学級内通貨でクラスの係活動を盛り上げる!岩田純一先生の実践紹介

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学級内だけで通用する通貨を活用し、子供たちが自主的に自分の会社を作って係活動をする東京都公立小学校教諭の岩田純一先生の学級での実践を紹介しましょう。これは、自分の得意なものを生かし、学級のために役立つ活動をする心を育てることをめざしています。学級の実態によって難易度が変わりますが、挑戦してみてはいかがでしょう。

監修/東京都公立小学校指導教諭・岩田純一

学級内通貨の子供たちの写真トップ

みんなの活動の価値を見える化しよう

ねらい
需要と供給のバランスなどを考えながら、お金の使い方を考える活動を通して、係活動の大切さに気付き、自分たちで学級をよくする気持ちを育てる。

準備するもの
学級内で流通する通貨(10、50、100、500、1000単位の札)学級の人数分プラス教師が管理する数量。

子供たちがこの活動をやりたいか?

5年2組の岩田学級の子供たちは33 人。まずは子供たちに「学級内通貨の活動」(会社活動と呼んでいる)をするかどうかの問いかけを行います。「係活動などは先生から言われるからするという姿勢も見られます。自分で考えて自分で活動して、みんなの役に立つという気持ちがわかると思うので、前の学校でもやっていた学級内通貨の活動をこの学級でやってみませんか」と岩田純一先生が提案をすると、子供たちから「やりたい!」という声が一斉に上がったので、始めることになりました。

始めるときに、「学級のみんなが幸せになったり、楽しくなったりするといった学級のためになる会社活動をすること」「みんなが嫌な気持ちになることは絶対行わないこと」という約束事を決めました。

通貨単位を決める

活動することが決まったら、次は通貨の単位を決めます。子供たちから通貨の単位を募集すると20種類以上の単位案が集まり、投票の結果、「コイン」という通貨単位に決まりました。さらに、子供たちから通貨のデザインを募集。岩田先生のこれまでの経験上、硬貨は作るのが難しいうえ管理も大変なため、すべて紙の札にし、札の種類を、10コイン、50コイン、100コイン、500コイン、1000コインという5種類に決めました。

各コイン、約10種類ずつのデザインが集まり、投票の結果、人気のデザインを決定しました。コインのデザインが採用された子供には、岩田先生が管理する部署(国と呼んでいる)から500コインが進呈されました。

最初の手持ち金として、ひとりにつき、10コイン、50コイン、100コイン、500コイン、1000コインの各1種類ずつが配付されます。

学級内通貨の札の写真
子供たちのデザインした通貨。通貨単位の「コイン」のスペルがcoinnやKOINNなどが統一されていませんが、授業ではないので、厳密にしていないそうです。

会社を立ち上げる

通貨の準備ができたら、次は、子供たちが会社を立ち上げる活動です。会社名、社長、社員、業務内容などの項目欄を設けた起業カードを準備し、子供たちが自分のやりたい会社の内容を起業カードに書き込み、起業ボックスに入れておきます。岩田先生はそのカードを回収し、朝の会や帰りの会などを活用し、起業したい人が1分間、会社のことをアピールする「起業タイム」を設けます。ここでは、学級にどのようなメリットがあるかを言います。

その後、採決を取って、過半数を超えたら、起業できる仕組みです。

岩田先生は、子供たちが自主的に行う活動にするために、子供たちに任せ、ほとんど口出ししないようにして見守るだけを心がけていますが、この活動の主旨に反したり、自分のことだけを考えたりする場合には、アドバイスをします。

例えば、「まんが制作会社」を提案した場合、まんがを読まないという子にとっては必要のない会社ですが、その会社が存在することによって、多くの人がうれしい気持ちになったり、学級が楽しい雰囲気になったりするなど、学級全体として考えて、視野を広げるようにアドバイスをします。

