子供たちの忘れ物を減らす具体的で効果的な指導法
忘れ物の指導に悩んでいる先生や保護者の方は多いのではないでしょうか。うまくいかない理由は、忘れ物の原因を追求しようとする姿勢にあるのかもしれません。相手の事情を理解し、忘れ物という問題を解決するための【探究活動】だと思って指導に取り組んでみると、学級全体にもよい影響がありますよ。
執筆/東京都公立小学校教諭・松原夢人
目次
「なんで忘れたの?」と言われても……
忘れ物の多い子供に対して、どのような指導をしていますか?
- 「なんで忘れたの?」「いつになったら持ってくるの?」「お家の人に連絡するからね!」などと言って、強い口調で注意する
- 忘れ物をした子供の名前を黒板に書いたり、チェック表を掲示したりする
- 「忘れ物をする人が多いので宿題を増やします」と連帯責任をとらせる
などの指導をしている人もいるかもしれません。
このような指導をして一時的には改善されたとしても、長期的には忘れ物が減る効果は感じられないのではないでしょうか。学級の子供たちを追い詰め、苦しめることは避けなくてはなりません。
では、子供たちの忘れ物を減らすためには、どうすればよいのでしょうか?
原因の追求から問題解決の探求へシフト
子供たちが学習で使う物を学校に持ってくるために、教員は連絡帳で伝えたり、メール配信で知らせたり、学年便り(学級便り)に記載したりしているでしょう。
しかし、購入して用意したり、子供にランドセルや手さげ袋に入れさせるところまでは直接指導はできないため、保護者に一任しなければならないところがあります。
だからこそ、保護者との連絡を密に取ることが重要ですが、上手く機能しないこともあるでしょう。
保護者も仕事や育児などで余裕がなく、子供の持ち物まで目が行き届かないことも多いものです。毎日、連絡帳を読んだり、子供に学習内容や持ち物について話したりできればよいのですが、その時間さえ取れない状況であることも考えられます。
「どうして忘れ物をするのか?」という原因を見つけても排除できないのであれば、「子供が忘れ物をしなくなる方法は何か?」と解決方法を探す方向へシフトする必要があります。
子供だって忘れ物をするのはイヤ!
子供は忘れ物をしたくて、持ち物を忘れるわけではありません。
本当は学校に持ってきたかったのに、何らかの事情で持っていけなかったのです。
連絡帳に書いたのに見落としてしまったり、保護者が買うのを忘れてしまったり、机の上に置いて準備していたのにランドセルに入れるのを忘れてしまったりと、様々な事情が考えられるでしょう。
忘れ物をして落ち込んでいるところに、追い打ちをかけるように叱ってしまうと、子供がますます萎縮・落胆してしまいます。
「自分はなぜ忘れ物をしてしまったのだろう?」と自己嫌悪に陥ったり、授業に集中できなくなったりしてしまうことになりかねません。
自己肯定感が低下する恐れもあります。
また、叱り続けていると、忘れ物をしない理由が「自分が困るから」ではなく「叱られるのが怖いから」へと変わり、自分が忘れ物をしたことをバレないように隠そうとします。
例えば、算数のノートを忘れたのに、黙って他の教科のノートや自由帳にこっそり書くのは、その傾向が出てきているサインだと言えるでしょう。
忘れ物をしたことを隠そうとする行動をとるのではなく、忘れ物をした時に何をすべきか考えて実行できるようになることが重要です。
忘れ物をした時に何をすべきか行動を促す
忘れ物をしたときは、子供が自ら、困っていることを伝え、相手にどうしてほしいのか意思表示ができるようになることが大切です。
先生、定規を忘れてしまいました。貸してください
と子供が言ってきたら、
きちんと報告してくれてありがとう。今日はこれを貸しますね。明日は持ってきてください
と返答するだけで十分です。
忘れ物の対応ができるように、あらかじめ教員は鉛筆、消しゴム、定規、ノートの代わりになる紙などをいくつか用意しておきましょう。
「忘れ物をした時のための物を用意しておくと、子供たちが甘えるのではないか?」というご指摘があるかもしれません。
しかし、前述した通り、子供たちは忘れ物をしたくて持ち物を忘れるわけではありません。
子供たちの発達段階や特性を考えて、貸すことができる用具をある程度確保しておくことが、教員の適切な支援と言えます。
また、全ての子供たちが必要な用具を使用できることで、授業がスムーズに進行し、学習の途切れを最小限に抑えることができます。
さらに、教員が子供のミスをフォローすることで、教員と子供との信頼関係が強化され、子供たちは安心して学習に臨むことができるようになります。
物を借りる時や返す時に、「ありがとうございます(した)。明日は必ず持ってきます」と感謝の気持ちを伝えたり、次にすべき行動を明確に伝えられるようになったりすることも望ましいでしょう。
次の日になったら、教員は子供が持ち物を持ってきたかどうか確認し、「ちゃんと持ってきましたね」と価値付けすることも大切です。
早めに持ち物の連絡をする
例えば、習字道具などは月に1〜2回程度しか使用しません。教室に習字道具を常備させておきたくても、サイズが大きいためスペースを考えると難しいですし、家に帰ってから習字道具を洗ってもらう必要がありますから、家で保管するのがよいでしょう。
では、どうすれば習字道具を忘れないようになるでしょうか?
