新たな年度のスタートにチャレンジを! 【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #11】
不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第11回は、<新たな年度のスタートにチャレンジを!>です。
「パブリックの学校の最上位の目的」を全教職員で合意する
校長のたった一つの責任、それは「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことです。
このパブリックの学校の最上位の目的を全教職員で合意すること抜きに学校づくりは始められません。新年度がスタートする最初の日に、この最上位目的を全教職員で合意するのです。
この最上位目的に合意できない人は学校づくりのスタッフにはなれません。公務員としての当たり前の責務です。全教職員で合意すれば、あとはこの目的につながる手段であればどのような手段でもオッケーだと伝えます。
また、教員の特性として、わかっていても「熱心な無理解者」になってしまうことが誰にでもあることを共有し、最上位目的につながらない手段は、互いに自浄作用を高め合い、気づいた者が気づいたときに互いに「巻き戻し!」と伝え合うことを全教職員で確認します。どうしても「子どものために」と教員が主語の「指導」が抜けきれないのが現実だということをみんなで確かめ合うことも忘れてはいけないでしょう。
誰もが陥る教員としての行動を互いに伝え合える空気を、校長自ら発信し、さらに巻き戻してやり直す行動を発信することが、教職員の「巻き戻し」を学校の当たり前にしていけるのだと思います。
入学式がチャレンジの勝負
全教職員で最上位目標に合意したら、その次は入学式での校長の行動です。入学式は、保護者・地域の人・教職員が一堂に会するチャンスです。1年に一度しかないこの機会を最大限に活用するのです。
子どもの周りにいるすべての大人に、年度の初めに「このことだけは!」と大事にすることを教職員の前で教職員を代表して伝えるのです。そして、子どもの周りにいる大人のみんなでそのことを合意して、学校づくりをスタートさせます。
大空小では、9年間、二つの「このことだけは!」を伝え続けました。
「保護者」を「サポーター」に
一つ目は、これまでにも伝えてきましたが、保護者は家庭だけで、学校の中に保護者はいりません。家では子どもを守るのは保護者です。保護者が子どもを守らなければ誰も守ってくれません。
一方、学校には、自分の子どもの周りにたくさんの子どもがいます。自分の子どもが育ってほしいなら、自分の子どもの周りの子どもを育てに、自分から主体的に学校に来てください。学校には、困っている子どもはたくさんいることが当たり前です。その日、困っている子どもはみんな違います。困っている子どものそばにそっといてやれる大人がサポーターです。今日からみなさんは大空小のすべての子どものサポーターです、と伝えます。自分の子どもは「見ない・さわらない・しゃべらない」との暗黙の了解ができていました。
ある子どもが自分の母親が周りの子どもにかかわっている姿を見て、「大人って二重人格?」と質問してきたことがありました。自分と同じ失敗をした友だちに対して母は「大丈夫?」と優しく声をかけている。自分には怒るだけなのに、と言うのです。でも、優しく声をかけているのはだれ?と聞くと、自分の母だと言い、まんざらでもないなと思うそうです。これもwin&winです。自分の子どもの周りの環境が豊かになれば、自分の子どもは育っていることを伝えると、サポーターたちは納得するようです。学校から配付する手紙やお知らせなどはすべて「サポーターのみなさん」と書きます。徹底して学校の中から「保護者」の言葉を捨てるのです。
「できるときに できる人が 無理なく 楽しく」の合言葉がサポーターたちの中で広がります。学校が依頼したり、当番を決めたりするのではなく、サポーターの主体的な行動が持続可能な学校づくりにつながります。コロナ禍で学校を閉鎖的な環境にしてしまっている現状に風穴を開け、サポーターがどんどん入ってくる「地域の学校」に戻すことが優先される今です。
「文句」を「意見」に変える
二つ目は、「一切の文句は受け付けない」と言い切ります。子どもが学ぶ学校に大人が文句を言って、悪しき環境をつくることだけはやめようと伝えます。ただ、「文句」は社会を変える原動力です。だからこそ「文句」を「意見」に変えるのです。どれだけ耳の痛い意見でも、意見にはその人の主体的な行動が伴います。つまり、学校をつくる当事者になるということです。子どもの周りにいる大人が文句を意見に変えて当事者として学校をつくる行動を子どもに見せましょうと9年間言い続けました。
学校をつくる当事者に
地域の宝が学ぶ地域の学校を大人のみんなで育みましょう。学びとは人を変えることではなく、自分が変わることです。
サポーターとして文句を意見に変える大人の行動を子どもたちは見ています。
自分の子どもにはうまくかかわれないのが親の当たり前です。でも、よその子へのかかわりは、みんな絶妙な味を出し合うのです。この多様な大人の行動が、学校の環境を豊かにつくるのです。
多様な個性をもつ子ども同士が学び合える学校は、多様な空気が充満していなければ子どもが空気を吸えないですよね。
校長先生方、ぜひ、入学式にチャレンジを!
1 新年度の最初の日に、まずは「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」という最上位の目的に全教職員が合意することから始めよう
2 入学式は校長が子どもの周りにいる大人たちにメッセージを伝えるチャンス
3 保護者をすべての子どものサポーターに
4 保護者の文句を意見に変え、学校をつくる当事者になってもらおう
木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。