小3社会「火事から地域の安全を守る」指導アイデア
執筆/香川県高松市立三渓小学校教諭・小松裕貴
編集委員/文部科学省教科調査官・小倉勝登
香川県高松市立十河小学校校長・大嶋和彦
目次
年間指導計画
・身近な地域の様子
・市の様子
・私たちのくらしと農家の仕事
・わたしたちのくらしと工場の仕事
・わたしたちのくらしとスーパーマーケットの仕事
・火事から地域の安全を守る
・事故から地域の安全を守る
・市の様子の移り変わり※人口の変化を中心に
・市の様子の移り変わり※土地利用(市域の広がり)
・市の様子の移り変わり※交通の違いを中心に
目標
地域の安全を守る働きについて、施設・設備などの配置、緊急時への備えや対応などに着目して、見学・調査したり、地図などの資料で調べたりして白地図などにまとめ、関係機関や地域の人々の諸活動を捉え、相互の関連や従事する人々の働きを考え、表現することを通じて、消防署は、地域の安全を守るために、相互に連携して緊急時に対処する態勢をとっていることや、関係機関が地域の人々と協力して火災や事故などの防止に努めていることを理解することができるようにするとともに、主体的に学習問題を追究・解決しようとする態度や学習したことを基に地域や自分自身の安全を守るために自分たちにできることなどを考えようとする態度を養う。
評価規準
知識・技能
①施設・設備などの配置、緊急時への備えや対応などについて、消防署などの関係機関や関連する施設を見学・調査したり地図などの資料で調べたりして、必要な情報を集め、読み取り、関係機関や地域の人々の諸活動を理解している。
②調べたことを白地図や図表、文などにまとめ、消防署などの関係機関は、地域の安全を守るために、相互に連携して緊急時に対処する態勢をとっていることや、関係機関が地域の人々と協力して火災や事故などの防止に努めていることを理解している。
思考・判断・表現
①施設・設備などの配置、緊急時への備えや対応などに着目して、問いを見いだし、関係機関や地域の人々の諸活動について考え、表現している。
②関係機関に従事する人々の活動と地域の人々の生活を関連付けて、相互の関連や従事する人々の働きを考えたり、学習したことを基に地域や自分自身を守るためにできることを考えたり選択・判断したりして表現している。
主体的に学習に取り組む態度
①地域の安全を守る働きについて予想や学習計画を立てたり、見直したりして、主体的に学習問題を追究し、解決しようとしている。
②学習したことを基に地域や自分自身を守るためにできることを考えようとしている。
学習の流れ(8時間扱い)
問題をつくる 2時間
- 身近に起きた火災やその時の新聞記事等を見て、暮らしを守る仕事に関心をもつ。
- 高松市の火災件数と全焼件数、全焼するまでの時間などの資料を基に学習問題と学習計画を立てる。
(学習問題)
素早く消火するために、だれがどのようなことをしているのだろう。
追究する 4時間
- 消防署や消防団について調べ、見学する計画を立てる。
- 消防署や消防団の屯所を見学し、素早く消火するための工夫を調べる。
- 分かったことを出し合い、火災発生タイムラインやカードにまとめる。
まとめる 2時間
- 調べたことを基に消防署と消防団それぞれの役割を整理し、互いの関連をまとめる。
- 調べてきたことを火災発生タイムラインに付け加える。
- 自分たちの町を火災から守るためにできることを考え、火災発生タイムラインに付け加える。
問題をつくる
身近に起きた火災の新聞記事等を見たり、資料を読み取ったりする活動を通して、火事から暮らしを守る仕事について調べる学習問題と学習計画を立てる。(1、2/8時間)
導入のくふう
町で起きた火災の写真や新聞記事等を提示したり、高松市の火災件数と全焼件数、全焼するまでの時間などの資料を提示したりすることで、火事から暮らしを守ってくれる人がいることを認識し、もっと詳しく調べたいという学びの意欲を高められるようにする。
1時間目
火災の様子を見て、暮らしを守る仕事に関心をもつ。
この写真を見てください。最近、自分たちの町で火事があったことを知っているかな?
あっ、知ってる!
ニュースになっていたのを見たことがあるよ。
すごい煙だったとお母さんが言っていたよ。火事は怖いな。
写真からも火が大きいことが分かるね。消防車が来て、消防士さんが消火しているところかな。
導入のポイント
身近に起こった火災を取り上げることで、現場の写真や新聞記事、ニュース、目撃談などから火災現場の様子をより具体的にイメージすることができ、暮らしを守る仕事についてより関心が高まるようになります。
自分たちの町でも火災が起こっているように、高松市全体だと火災発生件数はもっと増えます。この資料を見てください。過去10年間の高松市全体の火災件数です。何か気付くことはありますか。
少し増えたり減ったりしているけれど、大きな変化はないね。
高松市では、毎年100件以上もの火災が起きているのか。怖いな。
令和3年は、高松市全体で150件だ。思ったより多いな。実際に火事が起きたらどうなるのかな。
2時間目
火災からどのように守られているかについて、調べる計画を立てる。
建物が全部燃えてしまうまでの時間は、なんと10分だそうです。
令和3年度は高松市全体で150件でしたね。では、そのうち、何件が全部燃えてしまったと思いますか。
10分だとすぐに燃えてしまいそうだね。100件くらいかな?
消防車が来ても10 分じゃ、間に合わない気がするな。130 件くらいかな?
150件のうち、全部燃えてしまったのは、なんと30件です。
えー、そうなんだ! 思っていたより、すごく少ない! 消防署の人がすごいんだね。どうしてそんなに早く消火できるのか知りたい!
