子供の創造性とクリエイティブ・コンフィデンスを育む1人1台端末活用ー佐和伸明先生【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】
GIGAスクール構想に基づく、ICTを活用した小学校の視聴覚教育・情報教育を牽引する第一人者、佐和伸明先生。コンピューターで写真や音声が扱えるようになったばかりの30年以上前から教育現場におけるICT活用の可能性に着目し、先進的、精力的に取り組んできた佐和先生に、1人1台端末を活用しながら創造性を育む「今の時代の教師」に求められることをお話しいただきました。また、教師にとってパソコンの得手不得手より大事な“あるもの”や、授業に役立つ実践事例が満載の書籍『創造性を育む1人1台端末活用授業』(小学館)の執筆にあたり注力したことについても語ってくださいました。
佐和伸明/さわ・のぶあき
千葉県柏市立大津ケ丘第一小学校校長。文部科学省「小学校プログラミング教育の手引」「教育の情報化に関する手引」等の作成に関わってきた。令和2年度、視聴覚教育・情報教育功労者表彰(文部科学大臣表彰)。令和3年度、「ICT 活用教育アドバイザー」「GIGA スクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議」「情報モラル教育推進事業」等、ICT 活用の研究や普及に関わる委員を歴任すると共に、文部科学省、文化庁、放送大学、日本教育情報化振興会等が主催する、1人1台端末を活用した教育やプログラミング教育、情報モラル教育の研修会講師を務めている。地域では、「柏メディア教育研究会」の会長として、後進の育成にあたっている。
目次
子供たちが「社会で幸せに生きていく」ために!
これからの時代に必要な創造力をICTで育む先生たちへ
——ご著書『創造性を育む1人1台端末活用授業』を出版するに至ったきっかけを教えてください。
佐和 2020年に学習指導要領が完全実施になりましたが、それには、これから社会が大きく変わっていく中で、これまでの知識偏重の教育では、子供たちが生きていきにくい、という背景があります。それからいみじくも、その年からコロナが流行し、翌2021年に『GIGAスクール構想』が前倒しで全学年実施になりました。
このGIGAスクール構想というのは、学習指導要領の主旨を実現するためのツールなんです。
これは、急に現れたものではありません。子供たちがこれから生きていく、変化が激しい社会は、今まで得た知識だけでは乗り越えていきにくく、新しいものをどんどん創造していくことが求められる——そういう時代背景の中で、新学習指導要領が実施され、GIGAスクール構想が始まり、子供たちも学び方を変えていく必要が出てきた、ということです。
僕がインタビューするのも変だけど(笑)、“教育”って何のためにあると思いますか?
——私が考える“教育”とは、そうですね……「この地球で幸せに生きるため」でしょうか。
佐和 いいですね、かっこいい! (もう一人のインタビュアーに)あなたはどうですか?
——私は、「子供たち一人ひとりの良さを伸ばすため」にあるんじゃないのかな、と。
佐和 そうですよね。どちらも素晴らしい!
実は、日本の学校教育が始まって、今年で151年目なんですよ。江戸時代から寺子屋はあったけれど、明治5年の学制発布から“学校”という仕組みになったんです。それから151年が経つけれど、その当時から求められているのは、その教育を受けることによって、子供たちが大人になったときに、社会で「幸せに生きていけるか」ということ。
社会の中で職業を見つけたりしながらうまく生きていくことができ、「豊かに生活できるように」と願って子供を学校に通わせ、「日本を豊かにするために」教育をしたんだと思うんですよね。
そう考えると、これから先の時代に生きていく子供たちを考えた教育をするなら——創造性を育む学びが必要で、それには「創造性という“創造力”がすごく大事!」という時代になっていくのだから——こういう本を出さなければいけないな、と思ったんです。
創造性を育むのは端末活用の「プロセス」
教師に必要なのは「子供たちに任せる覚悟」と「授業デザイン力」
——著書で数多く紹介されている『創造性を育む1人1台端末』の授業プランや教材開発において、佐和先生や執筆された先生方が苦心されたことや、注力されたことを教えてください。
