Q1 良い教師になるために、日々の仕事のなかで何を優先すべきか?(前編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#1】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
Q1 良い教師になるために、日々の仕事のなかで何を優先すべきか?(前編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#1】

学校の先生として子供たちと関わり、保護者や地域と関わっていく仕事をしていれば、多様な疑問が生じたり、悩みを抱えたりすることがしばしばあると思います。そこでこの連載では、元公立小学校の教師でもあり、文部科学省視学官として現行学習指導要領の策定にも携わった、國學院大學の田村学教授に、先生方の疑問や悩みについて明快にお答えいただきます。

Q 「私は昨年、教師になったばかりなのですが、日々やるべきことが本当に多くて、何をやったらよいか指導の先生の指示を受け、それをこなしているばかりです。ただ早く成長して良い教師になりたいと思うのですが、まず何から取り組んでいけばよいのでしょうか?」(小学校・20代)

まずは授業づくりにおいて、導入の工夫に取り組む

 若い先生方は誰しも、「良い教師になりたい」という思いをもっていることでしょう。そのために取り組むべきことは、確かにたくさんあるわけです。しかし、一度にあれもこれもやろうとするのは大変ですから、いくつかに焦点化して取り組んでいくとよいと思います。私は、特に大きく2つに絞って取り組むことをお勧めします。

1つめは、授業づくりについてです。毎日、5、6時間程度行っている授業にどう取り組んでいくかというのは先生方にとっての最大の関心事でしょう。理想的には1時間1時間しっかり教材研究に取り組み、授業時間の45分なり、50分なりをパーフェクトなものにしたいと思うかもしれません。しかし、特別な研究授業の1時間だけならいざ知らず、週に20数時間ある授業すべてでそれを行うのは現実的には無理なことです。

そこで、私自身も特に若い時に取り組んでいたのは導入の工夫です。授業には導入があって、展開があって、終末があり、「最終的には、こんな(資質・能力の育まれた)子供になってほしい」と思いつつ行っていくわけです。しかし、教員になったばかりの先生にそれら全体を見通した工夫をするというような高度なことを求めても難しいでしょう。ですから、授業の入り口である導入で、子供たちが興味・関心をもって、「あっ、今日の授業はおもしろそうだぞ」と身を乗り出したり、目を輝かせたりするような導入の工夫の一点突破で、まずがんばってみることをお勧めします。

その工夫をより具体的に言えば、1つの授業の導入で、必ず何か1品持っていくということです。それは(学習の内容によって)例えば、りんご1個でもよいし、写真1枚でもよいので、何か教材となるものを1つ準備するのです。そうした具体物が1つあるだけで、子供たちの興味・関心は変わってくると思います。

まずは導入の工夫から取り組む。毎時、必ず何か1品を用意して授業をスタートしてみよう。
まずは導入の工夫から取り組む。毎時、必ず何か1品を用意して授業をスタートしてみよう。

私自身、教育実習の時に指導の先生から、「おもちゃ箱をひっくり返すような授業をするね」と言われたのですが、やはり当時から、子供たちが「あれっ?」「おやっ?」と関心をもって授業に入っていくような、導入の工夫を意識していました。やはり授業の入り口の工夫から入っていかないと、次の一手は出てこないでしょう。端的に言えば、授業の最初に子供たちの心のシャッターが下りてしまったら、次の話を聞く耳をもってくれなくなってしまう危険性が高まるのですから。しかし、「この先生はおもしろいな」とか「今日の授業はやってみたいな」と思えれば、状況は変わってきます。それをつくるのがファースト・インプレッションとなる導入であり、そこに意識を向けることから取り組んでみることが大切だと思います。

このように導入を工夫するということは、考えてみると、子供が主体的に学習に取り組むにはどうするかを考えることになります。それは、学び手である子供を第一に考えるということであり、学習指導要領の考え方にも合致するものです。それに対して、教科書を見せて教科書通りに授業をするということはある意味、教科書を第一に考えるということですし、教科内容を第一に考えるということになります。もちろん、教科内容はどうでもよいなどと言うつもりはありませんし、大事なものです。しかし、子供が本気になって主体的に学ばなければ、教科内容も意味がないものになってしまうでしょう。

やがて導入の工夫を重ねていくにつれ、「子供ってこうやって学ぶんだな」とか、「こんな資料だと乗ってくるな」とか、「こんな示し方をすると反応がいいな」ということを肌で感じることになるはずです。その積み重ねが、後々の教師としての成長に大きく効いてくると思います。結果的には「主体的・対話的で深い学び」を通して、資質・能力を育むという原理・原則に近付くということになるのだと思います。

それに対し、いかに効率良く教科書の内容を教えるかとか、いかに分かりやすく教科書の内容を板書するかというようなテクニカルなことも、やがては必要になるでしょう。しかし、どちらが先かと言えば、当然、導入の工夫であり、それを通して学び手である子供がどのように学びに入っていくかを体感することです。それを肌で感じることを通して、教育観の幹が育っていくのだと思います。テクニカルなことは、その幹がしっかりできてから身に付けていけばよいのです。

多分、教員になったばかりの先生方は、夢を描いていると思います。子供たちが楽しそうに授業に食いついてきて、手を上げてくれるといったイメージをもっていると思うのです。少々失礼かもしれませんが、子供たちが評価規準として設定した姿にたどり着いたかどうかという話になってくるのは、もう少し先の話だと思います。やはり子供が楽しそうにしていたとか、嬉しそうに手を上げていたとか、少し反応の悪かった子がやる気になってくれたというのが、すごく嬉しいことなのではないかと思います。そういう姿を引き出すために、まず導入の工夫に取り組んでいくのは、先生にとっても楽しいものではないでしょうか。

今回は、若手の先生の学びという大きなテーマであるため前後編に分け、次週で後編として「2つめの取り組むべきこと」を公開させていただきます。

なお、この連載のような疑問を直接、田村学先生に投げかけ、お答えいただくことのできる、「若手教師のためのオンライン田村サロン」を、次回は3月26日に開催予定ですので、ぜひご参加ください。

オンライン田村サロンURL https://kyoiku.sho.jp/211957/

【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#2】は、こちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


「学習指導要領がめざす」子を育む!
「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」
田村 学 著
ISBN 978-4-09-840226-7


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