子供の主体性を高めるポイント
「全焼まで10分だから、全焼件数は多いだろう」という予想を裏切るデータを提示することで、「なぜだろう? どのように消火しているのだろう?」という問いが生まれます。このような認識のずれを生み出すことで、問題解決への主体性を高め、学習問題づくりにつなげていきます。
では、火事から私たちを守ってくれる仕事について、知っていることやもっと詳しく知りたいことはありますか?
どうしてそんなに早く消すことができるのだろう。何か秘密があるんじゃないかな?
少しの火なら、近くにいる人たちで消すと聞いたことがあるよ。地域の消防団の人も協力してそうだよ。
消防車や道具に秘密がある気がするよ。消防署に行って話を聞いてみたい!
119番に通報すると、10分より早く消防車が来るのかな。ここにも秘密がありそう!
素早く消火するために、だれがどのようなことをしているのだろう。
学習計画のポイント
学習問題に対して予想したことを基に学習計画を立てることで、問題解決への見通しをもって追究できるようにします。
学習計画
①教科書等で、消防署や通信指令室、消防団の取組について調べ、見学の視点をもつ。
②消防署や消防団の取組について、見学で詳しく調べる。
③学んだことをタイムラインにまとめる。
追究する
消防署や消防団の屯所へ見学に行き、火事から暮らしを守る仕組みや工夫について調べ、分かったことを火災発生タイムラインにまとめる。(3、4、5、6/8時間)
見学・調査活動のくふう
火災から人々を守る活動について、子供たちはたくさんの素朴な疑問をもつ。しかし、見学・調査の時間は限られているため、すべてを質問することはできない。また、教科の本質に迫る部分が抜け落ちてしまう可能性もある。そこで、見学前に調べる視点を整理して共有したり、教科書を用いて先に学習をしたりすることで、見学・調査活動がとても楽しく有意義なものとなる。見学後にはどういったまとめをするのかといった見通しをもった上で見学に行くようにするとなおよい。
3時間⽬
教科書等で消防署や消防団について調べ、見学の計画を立てる。
教科書などにも消防署や消防団のことが載っていますよ。教科書にはどんなことが書かれていますか?
消防団がどのように活動しているかについて書かれています。
消防車や道具の工夫について、書かれています。
119番通報をした後、どこへどのような連絡がいくかについて書かれています。
まずは、教科書でしっかりと学び、より詳しいことを消防署や消防団に見学に行ったときに聞けるといいですね。
有意義な見学にするためのポイント
事前に教科書を用いて基本的な内容を学習しておくことで、見学に行った際にはそこでしか聞けない貴重な話が聞けるようにします。ここで大切なのは、素早く消火するための工夫につながる「道具」「連絡体制」「消防団との協力」等の視点がもてるようにすることです。
教科書等で調べて分かったことを火災発生タイムラインにまとめてみましょう。
消防車や道具についても少しは分かったけれど、本物を見たり、もっと詳しく聞いたりしたいな!
消防署と消防団の違いがよく分からなくなってきたな。消防団の人に直接聞いてみたいな!
4~6時間⽬
消防署や消防団を見学し、火を素早く消すための工夫を調べ、分かったことをカードにまとめる。
消防署の見学
消防署を見学して、どんな発見がありましたか?
20kgの防火服・マスク・ボンベを付けて訓練しているそうだよ。防火服はなんと、1200℃の火に約17秒も耐えられるんだって! 毎日真剣に訓練しないと力を出せないと教えてくれたよ。訓練をしているから、素早く火を消せるんだね。
防火服を着るスピードがとても速くてびっくりしたよ。119番通報から1分で出動できるのは、本当にすごい。いつでもすぐに出動するために、道具の点検を毎日しているんだって。
消防車にもいくつか種類があったよ。中でもはしご車は30mまで延び、高いところから水を出すので、早く消火できるそうだよ。
消防団の見学
消防団を見学して、どんな発見がありましたか?
消防団では、毎月2回訓練しているそうだよ。普段は別の仕事をしている人が集まっていると言っていたよ。防火服は1000℃の火に約8秒耐えられるんだって! 消防署とは少し違いがあるな。
消防署より先に来て消火を行うことが多いそうだよ。町の細い道にも詳しいから一番早く着く道で火災現場まで行けると教えてもらったよ。「自分たちのまちは自分たちで守る」を合い言葉に54人で活動しているんだって!
道具の点検は月に2回で、消防車には20本のホースを入れているそうだよ。防火の呼びかけや施設の見回りもしているそうだよ。
有意義な見学にするためのポイント
見学の際にはビデオを持っていき、見落としてほしくない大切なポイントを動画で撮影しておくことで、学校に帰ってから見返すことができるようにします。その際、消防署と消防団の共通点や相違点につながることを意図的に取り上げることで、それぞれの役割について深く考えられるようにします。
まとめる
消防署と消防団を比較し、共通点や違いを見付け、それぞれの役割を考え、調べてきたことを火災発生タイムラインにまとめ、自分が町を火災から守るためにできることを考える。(7、8/8時間)
まとめ方のくふう
学んだことを火災発生タイムラインにまとめていくことで、学びの積み重ねが可視化されるようにする。また、地域や自分の安全を守るためにできることを選択・判断し、タイムラインに位置付けることで、より認識が深まるようにする。
7時間⽬
消防署と消防団を比較し、共通点や違いを見付け、それぞれの役割を考える。
イラスト/栗原清、横井智美