【松尾英明先生の学級にまる1日密着! 不親切教師の自治的学級づくり】 #3 仲間と一緒に学ぶ価値を実感する国語授業

関連タグ

千葉県公立小学校教諭

松尾英明

昨年来論争を巻き起こしている教育書『不親切教師のススメ』(松尾英明・著/さくら社)。その本では、あえて「不親切」を意識しつつ子供とかかわる教師のあり方と、子供の主体性に任せる学級づくりが提案されています。著者の学級では実際どのような実践が行われているのでしょうか? 松尾学級(2年生)に、まる1日密着(2023年5月末)した記録をお届けする全5回の連載、第3回は3時間目の国語の授業をレポートします。


<プロフィール>
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年宮崎県生まれ、神奈川県育ち。「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大学教育学部附属小学校等を経て研究を続け、現在は千葉県公立小学校教諭。全国で教員や保護者を対象にしたセミナーや研修会等の講師を務めるほか、メルマガ、ブログ等でも情報発信を行う。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『不親切教師のススメ』(さくら社、2022年)ほか著書多数。


休み時間のスナップ

雨が上がったので、2時間目と3時間目の間の中休みには、松尾先生は校庭に出て、クラスの子供たちと一緒に走り回って遊びます。それは、お昼休みの時間でも同様でした。
2年生の小さな体がいくつも先生の周りに集まっている光景が印象的でした。

休み時間に子供と一緒に遊ぶ松尾先生。

楽しい休み時間が終わると、次は3時間目の授業です。

3時間目 国語

国語は、「『言葉あそび』をしよう」の授業です。
授業開始直前、松尾先生の「読み聞かせできるようにしといて」という言葉に応え、子供たちは自ら机と椅子を後ろへ下げ、読み聞かせのスペースをつくりました。
スペースが出来ると子供たちは教室の前方に座り、松尾先生は絵本「へんしんトンネル」(あきやまただし作・絵/金の星社)の読み聞かせを始めました。

子供たちが教室の前方に集まって座り、読み聞かせを聞いています。

そのトンネルをくぐると、なぜか変身してしまう、不思議なトンネルのお話です。

松尾先生「あるとき、河童が河童河童河童……とつぶやきながらトンネルをくぐると~」
子供全員「かっぱ、かっぱかっぱかっぱ……ぱかっばかっ、パカッ、パカッ……」
松尾先生「元気な馬になって、出てきちゃいました」
それを聞いた子供たちは、大きな声で笑い、大喜びです。
松尾先生「不思議だね。河童がいつのまにか馬になっちゃうなんて。またあるとき、時計が、時計、時計時計時計……つぶやきながらトンネルをくぐると~」
子供全員「とけい、とけいとけいとけい……けいとけいと、けいと、毛糸……」
松尾先生「毛糸に変身しましたね」
この後も、「ボタン→田んぼ」、「ロボ→ぼろ」など、子供たちは大きな声で一つの言葉を繰り返し、変身を体験しました。

読み聞かせが終わると、子供たちは机と椅子を普段のアイランド型に戻し、それぞれが「へんしんトンネル」をくぐらせたら面白そうな言葉を考えます。
松尾先生「さっきは『とけい』が、『けいと』になっちゃいました。では、『ねる』はどうかな? ねるねるねる……るねるね。『るね』じゃ意味が分からないよね。これはダメです。ちゃんと変身できる言葉にしましょう。じゃあ、自分で変身できる言葉を探して、ノートに書いていきます。はいどうぞ」

子供たちはそれぞれ、思いつく言葉を何度も繰り返して言っています。
子供「カメラカメラ……」
子供「スイカスイカスイカ……」
子供「アメアメアメ……」
しかし、いろいろな言葉を口に出して言ってみるものの、なかなか変身せず、ノートに書けません。

松尾先生「考えたら班で発表してもらいます」
松尾先生は「けいと→とけい」と書き方の例を黒板に書き、ミニホワイトボードとペンを各班の代表に渡しました。

この場面での松尾先生の思い

クラスにはいろいろな子供がいます。授業中に教科書を開いてない子供、集中していない子供もいます。そのような子供も助け合いができるように、各班のメンバーを意図的に構成しています。

