【松尾英明先生の学級にまる1日密着! 不親切教師の自治的学級づくり】 #1 子供たちとつながり、子供同士をつなげる朝の会

千葉県公立小学校教諭

松尾英明

2022年夏の発売以来、大論争を巻き起こしている話題の教育書『不親切教師のススメ』(松尾英明・著/さくら社)。その本では、あえて「不親切」を意識しつつ子供とかかわる――そんな教師のあり方と、子供の主体性を育てて任せる学級づくりが提案されていました。では、著者の学級では、実際どのような指導が行われているのでしょうか? 新年度が始まって間もない2023年5月末に、松尾英明先生の学級(2年生)に、まる1日密着。その実践を5回に分けてレポートします。


<プロフィール>
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年宮崎県生まれ、神奈川県育ち。「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大学教育学部附属小学校等を経て研究を続け、現在は千葉県公立小学校教諭。全国で教員や保護者を対象にしたセミナーや研修会等の講師を務めるほか、メルマガ、ブログ等でも情報発信を行う。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『不親切教師のススメ』(さくら社、2022年)ほか著書多数。


朝の会

松尾学級の1日は、朝の会の準備から始まります。
松尾先生が担任を務める2年4組では、基本的に机をアイランド型に配置しています。

松尾学級のアイランド型の机の配置。

朝の会のために、まずは子供たち自身が机の配置を変えます。
松尾先生「椅子で丸をつくろう。どれぐらいかかるかな。この間は1分以上かかったよ」
タイマーをスタートさせ、時間を意識させると、子供たちがすぐに動き出します。他には具体的な指示はありません。子供たちに任されています。

朝の会のために机と椅子を動かす子どもたち。

2分経過。
この日は、椅子を丸く配置できましたが、椅子と椅子の間隔がとても狭くなってしまいました。
松尾先生「これじゃ、朝の会ができないね。なぜ狭いかわかる? 原因は5班です。5班はもっと机を下げないとダメです」
松尾先生は「〇〇してはダメ」と、失敗する前に注意するのではなく、子供たちにやらせてみてから指導をします。5班の子供が机を下げると、スペースが広くなり、椅子の並び方を修正できました。

松尾先生「もう2分半たっちゃった。でも、だんだんと上手になるからね。やり方を覚えてね」

この場面での松尾先生の思い

今はまだ、朝の会の準備に時間がかかっていますが、やがては何秒かでできるようになると思います。これでもだいぶ早くなりました。
新学期が始まったばかりのころは、こっちで指導をしていると、あっちで喧嘩が始まり、誰かが大きな声を出して……といった状態でしたから、子供はどんどん成長しています。

松尾先生「よし、始めよう!」
朝の会が始まりました。

輪になって、日直が朝の会を進行します。

朝の会を進行するのは日直の子供です。カードに書いてある日直用のせりふを読み上げます。

この場面での松尾先生の意図

最初は、①朝のあいさつ、②朝の歌……など、項目だけをカードに書いておいたのですが、それだけでは子供たちは、なんと言っていいかわからなかったのです。
そこで日直の台詞を書いたカードをつくり、今はそれを読んでもらっています。
やはり、段階があると思うのです。まずはカードの台詞を読む、次に項目を見ながら話す、最終的には何も見ないで話すことを目指しています。
それぞれの子供たちはまだ、日直を2回か3回しか経験していないので、何度も経験し、だんだん覚えてきたら、そのうちカードを使うのはやめようと思っています。
だからといって私から「やめよう」というつもりはなく、ある日、「カードが無くなっちゃったから、自分たちでやってみる?」という形で子供たちに任せたいと考えています。

あいさつをして、朝の歌をみんなで歌った後は、健康観察の時間です。
松尾先生「健康観察をしますから、立ちましょう」
こうして、まず全員が立ち上がります。子供たちはなんだか楽しそうです。
そして、松尾先生はテレパシーで(?)子供たちに何かメッセージを送ったようです。
松尾先生「わかった? 今、伝わった?」
子供たち「わかんない」
松尾先生「せーの! じゃんけんぽん!」

健康観察の前に、みんなでじゃんけんをします。

先ほど松尾先生がテレパシーで子供たちに送ったのは、「じゃんけんで何を出すか」だったのです。
「わーっ!」と盛り上がる子供たち。
先生とあいこの子だけが立ったまま残り、勝った子、負けた子は座ります。
つまり、松尾先生と心がつながった(という設定)の子供たちが残るのです。松尾先生とのじゃんけんを数回繰り返し、残りが4人になったところで、今度は子供たちだけでじゃんけんをします。
その結果、最後に勝ち残ったのはAくんでした。Aくんの強運をみんなが拍手で称え、Aくんから健康観察が始まります。
松尾先生「じゃあ、いきます。Aくん」
Aくん「はい、元気です」
松尾先生「完璧だね!」
Aくんの隣の子から時計回りに、松尾先生が一人一人の名前を呼ぶと、子供は松尾先生を見て「はい、元気です」などと答えます。松尾先生も一人一人の顔をよく見て、声を聴き、それぞれの子供に対して、「明るくていい声です」「元気いっぱいだね」「ばっちりだね」「姿勢がいいね」など、それぞれの子供に温かい言葉をかけます。
このように、じゃんけんも健康観察も、松尾先生と一人一人の子供の心を結びつけるツールとして温かく機能しています。
なかなか言葉が出ない子には、他の子からすかさず「がんばれー」の声がかかります。困っている友達をきちんと待てる姿勢が、子供たちの中に育っていました。
松尾学級の1日は、このような温かい活動から始まります。