「学級のために」をテーマに

このような準備後、会社活動をスタートします。当初、20社程度あった会社は、3か月後約45社に増えています。やり始めたけれど、うまくいかなかったり、学級のためにならなかったりといということであれば、いつでも倒産してよいことになっています。また、ひとり何社もってもよいことになっています。

現在、人気の会社は次のとおりです。
〇小物創作……小物(マスク入れ、しおり)などを作って売る。
〇折り紙……折り紙を折って売る。折り紙の折り方を教える。
〇チラシ・ポスター……宣伝したい物のチラシを作る。クラスのためのポスターを制作する。
〇時間割……時間割表をその日の時間割に合わせて教科カードの位置を変える。
〇5-2みんなの遊び……1週間に1回、クラスで遊びをする。
〇勉強クイズ……勉強を教えたり、待ち時間に教科クイズを出したりする。
〇産地……給食の献立を伝え、産地を紹介する。2週間に1回クイズを出す。
〇カプセルトイ……カプセルトイを回してもらい、景品を渡す。はずれなし。
など。

学級内通貨の小物の写真
「小物創作」の子供たちが作った小物入れや財布など。

毎週金曜日には、今週活躍した会社を決める投票を行います。1人1台タブレットを活用しての投票なので、結果がすぐにわかります。この投票で5位以上になると、国から通貨が配付されます。

毎週月曜日には、全員が税金としてひとり100コインを国に納税します。この税金が金曜日の投票の賞金になるという仕組みです。

子供たちが仲よくなり、自己有用感が育まれる

岩田先生にはずせない用事ができ、教室に行く時間が10分程度遅れたときがありました。そのとき、「勉強クイズ」の子たちが、前に立って、学級の子供たちに教科クイズを出して、岩田先生のことを落ち着いて待っていました。その様子を見て、岩田先生は「子供たちは騒ぎもしないで、落ち着いて勉強しながら待っていてくれて、とても感動しました」とうれしそうに話しました。

子供たちは、自分の得意なことを生かし、いろいろなアイデアを駆使して、学級のためになる活動をしていきます。ときには失敗や子供たち同士のトラブルもありますが、それを乗り越え、楽しく活動を続けています。

お金の使い方を考えたり、お金の大切さに気付いたりするねらいのほか、この活動によって、学級の子供たち同士がよく話すようになり、学級全体が仲よくなるとともに、自分の得意なことをメタ認知できる力も育ってきています。子供たちがそれぞれ自己有用感をもって、周りのことを考える思いやりも育まれています。

5年2組のこの活動のよさを知り、他の学級や他の学年にもこの活動が波及しつつあります。

岩田純一先生のコメント
自分の得意なものを生かし、よりよい集団になることを体験

各学級には係活動や役割を担って行う活動があります。それを喜んでする一方で、「面倒だ」「先生から言われたからやる」という気持ちがある子も少なくありません。みんなが幸せに感じる活動をする楽しさを自分主体でやってほしいと思い、この活動を子供たちに提案しました。「人のために役立った」ということ自体を喜ぶことの大切さは押さえつつ、役立ったことを見える化することによって、自分にとってもいいことがあるという意識を実感させたいと考えています。これは、学習活動のプラスアルファとして、遊びの中から学ぶことを基本としていますので、学級のみんなが「もう、やらない」ということになれば、終了しようと思っています。

子供たちにはこの活動によって、学校生活が楽しく、自分の得意なものを生かして何かを生み出すアイデアや多面的・多角的な視点をもってもらいたいですね。また、自分たちで工夫することでよりよい集団になることを知ってほしいと思います。教師の役割としては、「よりよくなる学級」ということからずれない、子供自身が考えて生み出したよいアイデアを評価するなど。また、友達関係にひびが入るようなトラブルに対しては教師が間に入るようにします。

熱中しすぎる子もいて、別のことに身が入らない、会社内での給料の分配でのトラブルなどの課題はありますが、課題をひとつずつ解決し、みんなが楽しく過ごせる学級をめざしていきたいと思います。

取材・文・構成・撮影/浅原孝子 撮影/北村瑞斗

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