佐和 GIGAスクール構想が始まって端末が導入されたばかりの頃は、創造性というよりは、「端末が何に使えるか」ということにしか、みなさんの関心が向かなかったんです。そして、それが進んでいくと、単に学習を効果的、効率的に行うだけではなくて、子供たちの主体性や創造性を育むことに使っていくことが大事なのでは、ということを、みなさんがやっと思い始めたんです。
『創造性を育む学び』というのは、“何か創作物を作り出していく”というのがゴールになりますが、作って終わりだったら、あまりいいものは作れないし、子供たちの力も伸びないですよね。だから、そこに向かう“プロセス”をすごく大事にしたんです。
その“プロセス”というのは、まさに“情報活用能力”なんですよ。
——検索したり、情報を取捨選択したりとか、資料や写真を活用したりとか、でしょうか。
佐和 そうそう、そういうものをすべて含んでいます。
情報活用能力が学習指導要領の基盤になっています。だから、どの教科・領域でも、情報活用能力は、もう、なくてはならない資質・能力に位置付けられているわけです。
それには、まず、自分で課題を設定する力。これは、大人になっても必要ですよね。「うちの会社の課題は◯◯だよね」というような。
それに対して、「では、現状はどうなのか」という解決に向けた情報を収集する力。
今は情報がいくらでも集まってしまうから、集めた情報を整理して分析していく力。
そして、そこから何かにまとめて、それを誰かに表現する力。
最後にそれを振り返って、もう1回“スパイラル”を回す力。
これを、情報“活用”能力と言っていますが、「これをやったら終わり」ではなくて、ちゃんと順序立てて、プロセスに従って、子供が自分で学べるようにすることが肝心です。
先生が「これを作りなさい」と言ったら簡単だけれど、それでは子供の学びにならないですよね。そこで、子供が自分で「次は何をしたらいいかな?」「こんなに情報が集まっちゃったけど、1度整理してみようかな」「僕はこう思うけど、あなたはどう思う?」というようなことを一緒に話し合って分析していく……そういう“プロセス”が大事なんです。
《プロセスを通して育む情報活用能力》
1.課題を設定する力
2.情報を収集する力
3.情報を整理・分析する力
4.情報をまとめ、表現する力
5.これらのプロセスを自分で回す力
そのプロセスに沿って、端末が有効に使える場面が出てくる、ということです。その場面として、情報収集は分かりやすいですね。
整理・分析するなら、シンキングツールみたいなものを使えばいいし、発表するなら、プレゼンテーションにするとか、ポスターにまとめるとか。できたものをみんながどう思っているのか知りたければ、アンケートフォームを作ればいい。そういういろいろな場面で、今までできなかったことが、1人1台の端末によって非常にスムーズにできるようになりました。
ただそこで、『情報活用能力を育む』ということを意識しないと、全部、先生が指示を出さなければいけなくなってしまいます。
今までは大体、先生が答えを持っていたんです。活動の答えを。でも、先生が指示を全部出してしまったら、子供たちの創造性は育まれない。ですので、もっと簡単に言うと、待ってあげることとか、失敗させてあげることとか、先生にそういう覚悟がないと、なかなか子供たちの創造性を育むことは難しいです。
——指導したくなるところでちょっと我慢する、というようなことでしょうか。
佐和 答えを急がない、というか……。
本にも書きましたが……、修学旅行の行き先を子供たちが考える、という機会がありました。日光に行くことは決まっていて、「修学旅行にふさわしいのは、どういう所ですか」と、一応、観点は出したんですが、僕たち教師側が全く想定していない場所が出てくるんです。そうなったとき、教師はどうしても自分たちの経験から考えて、それをつい押し付けたくなるんですよね。
子供たちが家でジャムボード(Google Jamboard※)なんかを使って一生懸命調べてくると、こんなに行けるわけないよね、というくらい候補が出てきます。そこで、旅行会社の人にプランニングを手伝ってもらって、最終的に絞ったのが「日光江戸村」か「おさるランド」。だけど、僕ら教師は、日光東照宮や華厳の滝、戦場ヶ原とかに行ったほうがいいと思ってしまう。
でも、子供たちの行きたい場所も、確かに日光らしい所だし、みんなで楽しめそうだし、候補として外すわけにはいかない。どちらかと言うなら「日光江戸村」のほうが社会科につながりそうだ……とか言いたくなるけれど、それは、言ってはいけない。そこを言わずに我慢できるかどうか、ですよね。
そこで、児童たちがプレゼン大会をして投票で決めたら、「おさるランド」に(笑)!
