管理職としての対話の大切さ 【連載|女性管理職を楽しもう #4】
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学校の女性管理職の数はまだまだ少ないですが、女性管理職だって「理想の学校」をつくることができます。前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生が、女性管理職ライフを楽しむコツを伝授します。
第4回は、<管理職としての対話の大切さ>です。
執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子
目次
夏を見送り、学校へ
今年の夏は暑かった!と、毎年言っているのですが、この夏の暑さは特別だったように感じます。
皆さまの夏はいかがでしたか、旅に出る、人と会う、気兼ねなく朝寝坊や夜更かしをしたり、読書やスポーツ観戦、映画や美術館に行くなどそれぞれの夏を楽しみ、エネルギーを充填できたことを祈るばかりです。
乳幼児は、昼間は機嫌よく遊んでいたのに、夕暮れ時から夜になるとぐずりだして、なかなか泣き止まないことがあります。これは通称「夕暮れ泣き」というらしく、原因は疲れとか、暗くなることへの不安感などと言われます。夏休みの終わりは、大人も、ちょっぴり「夕暮れ泣き」の気分で夏を見送り、学校に戻ります。
さて、今回のテーマは女性管理職と「対話」です。
対話ってたのしい
管理職になると、大人と話す頻度がとても高くなります。教諭の時は、子どもたちとの対話、同僚との対話、保護者との対話が主でしたが、管理職になると話す相手はほぼ大人。過去には上司か同僚しかいなかった職場の人間関係も部下ができて、ちょっと複雑になるのではないでしょうか。
これから秋になると、人事評価の面談の季節でもあります。管理職と職員の面談。上半期に立てた目標について、取組の振り返り、成果と課題、後期の目標などを学校のビジョンに基づいて取り組んでもらうための面談ですが、これが苦手、という管理職も多いです。ご存じの通り、指示や命令で人が動くわけもなく、相手の強みを把握して、励ましたり、悩みを聴いたり、背中を押したりと大切な機会です。でも、自分より年上でベテランの人とか、今の学校経営方針に批判的なムードの人とか、何となくとっつきにくそうな人とか、学校は多様なスタッフがいるので、ちょっと荷が重いな……と思われている方もいらっしゃるのではないかしら。でも、ここは頑張りどころ。対話で、お互いが分かりあえると、それまであなたがその人に持っていたイメージは簡単に変わります。それは相手も同じこと。わかり合えると嬉しい。抵抗者が協力者に、リバーシのコマがひっくり返るように変わることは時々起こります。私が経営者として経験的にアドバイスできることは、バイアスを捨て、好奇心をもつこと、立場で対立するよりは、志で理解共感しよう、ということです。
管理職はカフェのマダム
行きつけのカフェなどはありますか? ひとりでゆったり過ごせる場所がお気に入りという人もいれば、カウンターに座ってマスターやママといろいろな会話ができる店が好きという方もいらっしゃるでしょう。日々の出来事や思いを、興味をもって聞いてくれたり、一緒に「それは大変だったね……」とねぎらい、共感してくれる、「そういえば私もこんなことがあってね……」と自分の体験を話してくれる、「あなたにはこういう優れたところがあるんだから……」と自覚していなかった自分のよさや強みを言語化して返してくれる、「それは止めといたほうがいいよ」とピリッと叱ってくれることもある。家族や友達とは違う距離感、異なる視点、だけど基本は温かく自分のことを応援してくれる、そんなマダムがいるカフェや美容室なら、仕事帰りにふらっと立ち寄りたくなるもの。話したくなるポイントは「好奇心」です。「え? それは面白そう、すごい体験じゃないですか!」「どうやったらそんなにできるんですか、もっと聞きたい」「どんなきっかけがあったのですか?」「私もやってみたい。教えてほしい」などと、相手の話に興味と好奇心をもって聞く。もちろん聞き出すばかりじゃなく、自分のことも話す。かつて、私が教頭を務めた時分は、職員団体と管理職の対立構造が激しい時代でした。そんなときにも「立場じゃなくて、志で話そうよ。子どもたちのことを考えているんだから」と語り掛け、語り合ったものです。それぞれの人の思いや体験を聴き、頻繁に対話しました。その頃、仕事はつらかったけど、当時一緒に働いた職員とは今でも分かり合える仲間だと実感しています。
ある時は旅館の女将
旅館を切り盛りする女将さんが主人公のドラマや小説がありますが、みなさんのような女性管理職も同じような働きをしています。施設、財務、ヒューマンリソース、教育課程のマネジメントをして、豊かな学びと安心できる生活の場を作っていっていますよね。その時には、どこで何が起きているか、センサーを働かせて、迅速な対応をしているはず。全部自分がやるのは無理。だから適材適所に配置したスタッフとコミュニケーションを取りながら、最適解を出す。コンセプトを忘れてスタッフが自分の思い込みだけで暴走しないように、気配りと目配りをして、短く的確な指示やアドバイスができる。私たちが旅行に行って、温泉旅館なんかに泊まって寛ぐとき、女将さんがご挨拶に来たり、旅館の中で姿を見かけたりすることがあります。いつも、彼女たちはゆったり笑顔で、客を大切にしてくれているように感じます。
頼りがいのあるおばあちゃん
しかし、自分自身のことを振り返ると、いつも笑顔で、余裕で過ごすなんてことはなかなか難しいものでした。かつて、作家の重松清さんが「総合教育技術」誌のインタビューで「校長先生って学校のおじいちゃん、おばあちゃんでいいのではないか」という旨のお話をされていたことが印象に残っています。自分自身、子育て真っただ中の頃は余裕もなくて、わが子を厳しく叱ってしまうこともありました。最前線では余裕がなくなるのはよくあること。そんな時に、同居していた母は幼い息子の話を聞いてクールダウンさせてくれるなど、親の私を支える一方で、子どもと親のメンタルサポートをしてくれていたな、と後からしみじみありがたく感じました。
おばあちゃんが一家の中心になって君臨し、子や孫世代が顔色をうかがいながら生活するのは健全とはいいがたい。君臨はしないけど、大事なことを把握していて、頼りがいと安心感のあるおばあちゃん、学校のおばあちゃんになりたいものです。
管理職としての在り方、立ち位置など、お悩みもあることと思います。「立場」でぐいぐい行かないで「対話」と「共感」で関係づくりをするのは、こう言っては何ですが女性のほうが得意な傾向が強い。その時に大切なのは「好奇心」かな、と私は考えています。温かく、安心な学校を一緒に作りましょう。
<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。