保護者と上手に関わるには?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #3

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの3回目のテーマは、「保護者と上手に関わるには?」です。教師という仕事は、子供たちとの出会いだけではなく、保護者との出会いも関わってきます。しかし、保護者との関わりは子供を通してなのです。保護者とすてきな関わりをもつ、そのようなコツが分かる話です。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

保護者ともつながることができる

教師という職業は、子供たちとの出会いだけでなく、その保護者との出会いも関わってきます。特に、年齢が低い子供たちであれば、保護者との関わりはより近くなります。私が教員になった当時から、「最近の親は変わってきた」「先生を尊敬しなくなってきた」と言われていました。だんだん教師に対する目も厳しくなってきています。

新採1年目から先生としてベテランの先生と同様に見られます。「モンスターペアレンツ」という言葉が世に出回ってから長い月日が経っています。今、教員になりたいと思う人が少ない、ブラックな職場と言われる理由の1つに保護者対応が挙げられています。でも、そんなに悪いことばかりではありません。よい人間関係を築くことができれば、保護者ともずっとつながっていくことができるのです。

第1回目の記事の中で、毎年年賀状をくれる教え子たちがいるということを伝えました。毎年年賀状をくれる保護者もいます。子供からでなく保護者からです。これもずっと続いています。先日、デパートの食品売り場で偶然、25年以上も前に担任した教え子とその姉妹、お母さん、お祖母さんに会いました。マスクをしていたにもかかわらず、大きな声で「吉藤先生!」と呼び止められました。それから昔話に花が咲き、なかなか終わらず、今度ぜひ会って食事をしようということになりました。学芸会などは家族で見に来てくれているので、その時の様子など教え子のお祖母さんもよく覚えていてくれました。教員をしているとこんな出会いもあるのです。

保護者との関係というと、つい身構えてしまいませんか? でも私たちは、保護者とだけ会っているわけではありません。子供を通してその保護者と出会っているのです。そのことを忘れないようにしたいものです。

クレーマー、怖い保護者のイメージのある学校職場ですが、その反対もあります。保護者からの苦情を受ける時、辛くなるのではなく、自分の指導に対する改善のチャンスのヒントをもらったと視点を変えて見ることも大切です。世の中の仕事の中で苦情のない仕事ってあるでしょうか? 私は、若い時に講演会で、ある企業の管理職から「お客様の苦情は宝の山」という話を聞いたことがあります。苦情を嫌々聞くのでなく、そこには、これから本社が改善するヒントがたくさん含まれているという話でした。今回は、自分の経験を通しての保護者対応について述べます。悩まれている先生たちに対して、少しでもヒントになれば幸いです。

誰もが「我が子は可愛い」

生まれたての赤ちゃんの泣き声や笑顔は、人を幸せにしてくれるものがあります。ましてや自分の子供だったらどれほど可愛いでしょうか。誰でも、我が子は可愛いのです。まずは、このことを頭に入れて保護者対応をしていきましょう。

多くの保護者は、我が子可愛さのために、他人の子供のことや喧嘩があった場合の状況を公平に判断できなくなってしまうことがあります。特にけがなどで自分の子供が被害者になった場合は大変です。喧嘩が原因であっても、受け入れられない場合もあるかもしれません。子供の喧嘩が親同士の言い合いになってしまう場合も、時にはあります。先生からの注意も素直に受け入れられない時もあるかもしれません。その原点は、すべて「我が子が可愛い」という親の気持ちです。

注意点3つ、よい点2つ

だから、保護者のどんな態度にも「我慢しろ」と言っているのではありません。保護者は我が子が可愛いと思って行動しているのだということを念頭において対応することが大事だと伝えたいのです。子供に問題行動があると、教師はつい保護者を呼び出した際に、その子供が悪かった点ばかりを話してしまうことが多いのですが、悪かった点を注意するだけでなく、その子供のよい点も話しましょう。日常生活の中で見られた褒める点もいくつか用意して付け加えて話してみましょう。

注意をされた保護者も「あっ、この先生はうちの子供のよい点も、日頃認めてくれているんだな」と分かると、教師の言うことも心に入りやすくなります。保護者対応の際、私は、注意事項を3つ言ったら、必ず2つよい点も伝えるぐらいのバランスで話します。子供のダメだった点を伝えながら、でもこんなよいところもあるのだからこれからがんばろうというスタンスで伝えていくのが大事です。

子供からつながる保護者との関係

20代の時に、その学校に10数年もいらした大ベテランの先生が退職されることになり、その先生が担任されていた3、4年生の後の5、6年生を受け持たされたことがありました。その学校に異動してきたばかりの私は、よく分からない若手の先生というイメージを保護者にもたれ、4月の初めてのクラス会では、「この先生、大丈夫かしら」という重たい雰囲気が流れていました。

