「主体的・対話的で深い学び」のある授業に変えるには?<後編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#22】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

前回、「主体的・対話的で深い学び」を通して、資質・能力を育んでいくための授業改善の基本的な考え方をお話ししました。今回は、さらにそれを深めていくために考えておきたいことや、管理職やミドルリーダーが考えるべきことについて説明していただきます。

 学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」を通した資質・能力の育成をすることが求められていますが、赴任した学校では旧来型の一斉授業を行う先生が少なくありません。校長先生は、よく授業改善の必要性について話をされますが、「なかなか変わらない」ともおっしゃっていました。私自身も子供の頃に受けた旧来型の一斉授業から、「主体的・対話的で深い学び」のある授業に変えていくためにはどうしたらよいでしょうか。(小学校、20代) 

子供に力を付けるためには、終末をていねいに行うことが大事

 前回、授業構造に沿って説明をしましたが、若い先生にとっては、子供たちが身を乗り出すような導入があり、友達と活発に意見を交換できるような話合いの展開があり、終末は没頭しながら少し長い文章を書いていけるような授業を行うことができれば、まずは安心というところだと思います。
そこからもう一歩進んで、さらに授業の質を高めていくとすると、先ほどの導入、展開、終末の3つの場面で表れてくる子供の姿が、その日の授業でめざすゴールの姿(より具体的な子供の姿に落とし込まれた評価規準)と、どれくらいきれいに重なるように意図的な授業設計ができるかが問われるわけです。
授業の中で子供たちの思考力(の育成)を期待するとすれば、(思考、判断、表現に関わる)話合いのところに意図的な手を打つ必要があるでしょう。「物事を比較しながら考える」「物事を関連付けながら考える」といった力を育みたいのであれば、展開の場面で、ただ「話し合いなさい」と言うのではなく、例えば思考ツールを使うことが考えられます。紙やホワイトボードなどを使いながら、複数の事象を比較しながら意見交換するといった姿が出てくれば、展開での話合いが期待するねらい(育成をめざす資質・能力)とシンクロしていく可能性が高まるでしょう。

すでにホワイトボードなどを使って意見交換をしていくことはよく行われているが、そのねらいをより明確にし、意図的に行っていくことが大切。

あるいは、「その日の授業はとりわけ態度が大事だ」ということであれば、どのように自分の学ぶ姿勢が変容してきたかを本人が自覚して、その変容自体は自分のどのような行為(あるいは他者との関わり)によって生まれたかを自覚できるようにすれば、より確実に態度化していくことが期待できます。とするならば、終末の場面でただ長く書くだけではなく、自分の変容を対象化し、それが生まれた要素や要因(例えば、友達との関わりなど)を明らかにして文字言語で書くことができれば、先のようなねらいが実現できる可能性が高まるでしょう。もちろん、先生は、子供たちがそうしたことを意識しながら書いていけるような投げかけ方をすることが大切です。
どちらにおいても、授業の中で学習してきた知識が板書上で整理され、その関係が可視化されているということは大切です。多様に意見交換をした後、子供たちが板書を見ながら、「なるほど、こういうこととこういうことが、こういう関係だったのか」とか「なるほど、この時代にこういうことやこういうことが起こるのは、こんな時代だったからなのか」というように、知識が構造化され、概念化されていくような板書は、子供の思考を整理し、深めていくための大きな助けになります。
前回お話ししたように、子供たちがハッと身を乗り出し、侃々諤々意見交換をし、グッと集中して文章にまとめるというのは現象としての表われですが、それがここまでお話ししたように授業(や単元)のめあてや目標、ねらいやゴールとうまくシンクロしたものとして設計されてくれば、期待する資質・能力が育成される可能性が高まるわけです。そんなに簡単ではないと思いますし、若い先生は慌てずに少しずつ勉強をしていけばよいでしょう。
先の導入、展開、終末で言えば、一番分かりやすく力を付けるためには、まずは終末をていねいに行うことが大事だと思います。しっかり文字言語を使ってふり返りながら書くといったことを、ていねいに行っていくことです。どうしても授業改善を図るときには、入り口である導入に力を入れる傾向があるのではないでしょうか。もちろんそれ自体は、子供たちが主体的に学びに向かう上で大切ですし、その工夫が悪いわけではありません。しかし、学んだことをふり返り、整理して結び付け、より構造的でより概念的な知識へと高めていくためには、終末を大事にしてほしいということなのです。

授業ステージの質を上げていくために有効なのは、校内授業研究会の活用

さて、こうした授業改善について、以前、ある校長先生が、「全校で取り組んでいきたいが、なかなか先生方の意識改革を図ることがむずかしい」と、お話ししておられたことがあります。そうした学校経営者や、それに近い立場の方はどのように取り組めばよいか、少しお話をしていくことにしましょう。
ここで大事なのは、授業のイメージの問題だと思います。多くの人が頭の中で授業のイメージを描いて形にしているはずですが、そのイメージは人によって異なっているはずです。「力技で教え込んでいかなければいけない」と思っている人もいるかもしれませんし、「いや、子供たちは自分たちでどんどんできるから大丈夫」と思っている人もいるかもしれません。非常に質の高い授業イメージもあれば残念ながらそうでもないものもあるでしょうし、曖昧なイメージもあれば、クリアなものもあるでしょう。そうした先生方のイメージを擦り合わせながら、期待するような質の高いものにしていき、加えてよりクリアにしていくことができれば、学校全体での授業改善の実現可能性が高まるだろうと思います。
問題はそれをどうやって進めるかということですが、校内の授業ステージを共有化しながら質を上げていくために最も有効なのは、校内授業研究会を活用することだと思います。日本の学校はどこもそれを活発に行っていますから、もし私が学校長であるとすれば、年間に何度かある校内授業研究会の中でも、特に年度の最初に行われる会のトップバッターをかなり意識します。
トップバッターの授業はその年度の取組をシェアしていくための重要なポイントです。もし、このトップバッターの授業で子供たちがとても生き生きしていたとか、子供たちが活発に発言していたとか、子供たちが最後まで一生懸命ふり返りを書いていたというシーンを見て共有することができれば、「そうか、私たちがめざしている授業って、こういうことだよね」と、多くの先生の目が開かれ、授業イメージが転換するだろうと思います。ですから、最初の授業公開者を誰にするか、を意識するのがよいでしょう。どんな学校でも校内を見渡せば、一定の授業力をおもちで、子供たちも力を付けているクラスはあると思います。そういう方に白羽の矢を立てることが大事です。

校内授業研究会のトップバッターの授業を通して、その年にめざす授業改善の方向性を示し、共有することで、学校全体の雰囲気を醸成していく。

その授業を見た先生方にとっても、「ああ、うちの学校の子供たちもこんなふうにがんばれるのか」と気付くことは嬉しいことだと思います。それによって、好ましい前向きな雰囲気が醸成されることになるでしょう。いくら100ぺん「こんな授業をやりましょう」と口で唱えてみても、それを共有することはむずかしいものだと思います。しかし、百聞は一見に如かずではありませんが、ライブで目の当たりにすることができれば、発想が転換されるだろうと思います。
やはり教師という職業を選んだ先生方にとっては、子供の姿を通して伝えること、子供の姿を通して語ることが一番効果的なのではないでしょうか。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、8月10日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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