「自殺総合対策大綱」とは?【知っておきたい教育用語】
5年に1度見直しが行われる「自殺総合対策大綱」が2022年10月14日に閣議決定されました。新たな「大綱」には、どのような重要施策が盛り込まれたのかを考えてみましょう。
執筆/文京学院大学外国語学部教授・小泉博明
目次
「自殺対策基本法」とは
2006(平成18)年に、日本の自殺者数が年間3万人を超えた状況に対処するために、「自殺対策基本法」が制定されました。その目的は以下の通りです。
第一条
文部科学省・自殺対策基本法
この法律は、近年、我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推移していることにかんがみ、(略)自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り、もって国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
主として厚生労働省が所管し、同省に特別の期間として設置される自殺総合対策会議が、「自殺総合対策大綱」を定め、施策は国と地方公共団体が行うことになりました。
「自殺総合対策大綱」(2022)とは
自殺対策基本法が成立した2006(平成18)年と、コロナ禍以前の2019(令和元)年の自殺者数を比較すると男性は38%減、女性は35%減となり、一定の効果があったと考えられます。(2006年:32,155人➡2019年:20,169人)しかし、自殺者数は依然として毎年2万人を超える水準で推移しています。男性が大きな割合を占める状況は続いていますが、さらにコロナ禍の影響で自殺の要因となるさまざまな問題が悪化したことなどにより、女性は2年連続の増加、小中高生は過去最多の水準となっています。そこで、今後5年間で取り組むべき施策を新たに位置づけたのです。
基本理念は「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指す」ことであり、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を踏まえた「自殺への影響について情報収集・分析」「ICT活用を推進」「女性、無業者、非正規雇用労働者、ひとり親、フリーランス、児童生徒への影響を踏まえた対策」の推進が求められます。
「自殺総合対策大綱」(2022)の重要施策
特に子ども・若者の自殺対策をさらに推進し、強化する重要施策(大綱本文p.38~43)としては「いじめを苦にした子どもの自殺の予防」をはじめ、学生・生徒への支援充実として「長期休業の前後の時期における自殺予防を推進」「タブレット端末の活用等による自殺リスクの把握やプッシュ型の支援情報の発信を推進」「学校、地域の支援者等が連携して子どもの自殺対策にあたることができる仕組みや緊急対応時の教職員等が迅速に相談を行える体制の構築」「不登校の子どもへの支援について、学校内外における居場所等の確保」などがあります。
SOSの出し方に関する教育の推進としては「命の大切さ・尊さ、SOSの出し方、精神疾患への正しい理解や適切な対応を含めた心の健康の保持に係る教育等の推進」「子どもがSOSを出しやすい環境を整えるとともに、大人が子どものSOSを受け止められる体制を構築」など。また、子ども・若者への支援や若者の特性に応じた支援の充実としては、「SNS等を活用し相談事業支援の拡充、ICTを活用した情報発信を推進」があります。また、知人等への支援では「ゲートキーパー等を含めた自殺対策従事者の心の健康を維持する仕組みづくり」が、子ども・若者の自殺対策を推進するための体制整備としては「こども家庭庁(令和5年4月設立予定)と連携し、体制整備を検討」することが挙げられています。
なお、ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴いて、必要な支援につなげ、見守る人のこと。誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現が待ち望まれます。
▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「自殺対策基本法」(平成18年6月)
厚生労働省(ウェブサイト)「自殺総合対策大綱」(令和4年10月14日閣議決定)