薬品(水溶液)の安全管理のしかた 【理科の壺】
理科の学習の中には、薬品を扱う授業があります。特に5年生の「ものの溶け方」や6年生の「水溶液の性質」では、普段子どもたちが触れることのない薬品を扱うことになります。薬品の扱い方が間違っているために時々、事故のニュースにもなります。そのため、ほかの授業より一層安全管理に関する知識を教師自身がもって留意したいですね。
優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・山口俊貴
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.授業の事前の準備での留意点
危険性のある器具を確認して除去する
器具の整備点検を日頃から心掛けることが大切です。これが十分でないと、観察・実験の際にけがや事故につながる原因となります。特に、水溶液の学習において使用頻度の高いガラス器具(ビーカー、試験管、アルコールランプ)などは、ひび割れが原因で思わぬ事故となることもあるので事前の点検により危険を未然に防ぎましょう。
予備実験を実施する
薬品を扱う実験を行う際には、必ず予備実験をしましょう。このとき、器具や試薬など、児童が行う時と同じ条件で行い、適切な実験の条件や正しい結果や事故の可能性の予測を行うようにします。薬品による反応の時間等を把握することも、実際に行う際に落ち着いて指導するために大切になります。
実験で使用する道具の確認をする
学年の先生と相談し、薬品や実験材料の準備、運営計画を立てておくことが大切です。多くの試験管やビーカーを使うことが想定されるため、学年で相談しながら進める必要があります。近年では、理科支援員の方が準備してくださる場合もあります。その際は、グループ数や当日の実験計画などを明確に伝えるようにしましょう。また、試験管やビーカーに薬品を準備しておく際には付箋やカードを添付して誤使用を防ぐようにしましょう。
2.実験場面での留意点
薬品を扱う授業においてもっとも重要なことは、子どもたちへの安全指導と、環境整備です。実験中の事故を未然に防げるように何を指導しておくべきかを理解しておきましょう。
子どもたちへの安全指導
□ そでが長い服装の場合は、そでをまくる。
□ 火や薬品を使う実験では、椅子に座らない。
□ 椅子を机にしまう。
□ 安全めがねを使用する。
□ ビーカーの上や試験管の口をのぞき込まない。
□ 薬品が手についときは、必ず水で洗い流す。
□ 薬品のにおいをかぐときは、手であおぐようにする。
□ 実験後の薬品は、流しには流さず、先生に渡す。
環境整備
□ 時間に余裕のある実験計画。
□ 適切な濃度に設定した水溶液の準備。
□ 器具運搬、移動時の動線に配慮。
□ 実験器具や薬品等が倒れやすい場所にないかの確認。
□ 十分な換気。
3.その他事前に確認しておきたいこと
あらかじめ事故を想定し、どのように対応するのかも確認しておきましょう。
薬品に関わる応急手当
薬品が皮膚についた場合
①すぐに多量の水でよく洗う。
②服にアルカリがついた場合は、服を脱がせ、ぬめりがとれるまで水洗いする。その際、救助者は必ず手袋をする。
③医療機関を受診する。
薬品が目に入った場合
①多量の水が入った洗面器内で水を流しながら、目を閉じたり開けたりしながらよく洗う。
※薬品が薄い場合でも、多量の水で水洗いをする。
②必ず医療機関を受診する。
片付けについて
実験で使用した水溶液などの廃液は、酸・アルカリごとに容器に回収して貯留し、その後、処理するようにしましょう。また、薬品の使用の都度、薬品管理簿に記入します。 単元の学習が終了したら、保守点検を確実に行うようにしましょう。
理科の実験は、子どもたちが自分の予想を確かめるために行う手段の一つです。子どもたちは、実験をとても楽しみにしています。子どもたちが主体的に問題解決を行うためには、事故なく安全に実験を行うための安全管理がとても大切なのです。
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<執筆者プロフィール>
山口俊貴●やまぐち・としき 神奈川県公立小学校教諭。総合的な学習の時間の研究校にいながら理科の実践研究も行っている。横浜市理科研究会基礎観察実験部会部長。CST会員(神奈川県理科中核教員)。SSTA横浜支部会員。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。