1時間目 体育

この日は校庭で、3組との合同体育です。松尾先生が2クラスを指導します。

2クラスが集合している様子。

まずは3分間走です。
松尾先生が先頭になって走り出し、子供がその後について校庭を走ります。

広い校庭をめいっぱい使い、3分間走をしています。
松尾先生による不親切ポイント解説

3分間走では、私が先頭になって走り出しましたが、やり方はすでにわかっているはずなので、「ここまで走ったら、もう行けるだろう」と思った時点で、手で合図をして私は外れ、後は子供たちに任せました。

3分間走を終えると、再び集合しました。この授業ではバトンを使うのですが、見学していた二人の子供が自らバトンを運び、松尾先生に渡していました。

松尾先生による不親切ポイント解説

バトンは最初から私が持っていてもいいのですが、あえてそれをしませんでした。
以前、見学中に自分から「先生、何かできることはありませんか」と言ってくれた子供がいたので、「じゃあ、これをお願い」と手伝ってもらい、その後みんなの前でその子を、
「『何かできることはありませんか』は、一番うれしい声がけなんだよ」とほめたことがあります。そのせいか、今日も見学していた二人が手伝ってくれました。

松尾先生「では、走りながらバトンをもらう練習をします」
子供たちは6人ずつの班に分かれ、走る順番を決めて、スタートします。
松尾先生「いくよー。よーい、ピーッ!(笛)」

班ごとに、コーンを折り返してきて次の走者にバトンを渡します。

班ごとに、一人ずつバトンを持って走り、コーンを折り返して戻ってきて近くにきたら、次の子供が走り出し、バトンをもらいます。
子供たち「がんば、がんば、がんば!」
子供たち「いけいけいけ」
みんな楽しそうに走っています。応援も楽しそうです。

松尾先生が1位、2位、3位……と全員が走り終わった班に順位をつけます。
子供「おもしろかった!」
子供「もっとやりたい」
子供たちはやる気満々です。

バトンを渡すときのコツを再確認して、2回目をスタートしようとした、まさにそのときです……。
ポツリポツリ……と、雨が降り出しました。
ピーッ。すかさず松尾先生が笛を吹きました。

松尾先生「解散! 大雨が降ってくるから教室に戻ります!」
それは突然のことでしたが、子供たちは特に驚く様子もなく、文句を言うでもなく、「雨だ~」などと言いながら、一目散に校舎へ走っていきます。
授業時間はあと10分ほど残っていましたが、その後、バケツをひっくり返したような土砂降りとなったので、的確な予想と判断だったと言えそうです。
松尾先生によると、「長年の経験上、この降り方は確実に土砂降りになる、とわかりました。低学年の子供たちを1時間目から全身ずぶ濡れにしてしまうと、その後、1日中悪影響が出ますから、一瞬で判断し、指示しました」とのこと。
子供たちは、リレーをもう1回やりたそうでしたが、その気持ちの切り替えの早さには、驚かされました。松尾先生と子供たちの信頼関係が垣間見えた瞬間でもありました。

この授業の中では、何度か集合を指示する場面がありましたが、子供たちは注意されることもなく速やかに集合できていました。
しかし、松尾先生いわく、「新学期が始まったばかりのころは、もっと遅かった」そうです。
「『集合!』と声をかけても、ゆっくり歩いてくる子もいれば、勝手に水筒の水を飲みに行く子もいて、バラバラでした」と言います。
そこから2か月弱。どのような指導で現在のような姿になったのでしょうか。

松尾先生の思いと指導意図

あえて指導を我慢し、「待つ」ことを意識しています。それは、今、何をするべきなのかを子供たち自身に気付いてほしいし、きちんととできている子をほめたいからです。
例えば、体育の集合の場面であれば、「もう、集まっているね」「早いね。〇班さん」と、できている子をほめるためにあえて待っています。
このクラスの子供たちは、最初のうちは集合が遅かったのですが、私はなるべく「早くしなさい」と言わないで済むように工夫しました。 できない子を指導するのではなく、できている子をほめる──。これを何度か繰り返すうちに、だんだん早く集合できるようになりました。
もちろん、まだまだ遅いのですが、この子たちに最初に出会ったときの姿をゼロだと思っているので、その成長には感動しています。

※このレポートは、第2回に続きます。(全5回)

取材・文/林 孝美

関連記事

※Edupediaのサイトでも、松尾学級への密着レポートを独自の切り口で公開しています。以下のリンクからお読みください。
https://edupedia.jp/archives/35118
https://edupedia.jp/archives/35121

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました