学校を安定させる「しくみ」、ありますか【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #22】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第22回は、<学校を安定させる「しくみ」、ありますか>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
あたたかでしたたかなリーダー
前任の校長先生、仮にU校長としましょうか。U校長からご依頼を受けて、校内研修に訪れたのが5年前でした。ご依頼の内容は、「学力調査の点数が、県の平均を下回り、その上、荒れているクラスがいくつかあるので、集団づくりを進めながら学力向上をねらいたい」とのことでした。この自治体は、学校独自に講師を選定し、その講師招聘に必要な経費は負担してくれるとのことでした。U校長がどこかで私の発信を目に留めたらしく、お声がかかりました。
彼は、とても穏やかであたたかな方でしたが、単なる「いい人」のリーダーではなく、研修で伝えたことをしっかりと次の研修までには、職員に徹底しようとする方でした。目標達成をしたたかに進めるリーダーだったと言えます。
研修でお邪魔させていただく度に感じたのは、彼の一人ひとりの職員への声かけがとても細やかであることです。教職員はもちろん、事務員、そして給食の調理員に至るまで、隅々まであたたかな労いの声をかけていました。多くの校長先生方や主任クラスの先生方が自覚されていることだと思いますが、研修で学んだことを全職員に周知することは生易しいことではありません。ちょっと無理をするとすぐに不満や反発が生じます。授業に集まりがちな先生方の関心を、学級経営や一人ひとりの子どもとの絆づくりに向けさせるためには、相当に粘り強く働きかけたはずです。
学校はすぐに落ち着きました。いや、私が訪問したときは既に落ち着いていたと思います。私は、その上り坂にさしかかっているときに関わらせていただいたようなものです。しかし、授業は教師と子どものやりとりのみが続くものがほとんどでした。2年目からは、子どもたちの協働的な学びを基盤にした授業を始めました。
私は授業のイメージを伝えただけですが、それでも実直な先生方は、それを形にするために日々実践を重ねました。3年目の研修では、全てのクラスではありませんが、子どもたちが生き生きと意見を出し合ったり、まとめたりする姿が見られました。その中でももっともうまく授業が機能している学年がちょうど6年生でした。
U校長も「あの学年に期待しているところです」と言っていました。その6年生は、学力調査で県の平均を超え、また、全校が落ち着いて授業に取り組むことができるようになりました。U校長との約束というか、共有した目標はクリアしたので、その学校での研修を終えました。電話で成果報告をするU校長はとても嬉しそうでした。そして、彼は定年退職を迎えました。
再びのご依頼
それから1年と数か月が経ちました。あのU校長の学校から、再び電話が来ました。校長先生をはじめ、多くの先生方が入れ替わりました。昨年は、6年生2クラスをはじめとする、かなりの数のクラスが危ない状態だったそうです。そんな折に、残られた先生方の記憶の隅に私がいて、この度のご依頼となりました。そのときには既に年内の予定はいっぱいでした。それでも、どうにか都合をつけ、年が明けてからお邪魔させていただきました。
この年度の1学期は、平穏な時間を過ごしたようです。訪問時の3学期も、低学年が意欲的に学ぶ姿と高学年の落ち着きが目立ちました。全部のクラスを拝見しましたが、荒れたようなクラスは見受けられませんでした。そしてもう一つ目立ったのは、若い先生と講師です。これは、読者の皆さんはよくご存じのことでしょう。どこの学校でも若手教師が増えているとともに、講師が足りないことに気付かされます。そうした状況で落ち着きが保てているのは、担任の配置が絶妙だからです。昨年のことを考えると学級経営力に不安を抱える先生方がそれなりにいたわけですが、これ以外にないのではないかというバランスで担任が割り振られていました。言葉は不適切かもしれませんが、新しい校長先生は、朗らかでユーモアのある魅力的な方であり、かつ、けっこうな「策士」とお見受けしました。
また、職員室のお母さんでありお姉さんでもある教頭先生の働きも見逃せません。力量に心配を抱える先生にはとにかくフォローを入れているようです。学級経営から授業づくりまで、若手の教室をしっかり見ては、陰になり日向になり、助言を繰り返していました。こう書いてしまうと口うるさく監視するようなイメージに取られるかもしれませんが、彼女には全くそれは当てはまりません。「笑顔で親身」という言葉がぴったりです。
この学校の特徴は、とにかく若手が意欲的で元気だということです。ある若い講師は、研修の後の食事会で、ものすごい熱量で私を質問攻めにしました。次年度の訪問では、この若者はすばらしい進化を遂げていました。たとえ未熟であろうとも比類なき意欲は、それを容易に補う力を彼らに与えるのだなと感じました。
こういう若手が育つ学校では、彼らにポジティブな影響を与えるベテランがいます。講座で若手以上に頷き、熱心にメモしていたのはベテラン層の皆さんでした。ご依頼の内容を聞き「また、最初からか」と思わなかったわけではありませんが、それ以上に、どこまで進化するか見てみたくなったのも本音です。
一方で、学校の状態を良好に保つ「しくみ」が必要だと痛感しました。この学校で危ないクラスが複数生まれたことは紛れもない事実だからです。公立学校である以上、人事異動に伴って学校状態が揺らぐリスクは常にあろうかと思います。安定した学校経営のためには「しくみ」が必要です。
『総合教育技術』2019年1月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。