「つながり負債」抱えていませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #63】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第63回は、<「つながり負債」抱えていませんか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

慢性的なつながり不足

今年も学校改善に関わらせていただいておりますが、そこで気付かされるのは、子どもたちがなかなかつながらない現状に悩む教室が少なからずあるということです。現状を見たりお話をうかがったりしているなかでだんだんわかってきたことは、子どもたちがつながらない現実は、ちょっとやそっと叩いても割れない岩盤のような強固な状態であるということです。先生方は子どもたちをつなげたいのです。だからこそ課題となっているわけですが、以前のように仲間づくりの活動をしても、グループワークをしてもなかなか思ったように成果が上がらないというのです。そうした活動を明確に忌避するような子どもたちもいるようです。その要因の一つとしてやはりコロナ禍が挙げられるのかもしれません。コロナ禍による社会的な交流制限は、学校の教育活動や私たちのマインドに大きな影響を及ぼしました。人とかかわること、つながることに対して無条件でそれを「是」とするマインドを変えました。そうした影響は子どもたちにも及んでいることでしょう。

しかし、一方で、このコロナ禍においても「強(したた)かに」子どもたちのつながりを育ててきた学校もあります。2023年11月22日に「みんなの教育技術」で配信された、「今こそ、学校全体で『学級経営』を!」という特集において紹介された
>尾道市立栗原北小学校
>上越市立春日新田小学校
の実践はその好例と言えるでしょう。両校は共に、子どもたちにとって安心して学べる環境は良好な関係性にありと考えて、学校体制で学級経営、教師と子ども、子ども同士の人間関係づくりに取り組んできました。交流活動の制限下でも、形式的に子ども同士のかかわりを制限することなく、教育委員会等、保護者等と折り合いを付けながらルールを守ってできることをやってきました。新型コロナウイルスの流行といった目先の状況に振り回されるのではなく、学校課題を見据えた戦略的な学校経営だと感銘を受けました。

あちこちで相談を受けながら思うのは、今、関係性に起因する大きな問題を抱えずに済んでいる学校は、コロナ禍においても教室における人間関係形成をあの手この手でやってきた学校ではないかと見ています。その一方で、この3年間、あまりそこにコストをかけてこなかった学校は、学級経営上の不具合が少し大きく出てしまっているようです。そうした状態を、私は「つながり負債」と呼んでみました。

近年、日本人の睡眠不足が話題となり、睡眠負債という言葉が知られるようになりました。睡眠負債とは、慢性的な睡眠不足の状態が継続し、その負担が蓄積されることにより、心身に支障を来してしまっている状態のことです。睡眠負債を抱え続けると、食欲不振や胃腸障害、風邪をひきやすいといった身体の不調だけでなく、疲労感、無気力、攻撃性の高まりなど精神面もダメージを受け、それが常態化してしまうと言われています。他者への労りや思いやる行動は、私たちのモチベーションや主観的な幸福度と深いかかわりが指摘されていますので、かかわりが減ってくると、助け合いが減り、幸福感が低下してきます。これは当然教室においても同様のことが言えるでしょう。慢性的なつながり不足により、教室内の思いやりや助け合いが減り、ギスギスした不機嫌な状態となり、人間関係に起因するトラブルが発生しやすくなるでしょう。もし、読者のみなさんの学校の子どもたちが、どうも元気がない、なんとなくイライラしている、つながりにくい、いつもの年よりも荒れていると感じたら、「つながり負債」を抱えていないかチェックしてみてはいかがでしょうか。

「つながり負債」への挑戦

「つながり負債」の状況は教室だけではありません。これは職員室でも起こり得ます。ある校長先生からお聞きしたお話です。詳細は記載できないので不明確な部分がありますが、足りないところは想像しながらお読みいただけるとありがたいです。

その校長先生をA校長としましょう。A校長がその学校に赴任すると、うまくいっていないクラスが多くあるように感じました。ただ、比較的大きな学校なので、課題を抱えるクラスもそれだけ多いことは納得できました。校長がそれ以上に課題だと感じたのは、学級担任の先生方が、学級経営に消極的なことでした。教師との関係やいじめなどの子ども同士の問題が起こると、一部の生徒指導の実力がある職員に解決を依頼していたとのことです。その先生をB先生とします。B先生は実力があるのでその多くの課題にしっかりと対応してきたようですが、コロナ禍制限下を含む数年間、それが繰り返され、定着し、困ったらその先生を頼ることがシステム化してしまったようです。

その結果、学年主任も各学級担任もすっかり問題発見、解決方法の考案、実施といった一連の対応ができなくなってしまい、大きなことは勿論、小さな問題でもB先生を頼るようになっていました。B先生は面倒見がよく、生徒指導の実力がありますから、当然と言えば当然であり、しかも、先生方はみんなよかれと思って動いているわけですから、誰もそこに違和感を持たなかったのかもしれません。しかし、生徒指導などのトラブル対応を、一部の職員に依存することの危険性を察知したA校長は、B先生の実力を認めた上である依頼をします。今までB先生が一人でやり暗黙知としてきたことを明文化し、役割分担をして再構築して、組織で動けるようにしてほしいと。B先生にしても、公務員の宿命として異動があります。当然、自分が異動した後のことを考えていなかったわけがありません。B先生は、校長の依頼に誠実に応じて、組織体制をつくりました。

今までB先生に頼っていた多くの職員は、最初は面食らいました。やったことがないから動けないのです。しかし、A校長は毎日のように丁寧に丁寧に、そして笑顔で指導を重ねて動けるようにしているそうです。

明確な組織表があってもなぜ動けないのでしょうか。「これまでの課題と成果を検証することなく、安易になんでも削ってきたこと、そして、その過程において職員同士のコミュニケーションの機会もなくしてしまったこと」とA校長は言い切ります。子ども同士の「つながり負債」の水面下で、職員同士の「つながり負債」を抱えていたのです。

A校長の学校改革はまだ、緒に就いたばかりです。「つながり負債」を返すには、日常的なつながりの形成が必要です。A校長は、学級経営に全校体制で取り組むことによってそこに改善の手を打とうとしています。学級経営に自信を失い気味の先生方をどう勇気づけ鼓舞するか、A校長の取組に注目しています。


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会、共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。


学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

学校経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました