小6 国語科「海の命」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「海の命」(光村図書)の全時間の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/長野県駒ケ根市立中沢小学校・原 猛
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では物語文教材の学習のまとめとして、これまでに学習してきた読みの力を生かして、物語を読み進めていく楽しさを味わうとともに、人物相互の関係を捉えながら読んだり、登場人物それぞれの生き方や考え方を読み取り、それに対する自分の考えをまとめたりする力を育てます。
物語を読むということと、私たちの実生活には様々につながる部分があります。人物の生き方に着目しながら読み、自分の考えを交流することを通して、自らの生き方についても考えを深めていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元に至るまでの物語教材の学習において、例えば「帰り道」では、人物の相互関係や心情を捉えること、「やまなし」では、表現の効果を考えたり、文章を読んで理解したことに基づいて自分の考えをまとめたりする、といった資質・能力を育んできました。
本単元ではこれまでの学習を踏まえて、人物の生き方について考え、それに対する自分の考えをまとめて発表し合うという活動を設定しました。
「海の命」には、中心となる人物・太一の生き方に影響を与える人物が登場します。
これまでの学習経験を踏まえ、彼らの印象的な言動からその心情を想像したり、人物の相互関係を捉えたりすることで、各人物の生き方について考えを深めていくことができます。
児童は自らの生活体験や生き方、考え方と照らし合わせて、人物それぞれの生き方について考えをまとめるでしょう。また題名「海の命」について考えることを通して、命についての考えを深めていくこともできます。
作品を読むことを通して自分自身を見つめるとともに、そこで感じたことや考えたことを交流し合うことで、お互いの意見や感想の違いが明らかになったり、互いの意見や感想のよさを認め合ったりすることができ、それにより多様な考えに触れ、自分の考えを広げていくことが期待できます。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 初発の感想から生まれた疑問をもとに学習問題を設定する
本作品を読んだ児童は、様々な感想や疑問をもつことでしょう。
「どうして太一は父の敵であるクエを殺さなかったのか」「千びきのうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていける」とはどういうことか」等、初発の感想で出された感想や疑問をもとに学習問題を設定します。児童は自らが感じた疑問を追究したり、友達が感じた疑問に共感したりしながら読むことで目的意識が生まれ、主体的に作品を読み深めようとする意欲につながると考えます。
〈対話的な学び〉 人物の生き方や考え方についてまとめた考えを友達と共有する
人物の生き方や考え方について自分の考えをまとめる活動を行いますが、児童の生活経験や既習事項はそれぞれ異なり、同じ叙述に着目したとしても、心に浮かぶことは一人一人違うはずです。
そこで対話的な学びの場面として、自分の考えをまとめた後、友達と発表し合い考えを交流することにより、多様なものの見方、価値観に触れられるようにします。
他者の解釈との共通点や相違点に気付いたり、自分にない考えを吸収したりすることで、自分の読みを更新し、自らの見方や考えを広げていくことが期待できます。
〈深い学び〉 人物の生き方から考えたことをもとに自らの生き方について考える
物語を読むことの楽しさとは、作品の世界を味わうことと共に、登場人物の生き方や考え方と自分を重ねたり、登場人物の生き方から新たな発見や学びを得たりしながら、自らの生き方や考え方も豊かになっていくことだと考えます。
「海の命」の登場人物の生き方について考えた児童は、友達との交流を通して様々な解釈や価値観に触れながら、自分の考えを広げていくでしょう。その経験が、自らの生き方について考え、深めていくことにつながっていくと考えます。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)登場人物の関係や影響をまとめた関係図を作る