今度は班の仲間と一緒に考えます。
子供「うたうたうた……」
子供「そらそらそら……」
それぞれが思いついた言葉を繰り返してみますが、やっぱり最初はいい言葉が見つかりません。

それでも、だんだん書けるようになりました。

松尾先生による不親切ポイント解説

ここの授業では、「自分たちで書く」という活動をさせたかったので、あえて私が板書をせず、班ごとにミニホワイトボードに書いてもらいました。
最初は、全然思いつかない班がありましたし、勘違いしている班もありましたが、それでも子供たちに任せたことで、隣の班が何を書いているのかを自分から見に行くなどして、最後はどの班も書くことができました。

すべての班のミニホワイトボードが、黒板に並びました。
松尾先生「じゃあみんなで見てみようか」
各班が書いたことを、一つずつ、みんなで口に出して確かめていきます。

各班がミニホワイトボードに書いた言葉を、1個ずつみんなで声に出して読み、確かめていきます。

松尾先生「ベルトが何に変身するかな。さん、はい!」
子供全員「ベルトベルトベルト……トベルトベル、飛べる」
松尾先生「『ベルト』が『飛べる』になったね。いいね。拍手」

松尾先生「次にいきます。さん、はい!」
子供全員「つなつなつなつな……なつなつ、なつ、夏」
松尾先生「『つな』が『夏』になりました」

子供全員「ループ、ループループ……プループルー…」
松尾先生「プルー? プールにしたかったのかな。これは違ったね」

子供全員「しんぶん、しんぶんしんぶん……ぶんしんぶんしん、分身」
松尾先生「これはおもしろいね。他のとは違うの、分かるかな? 新聞って2文字ずつだよね。「しん」と「ぶん」。それが、「ぶん」と「しん」になって、一つの言葉になったね。これは今までのとはちょっと違っておもしろいね。いいね」

「いるか→かるい」と書いた班がありました。
松尾先生「これは、上から読んでも下から読んでもOKだから、回文といいます。これは「へんしんトンネル」とはちょっと違うタイプの言葉遊びだね」
その後も、「十四→四十」などの傑作が飛び出しました。

松尾先生「全部で20個以上出たね。すばらしいです。みんな、自分だけでこんなにたくさん思いつく? どうしてこんなにいっぱい出たの?」 
子供「みんなが考えたから」
松尾先生「みんなが考えたからだよね。自分で思いついたのが、1個でもあった人は?」
数人の子供の手が挙がりました。

「自分で思いついたのが、1個でもあった人は?」と尋ねる松尾先生。

松尾先生「まずこの人たちは素晴らしいよね。思いつかなかった人もいたよね。だけど、今、勉強できたでしょ。仲間が思いつけば一緒に学べるね。こんなに出てきたのはみんなのおかげです。はい、ありがとうの拍手!」
子供全員が、パン、パンパン!と大きく3回拍手し、協働しながら学ぶことの素晴らしさを確認して、授業が終わりました。

この場面での松尾先生の思い

学級経営では、主体性と協働の2点を重視しています。
それらが将来、生きていく上で大事だと思うからです。漢字が書けるとか、計算ができるとか、それ以上に、主体的に動けて協働できる人間だったら、とりあえず生きていけるだろうと考えているので、その力をつけてやりたいと考えています。

次の授業の準備

授業終了後、休み時間になると、外に遊びに行く前に、次の4時間目の学活の時間の準備をしました。
みんなで机の配置を変えたのです。
次の4時間目にはクラス会議を行うので、朝の学活のときと同じように、椅子を丸く並べる必要がありました。松尾先生からの細かい指示はありませんでしたが、朝の会ではうまくできなかった5班の子供たちも、今度はうまくできました。

机を後ろに下げて、スペースをつくっています。

※このレポートは、第4回に続きます。(全5回)

取材・文/林 孝美

【松尾英明先生の学級にまる1日密着! 不親切教師の自治的学級づくり】ほかの回もチェック⇒
第1回 子供たちとつながり、子供同士をつなげる朝の会
第2回 自由な立ち歩きOK!の算数授業

関連記事

※Edupediaのサイトでも、松尾学級への密着レポートを独自の切り口で公開しています。以下のリンクからお読みください。
https://edupedia.jp/archives/35118
https://edupedia.jp/archives/35121

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました