小4体育「エンジョイ! セストボール(ゴール型ゲーム)」指導アイデア
執 筆/山口大学教育学部附属山口小学校教諭・大賀拓也
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・高田彬成、山口県岩国市立東小学校教頭・前川孝
目次
授業づくりのポイント
ゴール型ゲームは、コート内で攻守が入り交じり、手や足などを使って攻防を組み立て、一定の時間内に得点を競い合う楽しさや喜びを味わうことのできる運動です。中学年では、基本的なボール操作とボールを持たないときの動きによって易しいゲームをすることが課題となります。
本単元で扱うセストボールは、バスケットボールに似たゲームで、パスでボールを運び、360°どこからでもシュートができることが特徴です。パスを中心にゲームが展開されるので、ボール操作とボールを持たないときの動きの獲得が期待できます。
単元の前半では、易しいゲームを行うなかで、ゲームの行い方を知り、基本的な動きや技能を身に付けることができるようにします。ここでは、みんなが楽しめるゲームにするための規則の工夫をする時間を設けるようにしましょう。例えば、みんながボールに触れることができるような規則をつくったり、パスやシュートに関連する記録を蓄積することで成長を実感できたりすることが大切となります。
さらに、単元後半では、選んだ作戦を生かすことを通して、仲間と関わり合いながら、さらにゲームを楽しむことができるようにしていきましょう。
単元計画(例)
前半は易しいゲームの規則を工夫し、後半はよりゲームを楽しむための作戦を選び、工夫する構成です。

運動に意欲的でない子供には、こんな配慮を!
・ボール操作がしにくいために、ゲームに意欲的になれない子供には、パスしたりキャッチしたりしやすい大きさや硬さのボールを用意し、自由に選択できるようにしましょう。
・ゲームに参加している実感がなく、楽しさが味わえない子供には、ゲーム内での役割を明確にしたり、触球回数が増えるような規則を工夫したりしていくような働きかけをしましょう。
・ゲームでの動き方がわからない子供には、よい動きの仲間やチームを観察できるようにするなど、個に応じた動き方のモデルを示すようにしましょう。必要に応じて、タブレットやデジタルカメラなどのICT 機器を活用しましょう。
運動を楽しもう
単元前半では、セストボールの行い方を知ったり、基本的な動きであるボール操作とボールを持たないときの動きを身に付けたりすることを重視し、発達の段階に応じた「易しいゲーム」を設定します。
ここでは、サイドライン際に、ボールを持ったまま移動してもよいフリーゾーンを設けることで、効率よくパス回しによるボール運びができるようにします。また、パスやシュートの規則を工夫して、ゲームの楽しさを味わうことができるようにします。
「主運動につながるほぐしの運動」に毎時間取り組み、その記録を学習カードなどに蓄積していくことで、「セストボール」の基本的な動きの成長を実感でき、ゲームの中でも生かそうと意欲的に取り組むことができるように支援していきます。
セストボールにつながる、ほぐしの運動と動き
パスゲーム1

パス、走る、キャッチをくり返し、箱に入れる。チームで競ったりするなど実態に応じて工夫する。
シュートゲーム1

4か所に分かれ、制限時間内に決めたシュートの本数を競う。自分が一番決めやすいシュートの仕方を見付ける。
パスゲーム2
4か所に分かれ、中央の7個のボールをパスで自陣に集める。先に3 個集めたチームの勝ち。
シュートゲーム2
シュートを打つ距離によって得点差を付け、チームで得点を競う。時間制や回数制など、実態に応じて工夫する。
セストボールにつながるほぐしの運動を効果的に設定することで、基本的な動きをたっぷりと経験できるようにしましょう。
易しいゲームに、楽しく取り組もう

基本の規則の例
※ クラスの実態に応じて柔軟に変更できます
●チーム編成
1 チーム4 ~ 5 人で男女混合の等質になるようにする。
●時間
1ゲーム3~5分(前・後半制、休憩・作戦タイム3分)
●規則
・3対3でゲームを行うが、3人のうち1人は相手コートのみでプレイでき、攻撃時には3対2のアウトナンバーゲームになるようにする。
・得点が入ったら、ゲームに出ていない人と交代する(順番を決めておく)。
・パスでボールを運ぶ。
・ボールを保持した状態で3歩まで歩くことができる。
・セスト(籠)には360°どこからでもシュートできる。
・セストを中心としたゴールエリアの中には入れない。
・ 1人だけフリーゾーンを使うことができる。使うゾーンは、攻める方向に対して右側とする。
・シュートが決まったら、センターラインから始める。
・守りは、身体接触はせず、パスカットで守る。
セストボールはバスケットボールのようなドリブルがなく、パス回しを中心にゲームが展開するので、必要に応じてパスの出し方やキャッチの仕方に関する指導もあるとよいでしょう。ゲームの中でパスに対して工夫している姿を積極的に見とり、価値付けをして全体に共有していきましょう。
みんなが楽しめる規則の工夫例
●パスに関する規則の工夫…囲まれてパスが出せなくなることの軽減
・ボールを持っている人から1m離れて守る
・自陣まで戻ってから守る
●シュートに関する規則の工夫…みんなにシュート機会の保証
・3点ラインをつくる
・ファーストシュートは2点とする
●触球回数を増やす規則の工夫…触球に対する意欲喚起
・全員がパスを受けてからシュートすると1点、決まれば2点
もっと運動を楽しもう
単元の後半では、より楽しむために選んだ作戦を生かしながらゲームを進めていきます。ここでは、いくつかの作戦を提示し、どの作戦ならよりよく攻められるか、チームごとに考える時間を設定します。
ゲーム後の振り返りでは、作戦が生かされたか、どうすればより生きるかなど、話し合う視点を定めましょう。そうすることで、よりよい作戦を選び直したり工夫したりしていくことへつながります。
よりゲームを楽しむために、選んだ作戦を生かそう
4対4のゲーム
易しいゲームと同様の4対3アウトナンバーゲームです。

