個別最適化を実現するICT活用法~多様性を受け入れるクラスづくり(第5回)~加藤典子先生×高山恵子先生対談

NPO法人えじそんくらぶ代表

高山恵子
加藤典子先生(右)と高山恵子先生(左)

「多様性を受け入れるクラスづくり」をテーマにした、文部科学省特別支援教育調査官を務める加藤典子先生と、NPO法人えじそんくらぶ代表・高山恵子先生による対談の第5回(全6回毎週火曜日公開)。今回は、ICTを活用した学びや学びの個別最適化について考えていきます。

加藤典子(かとう・のりこ)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官。鳥取県出身。鳥取県の公立小学校で教員を14年間務めた後、鳥取県教育委員会特別支援教育課指導主事(LD等専門員)や鳥取市教育委員会学校教育課主査などを経て、令和2年度より現職。

高山恵子(たかやま・けいこ) NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。1997年アメリカトリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。’98年同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。木村泰子先生との共著『「みんなの学校」から社会を変える』(小学館新書)など、著書多数 。

ICTと実体験による学びを併用することが大切

高山先生 コロナで学校現場は大変だと思いますが、コロナによって教育現場はどのように変わったでしょうか? また、どのように変わるべきでしょうか?

加藤先生 こんなに長引くなんて思ってもなかったところがあります。学校の活動が制限されることで、小学校の低学年で実際に体験したり、人と近い距離でやりとりしたりということがすごく減っている影響が、これからどんな形で出てくるのかなというのが、すごく心配な部分です。ですから、誰かと直接やりとりをすることは、今まで以上に意図的にとり組まないといけないだろうなと感じています。現場に行けていないので、何とも言えないんですけれども。

高山先生 低学年は体得が何より重要な時期だから、大変ですよね。オンラインになった影響で、宿題などもいろいろ課題があるかと思うのですが、そこのところはどうでしょうか。

加藤先生 健康面の配慮もいるので、ICTを1日中使っているわけにもいかないと思いますが、疑似体験的なところではわりと効果があるという話はよく聞くんですよね。直接体験ができない分、そういうものを使うというのは、これからの世の中では必要なんだろうなと思うんですけど、どう体験させるかなんですよね。

高山先生 いろんな計算問題なんかも、タブレットを使うとレベルに合わせてできるようになったし、音声入力もできるようになりました。タブレットが使えている割合ってどれくらいですか。

加藤先生 配備は90%以上できています。少し聞いたところでは、この時間はタブレットを使ってみようタイム、という感じで使っているとか、ある自治体では1日1時間は使ってみるというところから始めているようです。使い方に慣れるという段階だと思います。

高山先生 えじそんくらぶ(高山先生が代表を務めるNPO法人)の保護者の方のリサーチによると、同じ市内でも千差万別だそうです。学校間で使い方に差があり、なおかつクラスで差があるようです。もちろん学年でもあるみたいです。これからますます差が出てくるかなと思うんですよね。

ただ、すごく大切なのは、実体験があってからバーチャルはいいけど、実体験なくバーチャルというのはすごく危険じゃないかと思います。手で触った感覚とか、足で落ち葉を踏む感覚とか、そういう小さな頃からの経験や体感のところを重視しないと難しいというか、そことのバランスが必要かなと思います。

加藤先生 低学年ならではですからね。それあっての抽象的な概念ですからね。

高山先生 実際に人とのコミュニケーションを取ったり、虫や動物に触れたことがなくて、いきなりタブレットというのは問題があると思います。第1回にお話しした「数の概念」が入っていないというのと、とても似たところですね。実体験なく抽象概念から入ると、あとで実生活との乖離が大きくなったりしますよね。

加藤先生 昔に戻るというだけじゃいけないでしょうから、併用しながらということになるんでしょうけど。

ICTを活用すれば、「学びの個別最適化」は実現可能

高山先生 そうですね。ところで、クラスで同じ宿題を出さないといけないと思ってる先生には、どうしたらいいですか?

加藤先生 学習ソフトに習熟度別の課題が入っているから、自分のペースで進めるというのがしやすくなるかと思います。

高山先生 そこから逆に、ペーパーになったときにも習熟度別にやる、という流れがいいでしょうか。

加藤先生 それで納得してもらえるといいと思います。

高山先生 ここがすごく重要です。宿題が原因で不登校になっている子が増えていて、それが高学年の問題になっていますから。

加藤先生 学習履歴が残るというのは、学習支援ソフトのよいところだと思います。ただ、日本の学習指導要領って、学年で到達する目標ができているので、先生としては、そこはなんとかやりたいとなるんですよね。よく言われるように、山の頂上にたどり着くまでの上り道はいろいろあって、最終的に頂上に到達できればよいと言われるんですけど、なかなかそれは難しくて。同時処理か継次処理かなどは工夫できるやり方の一つだと思うので、せめてそういう選択肢をもって、問題が解けるようになったという道筋だけは準備したいと思います。

高山先生 おっしゃる通り、学校の先生は責任感が強くて、この学年で学ぶことを全部教えたいという気持ちがすごくあるんですよね。ただ反面、合理的配慮ということで、宿題の量を変えたり質を変えたりすることは当然できると思うんですよね。その子に合わせた宿題を出すことはそんなに難しいんでしょうか?

加藤先生 小学校の低学年で、例えば、ひらがなとかカタカナの定着を目指そうとすると、どうしても反復練習の宿題を出してしまうということになりがちです。定着のための方法は一つでなくてもよいという共通理解がなされれば、子供自身が自分の学びの方法を選べる状況をつくることもできるのではないかと思います。

ただ、習熟や定着は必要なことなので、学校の学習時間の中でできるのはこれで、家庭の学習習慣の中ですることをこれで、ということを考えてみるタイミングなのかもしれないなと思います。

〈第6回に続く〉

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第1回 学びの多様性とは?
第2回 「違い」をプラスに捉える教育
第3回 困りごとを話さない子へのアプローチ 
第4回 子供が伸びる支援のあり方

構成/平田信也 撮影/横田紋子

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