小3 国語科「ちいちゃんのかげおくり」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小3国語科 「ちいちゃんのかげおくり」(光村図書)の全時間の板書、発問、予想される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/東京都練馬区立大泉学園小学校校長・加賀田真理
執筆/東京都渋谷区立富谷小学校・佐藤綾花
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
この単元では、文章を読んで理解したことに基づいて、感想や考えをもつ力を身に付けます。
具体的には、ちいちゃんや家族の行動や気持ちを捉え、情景を具体的に想像しながら考えたり理解したりしたうえで、作品に対する感想や考えをもつことができるようにします。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、物語を読み、感想をまとめて伝え合うという言語活動を設定しました。
「感想を書きましょう。」と言われても、児童は何を書けばよいのか分かりにくい場合があります。そこで本単元では「自分が一番心を打たれたところ」について、学習したことを生かして感想をまとめられるようにします。「心を打たれる」とはどのような意味なのかを押さえ、児童が多様な感想をもてるようにします。
第二次の学習では、場面と場面を時や場所など項目ごとに比べながら読むことで、場面の情景やちいちゃんの気持ちの変化を具体的に想像することができるようにします。
また、各場面において「自分が一番心を打たれたところ」はどこか、理由とともに友達と伝え合います。友達と伝え合う中で自分とは異なる感想に触れ、本文を読み直すことでさらに具体的に想像することができます。
このようにして場面と場面を比べながら、ちいちゃんの気持ちの変化を具体的に想像する二次の学習を通して、作品に対する感想が変容したり詳しくなったりするようにします。初めの感想と比べることで自己の変容にも気付けるようにするとよいでしょう。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉「一番心を打たれたところ」についての感想をまとめる
あえて「一番」を選ばせることで、「いくつかあるけど、特に心を打たれたところはここだな。」と自分の考えにこだわりをもつことができるようにします。友達との伝え合いの前に、どこを選んだのか挙手をし、友達との違いを明確にします。考えが違う友達に自分の感想を分かってもらいたいと思うことで、感想の理由を明確にしようとする姿が期待できます。
〈対話的な学び〉 何のために伝え合うのか、目的意識をもたせる
友達との対話の活動を設定する前に、児童が対話を必要としているのかどうかを考えてみることは大切です。児童が「友達と話し合いたい」と思うタイミングで対話的な学びを取り入れられるように工夫します。そして対話の前に、何のために対話をするのか、子供たちと一緒に立ち止まって確かめましょう。
本単元では2種類の対話を想定しています。一つは「心を打たれたところ」として同じところを選んだ友達との対話、もう一つは異なるところを選んだ友達との対話です。
同じところを選んだ友達との対話は、自分の考えに自信をもったり、友達の感想を聞くことで選んだところの様子をさらに具体的に想像したりするために行います。
異なるところを選んだ友達との対話は、場面全体の様子をより具体的に想像することにつながります。「何のために伝え合うの?」「同じところを選んだ友達と感想を伝え合うと、どんないいことがある?」等と児童に尋ね、確かめてから対話するとよいでしょう。
〈深い学び〉 複数の場面の叙述を結び付けて感想をもてるようにするために
各時間の初めから「心を打たれたところ」について感想をもたせるのではなく、まずは場面と場面を項目ごとに比べて変化に注目させます。
例えば人物に注目すると、1場面ではちいちゃん、お母さん、お父さん、お兄ちゃんがいたのに、2場面ではお父さんが、3場面ではお母さんとお兄ちゃんがいなくなってしまっていることが分かります。戦争によってちいちゃんの周りから様々なものが失われていることを捉えたうえで、「心を打たれたところ」について考えることができるようにします。
また前の場面のちいちゃんの様子と比べて感想をまとめたり、発言したりしている児童を価値付け、複数の場面の叙述を結び付けるとはどういうことなのか、具体的につかむことができるようにします。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1) 前時の板書を映して、場面と場面を比べやすくする
毎時間の板書の構成を同じようにし、前時の板書の写真をスクリーンに映しておくことによって、前の場面と本時に読む場面が比べやすくなります。板書はまず本時に読む場面の「時」「場所」「人物」「ようす」を書き、その後に「心を打たれたところ」と感想を整理して書きます。
このように同じ項目を比べると、場面の変化に気付きやすくなります。
(2) 感想を共有しやすくする
