異分母分数の加法を学習するよさは、たし算の原理原則を学ぶこと【「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法 #8】

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「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法

前回は5学年の学習で、商としての分数について新潟市立上所小学校の志田倫明先生に説明していただきました。今回は同じく5学年の学習で、分数の加法・減法の加法について解説をしていただきます。

数の範囲を拡張していくという考え方がとても重要

志田倫明教諭
新潟市立上所小学校の志田倫明教諭。

前回、商としての分数について学習する過程を通して、「これまで整数や小数で表していた数も、分数で表せるのかな?」と捉え直していく子供の姿について話をしました。これは大事な思考なのですが、捉え直すということで分数の加法、減法について話を進めたいと思います。

分数の加法、減法は5学年の学習で、学習指導要領には「異分母の分数の加法及び減法の計算ができること」「分数の意味や表現に着目し、計算の仕方を考えること」とあります。これは分数の学習でもあるのですが、どちらかと言えば、整数のたし算、ひき算から「小数でもできるのかな」、小数のたし算、ひき算から「小数でできたのだから、分数でもできるのかな?」と、数の範囲を拡張していくという考え方がとても重要なのです。そのため、実際の学習場面でも数の範囲を拡張してきた過程をふり返ることができるような授業を、私は行っています。

さて、実際の学習場面で説明していくことにしましょう。私が異分母分数のたし算で行った授業では、まず目盛りや数値のない状態で、入れ物に入っているジュースの図を2つ示し、2つのコップのジュースを合わせると全部の量はいくらになるか問います(資料1中央参照)。しかし、数値が分からないという話になりますから、「じゃあ、1年生が見たら、どれくらいの量って言うと思う?」と発問すると、「Bのほうが多いから、2Lと3Lくらいかな?」と言います。「2Lと3Lって、ずいぶん大きいコップだね~」という声も出ますが、AとBの量のバランスから2対3くらいの比率が多くの子供たちに見えるのです。そこから、2+3=5で5Lと計算をしていきます(資料1左側参照)。

(資料1)黒板中央が問題になっている図。左側に過去の学習について捉え直してきた過程が見える。

次に「きっと1年生より1年多く算数を学習してきた2年生が見たら、1年生とは違う反応をする子もいるよね。2年生が見たら、どれくらいの量って言うと思う?」と問うと、「2年生は位が大きくなるから、20dLと30dL」「20+30=50で50dL」となります。「では3年生はどうなるかな?」と問うと、「3年生は小数を勉強したから0.2Lと0.3Lでしょ」「0.2Lと0.3Lなら20dLと30dLになるからちょうどいい」という声も出てきて、「0.2+0.3=0.5で0.5L」となります。では「4年生では?」となると、同分母分数のたし算を学習していますから、「[MATH]\(\frac{2}{5}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{5}{5}\)[/MATH]=1」というようになっていきます。このように、数を各学年での学習に当てはめながらやっていくのです。

そこで、「じゃあ、みなさん、5年生の君たちはこれまでに見ていなかった見方だとどんなふうにできそうかな?」と投げかけます。そうすると子供たちから、「よく見てみると、Aは[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]くらいに見える」とか「Bは[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]くらいに見えるよ」といった意見が出てきます。そして、[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]を計算しようという話になるのですが、このときの子供たちは、1年~4年の計算に出てきた2と3という数にこだわって揃えようと考え、[MATH]\(\frac{2}{6}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]と立式しました。[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]でよかったのですが、[MATH]\(\frac{2}{6}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]でも問題の質としては変わらないので、それを認めて計算を考えていくことにしました。

たし算はいつも1つ分の単位を揃えると計算できる

この計算を考えていくときに、子供たちから、「そもそも(単位になる)[MATH]\(\frac{1}{6}\)[/MATH]と[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]は違うから、どうしたらいいのかな?」「[MATH]\(\frac{1}{6}\)[/MATH]が5つというのもおかしいし、[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]が5つというのもおかしい」という意見が出ます。分母と分子をそれぞれたす計算も出てきますが、「[MATH]\(\frac{2}{6}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{5}{10}\)[/MATH]だと、[MATH]\(\frac{5}{10}\)[/MATH]は[MATH]\(\frac{1}{2}\)[/MATH]で半分になっちゃうからおかしい」「[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]だけでも半分を超えているのに」と意見が続いていきます。ここで子供たちと確実に確認したいのは、「[MATH]\(\frac{1}{6}\)[/MATH]と[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]のように単位が異なるときはそのまま計算することができない」ということです。

「じゃあ、どうすればいいのかな?」と考えていったときに、「単位を揃えればいい」「分母を揃えればいいんだ」という意見が出てきます。そこで、「分母を揃えるって、どういうこと?」と問い返すと、「[MATH]\(\frac{4}{12}\)[/MATH]と[MATH]\(\frac{9}{12}\)[/MATH]に変身させればいい」と言います。この変身については、同単元の前半で学習していますので、変身させると「[MATH]\(\frac{4}{12}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{9}{12}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{13}{12}\)[/MATH]になる」となります。ここで改めて「なぜ、どちらも[MATH]\(\frac{○}{12}\)[/MATH]に変身させるの?」と通分の意味を問うことが大切です。すると子供は「[MATH]\(\frac{2}{6}\)[/MATH]と[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]を、[MATH]\(\frac{1}{12}\)[/MATH]が4つと[MATH]\(\frac{1}{12}\)[/MATH]が9つと見ている」「[MATH]\(\frac{1}{12}\)[/MATH]に単位を揃えるんだよ」と言います。そして「単位を揃えると計算できる」と言うのです。

そこで、「じゃあ、たし算の計算をするとき、今までもわざわざ単位を揃えることをやっていたの?」と問い返し、改めて前学年までのたし算の学習をふり返ってみます。そうすると、「20+30は、10が2つと10が3つで10が5つということだ」「0.2+0.3は、0.1が2つと0.1が3つで0.1が5つということだ」「[MATH]\(\frac{2}{5}\)[/MATH]+[MATH]\(\frac{3}{5}\)[/MATH]は、[MATH]\(\frac{1}{5}\)[/MATH]が2つと[MATH]\(\frac{1}{5}\)[/MATH]が3つで[MATH]\(\frac{1}{5}\)[/MATH]が5つということだ」と子供たちが気付いていきます。これは、異分母分数のたし算の計算の仕方を考えることによって得た「1つ分の単位を揃える」という視点で、これまでのたし算を捉え直した姿です。その結果、授業の最後には、「たし算はいつも1つ分の単位を揃えると計算できる」 ということがこの学習のまとめになると,子供たちが自ら発言したのです(資料2参照)。

(資料2)たし算について1学年からの学習を捉え直した後、ひき算について考えた授業のノート。

こうして授業を終えようとしたときに、1人の子供が「1年生の2+3はどこを揃えているの?」と疑問を投げかけてくれました。そこで、「1年生のこの計算はどこを揃えているんですか?」とクラスの子供たちに問います。すると「1」という声が複数上がりました。それによって、これまで当たり前のこととして意識してこなかったことを、改めて見直して統合することができたわけです。

整数や小数のときと、一見違って見える異分母分数も実は同じことをやっていたんだということが、このような比較対象があることで、より理解できる子供が増えてくると思います。この異分母分数の加法を学習するよさは、たし算は1つ分の単位を揃えるから計算できるという、たし算の原理原則を学ぶことで、そこに価値があるのです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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