その担任をしたクラスの中に、野球が得意な背の高いリーダー性のある男の子がいました。その子の保護者は熱烈に前任のベテラン先生を慕っていたので、私のやることなすことにいろいろとクレームがあり、こちらとしてはがんばって仕事をしていたのですが、なかなか認めてもらえませんでした。

よくありがちな「若い先生が何を偉そうに言っているんだ」のような視線をいつも感じていました。家庭訪問などの際は、特に緊張しました。

宿題ノートに漫画の登場人物を描いてやり取り

ある時、毎日出している自由勉強の宿題のノートに、その男の子が当時流行していた少年向け漫画のイラストを描いてきました。実は、私もその漫画が好きでしたので、その漫画の他の登場人物のイラストを描いて返信しました。その子にとっては、先生がその漫画を知っているということがとても嬉しいことだったらしく、その後も何度かイラストを描き続け、それがきっかけで私たちは急に仲よくなりました。

その後は、私にいろいろと相談をしてくるようになり、リーダーとしてがんばってくれることも増えました。子供との人間関係ができてからは、その保護者は何も言ってこなくなりました。5、6年と2年間受け持ち、最後の卒業式ではその保護者が私と息子との写真をぜひ撮らせてほしいと言ってきました。

担任を受け持ったばかりの時の冷たい言葉や視線を覚えていただけに、私は嬉しかったです。保護者とだけよい関係ができるということはありません。保護者対応を考える際に、まずその保護者の子供と自分との関係はどうなっているかを振り返ってみることが大切です。そこがつながっていなかった場合は、どうしたらよいか考えて、日々の指導を改善する方法を考えましょう。

真摯に話を聞き、迅速に対応

担任の時もそうでしたが、管理職になってからも「なんで吉藤先生は、保護者とうまくやれるんですか?」ということをよく言われました。先に述べたように、決していつも順調であったわけではないのですが、問題が生じた時に素早い対応をしてきたことは自信をもって言えます。

まず、どんなことでも保護者が何か言ってきた時には「真摯に話を聞く」ことです。多忙な仕事で疲れているとは思いますが、聞いてほしいから保護者は問い合わせてくるので、その日のうちに時間を取り、すぐに話を聞くことが大切です。その際、できれば電話は避けましょう。電話での問い合わせでも、ぜひ会う時間を約束して、対面でしっかりと話を聞くことが早期解決への第一歩です。

時間との勝負

長い電話を避けたくてもそれを許してくれない時もあるかもしれませんが、ともかく会って話そうということを申し出てみてください。目と目を合わせてきちんと話すことが大切です。その際に、状況によっては、子供がいっしょにいたほうがよい場合もあります。

そして、話を聞いたらその状況でどう動くことがベストかを考えます。状況把握をしたところ、確認が必要な児童や先生が出てきた場合は、すぐに連絡を取りましょう。関係諸機関との連絡も必要になる場合もあります。放課後のことであれば、学童保育や児童館、場合によっては警察の少年課などと連絡が必要になります。すぐに連携を取りましょう。

時間との勝負です。早く問題を解決したいなら早く動くことです。そして、対応した際は、必ず簡単なメモ程度でよいので時系列で記録を残しておきましょう。後で役立つことが多いです。

1人で抱え込まない

保護者対応が必要な場面になった際は、1人で対応しないで学年主任や管理職に相談していっしょに動いてもらうようにしましょう。話を聞く際も2人以上で対応することが望ましいです。問題がなかなか解決しない場合でも、1人の対応でなく、常に2人で対応していれば、どのような方法がよいかも見えてきます。

最近はよく会話を録音させてください、という保護者も増えました。私は、はっきりと状況が分からない中で個人情報に関する会話をしなくてはいけない時は、録音を断ってきました。しかし、担任では、保護者から強く言われてもなかなか断れない場合もあるでしょうから、そういう時は管理職の力を借りてください。

保護者は、可愛い我が子のためですから必死です。ですから自分1人だけで受け止めようとすると大変な労力になります。チーム学校という言葉をよく耳にします。日頃からなんでも学年主任や管理職に相談するようにし、対応にいっしょに関わってもらうようにしましょう。

外国籍の保護者の対応

最近は、どこの学校でも外国籍の保護者の対応が増えてきました。コロナ禍で外国人の来日や就労が減ったものの、また戻りつつある現状です。自治体によっては、生活上に必要な行政ガイドブックを、英語や中国語、韓国語だけでなく、多様な言語で発行しているところもあります。各学校では、日本語が上手に話せない子供のための日本語指導員等も派遣され、日本語指導を行っています。

