「評価規準」設定のために必要な「言語サンプル」とは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#15】
この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。
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目次
「フォーマット」を使った「言語サンプル」
前回、評価規準を設定するためのフォーマットについてご説明をしましたが、今回はそのフォーマットを使って、実際に三つの評価規準を設定するために必要な、言語サンプルについてお話をしていきたいと思います。
「思考・判断・表現」であれば、思考スキルを考える
前回、「〇〇について、□□しながら、△△している」というフォーマットを使えば、三つの資質・能力について期待する評価規準をつくることができるとご説明しました。このフォーマットの「〇〇について」は、主要な学習活動や学習対象ですし、「△△している」は、子供の行為や姿ですから、比較的容易にイメージできるだろうと思います。
やはり問題になるのは、「□□しながら」という資質・能力に関わる部分ではないでしょうか。この「□□しながら」の部分について、言語サンプルのヒントがあれば、多くの先生も評価規準をつくることができるのではないかと思います。
前回触れた例で言えば、「〇〇川の環境問題について…ポスターにまとめている」ときに、「グラフ・地図・写真を組み合わせながら(思考・判断・表現)」であったり、「友達の意見を認めて受け入れ、参考にしながら(主体的に学習に取り組む態度)」であったりした部分です。
この言語サンプルを考えるとき、まず「思考・判断・表現」であれば、思考スキルを考えるとよいと思います。学習指導要領の記述では、「例えば、比較する、分類する、関連付けるなどの考えるための技法(総合的な学習の時間の第3 指導計画の作成と内容の取り扱い、の2の⑵)」とあるところです。これを思考スキルと捉えれば、この他にも「多面的に見る・多角的に見る、序列化する、構造化する、統合する、具体化する、抽象化する」などが考えられます。
このような思考スキルがとても分かりやすいでしょう。それは私たちが頭の中で多様な事実を認識したり、処理したりするときの、重要な方法に関する知識(手続き的知識)だからです。私たちは、多様な事実に関する情報が入ってきたとき、頭の中でそれらを比較して「ああ、同じなんだな」と理解したり、それらを結び付けて「ああ、こういった意味なんだな」と理解したりして、アウトプットしていくわけです。思考スキルとは、そのような方法に関する知識なのです。
こうご説明をすると、すでにお気付きの先生もいらっしゃるかもしれませんが、これは資質・能力の構造についてご説明したこととも大きく関わっています。
以前、「思考力、判断力、表現力等」とは、方法に関する知識が事実に関する知識(構造化された知識も含む)とつながって、ハイブリッド化したものだとご説明しました。そのように方法に関する知識と事実に関する知識が結び付いていくわけですが、とりわけ方法に関する知識が重要な鍵を握るのが「思考・判断・表現」だと思います。ですから、その方法に関する知識の言語サンプルとして、思考スキルを生かしたらよいと思います。
もっと具体的に言えば、「(多様な事実)を比較しながら~している」とか、「(多様な事実)を統合しながら~している」といったようにすればよいのです。
このように、知識の構造化についての説明と結び付けて理解していただければ、このような言語サンプルの意味も、より深く理解していただけることだと思います。
思考スキルのイメージをコアにもちながら、学習指導要領の各教科の記述や解説を見る
この思考スキルについては、学習指導要領の各教科の記述で、かなり厚みを増して書かれています。
例えば国語では、「知識及び技能」の中に情報の扱い方が新設されましたが、ここには、「共通、相違、事柄の順序など(第1学年及び第2学年)」とか、「比較や分類の仕方(第3学年及び第4学年)」などと書かれています。あるいは「思考力、判断力、表現力等」でも、「目的を意識して」とか、「相手に伝わるように」などと書かれています。
社会科では、「思考力、判断力、表現力等」の目標に、「社会的事象の特色や相互の関連、意味を多角的に考えたり」と書かれています。あるいは理科であれば、これまでも3年生「比較」、4年生「関係付け」、5年生「条件制御」、6年生「推論」と並んでいたわけです。ですから、現行においても第3学年ならば、「差異点や共通点を基に」と何度も出てくるわけです。
特に総合的な学習の時間では、解説の第5章の4 考えるための技法の活用に詳しく書いてあります。また、生活科では学習指導要領の中に、「見付ける、比べる、たとえる、試す、見通す、工夫する」と六つの方法が書いてありますが、これはまさに思考スキル的なものです。
そのように、思考スキルのイメージをコアにもちながら、もう一度、学習指導要領の各教科の記述や解説を見ていただくと、それが教科の特性に応じた形で書かれていることが見えてきます。それが、「思考・判断・表現」に関する評価規準を設定する場合の、言語サンプルとして大きく役立つことでしょう。
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今回は「思考・判断・表現」に関する言語サンプルについてご説明をしましたので、次回は「主体的に学習に取り組む態度」などについてご説明をしていきたいと思います。
「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準の言語サンプルは何を参考にすればよい?【田村学流 単元づくり・授業づくり#16】はこちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之