<第5回>コイを飼う パンク町田が語る! みんなのいきものがかり
どの学校にも飼育委員会や飼育係があるのは、なぜでしょうか。学習指導要領の生活科や道徳科の規定を待つまでもなく、生き物に親しむ学習活動が生命を尊重する心情を養うことにつながるからでしょう。ありとあらゆる動物を扱ったことがある動物研究家のパンク町田さんが、身近な動物の愉快な話や飼育のこつを伝授します。
コイを飼う
学校の防火槽に主がいた!
小学生のころ、ニワトリの飼育に夢中になっていた私ですが、もうひとつの楽しみがありました。学校にある大きな防火槽でコイが何匹も飼われていたのです。
そこに1匹、80センチメートル以上ある黒地に白い模様のコイが棲んでいました。
名前はオルカ。シャチが登場する映画『オルカ』が流行していたので、その名がつきました。大人から見ればそれほど大きいとは思いませんが、小学生の子供にしてみれば、でかいコイでした。
「あいつは神獣だから、いじめると祟りがあるぞ」という伝説がまことしやかに学校で語られ、子供たちは「あの一番でかいコイは防火槽の主だ!」と本気で思っていました。そんなことは嘘っぱちだとどこかで思いつつも、心の中ではそう信じていたんです。50年以上も長生きしたコイがいることを私は本で調べて知っていました。
年に1回、防火槽の水を替えます。防火槽を掃除するには、コイを外に出さなければなりません。取り出されると、オルカはやはりでかかった。私たちは、「わっ、主だ、主だ」と喚いたものです。
飼育委員の私は防火槽のコイたちに餌をやります。そのときに「こいつとは仲良くしておいたほうがいい」と思いながら餌をやっていました。餌をやるついでにオルカを触ろうとすると、初めのころは逃げていたのが、しだいに触っても逃げなくなりました。
「オルカは私のことがわかっている」「触られても安全だと知っているんだな」と思いました。
しばらくすると、オルカは餌をやる私の手に自分の体をこすりつけてくるようになりました。オルカが喜んでいると思うと、私は無性にうれしくなりました。その気持ちは今でも自分の中に甦ります。
学校の子供たちが本気でオルカのことを主だと思っていたと言いましたが、それは、オルカが死んだときに証明されました。
ある日、オルカは防火槽から飛び出して死にました。突然の出来事でした。「主が死んだ」とつぶやく友人がいました。死んだオルカを見た私たちは本当に落ち込んだのです。
コイとの交流といっても何気ない細やかなものですけれど、あのとき、私たちの中にはオルカが守り神であったかのような感覚が生まれていたのだと今では思うのです。
学校のビオトープを活用
毎日餌をやり、水が汚れてきたら水を入れ替えてやるだけですから、コイに特別な飼育法はありません。簡単です。池は学校のビオトープを利用するといいでしょう。
なぜ池の水を入れ替えなければいけないのでしょうか。それは池の水が酸性になるとコイの生育によくないからです。コイは糞をします。糞がたまってくると、池の亜硝酸濃度が上昇します。そうすると、池の水が酸性に傾くのです。
池の水深についてはどうでしょうか。コイを飼うときに大事なのは、池の表面積です。池の水深は浅くても構いません。酸素が入るのは水の表面だからです。表面積が大きければ、水中に酸素を送るポンプは必要ないと思います。
水道水を使うなら塩素を抜く
入れ替える水には注意が必要です。水道水を使う場合には塩素を含んでいるので、カルキ抜きを入れるか、数日汲み置いたものを使うようにします。雨水でもいいでしょう。
最後に、私は学校の防火槽でニワトリを放して泳がす訓練をしたことがあります。大好きなニワトリとコイを一緒にしてみようと思ったんです。ニワトリやコイにはさぞかし迷惑だったでしょうが、時として子供はとんでもないことをやらかすことがあります。そんなとき、先生方は大目に見てください。
──ニワトリを泳がしたら、どうなりましたか。
ニワトリが泳ぐといわれているのは嘘っぱちだと思いました。初めはアヒルのように泳いだのですが、見る見るうちに沈んでいったのです。
「これはまずい! 溺死してしまう」と慌てて助けました。
ニワトリは水に投げ入れられても別に驚くことはなかったし、コイのほうも、我関せずといった感じで悠然と泳いでいました。子供心に人慣れしているなと思いましたね。
プロフィール
1968 年 8月 10 日、東京生まれ。ULTIMATE ANIMAL CITY 代表。NPO法人生物行動進化研究センター理事長、アジア動物医療研究センター(日本ペット診療所)センター長を兼務。昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣といったありとあらゆる生物を扱える動物の専門家であり、ハヤブサや鷹を飛ばすトライアルで3年連続優勝するなど鷹匠としても有名。独特の容姿と愉快なキャラクターが受け、テレビ出演や講演など多方面で活躍。主な作品に、『さわるな危険! 毒のある生きもの超百科』(監修、ポプラ社)、『子供に言えない動物のヤバい話』(角川新書)など。
文/高瀬康志