たくさんの仕事を整理して進める手立ては?【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#8】
先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、多忙感を抱える先生が効率的に仕事を処理していくための方法について「快答」していただきます。
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Q5 まだまだ若手だと自認していますが、本校には私よりも若手が多く、校務分掌も複数担うことが求められています。日々の授業準備から保護者対応、多くの校務分掌までやるべきことが多く、どうこなしていったらよいのか苦労する日々です。田村先生もご専門の研究から大学でのお仕事、学校での指導などたくさんの仕事を抱えていらっしゃると思いますが、どのように整理をし、仕事を進めていらっしゃるのでしょうか?(中学校・20代)
多様な仕事を可視化、見える化すること
A 教員という仕事についている多くの先生は、「いい仕事をしたい」「授業に力を入れたい」と思っていることでしょう。しかし、全体の仕事量が多いため、日々覆いかぶさってくる様々な仕事をどのように処理し、次の仕事に向かっていくかというのは重要なことですよね。
私自身が学校現場でも行政でも働いた経験から言えば、教員という仕事はどうしても多忙感をもちやすい仕事だと思います。先生は朝、学校に来るわけですが、子供たちがいる日中の間は子供の動きに合わせて仕事をしなければならないわけで、自らの都合で仕事をこなせるのは主に子供の帰った放課後からです。それに対して、行政で仕事をしていると(おそらくほかの多くの業種も同様だと思いますが)、職場に着くとすぐに、「今日は、この仕事とこの仕事をやる」ということが自ら決めやすいのです。
仕事というのは、自分でコントロールできれば比較的負荷を感じにくいと思いますが、自分のコントロール外になれば負担を感じやすいわけです。そのように、教員の仕事は負担を感じやすくなるという特殊性があるように思います。ですからなおのこと、限られた時間の中で仕事をいかに効果的、効率的にやっていくかということを常に意識したほうがよいと思います。
紙の付箋やパソコンのメモ、付箋を使う
私自身が多様な仕事をこなしていかなければならないとき、まず心がけているのは、その仕事を可視化、見える化することです。今、何をやらなければならないのか、どのような仕事があるのかを頭で考えるだけで整理していくのは、誰しも簡単にできることではないと思います。ですから、メモしていくとか紙に書き出すなどして全てのなすべき仕事を可視化、見える化するわけです。例えば、すべき仕事が生じたら、その都度、付箋に書いてパソコン(あるいはデスク)に貼っておいて、それを整理するような形でもよいと思います。現在ならパソコンのメモや付箋などを使ってもよいでしょう。いずれにしても、まず可視化、見える化して仕事の全体像をつかむわけです。
仕事を可視化、見える化したら、そこから仕事全体を俯瞰した上で序列化していきます。すべき仕事に優先順位を付けるわけですね。どんな仕事があって、先にやらなければならないのは何の仕事かとか、この仕事は早く終わりそうだとか考えながら、序列化していきます。その時、例えば一定程度時間がかかる仕事と短時間でサクサクとできる仕事を峻別し、じっくりやらなければいけないことは後で時間をかけてやればよいし、すぐに終わる仕事は先にやってしまおうというように考えていくわけです。もちろん仕事には締め切りがあるわけですが、単純に締め切り順に取り組むのではなく、そのように峻別していったほうが、より効率的にできることも少なくないと思います。
また、あまり仕事を1人で抱え込まないようにしていくことが大切です。私自身が現場にいたときに意識していたのは、周囲の人たちと一緒にやっていこうということです。餅は餅屋ではありませんが、校内には多種多様な分野で、それぞれ専門性の高い人や得意な人がいます。ですから、そういう方に相談したり、頼んだりするのです。結果的には、1人でやり続けるよりも、そのほうがより早く簡単にでき、なおかつ仕事の質が高かったりもすることでしょう。ですから、すべて自分で抱え込んでゼロからやろうとするのではなく、ある程度、多様なネットワークを利活用することが大切です。現代であれば、そうした知見がウェブサイトにデータベース化されていますので、それらも活用していくとよいと思います。
繰り返しになりますが、多忙感を感じやすい仕事だけに、すべてを自分自身でクリエイティブにやっていこうとすると大変です。エネルギー、時間、アイデアなど、自分のもっているリソースには限りがあるので、自分のもつ力の多くをどこに使い、どこは省力化するかを考えていったほうがよいと思います。
スムーズにできる仕事を少しだけ残し、新たな仕事のアイドリングに活用
最後に、私が心がけているちょっとしたテクニックを紹介しておきましょう。私が作業効率を上げるために行っている方法なのですが、何でもかんでもその日取り組んだ仕事をその日のうちにきちんと仕上げてしまうのではなく、ほぼ終わりが見えてきた仕事を少しだけ残しておいて、次の日の仕事を始めた時に仕上げるというものです。
人の個性にもよるとは思いますが、仕事のし始めはなかなか乗ってこず、うまく進まないということがあるのではないでしょうか。しかし、ある程度仕事を進めてちょっと調子が出てくると、次第にスピードが上がっていくことでしょう。つまり、運動をするとき準備運動やアイドリングなどが必要であるように、仕事でもそういう時間が必要だと思うのです。そのアイドリングの時間に、まったく新しい仕事に取り組もうとすると、ウンウンうなるばかりで、なかなか仕事が進まないという状況になります。しかし、ほぼ仕上がりが見えている仕事であれば、おそらくスムーズにできることでしょう。そういう仕事を、次の仕事を始めるためのアイドリングに使うわけです。
仕事の締め切りにもよりますが、スムーズにできる仕事を少しだけ残しておいて、新たな仕事のアイドリングに活用する。そのように取り組んでみると、同じ時間内でも作業量が変わってくると思います。
【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#9】は、こちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
「学習指導要領がめざす」子を育む!
『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』
田村 学 著
ISBN 978-4-09-840226-7