家庭との連携を行うためのポイントは?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#19】
先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、家庭との連携を行うためのポイントについて説明していただきます。
社会環境や家庭環境の変化で、子供の困り感も多岐にわたります。学校で子供の支援をしても、家庭との連携の在り方次第で、支援が効果的になるかどうかが変わってくると思います。より効果的な家庭との連携を行うためのポイントは何でしょうか?(小学校、20代)
保護者に学校での子供の姿を伝えていく
学校の先生が子供と信頼関係を築くことは、言うまでもなく必須のことですが、その後ろにいる保護者とどのような関係を築くかということも極めて重要です。しかし、保護者との関係構築といったことについては、なかなか現場に出るまでに学ぶ機会は得られないため、そのむずかしさに苦労されているところではないでしょうか。
今回のご質問について端的にお答えするならば、「いかに保護者との信頼関係を構築するか」の1点に尽きます。保護者の信頼が得られれば、かなり教育効果は高くなるものです。「あの先生は、うちの子供のためにがんばってくれる先生だよな」とか「あの先生は、今年度新しく来た先生だけれど、若くてフレッシュで、子供も『学校が楽しい』と言ってくれているからいいよね」という思いを保護者がもってくれるかどうかが、最大のポイントでしょう。
そう言っている私自身の初任者の頃を思い起こしてみると、恥ずかしくなるようなことをいっぱいしていたと思いますし、周囲から心配されるようなこともたくさんあったのではないかと思います。そんな初任者でも、家庭訪問に行ったら、その家のおじいちゃんやおばあちゃんがよもぎ団子をとっておいて、出してくれるわけです。かつてはそんなことがあったんです。そこには地域の学校の先生に対する願いや期待があったと思います。当時の私のような若造に対しても、「先生、よく来てくれました」と喜んで迎えてくださるわけで、「ああ、教師ってこんなふうに大事にしてもらえる仕事なんだな」と思ったことを覚えています。
その頃、同じ学校の先生には力量の高い方がたくさんいました。授業力の高いベテランの先生だったり、コンクールがあると必ず子供たちが賞を取るようなすご腕の先生だったりで、私だけが二十歳そこそこの若造なわけです。まだ授業力もないわけですし、どう考えたところで一人だけへなちょこで、危なっかしく見えたのではないかと思います。
ただ自分にできることは、熱意をもって一生懸命に取り組むことだと思い、できるだけ子供と関わって一緒に遊び、共に時間を過ごすことには力を入れて取り組んでいました。その関わりを通して知った子供たちの姿は、できるだけ家庭にお知らせすることも徹底して行っていました。そんな、若さのもっている良さはあったのではないかと思います。若いエネルギーやフレッシュな行動力だけはあって、それはもしかしたら、大ベテランにはない部分だったかもしれません。
おそらくは、学校の先生に対する信頼というのはそういうところから生まれるのではないでしょうか。保護者のみなさんはものすごい達人のような授業ができることだけを望んでいるわけではなく、目の前の子供たちに対してどれだけ本気で真剣に、ていねいに関わってくれるかを見ているのではないかと思うのです。若くて経験不足でも、子供たちに対するその熱意と真摯さ、誠実な姿勢があれば、保護者は安心するのではないでしょうか。その熱意や子供と関わる姿勢が伝わっていれば、「あの先生は黒板の字はきれいとは言えないけれど、でもとても一生懸命で、誠実にうちの子に関わってくれている」という思いになるのではないでしょうか。逆にそれが感じられなくて、「ちゃんと子供のことを見てくれているのかな」「心配だな」と思い始めると、先の「黒板の字」がとても気になり始めてくるのだと思うのです。
保護者の学校に対する思いは今も変わらない
先のように私が若手だった頃からは随分、時間が経ってはいます。しかし、基本的に保護者の学校に対する思いや願いは今も変わらないと思いますし、学校や先生に対する信頼や期待も変わらずあると思っています。そこには、そもそも学校というものがこれまで果たしてきた、成果の積み重ねがあるでしょう。子供たちのお父さんもお母さんも、おじいちゃんやおばあちゃんも、自分たち自身が学校に行って学んだし、学校の先生との関わりの中で生涯にわたって生きる糧となるようなものを身に付けてきたはずなのです。各地域にある学校は大事な場所だと思っているし、学校はなくていいとか、先生はいなくてもいいなんて思っている人はいないはずです。
そうした期待や信頼があるがゆえに、その裏返しとして多少、厳しめにものを言う方がいるかもしれません。あるいは時代とともに少しずつ変わってきて、教育を消費者サービスのような感覚で捉えてしまっている方も多少はいるかもしれません。
そもそも学校を、相対する者と捉えているということはなく、まず学校の先生に信頼を寄せようという土壌がベースにはあると考え、保護者と関わっていくことが大切です。もちろん、多少関わり方がむずかしい方もいらっしゃるかもしれませんが、大半の方は今も変わらず、学校の先生に信頼を寄せようという気持ちをもち続けているということを前提に、それを先生方がどう自分たちのものにしていくかを考えていくことが必要でしょう。
そのためには、学校での子供の姿を伝えていくことが一番だと思います。保護者の側からすると、学校の中は見えにくいものでしょうし、「うちの子は学校でどうしているかな」と思っているはずです。ですから、日々、学校の中で楽しく過ごし、授業で学んでいる子供たちの姿を伝えていくことが大切でしょう。「今日、授業の中でこんな意見を発表していましたよ」「前よりこんな力を付けてきましたよ」「〇〇さんは友達にこんなふうに関わってあげられる、良いところがあるんですよ」と教えてもらったら、私が保護者なら嬉しいと思います。「そんなふうにがんばっているのか…先生はよく見てくれているんだな」とか、「うちの子って家では落ち着きがないけれど、ちゃんと良いところがあるんだな」と思うのではないでしょうか。
最初は、学級通信や連絡帳に書くことから始めるのが一般的かもしれませんが、いったん関係が築ければ紙に書かなくても口頭で伝えてもよいのかもしれません。おそらく、どの先生もそのための工夫をいろいろされていると思いますが、以前、私の研究室に長期研修で来ていた、横田美紗子先生の実践がおもしろく、「みんなの教育技術」で紹介もされているので、参考にされてはいかがでしょうか。
横田美紗子先生の実践紹介記事、URL:https://kyoiku.sho.jp/236505/
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今回は、保護者との信頼関係構築のための基本的な考え方について紹介をしていきました。次回は後編で、少し違った視点からの話をしていただきます。
【田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、7月20日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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