※Google社が提供するデジタルホワイトボード。スマートディスプレイ。
※Google Jamboardは2024年12月31日にサービス終了します。
でも結局、この話はいい話になるんです。
「おさるランド」に打合せに行ってみたら、そこの支配人さんも学校の子供たちに来てほしくて、どうしたら来てもらえるか相談にのってほしいと言われたんです。そこで、小学校の学びにつながるようなプランを立てることをお勧めしました。
すると、興味深いことに、いくつものテーマが出てきました。栃木県では野生のサルが畑を荒らしたりするので、毎年500頭前後が捕獲されていることとか、それならなぜ日光東照宮には三猿の彫刻があるのかとか、サルが芸をするときに、どうやって人間とサルの関係を作っていくのかとか、調教師さんの仕事を『キャリア教育』的に捉えると、どういう信念でサルに向き合っているのかとか……。それらから、自然愛護的なこと、歴史的なことを織りまぜて学ぶことができれば、十分価値があるんじゃないかということが分かりました。
事前に学習用の資料を用意してもらったり、サルと人間との、ほかでは知ることのできないエピソードを調教師さんが話してくれたり。ショーの演出をどうしているかとか、そういうことまで一緒に学ぶことができたんです。
そんなことで、卒業アルバムの文集では、「一番楽しかったのは、おさるランド」で、日光東照宮のことは誰も書いていないんです(笑)。
——修学旅行の行き先選びを任せたことで、楽しいだけでない、学びのある修学旅行になったんですね。
ですので、子供たちに任せる覚悟、というのが重要です。
もともと端末を使うってことは、「先生が一方的に話している授業をやめて、子供たちに学ばせましょう」というのが一番のねらいだと僕は思っているんです。
今までは、先生が話して、黒板に書いて、それを静かに聞いてノートを写している子はいい子、というような、ね。そして、「わかる人?」って聞いて手が挙がると、ちゃんとできる子に答えさせて終わる。それは“教え込む”だけの授業です。これからは、そういう学び方をした子が社会に出て活躍できるとは思えません。自分で学び取っていくようにならなければいけません。
“教わる”のではなく、“学び取る”という姿勢が重要です。
子供に端末を預けてしまうと先生は話せなくなってしまいますが、そこで課題を与えて、子供が自分で学んでいくことがすごく大事になってきます。
こういうことは、今でこそ共感してもらえますが、端末が一気に導入された当時は、先生方も戸惑いのほうが大きかったので、このような話を共有し、意思疎通できるまでには時間がかかりました。
——今やコンピューターの扱いは必須とは言え、苦手な先生も少なからずいますよね。
佐和 先生がコンピューターを使えなくてもいいんですよ、本当は。例えば、逆上がりができない先生が、逆上がりの指導ができないわけではありません。自分がやって見せられるかよりも、動画を見せるとか、NHKの「はりきり体育ノ介※」を見せながら解説するとか、練習の仕方のポイントや補助のポイントをきちんと教えられる先生のほうが、逆上がりができるクラスになるんです。
※NHK Eテレで放送されている「体育の苦手を克服し、“できる”ようにする」小学3年生〜6年生向けの番組。
なぜなら、自分が逆上がりをやって見せている間、子供の様子は見られないし、見せてできるものならとっくにできていますよ。
だから、自分がパソコンを上手に扱うことよりも、「ここで、こういうふうに使うと子供の学びが深まるよね」というアイデアをもっているほうが重要です。
——有効にICTが使えるかどうか、ですね。
佐和 そうです。これは、子供にどんな力を付けさせたいかということに関係してきますが、「ここでこういう使い方をすれば、子供たちの意見が対立して、話合いが生まれ、学びが深まっていくんじゃないか」というような、“授業デザイン”ができるかどうか、ということです。
それって、今までも教師はそうやって考えて授業してきたはずなんです。それを、端末を使う場面に落とし込めるかどうか、そういう訓練をするかどうか、ですよね。
「自分には世の中を変える力がある!」
子供の創造性に自信をもたせる“クリエイティブ・コンフィデンス”
——子供たちが1人1台端末を使いこなすことで、より主体的、協働的な学習を深められるということですね。創造性を育むことの意味も理解できました。
佐和 そこで考えなければならないのは、“創造性が育まれるとどうなるか”ということです。大人になったときに活躍できるとは思うけれど、「“創造性が育まれた”というのは、結局、どういう姿なんだろう」と。
最近、僕の学校の研修や、先生たちに言っているのは、「子供たちにクリエイティブ・コンフィデンスをもたせる」ということです。それは、「自分は何かを作り出すことができる」という自信をもたせるということ。
「あなたは創造力がありますか?」と聞かれたときに、日本人は「ない」と答えがちですが、「ある」んです。その“創造力”って、得体の知れない自信ではなくて“何ができるか”ということだから。
では、何のために創造力が必要か。最終的には、社会や国を変えるような創造力が必要だと思うんです。小学生が社会や国を変えることはできないけれど、自分が何かを発信したり、作り出したりすることで、例えば学校や学級を、いい方向に変えることができる。そういう子供たちを育てたいと思っているんです。
これもなぜかと言うと、日本の子供は世界の子供に比べて、そういう力が弱いからです。
日本財団の発行している資料に、OECD(経済協力開発機構)の加盟国を対象とした「18歳意識調査」というのがあって、日本の子供は「将来の夢をもっている」という設問への回答率が低いんです。同様に、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」というのも極端に少ない。もっと言うと、そもそも課題があると思っていない。日本の国に興味がないんです、国や社会や地域に対して。
——自分のおかれた環境で今うまくいっているから、もうこれでいいよね、というような意識でしょうか。
佐和 そうそう。もしくは、誰かがやるだろうと思っているんです。それに比べて他の国の子供は、国や社会を変えようという意識を強くもっています。
20歳のお二人に聞きますが、日本は経済的、国際的に今、どういう国だと思っていますか?
