「小・中学校施設整備指針」改訂で見えた、これからの学校に求められる役割
文部科学省では、学習指導要領の改訂や社会状況の変化を踏まえ、平成30年4月から「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」において、小学校および中学校施設整備指針の改訂について検討を行ってきました。その報告書が令和元年3月に「これからの小・中学校施設の在り方について~児童・生徒の成長を支える場にふさわしい環境づくりを目指して~」としてまとめられ、これをもとに小・中学校施設整備指針も改訂されました。その報告書の内容をもとに、これからの小・中学校に求められる機能・役割について見ていくこととします。
目次
18歳人口は40年で半減、学校数と児童生徒数も減少が続く
報告書では、まず施設整備指針改訂の背景として平成29年3月に告示された新学習指導要領の理念や基本的な考え方について触れたのち、これからの学校環境整備を考える上での土台となる、小中学校施設を取り巻く現況について詳しく報告しています。
まず、18歳人口の推移について、2016年時点で120万人程度の18歳人口が今後、2030年には約100万人、さらに2040年には約80万人まで減少すると推計しています。その上で、小中学校の学校数および児童生徒数は減少傾向にあり、今後もこの傾向が続くという見通しを示しているのです【資料1】。なお、18歳人口のピークは1990年頃の200万人超であり、およそ40年のうちにそれが半減することになります。
【資料1】小中学校の学校数、児童生徒数(平成30年度)
こうした児童生徒数の減少に伴い、学校の学級規模にも変化が出てきています。少子化の影響により学校の統廃合が進む近年では、標準規模(12~18学級)に満たない公立小中学校の割合は減少する一方で、標準を超える19学級以上の公立小中学校の割合は増加傾向にあります【資料2】。
【資料2】公立小学校の学級規模別学校数(割合)の推移
建物の老朽化とトイレ・空調の整備も喫緊の課題
学校施設をめぐっては、老朽化の進行も大きな課題です。日本では、高度経済成長期以降に整備された公共施設やインフラが一斉に老朽化を迎える時期にさしかかっています。このため、政府は「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」を設置して「インフラ長寿命化基本計画」を策定、国や地方自治体が一体となってインフラの維持管理、更新に取り組んでいくこととしています。
学校施設についても同様で、昭和40年代後半から50年代にかけて建設された校舎が一斉に更新時期を迎えます。一般的に改修が必要とされる経年25年以上の建物が全体の7割を占めるなど老朽化の進行は深刻で【資料3】、このうち緊急に老朽化対策が必要な経年45年以上の建物について、2020年度までの対策完了を目指して改修が進められています。
【資料3】老朽化の進行
老朽化と同様に対策が遅れているのが、公立小中学校における洋式トイレおよび空調(冷房)設備の整備。住宅ではいずれも9割程度の普及率となっているこれらの設備ですが、学校では洋式トイレが43.3%、空調設備は49.6%と、その普及率は住宅のそれを大きく下回る水準にとどまっています【資料4】。家庭で和式のトイレを使ったことがなく学校で戸惑う子が少なくないことや、猛暑による熱中症への対策が求められる中、早急に整備が求められる施設のひとつです。
【資料4】洋式トイレおよび空調(冷房)設備(公立小中校)
地域の拠点としての学校の役割をさらに充実させるために
学校の社会における役割も変わりつつあります。近年、各地方自治体において公共施設の最適化・再配置の検討が進んでおり、財政負担の軽減・平準化などの観点から、学校を含む公共施設を一体的に整備するケースが増えています。平成26年5月時点で、他の公共施設と複合化した小学校は43.0%、中学校は17.9%です【資料5】。複合化した公共施設としては、社会福祉施設では放課後児童クラブや児童館、保育所など、文教施設では公民館、体育館など、それ以外の施設では地域防災用備蓄倉庫、給食共同調理場などがあります。
【資料5】公立小中学校の複合化
また、地域の防災に果たすべき役割にも大きいものがあります。現在、公立小中学校の約96%程度が災害時の避難所に指定されていますが、備蓄や飲料水、非常用電力などの防災機能(設備)の保有状況は50~80%程度、また要配慮者の利用を想定した、スロープ等による段差解消や多目的トイレの設置状況は、35~65%程度です【資料6】。今後は教育委員会等と防災担当部局の連携のもと、地域における防災上の位置付け、役割を明確にした上で、学校の防災機能強化のために必要な整備を推進していく必要があります。
【資料6】防災機能
報告書はその他、特別支援学級在籍者数および通級による指導を受けている児童生徒数が平成19~29年の10年間で約2倍に増加していること、日本語の指導が必要な児童生徒も増加傾向にあることなどを指摘しています。
さらに配慮すべき8つの事項と施設整備指針の7つのポイント
学校を取り巻くこうした状況に加え、さらに配慮すべき事項として、報告書では次の8点を挙げています。
- チームとしての学校
- 地域と学校の連携・協働(コミュニティ・スクール、地域学校協働活動)
- 学校におけるICT環境整備
- 放課後こども総合プラン及び新・放課後子ども総合プラン
- 学校における働き方改革
- 国土強靱化基本計画
- インフラ長寿命化基本計画
- 持続可能な開発目標
その上で、今後の小中学校の整備においては、特に次の施設機能の充実を図るべきとして、小・中学校施設整備指針の改訂案を示しました。
- 新学習指導要領への対応
- ICTを活用できる施設設備
- インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組
- 教職員の働く場としての機能向上
- 地域との連携・協働の促進
- 学校施設の機能向上
- 変化に対応できる施設整備
今後は、改訂された小・中学校施設整備指針に基づき、学校施設の環境整備が進められていくことになります。
構成・文/葛原武史(カラビナ)
『総合教育技術』2019年8月号より