絶対にできる! 小学校をホワイト職場に!~月間残業時間26時間への挑戦~
昨今教師のなり手が減り、教育活動が円滑に回っていない自治体や学校がたくさんあることが、頻繁にニュースで流れてきます。この危機的な状況は、現場の先生方も身をもって感じておられることでしょう。教職を目指す大学生と話すとき、度々耳にするのは「学校はブラック職場だ」とのイメージであり、それが社会全般に浸透していることにも間違いありません。この状況を打開し、若い志望者を増やすためには、やはり「働きやすく魅力ある職場づくり」に取り組むしかありません。学校のホワイト職場化を目指すためのチャレンジ、ぜひ皆さんも考えてみませんか?
【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #14
目次
月の平均残業時間26時間を達成
新型コロナウイルス感染症の3年間は、「教育の本質」が各学校に問われ続けた時期でした。これと同じ頃、文部科学省の「#教師のバトン」プロジェクトが大炎上しました。学校現場の先生たちから、仕事の魅力よりも過酷さの声が上回り、社会現象になったほどでした。そこで生まれたのが「教師はブラック」という言葉です。ここから大きく「働き方改革」も叫ばれ始めたのです。これをきっかけに、多くの自治体や学校は、働き方改革に取り組んできました。
私の学校では「働き方改革は『笑顔づくり』」をテーマに、教職員が笑顔で子どもたちの前に立つことができるように様々な改善・改革を試みてきました。その結果、令和4年度の「1年間の平均超過勤務時間は26時間」になりました。ちなみに県が掲げていた目標は45時間であり、これを大幅に下回って、市内の小学校で堂々の1位となりました。
なぜ、26時間にすることができたのか、8つの視点から分析してみましょう。
⑴ 教員全体の会議は毎週1回30分
職場づくりで最も大切なのは「連帯感」であり、仲間意識です。
それはどのようにして醸成されるのか。職場のそれぞれの人が、その人の立場と役割をしっかりと把握し、集団の中で思う存分、役割をこなしていけることによります。そのためには、余計な負担を強いないことが重要だと思います。その出発点として、それぞれの人が自分の役割に集中するため、管理職は共有すべき情報の取捨選択をしっかり行うべきだ考えました。
教員にとって、子どもたちの情報以上に大切な情報などありません。そこで、これだけを職員全体の最優先共有事項と捉えました。
そして、毎週1回、月曜日の放課後に全員会議を行い、気になる子どもたちの情報交換を行います。
これに、その週の学校経営上の流れなど全体に関わる話を付け加え、30分程度で会議を終了します。
その他の会議は、必要に応じて最低限の構成メンバーで行います。メンバーの選定は主任や教頭など、現場をまとめる役割の人に頼みます。例えば若手の先生が主任に打ち合わせを相談し、主任がメンバーを決めて招集する、という流れですね。
このように会議を簡素化し、情報の優先度をはっきりとつけることで、全員がそれぞれの立場で必要な情報や大切にすべき情報の優先度をつけることができ、職責への選択的な集中が図れるとともに、仕事を自分事として感じられるようになって、職場の一員・仲間意識という心理的安全性が担保されていきます。
⑵ 提案資料は簡素化する。例えば、学習指導案をA4サイズ1枚に集約する
職員会議の提案資料は可能な限りA4サイズ1枚から2枚程度に簡潔に、要点だけをまとめてもらいます。会議時の質問や追加説明などで、必要とあらば情報を補います。
学習指導案も、A4表裏1枚を原則とします。他校の授業研究会に参観に行くと、学習指導案が相当数のものもあり、授業者の負担はいかばかりかと想像してしまいます。授業研究会は、日頃の授業の延長線上にあるのが筋で特別ではありません。日々の授業でも作成できる程度の学習指導案が、価値があるのです。授業は、その時間、そして、子どもの姿で見せることこそが、本来のあるべき姿です。
⑶ ICTの活用と資料の共有化
ICT機器が子どもたち全員に行き渡ったことで、「情報化時代の授業改善」が求められています。
例えば、本校では国語の授業で教材文を1枚シートにして授業を展開しています。教材文を子どもたちが俯瞰的に捉えることができ、思考が整理しやすくなるからです。これをそれぞれの学年で作成しておくと、次年度は、次の担当者がその教材を使用することができます。こうして様々な教材が蓄積でき、授業準備が省力化され、さらなる効率化へと繋がっていきます。
ICT機器のもつ「学習課題の相互通信」、「子どもの意見の集約」、「映像の活用」、「世界や遠隔地との交流」、「教材の共有化」等のメリットを、省力化と授業改善という視点から捉えていきましょう。
⑷ 遠隔ツールの積極的な活用で出張の削減を
コロナ禍を経て出張も様変わりしています。研修や会議などを遠隔ツールで対応する自治体も増えてきましたし、学校の授業研究発表会でさえ遠隔ツールのみで発信しているところもあります。全国から誰でも気軽に授業研究発表会に参加できることは、大きなメリットでもありますね。
遠隔ツールを出張がわりにすることによって、授業を自習にしなくて済み、子どもたちと触れ合う時間が増えます。出張旅費も浮きますし、交通事故も避けられます。先生たちの負担感も減り、疲労の軽減と健康維持につながります。何よりも教材研究の時間や、学級事務の時間が確保されるのがメリットです。出張は目的に応じて、型を使い分けていくことが大事です。これは主催者の意識改革が必要ですね。