——結構、危ういんじゃないのかな、って思っています。
佐和 それは、「課題がある」と思っている人ですね。自分がこのままなんとなく幸せに生きていけるかというと、そうかな?と思うわけですよね。
今の子供たちが大人になる10年後、20年後は、これまでの30年のように徐々に下っていくのではなく、もっと厳しい状況になっているでしょう。20年後くらいには、労働人口は今の3分の2くらいになるわけです。働く人も減る。1人あたりの所得も減る。そういう中で生きていく日本って、結構厳しいんじゃないのかと思いますよね。
だとしたら、国を高めていくような、生産性を高めるような人や、アイデアを出せる人が、これからの日本には必要なのではないでしょうか。
では、なぜ日本の子供たちがこうなのかと考えると、やっぱり自己肯定感や自信が足りないからじゃないのか、と。そしてそれは、あまり経験していないからじゃないのか、と思うわけです。だからこそ、「自分にも周りを変えるような創造性や力があるんだ」という経験を子供たちにさせたいと思っているんです。
単に「パソコンでプレゼンテーションが上手にできる」ということではなくて、それによって「周りを変えられる」かどうかということなんです。「変えられる」という手応えが得られれば、創造性に対する自信をもち、クリエイティブ・コンフィデンスをもった子になる、そう信じています。
——今後も一層、ICTを活用した授業や実践を広げていく中で、新たに挑戦したいと考えていることはありますか?
今は、地域そのものを題材にして、地域を変える活動をしようとしています。
学校の近くに商店街があるんですが、かつての活気が失われた商店街をどうしていったらいいのかとか、この地域の農作物の良さを知ってもらうにはどうしたらいいだろうとか、公民館でやっているお祭りもあまり人が集まらないので、もっと盛り上がるお祭りにするために何ができるだろうかとか。
今後、学校ホームページの子供ブログのコーナーで、「〇〇小学校の子供たちが◯◯◯をします」というようなことを発信していきます。これからは、その中で保護者や地域の人たちと意見交換ができるようにして、アドバイスを寄せてもらったり、誰かを紹介してもらったり……そういう双方向性のあるウェブの展開を考えています。「発信して終わり」ではなく、それによって地域の人とつながったり、何かを変えたりすることをしていこうという活動です。
そして、そこには創造性を育むような発想が大事だし、当然、端末を使うのも効果的です。その過程で学校ホームページをフル活用して、そこで地域とつながりながら子供たちが何かを創造していく。そのような活動へと発展させていけるようにしたいですね。
佐和伸明先生の著書(監修)
GIGAスクール構想が掲げる、社会で活躍する子供たちの育成に必要不可欠な「創造性を育む学び」に焦点を当て、1人1台端末を活用しながらそれを実現する方法を、ICT先進校の小学校全学年の実践事例を豊富な写真とともにオールカラーで紹介。「課題とゴールの設定」「教師が配慮すべきポイント」「学習のプロセス」などを具体的に詳しく解説します。
取材/吉田悠真・宮部柚月(EDUPEDIA編集部)文・構成/本田有紀子 写真/みんなの教育技術編集部
●これと関連したインタビュー記事が「EDUPEDIA」でも配信されます