作戦は、自分たちですべて考えるよりも、いくつかの作戦の例示の中から選択できるようにしましょう。また、作戦を積極的に試しているチームや工夫しているチームを紹介するとよいでしょう。
作戦の例
パスラン作戦
パスを出した後の動きが大事です。ゴールに向かって動くと決めておくと、どの位置からでも実行できます。しかし、早くパスを出さないと、守りに囲まれてしまいます。

ロングパス作戦
縦に大きくパスを出すことで、一気に攻めに転じられます。しかし、パスの距離が長くなるほど、正確さが必要になるという難しさもあります。

ポスト作戦
ポストに1人立つことで、守りの意識はそこに集中します。そこからシュートをしたり、パスをしたりと攻撃の幅が広がります。

おとり作戦
ポスト作戦にも似ていますが、ゴール付近でパスをもらう動きをすることで、守りの意識をそらしましょう。たくさんの人にシュートのチャンスが生まれます。

言葉がけの例
・パスを出したらどこに動けばよいかな?
・どこのスペースが空いているかな?
・ポストにパスが入った後、どう動くの?
・どこでおとりになるのがよいかな?
苦手な子へは…
動き方や動く場所がイメージできない子供には、学習カードのコート図やホワイトボードを用意し、色線や磁石などを用い、具体的な操作で話合いができるようにしましょう。そして、自分たちのチームに合った作戦を見付けることができるようにしていきましょう。
わくわく学習アイディア
成長が実感できる学習カードの工夫
形式(思考・判断・表現等の評価の材料とする)
めあて、作戦、振り返り、自己評価、図などをかくことができる欄を用意し、何を、なんのために書くのかを明確にしましょう。
個人カードか? チームカードか?
個人カードでは、個々の成長が見えやすくなります。また、チームカードではチームとしての管理はしやすいのですが、個々の細かな成長を見とるための工夫が必要となります。
チームカードの例

安心して楽しめる用具の工夫
ボールの大きさ・硬さ
学校にある様々なボールのそれぞれのよさを生かし、ゲームに活用していきましょう。
活用例
・バスケットボール:よく跳ねるが、硬くて重くて操作しづらい
・ドッジボール:ゴム製やスポンジ製など種類や大きさが多様
セストボールは、パス回しを中心に行うゲームなので、投げやすさだけでなく捕りやすさも大切です。同じボールでも空気の入り具合によって扱いに差が生じるので、バウンドさせてパスができるくらいの柔らかさに調整しましょう。
場の工夫
ゴールについて
セストボール用のゴールが学校にあればよいのですが、ない場合は学校にある物で代用しましょう。

ラインについて
体育館で行う場合、フロアに自由に線を引くのは難しいことです。ラインテープを使ってもよいのですが、大きさや場所の変更が難しいので、荷造り用のひもや長縄、ビニルホースなどの可変性のあるもので代用しましょう。
学習意欲を喚起させる工夫
教室掲示の工夫
学級に、単元のコーナーを作ったり、廊下などの掲示板に学習の様子の写真を掲示したり、学習の雰囲気づくりの工夫にも挑戦してみましょう。
学級だよりなどでの紹介も効果的ですね。
チーム名・チームロゴの作成など
ゼッケンの色に合わせたチーム名を考えたり、ロゴを作ったりするなど、この単元に没頭できる環境を整えることで、チームへの所属感が高まってチームへの愛着が生まれ、協力したり励まし合ったりできる素地がつくられていきます。
学級経営の一環として位置付けるとよいですね。子供たちから「チーム名を考えたい!」と声が上がるとステキです。
調査官からのワンポイントアドバイス
国立教育政策研究所教育課程調査官・高田彬成
ゴール型ゲームは、易しいゲームを基本とし、攻防入り交じりながら、ボールを操作したり、空いている場所に素早く動いて攻めたりするなどして、勝敗を競って楽しくゲームを行うことが大切です。
本稿では、規則を工夫しながら楽しく行うセストボールを紹介しています。ボールを持ったときと持たないときの動きを知り、状況に応じた動きができるようにします。ゲーム領域の特性を生かし、チームとしての団結を大切にしながら、ゲームを楽しくくり返し行えるようにしましょう。規則を工夫したり、簡単な作戦を立てて練習やゲームをしたりすることは、学習をより楽しくするだけでなく、思考・判断・表現の指導としても重要です。
また、規則を守り、友達と励まし合って練習やゲームをしたり、ゲームの勝敗結果を受け入れたりするなど、「学びに向かう力、人間性等」に関する指導も重要であるため、単元を通して計画的に指導することが大切です。
イラスト/栗原 清
『小四教育技術』2019年2/3月号より