で声をかけることで、子供がみるみる自信をもてるようになっていくのを目の当たりにしました。
望月 私も山口さんや鈴木さんと同様、授業づくりのところにすごく学びを感じました。教育実習へ行く前は、実際の子供を想定せずに指導案をつくることしかできませんでしたが、実習においては、「〇〇さんはどういう発言してくれるかな?」などと、クラスの子供たちの想定回答も意識して授業準備ができるということが大きな学びでした。
──困ったことや課題だと思ったことは何ですか?
鈴木 子供の発言が思うように出てこなかったことです。小学6年生の算数で、拡大図と縮図の書き方を学ぶという授業で、自分の授業計画では3通りの書き方を確認する展開にするつもりが、授業時間内に、子供の発言が思うように出てこなくて……。今思えば、計画どおりに進めることで精一杯で、子供たちをほめようという意識が抜けていたなと。自分の意識のもち方1つで授業内容も変わってしまうのだと思いました。
望月 私もそうですね。私が担当した小学5年生のクラスでは、算数では活発に意見が出るのに、国語に関しては、想定していたよりもよい反応が出づらく、授業が停滞してとても困ったことがありました。1回目の授業でそうなってしまったので、2回目以降では、「この発問だったら子供たちが答えてくれるかな?」と考えて、授業を修正していきました。でも、その修正が授業づくりの醍醐味だとも感じました。
子供との交流は他の職業にはない喜び
──教育実習を通して、うれしかったことは?
山口 子供たちと打ち解けられたことですね。小学校での実習の際は、休み時間のたびにサッカーなどに駆り出されていました。その時間の中で、子供一人一人の性格や人間関係が垣間見え児童理解が深められて、よかったと思っています。
それから、これはボーナスのような出来事だったのですが……ちょうど実習期間中に自分の誕生日が重なっていまして。私から子供たちに誕生日を伝えたわけではありませんでしたが、ほかの実習生が知らせてくれていたようで、手紙を書いてくれた子供がいたんです。手紙には「授業が楽しいです」と書いてあって……その時は実習で疲労のピークがきていたのですが、一気に吹き飛んだことを覚えています。
鈴木 それは報われますね! 私も一番うれしかったのは、子供たちから寄せ書きをもらったことです。私の教育実習は、先に中学校に行って、その後、小学校に行くという順番だったのですが、中学校のときは子供たちとあまり打ち解け切れなかったと感じていました。年齢的な要因もあるとは思うのですが。ですから小学校では、子供たちと打ち解けられるように、子供のことを知ったり、自分のことを知ってもらったりする時間を作ろうと思って、やっていました。そうしたら、意図せずに最終日、子供たちから寄せ書きでいろいろなメッセージをもらって、実習に行ってよかったと感じました。
望月 やはり、子供からの反応はうれしいですね。私も、毎回のように、授業の後で子供たちがかけ寄ってきて、「楽しかったよ」って言ってくれて、授業づくりをしてよかったな、と思いました。私の実習中には、運動会もあって、クラスの子供たちががんばって準備していたのを見ていたので、競技で優勝したときにはすごくうれしかったですね。
過酷さは透けて見えたが、どの仕事も続けていれば同じこと
──就職先として、実際に教育現場を見てどう思いましたか?
山口 実習の経験をしたからといって、学校の現場の教員と同じ生活をしていたわけではないという意識はもっていないといけないと思います。教育実習ではその授業やホームルームなど、その学級に関わる活動はしますが、実際の教員は、それ以外にも校務分掌の仕事とか、いろいろな仕事がありますよね。
ただ、私は早く帰るようにと言われていましたが、実習校によっては夜8時半まで指導教員についていた実習生もいたようなので、その人たちが感じたものとはまた違うかもしれません。
私は、授業づくりや授業をするのが楽しみなので、教員がよりよい授業づくりとか、子供との関わり合いに集中できるような環境になっていけばいいなと思います。個人的な価値観ではありますが、どの仕事も続けていったら大変な部分はあるし、楽しい部分ももちろんあると思うんです。だから就職先を考えるときに大切なのは、この先大変だなと感じても、続けられる何かがあるのかということなのではないかと。私は、教員なら続けられると思って、教員の仕事を選びました。
鈴木 山口さんの言うように、教育実習だけでは、現場を知り得ない部分が多かったと思います。教育実習は学校の先生の業務を同じようにするわけではなく、授業も数時間で、事務的な作業もしないので、自分が担当する数本の授業に集中できるという特異な環境です。これが実際、毎日、4、5コマあって、子供対応もして、さらに事務的な作業があって、となると、大変だろうと感じます。
あとは、教育実習生を見る指導教員の方が大変そうに見えました。普段、子供たちだけを見ればいいところに、私たち教育実習生の面倒もみる必要が出てくるので、受け入側の先生は大変なのだろうと思いました。
私は、教育系企業への就職を考えながら、教職免許取得のために教育実習に参加しましたが、参加する時点で、「教員になるつもりはない」と思っていたら、教職の自分に向いていない面ばかりが見えてきたと思います。子供への支援について体験として学べたことは、今後教育に関わる仕事をする上で必ず生きてくると思っています。
望月 わかります。私の指導教員の先生は教育実習全体の統括の先生でもあったのですが、ずっと忙しそうで、実習が終わる3日前ぐらいに、体調を崩されて学校を休んでしまったんです。でも私は、こうも思いました。「あんなにいつも忙しい先生が休んでも学校は回るんだ」と。私は、新卒では教職以外への就職を考えていますが、セカンドキャリアとして教員の道を考えていて、教職免許を取得するために教育実習を受けました。今回のことは、驚いたのですが、それと同時に、教員だっていざとなれば休めるんだという事実として強烈に印象に残りました。キャリア選択の上で、ちょっと安堵感にもつながりました。1人の先生に業務が集中しないようなチーム編成にできると良いのにと思いました。
──これから教育実習生を受け入れる学校側への提案やお願いはありますか?
山口 さきほども話しましたように、授業以外の教員の職務を体験できたらいいなと思います。例えば、職員会議の参加など、見学でもよいので、体験できるとよかったなと。
それから、可能であれば、自分がどの単元を何時間授業するのかを早めに知ることができれば、準備ができるので、助かりますね。実際、実習期間が始まってから、授業する単元が変わることもあり、苦労しましたので……。
鈴木 私の教育実習先は環境的に恵まれていたと思うので、自分の教育実習先みたいな学校が増えるといいと思います。特に良かったところは、基本的にまず肯定してくれるんですね。授業や子供対応について、まず認めてくれた上で、改善点を指摘してくれました。否定から入らないのが、受け入れやすくてありがたかったですね。そのような教育実習先が増えると、教育実習生もより気持ちよく授業できるのではないかと思います。
望月 教育実習校内で教育実習生が作った指導案をクラウド上で共有できるといいなと思います。いろいろな指導案が共有できるとレパートリーも増えて、指導案が作りやすいからです。私の友達の話なのですが、友達が教育実習期間中、指導教員の奥さんが出産間際の状態で、奥さんの出産に備えて毎日早く帰宅されていたこともあり、実習生があまり相談できる体制が整っていなかったということを聞きました。指導教員の負担を軽くするためにも、効率化できるところはしたり、2人で教育実習生を指導するなど支援体制が整っているとよいと思いました。
取材・文・構成/浅原孝子
いかがでしたか?
後編は、「EDUPEDIA」に掲載されています。ぜひ併せてお読みください。
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教育実習体験者座談会・後編「現実は多様!予定調和な模擬授業はやめよう」