「主体的・対話的で深い学び」のある授業に変えるには?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#21】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、旧来型の授業から「主体的・対話的で深い学び」のある授業へと、授業改善を図っていくためのポイントについて紹介していきます。

 学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」を通した資質・能力の育成をすることが求められていますが、赴任した学校では旧来型の一斉授業を行う先生が少なくありません。校長先生は、よく授業改善の必要性について話をされますが、「なかなか変わらない」ともおっしゃっていました。私自身も子供の頃に受けた旧来型の一斉授業から、「主体的・対話的で深い学び」のある授業に変えていくためにはどうしたらよいでしょうか。(小学校、20代) 

アウトプット型の授業に変えていく、という発想

 この質問を読んで、最初に確認しておいたほうがよいかなと感じたのは、旧来の一斉授業がすべて悪いとか、否定されるべきものだと捉える必要はないということです。学校の授業の中にはいろんな場面があるわけで、先生が子供たちに対して一斉授業の形をとらなければならないシーンもあると思います。そういうときには、子供たちに分かりやすく話ができるとか、誰にも伝わるように説明できるとか、適切に指導できるといった力をもっていることは、とても重要なことです。そういう意味では、すべて教えることは悪いことだとか、好ましくないことだと否定的に捉える必要はないと思います。
とりわけ「個別最適な学び」といった議論が出てくると、「一斉指導は不適切だ」といった雰囲気まで出てきかねない状況です。そのため、まず「一斉指導」や「教える」という先生の行為は、決して否定されるべきものではないということを確認しておきたいと思います。そうしないと、二項対立の話になり、学ぶのか教えるのかと、極端から極端へ振れるような話になってしまっては困るので、そこを確認するわけです。

「一斉指導」や「教える」という行為は、決して不適切なものでもなければ、否定されるべきものでもない。

その上で、子供たちがより主体的に意見交換をしながら学びを深めていく姿を実現したいというのは、当然、期待するところだと思います。そのために、若い先生がとりわけ何を考えていけばよいかというお話をしていくことにしましょう。
授業を変えたり、授業のイメージをつくり上げたりするときに、あれもこれもと考えても実現可能性はなかなか高まらないので、若い先生は一点突破でイメージを明確にして、チャレンジしていくのがよいと思います。簡単に言えば、これまでの授業は、どちらかというと先生が一方的に話をし、子供たちがそれを聞いているというインプット中心の授業だったのではないでしょうか。そのインプット型の授業から、子供たちが自分の考え方を発表したり、意見交換したり、自分の考えを書いたりしていくようなアウトプット型の授業に変えていく、という発想が一番分かりやすいのではないかと思います。
アウトプットの場面を増やすということが大事なポイントなわけですが、では、アウトプットするとは何かと言えば、音声言語や文字言語で話したり書いたりするということです。より潤沢かつ、質の高い「話す」「書く」といった学習活動を授業の中に一定のボリュームで確保しようということになります。
なぜアウトプットが大事なのかというと、アウトプットしている場面では、自分の頭の中にある知識を活用し、発揮しているからです。この活用・発揮が子供たちにとって、重要な資質・能力の育成につながります。ですから、現在の授業を見直してみて、子供たちが聞いているばかりで、アウトプットする時間がないと思えば、その時間を増量していくことが必要です。もしほとんど、そんな時間がなければ5分くらいに増やしてみるとか、5分が安定的に行えるようになったら10分に増やしてみるというように取り組んでいくとよいでしょう。
ただし、どうしても自分の行為は自覚しづらいので、自分自身の授業を動画で録って、見てみるとよいと思います。以前、私も若手の頃に自分の授業を撮影して見返したり、文字に起こしたりしたというお話をしましたが、自分自身は子供たちにアウトプットさせているつもりでも、「自分はこんなに長い時間しゃべっていたのか」「こんなことを話していたのか」と、驚くことになるかもしれません。もしかしたら、長くしゃべっている人ほど本人が、それを意識していない可能性があるかもしれません。ですから、まず動画や音声で確認してから、改善を図るとよいでしょう。
まずは、そのようにして子供たちのアウトプットのボリュームを増やすという量的な改善が求められます。

