「今日は昨日より、良い先生になりたい」 【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第18回】

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授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

前回、熊本県の授業名人(小学校・道徳科)の赤星桂子指導教諭が、独自の学級経営を工夫していったことや、道徳の研究会の先輩方から学びながら道徳の授業づくりにのめり込んでいった過程を紹介しました。今回は、さらに独自の教材づくりに取り組んだことや、若手へのメッセージを紹介していきます。

赤星桂子指導教諭

地域の方を招いて直接質問や対話をする

前回、道徳の授業づくりに取り組み始めた経緯をお話ししましたが、道徳の授業づくりということでは、道徳部会で学んだことを生かし、独自の教材づくりに力を入れた時期もありました。テーマは「身近にいる輝いている人」です。

例を挙げると、訪問看護師の保護者が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんを看護されていました。その方は、かすかに動く脚でALS用のコンピュータを使って絵を描いておられ、その絵がとてもすばらしいという話を伺ったのです。私は「ぜひその方に会ってみたい!」と思い、早速、その保護者に連絡先を聞き、その患者さんに会いに行ってお話を聞きました。病気だからとふさぎ込むのではなく、明るく前向きに生きておられる姿に感動しました。そして、その精一杯生きる姿を道徳の教材にしたのです。

あるいは校区内の方で、捨てられた犬や猫を保護している方がいらっしゃると聞くと、やはりその方に会いに行って話を聞き、最終的にはその方と共に保護された犬や猫を学校に招いて道徳の授業をしました。そのように地域の人を教材にしていくと、やはりその地域だからこそ子供たちに響くところがあると思います。すばらしい教材のネタは身近なところにたくさんあるもので、それをキャッチする目が私たち教師には必要です。もちろん教材をつくるのは大変ではありますが、本物に触れると子供たちの目がキラキラして「本当にやってよかった」と思えるのです。

当時は今と異なり、教科書がなかったため、地域の方の力も生かした自作教材の授業を提案しました。現在は教科書があり、教科書教材を使うことが主流になっているので、教科書も大事にしつつ、それに関連する地域の方を招いて直接質問や対話をすることにより、子供たちの学びに向かう力を喚起するような形で実践してみてもよいのではないかと思います。

以前、取材時に赤星先生が見せてくださった授業は、子供たちの過去のアンケート結果を導入に使いながら、教科書教材の内容で学んでいくもの。子供たちが自分ごととして考え、意思決定していく姿が印象的だった。

実は、こうした独自の教材をつくろうと考えたのは、自主的に研修に参加したことがきっかけでした。そのときにパワーポイントを使って、写真や資料などを貼り付け、言葉を添えて教材をつくっていくような授業づくりを勉強したのです。もし教材をゼロから文章だけでつくろうとすると、「最初のセリフは何にしたらいいか」などと悩んで、きっと「無理だ」と思ったはずでしょう。しかし、写真や資料と文章で構成するならば、「意外にできるかも」と思えるようになりました。

熊本県には、地域教材「くまもとの心」があります。その中の「道しるべ」という教材には、昔、旅人が行き倒れにならないように多くの道標を彫り、たくさんの人の命を救ったという話があるのですが、それを読んだら、「自分の目で見てみたい」と思うようになりました。実際にその場所に足を運び、地元の詳しい人を探して話を聞いたり、実際の道標の写真を撮ったりしたのです。そして、「人のために努力し続ける地元の人のことを子供たちに伝えたい」という熱い思いをもって授業をすると、実際に子供たちも「へ~っ、すごい!」と興味をもって学んでくれます。そんなとき、私自身も楽しくなります。そうした経験があったため、この勉強会を機に、独自の教材づくりに力を入れて取り組むようになりました。

全部の教科で教材づくりに取り組むということはむずかしいかもしれません。しかし、若い先生方も、まず自分の好きな教科、得意な教科で楽しく教材づくりに取り組んでみたら、授業のイメージも変わってくるのではないかと思います。

子供たちや保護者との出会いを忘れない

私は、この企画の取材のお話を受けたことを機に、ごく若手の頃に書いた論文を探し出して、読み直してみたのです。そこに記されていたのは、今から考えると拙い実践ではありますが、私なりにコツコツ努力していた実践の足跡でした。そして、指導主事の先生から教えていただいた「今日は昨日より、良い先生になりたい」という言葉が記されていました。初任のときには、日々うまくいかなくて涙することもありましたが、採用者も少ない中、やっとの思いで教師になれたということで、必死になって勉強していた私の思いそのものだったと思います。

「今日は昨日より、良い先生になりたい」という思いをもって、子供の学びをつくり、子供たちの姿から学び続けている赤星先生。

その後、私に教師としての仕事の楽しさを教えてくれたのは2校目で出会ったS先生でしたし、道徳の授業のやり方が全く分かっていなかった私に、多くのことを教えてくれた道徳部会の先生方でした。まだまだ未熟ではありますが、本当にたくさんの先生方との出会いを通し、多様な面で支えられながら、教師としての力量を伸ばすことができたと思っています。

そして忘れてはいけないのが、多くの子供たちやその保護者のみなさんとの出会いです。実は若いころ保護者から次のような言葉をもらいました。

「先生も忙しい中、学級通信を書くことは大変だったと思います。子供に学校の様子など聞いても生返事をするだけですが、学級通信のことを話題にして話しかけるといろんなことを話してくれます。親子の会話がもてて、とっても嬉しく思っています。子供の名前が書いてあるとハッ!! とします。これからも、どんなことでもいいですから、書いてお知らせください。楽しみにしております」

若くてまだまだ学級経営はうまくできていなくても、一生懸命な思いは、しっかり伝わっていたんだなあと思いました。応援してくれた保護者のみなさんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今までたくさんの失敗もしてきましたが、それも自分を伸ばすための大切なことだったと今、思えます。

教師というものは、本当に多くの方々と出会い、深く関わる仕事です。この連載の初回でお話をしましたが、若い先生方には、その人との出会いを大事にして、そこから多くを学んでいってほしいと思います。そして、「今日は昨日より、良い先生になりたい」という思いを、ずっともち続けてほしいと思います。その気持ちがあれば、今は少々未熟であったとしても、必ず良い教師になれるはずです。もちろん、私自身もこの言葉をずっと大事にしていきたいと思っています。

【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、7月27日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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