当然、日本語がうまく話せない、子供の保護者との対応も出てきます。保護者が日本語を話せたり、保護者のどちらかが日本人であったりした場合は、話が通じやすいのですが、そうでなく保護者も日本語がうまく話せない場合は、それなりの配慮が必要です。

私の経験の中で、遠足が延期になった際、ネパールから来ていた保護者が、その日に登校することが分かっていなかったという出来事がありました。私はその家まで行って、家に上がり、お弁当になりそうな物を食品保存容器に詰めて、子供を学校まで連れてきたことがあります。

また、アメリカ人を親にもつ子供とチュニジア人を親にもつ子供が喧嘩をして、両方の保護者を呼んで話したのですが、互いの生活習慣の違いを指摘し合って、もめたことがあります。私たちは、日本で暮らしていると肌の色の違いなどあまり経験しないので、外国人との関わりを考えることが少ないのですが、実際にはいろいろな国の人が生活しているのだということを常に頭に入れておきたいものです。

違いを認めることが異文化理解の第一歩

私は、異文化理解の学習を自分の研究テーマにもしていますが、国が違うということは当然、文化や慣習も違うので、自分たちとは違うのだということを前提に対応をすることが必要です。相手が分かってくれないと文句を言うのでなく、まずは、違いを認めること、それが異文化理解の一歩だと思っています。その上で共通点を見付け、寄り添っていくことが大切ですが、違う国の人なので、日本人の保護者に対応するようなやり方では通じないことも多々あります。

私は、日本語が片言の外国人の保護者と話す時は、英語が分かれば英語で話しますが、そうでない場合、できるだけ短い言葉でゆっくり話すようにしています。それは外国籍の保護者に対する思いやりだと思います。

話をする前にその国の簡単な挨拶や、概要などを調べておくと、話が行き詰った時に、場を和やかにする会話をすることができます。日程を調整して日本語指導員なども加わり、保護者に大事なことを伝える体制を作っておくのもよいでしょう。

幅広い知識と教養を身に付けることを心がけよう

好奇心を大切にしてください。そして分からないことがあったら、知ろうと思う気持ちをもって追究してください。保護者対応と何の関係があるのかと思うかもしれませんが、幅広い知識と教養は身を助けてくれます。話し合いは同じ土俵でないと難しいです。しかしながら保護者も人の価値観も多様化し、同じ土俵に立つことが難しいのが現在の学校現場の状況です。それを助けるのは教育関係の法律もありますが、何気ない会話で場を和ませ、共通の話題を見付ける知識と教養は大きな力になります。

また常にニュースなどをチェックしておくことも大切です。毎日の生活が忙しいのはよく分かります。でも携帯を見る時間はあると思うので、その際に少しニュースをチェックしてみてはどうでしょうか。
私の携帯には、新聞社のアプリと海外ニュースのアプリが入っていて、常にチェックしています。タイトルだけまずチェックして、後は興味をもった事柄を読めばよいのです。

私たちは、本当に現場で疲弊してしまっていて、情報をインプットすることを忘れていると思います。芸能ニュースでもスポーツニュースでもよいのです。ともかく好奇心をもって、いろいろなことを身に付けようという姿勢を忘れないでください。自分にたくさんの引き出しがあれば、保護者対応も怖くありません。もちろん経験が一番大事ですが、自分が積極的に会話をするにはどうしたらよいかと考えることも大切です。

保護者との関わりを楽しもう

教師の仕事は、人との関わり合いが多いです。余裕のない日々ではありますが、その関わりを楽しめるとよいですね。保護者にもいろいろな職業の人がいます。IT関係の職業の方からは、HPを立ち上げる時にいろいろと教えてもらいました。僧侶や政治家の方はやはりお話が上手なので、講話のしかたなど学ぶことができました。町会長さんや商店会長、消防団などに関わっている方々からは地域について学びました。

コロナ禍で宿泊行事が中止になった6年生に何かをしてあげたいということで、PTAのお父さんたちが「学校お化け屋敷」を考えてくれたことがあります。みなさんそれぞれが工夫され、飾りや変装をして、本当に子供たちが楽しめるお化け屋敷ができました。私も、放送室から効果音を流して、協力しました。子供たちが全員校内を1周して回った後、スタート地点の体育館に戻ったら、今度はお母さんたちがお父さんたちのお化け屋敷を体験してみたいと並んで順番を待っていたので、思わず笑ってしまいました。

こういう楽しい関係ができるとこの仕事も、おもしろいです。保護者を嫌いにならないでください。せっかく出会えた人たちなので、上手に関わっていきたいものです。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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