小6外国語:子ども自身のリフレクションで深い学びを生む工夫
凄腕実践者・加藤拓由先生が、「子供自身のリフレクション」により深い学びが生まれる条件について考察。さらに、英語の授業実践例の中で、実際に機能させるための様々な工夫や仕掛けを具体的に提案します。
執筆/愛知県公立小学校・加藤拓由
目次
【1】深い学びを促すための子供自身のリフレクション
「評価」とは何か? を一言で極めて粗く表現するとすれば、「ものさし」と言えるのではないでしょうか。では、ものさしをイメージしてみてください。おそらく、算数の授業で使われる竹製の定規のようなものを思い浮かべる方が多いと思います。
では、私たちが「評価」しようとする、子供たちの「学び」は、どんな形をしていますか?
細長い三角形や楕円形、中には凸凹した形など、いろいろな形状の学びが存在するはずです。それら個性豊かな子供たちの学びを、教師が持っている一本のまっすぐなものさしで測定することが適切でしょうか。
もう一つ質問します。
ものさしは本来、誰が何のために使いますか?
もちろん、教師の指導の効果測定を目的として使う評価も、大切なものさしの一つです。一方で、一人一人学びの形に合った多様な形のものさしを、子供たちに与えてみたらどうでしょうか。子供たちは、自分の形に合った形状のものさしを使い「あっ、ぼくはこれだけ成長した」とか「私は次にこの部分を伸ばしたいな」というように、自らの学びを振り返ることができ、評価が次なる学びを促す手掛かりになるはずです。
教育課程企画特別部会の論点整理では、評価の在り方について、次のように述べています。
子供たち一人一人が、前の学びからどのように成長しているか、より深い学びに向かっているかどうかを捉えていくことが必要である
それでは、小学校外国語科において、子供たち一人一人が、自分の学びを振り返るための「ものさし」にはどんなものがあるのでしょうか。
今回はCan Do評価尺度を用いたリフレクションの方法と、『We Can! 2』の授業づくりについて紹介します。なお、Can Do評価尺度の詳細について、ここでは述べることはできませんが、興味のある方は小学校英語評価研究会が作成した『小学校Can Do評価尺度活用マニュアル』をご参照ください。
【2】Unit8「What do you want to be?」における授業設計とリフレクション
Unit8 の「将来の夢・職業」では、将来就きたい職業やしたいこと、その理由などを伝え合います。また、将来の夢について簡単な語句や基本的な表現で書かれた英語を推測しながら読んだり、例を参考に語と語の区切りに注意しながら書いたりすることを単元の目標としています。
Can Do評価尺度は、これらの学習のゴールに到達するために、実際の言語の使用場面で、英語を使ってどんなことができるようになるかを具体的に記述したものです。
Can Do評価は、学習のゴールから遡って、各授業での具体的な活動内容や評価基準を考える「逆向き設計」を行うのが特徴です。到達目標から授業を逆向きに考えることで、指導と評価の一体化が行いやすいと言われています。
具体的な例で考えてみましょう。
このUnit8 第5時の目標は「就きたい職業について、理由を含め伝え合う」ことです。文部科学省の指導案では具体的な活動例の一つとして、Activityが設定されています。また、その評価方法として、「行動観察と振り返りカードの点検」が挙げられています。
教師用指導書を見ると、「活動の意欲を高めるためにクラスで人気の高い職業ベスト3を予測してからインタビューさせたり、その仕事を選んだ理由や、聞いた感想などを紹介し合い、対話を続けることの大切さや楽しさを子供たちに体験させたりする」としています。しかし、これだけではまだ、活動のねらいがはっきりしておらず、評価の方法や基準もあいまいです。そこでCan Do評価尺度を利用した実践例を提案します。ここでは、先に紹介した、小学校英語評価研究会が作成した『小学校CanDo評価尺度活用マニュアル』~We Can! &Let’s Try! Can Doリスト試案~を参考にしました。
ア.本時の目標をより具体的にする
第5時の目標は「就きたい職業について、理由を含め伝え合う」ですが、これをもう少し具体的な表現にしてみましょう。「就きたい職業に理由をいくつか付け加えて言うことができる」
