小学校保護者クレーム11選!正しい対応をこまやかに解説
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小学校教師を悩ませる保護者からのクレーム。対応を間違えると些細な言葉が火種となって炎上し、精神的にも時間的にも圧迫することになりかねません。これまであらゆる修羅場をくぐりぬけてきた元校長が、ありがちな11シーンを厳選。それぞれに対する対応術を細やかに教えてくれました。新採先生も必読!
目次
「友達関係」のクレーム
初期対応を間違わないことが重要
子ども同士のささいなけんかでも、初期対応を間違えると、思わぬところで長引き、いつまでもクレームが続くことがあります。具体的なケースをあげ、初期対応について考えてみましょう。
【ケース❶】
「わが子がけがをさせられて学校を休んでいるのに、けがをさせた子が登校しているのはなぜ?」
けがの場合は、その程度にもよりますが、けがをした当初の対応がなにより重要です。
▶まず、けがの手当てをして、必要があれば病院への搬送は当然です。そして、けがをしたときの状況や事実関係を、はっきりさせておきます。
▶けがをした子どもの保護者には、事実を正確に伝えます。
▶けがをさせてしまった子どもの保護者には、担任からけがをさせてしまった事実を連絡します。そして、どんな理由があるにせよけがをさせてしまったという事実があるので、そのことに対して相手の家に、連絡を入れて謝罪してほしいとお願いします。このとき、一方的に悪いという言い方をしないように十分気をつけます。
心ある保護者はほとんどの場合、謝罪の電話を入れてくれたり、子どもと一緒に直接相手の家に行って、本人にあやまってくれるものです。けがをさせられたのに、やった子どもの保護者から電話の一本もない、学校からの状況説明もないと、保護者にとって不信なことが続くことになり、その憤りはおさまらなくなります。
【ケース❷】
「わが家の門限は夕方の7 時なのに、担任から学校のきまりは5 時だと注意された。家庭の教育方針だし、親がいいと言っているのだからよけいな指導をしないでほしい。」
このような教育方針の家庭の子どもとほかの子どもが遊ぶと、遊んだほかの子どもの保護者から、「あの家は門限が遅く、一緒に遊ばせるとわが子も帰宅時間が遅くなってとても心配だ。」とクレームがきます。こうした場合は、担任はクラスの子どもたち全員に、常識的な帰宅時間について指導をします。
保護者には、
▶「ご家庭の教育方針もあると思いますが、学校として子どもたちに指導しなければならないことはご理解ください。」と伝えます。
▶また、ほかの家庭との違いによって、子ども自身が困ってしまうことがあるなど、具体的なことを率直に伝え、理解してもらえるように努めます。
▶このケースでは、学校としてのきまり、考え方については譲ってはいけません。理解を得られないときは、管理職に対応をお願いしましょう。
「学習について」のクレーム
話をじっくりきいて問題を把握する
【ケース❶】
「うちの子は学習塾の宿題がたくさんあるので、できれば学校の宿題は出さないでほしい。もし出されても塾の宿題でいっぱいのときは、学校の宿題を提出できないかもしれない。それを認めてほしい。」
わが子のことしか考えられない保護者の典型です。まず、保護者の考えや思いをじっくりききます。そして、子どもも保護者と同じように考えているのか、きいてみましょう。保護者の先まわりで、子どもはそれほど負担に感じていないこともあります。
▶学校の宿題は、学習したことをしっかりと定着させるためであることと、家庭での学習習慣をつけるためのものであることを理解してもらいます。
▶もし、どうしてもできなかったときには、学校の休み時間にやったり、放課後にやるなど、工夫してやらせることを了解してもらいます。
▶塾に通っているという理由で、一人だけ特別扱いはできないこと。そして、塾の宿題をこなせるのであれば、学校の宿題はたやすくこなせるのではないかと担任は思っていると、親子を励ましましょう。
▶ここで塾と学校、どちらの宿題にもきちんと取り組むことができれば、どんな大変な状況も乗り越えられる精神力を養うことができると伝えます。
▶保護者の考え方がたとえ非常識であっても、それを非難するような言動は控えましょう。
【ケース❷】
「○○さんがいるために、先生がいつもその子に指導の時間をとられて授業が遅れる。なんとかならないの?」
クラスに、落ち着きがなくいつも先生から注意される子や、立ち歩いて授業を妨害する子などがいる場合には、保護者からこのようなクレームがくることがあります。
▶その子の指導に時間がとられすぎないように、まず、日常の授業を見直してみます。どうしてこのような苦情がくるのかを考えてみると、まわりの子どもたちがその子のために、いろいろなことをがまんさせられている可能性があるということです。