⑸ トラブルはチーム対応
トラブル対応は管理職を核として進めるのが効率的です。それも可能な限り、勤務時間内に解決したいものです。担任の先生は終日授業をしており、トラブル対応を任せると放課後にならざるを得なくなります。これでは、勤務時間外にも心身をすり減らせと言っているようなものです。
いじめ、不登校、保護者からの相談事等様々なトラブル対応は、管理職など授業をもたない教職員チームで午前中に対応します。もちろん、担任とは密に情報を共有します。組織対応で早期に解決を図るわけです。
トラブルは起きて当たり前、誰もがつまずいて当たり前です。すなわち、管理職もそれに対処して当たり前です。問題が解決したら、小言などは一切なしです。若い先生たちには、授業、学級づくりに集中してほしいと考えています。そして先輩の背中を見ながら自分でも少しずつ経験を積んで、トラブル対応の仕方を学んでいくのです。
⑹ 温かいコミュニケーション
どんなに勤務時間外の仕事が減少しても、職場環境がギスギスしていたら、心が疲れてモチベーションが下がってしまいます。そのためには、みんなで相談できる、おしゃべりできる、笑うことができる雰囲気がとても大事です。若い先生が、誰にでも気軽に相談できる空気感をつくれたらいいですね。
そこで、わたしが心掛けたのは、朝夕の大きな声での挨拶です。
朝は、元気かどうかを気にかけます。一日の終わりには、「皆さん、今日はお疲れ様です。お先に失礼します。ほどほどでお帰りくださいね……」と労いと挨拶をして校門を出ます。
授業参観では教頭とさまざまな情報交換をしながら、教室を巡ります。行く先々で授業の「魅力」や、子どもたちの「良さ」を見付け、覚えておきます。
そして、昼休みや放課後に先生たちが職員室に戻ってきたら、まずは、その「魅力」や「良さ」を褒めます。ここから話題をつくり、近くの先生たちに話題を広げていきます。ここに温かい笑顔のコミュニケーションが生まれるのです。これを日常的に繰り返します。すると、いつの間にか笑顔溢れる職場になっています。
⑺校務分掌にも心配りを
校務分掌でそれぞれの教員が負担を強く感じるのは、例えば、運動会の種目準備を一人でやるときなど、分担ができないときです。特に未経験の仕事内容であれば、段取りを組むこともできず、全てが手探りの状態になります。これを少しでも軽減してあげましょう。「手伝おうか?」「いいですよ。手伝います」「やりますよ」と進んで関係性をもってあげ、具体的に行動してあげることで、心理的つながりがつくれ、安心感が醸成されていきます。若手や頑張り屋の人は、なかなか自分から支援を仰ぎにくいものです。何気ない言葉で手を差し伸べることが、人と人を繋いでいくのです。
⑻ 教育課程を学習指導要領の原理原則に戻して、再構築する
学校はビルドが得意ですが、スクラップは苦手と言われます。過去、その時々で実施された施策が後年残り、それが教育課程の時間的な増加や教員の負担増に繋がっていくことも多いのではないかと思います。
そこで、管理職は時には、自校の教育課程を、学習指導要領の原理原則に則って見直す必要があると言えます。
例えば、本校では令和元年度まで、7時50分から朝の校庭ランニングを実施していました。子どもたちは7時40分頃には登校班で登校して準備をし、先生たちも準備のために7時30分頃にはほぼ全員が出勤していたのです。
しかし、コロナ禍となった令和2年度には、安全安心を優先して登校は8時に切り換え、朝のランニングを廃止しました。新型コロナウイルス感染症が、教育課程を見直すきっかけをくれたのです。
さらに、令和4年11月8日には、PTA本部の合意を得ながら、下校時刻をこれまでの15時35分から15時10分にしました。
この教育課程のスリム化により、教職員は教材研究や学級事務の時間をさらに得ることができました。
おわりに
ある教師志望の学生さんは、私にこんなことを言いました。
「私は教員になり、恋愛もして、家庭をもって、人生を楽しみたいのです。教員はブラックだと聞きますが、この願いは叶いますか?」と。
そのまっすぐな瞳で、いつまでも子どもたちを見つめ、自分の将来も見つめていてほしい。教師は子どもと共に成長することができ、幸せを感じることができる仕事だと、この仕事に就いて本当に良かったと思えるようになってほしいと、私は願ってやみません。
皆さんの学校はいかがですか。教職員の笑顔が、若者たちに安心感を与え、働き甲斐につながっていきます。そして、子どもたちの笑顔には、ベテランの経験と若い力が必要です。学生たちが学校を訪ねたとき、教職員が笑顔で働いている姿を見せてください。それが、成り手の増加につながっていく一番の方法だと思うのです。笑顔は学生たちを招くのです。
イラスト/坂齊諒一
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<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
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