作品には中心人物である太一の生き方に影響を与える人物が多数登場します。
太一を取り巻く人物の人物像や考え方等を、叙述をもとに捉え、太一の生き方にどのような影響を与えているかをまとめる活動に、ホワイトボードアプリを用います。
読み取ったことを付箋に書いて貼りつけたり、矢印でつないだりしながら関係図にまとめることで、人物像や人物相互の関係を視覚的に捉えるのに役立ちます。
端末を用いることで全体やグループでの共有が容易になりますし、児童の実態に応じて複数人で1枚の関係図に協働してまとめていくことも可能です。
(2)人物の生き方や考え方について考えたことをまとめたり共有したりする
人物の生き方について自分の考えをまとめる活動では、必要に応じてワープロアプリを用います。
手書きに比べて添削が容易ですし、書くことを苦手としている児童にとっては音声入力ができる等の利点があります。完成した文章は、端末上やモニターに映し出して共有します。一人が書いた文章を全体で共有することもできますし、書いた文章をもとに、共通点や相違点についてさらに対話を深めたい場合は、グループで共有するのも効果的です。
6. 単元の展開(6時間扱い)
単元名: 登場人物の関係を捉え、人物の生き方について考えよう
【主な学習活動】
・第一次(1時)
①「海の命」を読み、心に残ったことや疑問に感じたことを共有する
・第二次(2時、3時)
② 叙述をもとに登場人物の人物像や生き方を捉える
③ 人物同士の関係や相互の影響を関係図にまとめる〈 端末活用(1)〉
④ クエを討たなかった太一の思いや「海の命」という言葉が表すものについて考える
・第三次(4時、5時、6時)
⑤ それぞれの人物の生き方について、自分の考えをまとめる〈 端末活用(2)〉
⑥ まとめた自分の考えを共有し、友達の考えを聞いて感じたことをふり返る
板書例・ワークシート例と指導アイデア
作者の立松和平は「山のいのち」「田んぼのいのち」等、“いのちシリーズ”と呼ばれる作品を書いています。図書館や読み聞かせ等でこれらの作品に触れておくことで、登場人物や展開の共通点、作者が考える「いのち」について、児童は興味をもちながら本作品を読むことができるでしょう。
本実践では、単元の導入前に、教師がいつも行っている読み聞かせコーナーで、子どもが「山のいのち」と「田んぼのいのち」に出会えるようにしました。
< 単元の導入場面 >
「山のいのち」や「田んぼのいのち」を聞いて、「いのち」についてどう思いましたか。また登場人物で心に残っている人物はいますか。
「山のいのち」で、いのちを大切に考えているおじいさんが印象に残っています。
学校の図書館で「田んぼのいのち」を自分でも読んでみて、いのちの強さを感じました。
「山のいのち」と「田んぼのいのち」の他にも「〇〇のいのち」があるのかな。
ありますよ。「海の命」も立松和平さんの作品です。この作品にはどんな人物が出てくるのでしょうか。また「いのち」について、どう描かれているのでしょうか。心に残ったことや、疑問に思ったことを話し合いましょう。
〈 心に残ったことや疑問を話し合う活動 〉
どうして太一はクエを殺さなかったんだろう。お父さんの敵なのに。
太一がクエを殺さなかった場面には、太一の気持ちの変化がありそうですね。詳しく読んで考えてみましょう。
与吉じいさが言った「千びきいるうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていけるよ」って、どういう意味なんだろう。
この作品に出てくる人物にとって、「海」とはどんな存在なのでしょう。それを考えることが、太一の気持ちの変化を考えることにも繋がってきそうですね。
どの作品も「~のいのち」という題名だね。何か意味があるのかな。
作者は「いのち」に何か共通する考えをもっているのかもしれないね。
「海の命」を読むことで、作者の「いのち」に対する考え方がさらに分かるかもしれませんね。
〇 1時間目は「海の命」を読み、心に残ったことや疑問に思ったこと等、初発の感想を出し合います。児童から出された感想や疑問を板書し、さらに詳しく読んで考えていきたいこと、学習問題を整理していきます。
児童から出された疑問をもとに学習課題を設定することで、作品をより詳しく捉えることの必要感が生まれ、主体的に読もうとする姿につながるでしょう。
● ワークシート例
イラスト/横井智美