▶発達障害がある子どもの場合は、その子への理解を深められるように、まず担任が子どものようすを把握し、発達障害について勉強しましょう。そして、まわりの子どもたちの心を成長させるよい機会ととらえ、「こんなときにはこのように接しましょう。」と、まわりの子どもたちを具体的に指導します。
▶その子を受け入れる心がまわりの子どもたちに育つと、保護者からのこのようなクレームもなくなるはずです。
【ケース❸】
「うちの子が学習内容を理解できないのは、先生の教え方が悪いからです。どうにかしてください。」
担任の経験年数が少なかったり、初任者だったりすると、このようなクレームがくることがよくあります。
▶まず、保護者から、具体的にどんなことなのかをきく機会を設けます。
▶担任として改善できることは、その努力をすることを約束します。理不尽な内容であれば、安請け合いをするのではなく、学年の先生方や管理職に相談しましょう。家庭の協力が得られる方向にもっていけるよう、その対応を管理職にお願いします。
「給食について」のクレーム
食育と当番活動の大切さを伝える
【ケース❶】
「うちの子は好き嫌いがはっきりしていて、とくに野菜が苦手なので、無理に食べさせないでほしい。」
子どもたちにとって給食の時間は、学校生活の中でとくに楽しみにしている時間です。多少の好き嫌いがあっても、クラスの雰囲気がよければ、食べられなかったものが食べられるようになることもあります。子どもの体の成長のための栄養のバランスからいっても、食べられるようになることはのぞましいことです。
▶食べてみたら思ったよりずっとおいしかった、自分が考えていた味ではなかったなど、子どもは食べ物に新しい発見をすることがあります。
▶その野菜に関するエピソードを話すなどして、子どもの興味をひくのも有効です。
▶一口でも食べられたらほめてあげて、そのことを保護者に連絡帳や電話などで伝えます。
▶保護者も含めて、食育の重要性について意識してもらえるような機会をつくります。(保護者会でのテーマや授業参観での授業として)
※子供の特性や家庭の方針等を考慮しながら給食が楽しい時間となるように指導しましょう。
【ケース❷】
「給食当番の白衣を、どうして家庭で洗わなければならないのか。学校で一括して洗濯してもらえないか。」
ほとんどの学校では、毎週の白衣洗濯の予算はないと思われます。また、給食係は当番制ということが多いでしょう。給食当番が終わったら、その当番の子どもが使用した給食白衣を家庭に持ち帰って、洗濯をしてくるというケースが多いのではないでしょうか。
▶学校としての予算のことや、まわりの学校の状況なども説明して、家庭での洗濯をお願いします。
▶それでも拒否するときは、どの家庭にもお願いしていること、また、次の当番の子どもがその白衣を使用しなければならないので洗濯してもらわないと、その子どもの家庭にも迷惑をかけてしまうことなどを、やんわりと、それでいてはっきりと伝えましょう。
▶電話より、保護者と直接会って話すほうが効果があるでしょう。
【ケース❸】
「うちの子は牛乳が好きではないので、違う味になる粉末(イチゴ味、チョコレート味など)を持たせるので、給食のとき牛乳に入れさせてもらえないか。」
嫌いだからという理由で、牛乳の味が変わる粉末を入れて飲ませるということはできません。嫌いなものでも一口から飲む練習をして、少しずつ飲めるようにします。担任があきらめずに粘り強く、保護者と連携をとって進めていけば成功するでしょう。
▶クラスで一人だけ粉末を牛乳に入れて飲むことを認めてしまうと、それなら自分も嫌いだから違う味にして飲みたいという子どもがたくさん出てきてしまうでしょう。アレルギーなら別ですが、そうでなければ牛乳の味に慣れさせて、飲めるようにしなければなりません。
▶一口でも飲むことができたらほめてあげて、クラスの友達にも応援してもらえるような雰囲気をつくることが大切です。
▶今日はここまでというように、牛乳びんにマジックで線を書いておき、自分で飲む量を確認できるようにするのも有効です。
▶どちらにしても、保護者に報告・連絡・相談は欠かせません。
「学校行事について」のクレーム
保護者の期待や願いに応える努力を
秋には音楽会、展覧会、学芸会など、保護者が参観する行事がたくさんあり、保護者の都合がつきやすいよう、多くは土曜日や日曜日に実施されます。こうした行事の参観は、保護者にはわが子の成長や学校でのようすを知るうえで大変有効で、楽しみです。 わが子がどんな場面で活躍しているかなどを保護者は期待し、大きな行事になると、期待しているからこそのクレームが多くあります。
【ケース❶】音楽会の例・1
「うちの子は木琴のパートになりたくて、一生懸命に練習してきたのに。パートの決め方がおかしいのでは?オーディションといっても、好き嫌いなど、教師の主観が入るのではないか?」
▶最近、わが子しか見えない保護者がふえています。とくに音楽会では、目立つパートをやってもらいたいという保護者の願いが、前面に出てくることがよくあります。