まずできることは、習字の授業をする前日ではなく、少なくとも1〜2週間前から、連絡帳やメール配信で子供と保護者に伝えることです。また、あらかじめ学年便り(学級便り)で、翌月の習字の授業がある日を連絡しておくこともよいでしょう。
そして、習字道具を持ってきた子供を一人一人チェックしていきます。
こうすることで、まだ習字道具を持ってきていない子供を把握することができますし、発達段階や特性に応じて、子供に声をかけたり、保護者に電話などで呼びかけたりすることができます。
この方法は習字道具に限らず、様々な用具を学校に持ってくることの手立てになります。子供たちや保護者が見通しをもって学習の用意ができるようになるために有効な方法です。
忘れ物をほとんどしない友達の行動を共有する
忘れ物をしてしまう子供の中には、「どうして他の人は忘れ物をしないで、きちんと学校に持って来ることができるのだろう?」と疑問に思っているかもしれません。
そこで、忘れ物をほとんどしない友達の行動を、学級全体で共有するのもよいアイデアです。
教員から「忘れ物をしない人は、持ち物の準備をどのようにしていますか?」と学級全体に問いかけ、子供たちの行動を引き出しましょう。
私の知る限りでは、
- 家に帰ったら、すぐに明日の持ち物の準備をする
- 保護者に明日の持ち物を伝えて、次の朝にも声をかけてもらう
- 玄関のところに、持ち物を全部置いておく
- 連絡帳に書いてある持ち物に丸をつけてチェックする
- 持ち物を保護者と一緒に確認する
- 目立つところに、持ち物を書いた紙を貼っておく
- 連絡帳に保護者のサイン(押印)をもらう
- 「忘れ物をしなかった日」をカレンダーに書く
- 友達と遊んで帰る時にお互いに明日の持ち物を確認する
- 寝る前と朝起きた時の2回、持ち物を確認する
があります。
持ち物を忘れないようにするこのような工夫を知り、その行動を真似しようとする子供が出てきます。また、学級全体として忘れ物をしないようにする意識が高まるので、非常に効果が高く、おすすめですよ。
子供の行動から答えを導き出す
子供の忘れ物を減らす解決方法として、教員ができることは何か? それは、子供の行動を観察し、分析して、解決方法を提案することです。
例えば、
- 連絡帳を乱雑に書いていて読めないのであれば、書き方を教える
- 机やロッカーの整理をしていないのであれば、整理の仕方を教える
- 朝慌てて持ち物の支度をしているのであれば、帰宅直後や寝る前に支度をするよう助言する
- 持ち物を確認するのを忘れる傾向があれば、帰る前に復唱させる
- 宿題が終わった後、そのまま机の上に置いてしまっている場合は、「ランドセルの中にしまって学校に持ってくるまでが宿題だよ」と教える
- 部屋が乱雑な状態なら、毎日持っていくものは決まった場所に置くように助言する
- 使う用具を早く学校に持ってきた子供を褒める
- 全員の持ち物が揃った場合は、学級便りや学年便り、保護者会などで保護者に感謝の思いを伝える
- 忘れ物をしない(持ち物を持ってくる)という目標を子供自身で立てるように促す
- 連絡帳に書いてあることを見落としてしまう場合は、□の欄を書いてチェックリストのような欄を作り、ランドセルに入れたらチェックをするように促す
などがあります。
子供自身に何ができるのか、そして教員も子供のために何ができるのかを考えて、丁寧に指導していきましょう。
イラスト/横井智美