理由をいくつか付け加えるという具体的な記述を付け加えたことで、達成すべき評価規準が明瞭になります。
イ.活動ベースで評価の規準を具体化する
Can Do評価は「できる」と「できない」の2項対立ではなく、「できつつある」途中の成長段階を肯定的に捉え、「前より成長している」という子供の自己有能感を重視します。これにより、子供は次の学習への見通しを持ち、自律的な学習者に成長することができるのです。
では、「できつつある」成長段階をどのような評価規準にしていくのでしょうか。ここではアで具体化した評価規準を、さらに詳しく、下記のような4段階の段階的能力記述に落とし込んでいきます。
●「就きたい職業に理由をいくつか付け加えて言うことができる」
①就きたい職業を言うことはまだ難しい。
②教科書の例を参考にすれば、就きたい職業に理由を1つ付け加えて言うことができる。
③何も見なくても、就きたい職業に理由を1つ以上付け加えて言うことができる。
④就きたい職業に理由を1つ以上付け加えて言い、相手の理由に感想を返すことができる。
●印の「」部分は、上記のアで具体化した本時の目標であり、達成すべき評価規準です。①~④はより詳細で段階的な能力記述です。①は「自信がなく、まだ難しい」という段階。Can Do評価では「できない」のではなく、「できつつある」成長段階を大切にするため「まだ難しい」としています。②は、自信がない子供でも、補助的な足場掛けがあればできる段階。ここでの足場掛けは教科書の例を参考にすることです。③はほとんどの子供が十全に参加していれば達成可能な到達目標。そして、④は自信のある子供を飽きさせないための、少し上の挑戦的課題です。
【3】対話的な学びを重視した授業実践とリフレクションの活用法
さらに具体的な授業場面でCan Do評価尺度と授業づくりについて見ていきましょう。Unit8の指導案では、第5時までに次のように単元の中心となる活動が計画されています。
<第1時>ポインティング・ゲーム
教師の言う職業の語彙をペアで指さす。また、教師の言うヒントを聞いて、職業名を当てる。
<第2時>先生の夢を知ろう
教師のなりたかった職業やこれからやってみたい職業、その理由を英語で聞く。
<第3時>Let’s Talk
資料映像や先生の夢の話を参考にして、将来の夢やその理由についてやり取りする。
<第4時>3ヒントカルタ
教師が、ある職業に就きたい理由を、「I like ~ .」「I can ~ .」「I am good at ~ .」と3パターンで言う。子供はそれに該当する職業カルタを取る。
<第5時>Activity
ペアになって、将来どんな職業に就きたいのか尋ね合う。分かったことを紙面に記入する。
この他にも、Let’s Watch & ThinkやLet’s Listenなどで、なりたい職業とその理由の言い方については、モデルとなる例文をたくさん聞いて慣れ親しむように計画されています。ここまでの活動を十分に行っていれば、先に示したCan Do評価尺度の②「教科書の例を参考にすれば、就きたい職業に理由を1つ付け加えて言うことができる」の段階は、ほとんどの子供が「できそうだ」と自己評価できるのではないかと思われます。では、Can Do評価尺度の③や④の段階まで子供の学びを深めるには、どのような活動を行えばよいのでしょうか。
就きたい職業と、その理由を考える活動例
この活動で子供のつまずきが予想されるのは、「就きたい職業が思い浮かばない」とか「その職業を選んだ理由が見つからない」ということではないでしょうか。この課題を解決するのは、外国語の授業だけでは限界があります。そこで、キャリア教育的な視点から学級活動などの時間を活用し、子供の思考を深掘りします。「なくなる仕事・なくならない仕事」
黒板に次のような仕事の一覧表を貼り、子供に問います。「この仕事の中に10年後なくなる仕事があると言われます。どれだと思いますか。理由も考えましょう」
①バスの運転手
②犬の訓練士
③パン職人
④保育士
⑤スポーツの審判
⑥漫画家
⑦コンビニ店員
⑧獣医
⑨ネイリスト
⑩小中学校教員
(クラスの実態に合わせ調整)