▶まず、事前に学級だよりなどで、どのパートが何人で、どのような決め方をするのか、わかりやすく知らせておきます。同じパートを希望する子がいたら、希望者全員でオーディションをします。また、オーディションに落ちてしまった場合も、子どもたちが納得できるようにパートを決めることを伝えます。
▶場合によっては、子どもたちが審査員になったり、学年の担任全員や音楽の先生が審査員になるのもよいでしょう。最終的にじゃんけんで決めるということは、保護者には納得できないことが多いようです。「あんなにがんばったのに、最後はじゃんけんですか。」となってしまうのです。
▶最終的には、合奏をみんなで仕上げていくには、ほかのパート(たとえば鍵盤ハーモニカなど)を受けもつ一人ひとりもとても重要であることを、子どもに理解させることが大切になります。
【ケース❷】音楽会の例・2
「うちの子は手のかかる友達のめんどうをみてと言われて、学年練習のときもその子のことを気にかけて、精いっぱいやっていた。それなのにことあるごとに、○○ちゃんにちゃんと教えてあげて、と担任や音楽の先生に言われる。どうして、うちの子は悪くないのに、注意されなくてはならないのか。」
▶まず、保護者の気持ちをしっかりききます。そして、子どもがそんな思いをもっていたことに気づかなくて、もうしわけなかったと伝えます。
▶子どもに直接、担任の思いや願い、ねぎらいのことばを伝えることを、保護者に約束します。
▶最後に、なぜ手のかかる子のめんどうをみてもらったか、それは「おたくのお子さんならやってくれる、できると信頼していたからです」という、担任の思いも忘れずに伝えましょう。
【ケース❸】展覧会の例
「うちの子の作品がない。どうして展示されていなの?」
展覧会では、出品する作品が一人につき数点あります。全員の作品があるものと思って、事前の確認をしないと、一人の子どもの作品が展示されなかったということも起こりかねません。
▶必ず、全員それぞれに数点ある作品を確認します。作品を搬入するときに1点ずつ確認すると、もれがないでしょう。
▶また、それぞれの作品が効果的に展示できるように工夫します。
▶作品につける名札を先に確認しておき、子どもが名札をつけるときには、名札が残っていないかどうかたしかめましょう。
▶もし、作品がなかった場合には、なぜそうなったかの経緯をしっかり把握して、その事実を保護者に伝え、誠意をもってあやまりましょう。
「個人面談」で信頼を得る
充実させるためにしっかり準備を
個人面談が充実していると、保護者からの信頼を得られます。そのためには、事前の準備をしっかりしておく必要があります。個人面談の実施にあたり、担任としてしなければならないことを考えてみましょう。
♦予定を組んでお知らせを出す
予定の組み方には、以下の二つの方法があります。
①保護者の都合を調べてから、日程を決める。
②出席番号のように機械的に順番を決めて、保護者同士で調整してもらう。
①は、保護者の都合を調べてから調整しなくてはならないので時間がかかります。それをふまえて、早めにお知らせを出しましょう。同じ学校にきょうだいが通っている場合には、その調整もあります。クラスの実態をみて、①にするか②にするかを決めます。
♦教室環境を整備する
保護者が学校に来るせっかくの機会です。学校でのわが子のようすがわかるように掲示物なども工夫し、教室環境を整備します。
●廊下や教室の掲示物の工夫
子ども全員の作品やワークシートが掲示されているか、しっかり確認する。
●清掃をしっかり(日ごろの清掃指導が大切)
教室にごみが散乱していないか、掲示物がはがれていないか、ほこりがたまっていないかなど確認する。
♦資料を準備する
短時間で有意義な個人面談にするには、資料の準備が不可欠です。
●成績や学習のようすがわかる資料
●交友関係や学校生活全般のようすがわかる資料あらかじめ個票を作成し、それにそって面談を進めると、事実にもとづいた話を保護者にすることができ、説得力がある。
●保護者にききたいことについての資料生活リズム(起床、就寝、朝ごはんのこと)についてきいたり、家庭学習のようす、最近の交友関係などをきいたりする。また、面談中に保護者からきいたことを記入できる個票を準備しておくと便利。
♦事前アンケートで情報を得ておく
個人面談前にアンケートなどをとって、ある程度知識を得ておくことをおすすめします。たとえ10 分ほどの短時間でも、面談の内容が充実するはずです。
<アンケートの例>
【この記事のまとめ】
- 多忙な時こそクレームには最優先で対応
- 保護者のクレームはわが子が可愛いあまりの行為であると理解する
- 要望は安請け合いせず学校の方針は毅然と伝える
- 子どもが納得できる指導をすることがクレームの予防に繋がる
- 全ての過程で報告連絡相談を忘れない
執筆/長谷川かほる イラスト/たなかあさこ
教育技術MOOK『COMPACT 64 保護者対応12か月』より