「導入・展開・終末」の構造を意識して工夫する

一定のボリュームが確保できたら、次にアウトプットを質的に上げていくことが必要です。アウトプットの質を考える上では、導入と展開と終末という授業の構造を意識して工夫するとよいでしょう。
まず導入では、子供たちの興味・関心を喚起していく工夫が必要です。子供たちが学びに主体的に取り組む状況がつくれなければ、結果的に子供の学習が本物になっていきません。ですから導入は、教材の工夫だとか、提示の仕方の工夫をすることで、子供たちが「おもしろそうだぞ!」「何でこんなふうになっているんだろう?」と学習に取り組み始めるようにしていくことが大事です。
その方法については、過去の連載でも少し触れてきましたが、ちょっと物や画像を用意するだけでよいと思います。最初は、ICTを活用して少し大きく写真や画像を見せるくらいのことから始めるので十分です。ただ「教科書の何ページを見ましょう」と言うのではなく、それが電子黒板に大きく映るだけでもよいでしょう。そこから、少しずつ画像や物を工夫していけばよいのです。まずは、興味・関心が湧かなければ、すべての次の動きが出てきませんから、ほんの一手間でよいので、そのような導入の工夫をしてみましょう。

教科書の画像や資料を大きくして示すといったくらいの工夫からでもよい。今なら、ICT機器があるから事前の手間もかからないはず。

次に展開の場面は、「音声を使って話し合い、交流し合う」ということになります。ここで、先にお話をしたアウトプットのチャンスが出てくるわけです。この子供同士の交流は、若い先生がつくり込んでいくときにむずかしいところが出てくるでしょう。それは、人数が増えれば増えるほど、子供たちの話合いの構成がむずかしくなることです。ですから、若い先生はまず2人組でペアトークをやっていくところから始めるとよいでしょう。子供たちがペアトークをできるようになったら3人組のトリオでの話合いを行い、トリオで話せるようになったら、グループでの意見交換を行うというように、話合いのサイズを小さいものから徐々につくり上げていくようにするとよいと思います。
やはり、いきなり「クラス全体で話しましょう」と言われても、子供たちにとって難易度が高いものです。しかし、「お隣と話し合いましょう」というのであれば、両者で話し合うチャンスが生まれるし、子供たちは意見交換をしてくれるでしょう。そのようにして、徐々に話し合うことに慣れていき、自ら話そうとする姿勢を身に付けていけばよいのですから、若い先生はまずペアトークから始めてみることをお勧めします。
そこから次第に、グループでの話合いができるようになってきたら、思考ツールを導入してみるとか、ホワイトボードを使って話合いをするとか、模造紙を使っていくといった工夫をしていけば、話合いがさらに活性化し、質も高まっていくことでしょう。そのようにやっていけば、若い先生にとっても、あまり難易度が高くないのではないでしょうか。そうした学習過程を繰り返すことで、子供たちも「話し合うのは楽しそうだな」と思えてくるでしょうし、先生にとっても、「グループで話しましょう」と言うと、どうしても話合いに参加できない子供が出てきてしまう、という状況を変えることができるのではないでしょうか。
展開が終われば終末ですが、終末では文字言語によってふり返り、学びを見つめ直すというイメージです。授業での自分たちの学びを、もう一度ていねいにふり返って、見つめ直して、文字言語で表す場面が用意できると、学習がグッと深まっていくと思います。若い先生は、授業を行うときに「どうすれば学びが深まるだろうか?」と悩まれると思いますが、仮に話合い自体があまり上手に展開できなかったとしても、このふり返りをちょっと長めの文字言語で行うことで、学びが深まる可能性が高まるでしょう。
ふり返りを行うときに、特別に長い作文を書いてもらうとか、美しい文章で書かせようとなると大変ですが、これまでよりも「ちょっと長めに書く」ということでよいと思います。むしろ字の稚拙さや、誤字脱字には目をつぶる気持ちで、長めに書かせることによって、子供たちの頭の中の知識がつながり始めますから、期待するような姿が現れ始めるだろうと思います。
そのような感じで授業改善を図っていくと、アウトプットのシーンが以前よりもグッと増えて、学びもより深いものになってくると思います。

誤字・脱字には最初は目をつぶって、文字言語で「ちょっと長めに書く」だけでも、子供たちの頭の中の知識がつながり始める。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、8月3日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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