初めの感想と、学習したことを生かしてまとめた感想を端末上に書き、「Teams Whiteboard」等のアプリを活用して全員で共有します。友達の感想を読みやすくすることで、同じ感想を読んで自信をもてたり、自分が考えていなかったことを知ることができ、その上でもう一度物語を読み直すことができます。
児童が端末の使用に慣れているクラスでは、二次の場面ごとの感想も端末上で共有し、似ているところに注目して話し合いながら分類するよう促すとよいでしょう。
その際はグループで1枚のページを作成します。児童には感想を付箋(メモ)に書き、自分のグループのページで共有するよう伝えます。グループのみんなで、「この付箋とこの付箋は似ているね。」と分類しながら話し合えるとよいでしょう。
6. 単元の展開(10時間扱い)
単元名: 場面を比べながら読み、心を打たれたところについて感じたことをまとめよう
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時)
① 初めて読んだ感想を伝え合う。
●「心を打たれたところ」に印を付け、感じたことを書く。「分からない、確かめたいこと」がある場合はその部分にも印を付け、疑問を書く。
●感じたことを共有する。
② 学習計画を立てる。
●みんなで確かめたいこと、注目して読みたいところはどこか整理し、学習計画を立てる。
・第二次(3時、4時、5時、6時、7時、8時、9時)
③ 1場面を読み、「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合い、自分の考えをまとめる。
④ 1場面と2場面を比べる。2場面の「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合い、自分の考えをまとめる。
⑤ 1、2場面と3場面を比べる。3場面の「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合い、自分の考えをまとめる。
⑥ 1~3場面と4場面を比べる。4場面の「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合い、自分の考えをまとめる。
⑦ 1~4場面と5場面を比べる。5場面の「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合い、自分の考えをまとめる。
⑧ 作品全体を通して「心を打たれたところ」について感じたことを伝え合う。
⑨ 前時に話し合ったことを生かして自分の考えをまとめる。
・第三次(10時)
⑩ 学習を振り返り、どのような読み方が身に付いたのか確かめる。その読み方を意識して「この本、読もう」で紹介されている本などを読む。
全時間の板書例と指導アイデア
●「主体的な学び」のために
「感想」と言っても様々な種類の感想があります。「何を考えたらいいのか分からない」という状態にならないように、何について感想をもてばよいのかを理解できるようにします。
本単元では「心を打たれたところ」について感想をもつことをめあてとしました。「心を打たれる」という言葉には、「感動する」以外にも様々な意味が内包されています。この言葉の意味を先に押さえ、児童が様々な「心を打たれたところ」を見つけやすくなるようにします。
また、初めて読んで「心を打たれたところ」はどこかを考え、共有しておくことで、友達と同じ感想をもっていることに気付いたり、「友達はどうしてその場面を選んだのだろう?」と友達の異なる感想に関心をもったりして、これからの学習に対する意欲につながるようにします。「分からない、確かめたいこと」もここで出させ、二次の各場面を読むときに解決することを見通させます。
●「主体的な学び」のために
単元の目標「場面を比べながら読み…」を確かめたあと、具体的に何と何を比べればよいのか考えさせます。比べる内容は、場面ごとに変化していることです。それは何か考えることを通して、物語全体のあらすじを捉えられるようにします。
本時は学習計画を立てる時間です。「何場面と何場面を比べたらいいかな?」「それぞれの時間は、どんな風に進めるといいかな?」などと児童に問いかけ、学習活動やその順番について児童自身の意見を反映していくようにします。自分たちで学習計画を立てた、という実感を伴った経験を積み重ねていくことで、学習の見通しをもったり自分たちで調整したりする力が育っていきます。
ー 話合いのイメージ ー
私は「家族4人みんなでかげおくりをしているところ」が心を打たれたところです。このあと、ちいちゃんは家族と離れ離れになっちゃうけど、このときはまだ家族みんながいて、ちいちゃんが一番幸せなんじゃないかな、と思ってじーんとしました。
ぼくも同じところなんだけど、特にお父さんの「今日の記念写真だなあ。」というせりふに心を打たれました。次の日お父さんは戦に行ってしまって、家族最後の思い出になってしまって、悲しいけど幸せなときだなと思いました。
同じところだけど、〇〇さんはお父さんのせりふのところで特に心を打たれたんだね。私は「四人は手をつなぎました。」というところで…
イラスト/横井智美