これらの仕事の中には、子供たちに人気の高い仕事も入っているので、子供たちは一生懸命にグループで議論します。
「審判は、そのスポーツをやっている人にしかできないから、なくならないと思います」「やっぱり、ネイルが好きな女子は多いので、ネイリストは将来もなくなりません」
しばらく議論をした後で、現在、公表されている一説として結果を紹介します。この表では奇数番号がなくなる仕事の例として挙げられています(Frey and Osborne 論文 「雇用の未来」より)。
子供は自分が就きたいと思っていた職業がリストに入っているので驚きます。そこでさらに次のように言います。
これらの仕事はAI(人工知能)によって置き換えられると言われます。では、AIに置き換えられないようにするには、どうしたらいいと思いますか
子供たちは、その仕事がなくならないために、どんな要素が大切なのかを考え始めます。
バスの運転手さんは、お年寄りがたくさん乗る時間は特に優しく走るといいと思うよ
パン屋さんは、どんなパンが食べたいか、人にインタビューするといいんじゃない
このように学級活動の時間に子供の思考を深堀りしておき、外国語活動の授業で「就きたい職業とその理由」を英語で表現させます。
例えば、バスの運転手になりたい子供は、
I want to be a bus driver. I want to help old people. I want to be a kind driver.
などの理由を付けて言うことができます。また、パン職人になりたい子供は、
I want to be a baker.I want to interview people and make new bread.
のように英語で表現できるようになるはずです。小学校高学年の子供は、高い知的好奇心や探究心を持っています。しかし、小学校英語の語彙や表現で表せる内容には限界があります。そこで、教師は、子供たちが「言ってみたい」「伝えたい」内容と英語を結び付ける手助けをします。教科横断的なカリキュラム・マネジメントを行い、他教科や領域で子供が表現したい内容を深めておき、外国語の授業で子供が英語で表現できるように支援します。
さらにCan Do評価尺度の④「相手の理由に感想を返すことができる」の段階に高めるためには、日頃からSmall Talkをする際に「対話を続けるための基本的な表現」の指導を少しずつ積み重ねておくことが有効です。これについては、文部科学省研修ガイドブック(p.84-85 Small Talk)に詳しく書かれています。
【4】子供たちの振り返りを深めるための、児童用リフレクションシートの活用
授業の最後には、上のようなリフレクションシートに記入して振り返ります。①には評価する活動名と、達成すべき評価規準が書かれています。その下には、Can Do評価尺度に書かれた4段階の記述文が、子供にも分かりやすいように簡潔な表現で書かれています。
子供にリフレクションシートの記述をさせる際に、教師はそれぞれの項目を読み上げて活動の様子を思い出させることが大切です。私は、今日の活動でどんな成長が見られたか、ペアやグループで2~3分程度話し合わせます。「人の役に立ちたいので看護師になりたいという理由が、かっこいいと思った」とか「お母さんのように、家族のために働く女性になりたいという理由がすてきです」など、友達の意見を聞いて感じたことを言語化することで、リフレクションシートに記述する際のヒントになります。
4段階のスマイルのアイコンは、子供が「できる」感をイメージしやすいように工夫されています。また「今日の活動の感想を書こう!」の欄には、4段階のアイコンでは表しきることができなかった子供の思いを自由に記述させます。ここには、行動観察だけでは見取りにくい事項が書かれていることがあります。参考になる子供の振り返りを次の時間に共有すれば、子供同士の学びが相乗的に深まることでしょう。
最後に、Can Do評価尺度は、授業を「逆向き設計」しながらクラスの実態に合わせ、教師がオーダーメイドしていくものです。一人一人の子供の学びの型に合った、素敵な「ものさし」を使って、子供たちの学びを深めるような外国語活動の実践を進めていきましょう。
イラスト/大橋明子
『小六教育技術』2018年12月号より